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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第3章

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第10話:雪の国からの手紙


「……これは、ただの救助要請ではありませんわね」


私はダイニングテーブルに広げた羊皮紙を指で弾きました。


白いフクロウが運んできた手紙。

そこには、震える文字で北の小国「ノースガルド」の窮状がつづられていました。

異常気象による永久凍土化。

作物の全滅。

そして、制御不能になった古代の「氷の塔」。


「ノースガルドか。北の果てにある、雪と氷に閉ざされた国だな」


クラウス様がホットワインのカップを手に、険しい顔で地図を覗き込みました。


「以前はそれなりに豊かな国だったはずだ。耐寒性の麦や、珍しい根菜が採れると聞いたことがある」


「ええ。ですが、この手紙によると、今は『魔導暖房すら効かない寒さ』だそうです。……注目すべきは、ここですわ」


私は手紙の末尾に押された、蝋封ろうふうの紋章を指差しました。

そこには、雪の結晶と、歯車を組み合わせた意匠が刻まれています。


『検索完了。……該当データ、アリ』


私の肩に乗ったナナのドローンが、青い光を点滅させました。


『コノ紋章ハ、古代文明ノ「第9環境制御プラント」ヲ示シマス。私(第7プラント)ト対ニナル、気象操作用ノ施設デス』


「やはり。地下で見つけた私の工場と同じ、古代の遺産というわけね」


私の農園にあるのが「食料生産」なら、北にあるのは「気象管理」。

それが暴走して、国全体を冷凍庫に変えてしまっているのでしょう。


「……リゼット。まさか、行くつもりか?」


クラウス様が私の顔を覗き込みました。

その瞳には、心配と、そして諦めが混じっています。

彼はもう、私が何を言い出すか理解しているのです。


「もちろんですわ。放っておけば、この異常気象はいずれここ(ドクロヶ原)にも届きます。私の可愛い野菜たちが凍死するのを、指をくわえて待つわけにはいきません」


私は立ち上がり、窓の外を見ました。

冬の空は鉛色で、ちらほらと雪が舞い始めています。

農園は今、農閑期。

地下プラントの自動化も完了し、私が数ヶ月留守にしても、ナナのサブシステムとタガヤス君がいれば回るでしょう。


「それに、北国特有の食材……『幻の雪解けカブ』や『氷魚こおりうお』にも興味がありますの。絶滅させるには惜しい食材です」


「……やはり、そっちが本音か」


クラウス様は苦笑し、飲み干したカップを置きました。


「わかった。俺も行こう。公爵家の業務は弟に押し付け……いや、任せてある。妻の『食材探し』に付き合うのも、夫の務めだ」


「あら、頼もしい護衛ですこと」


「あのぉ、リゼットさん……」


ソファでうたた寝をしていたエリナ様が、目をこすりながら起き上がりました。

私たちの話を聞いていたようです。


「私も、連れて行ってくれますかぁ? その『氷の塔』も、きっと寂しがっていると思うんですぅ。私が、光を届けてあげたいなって」


彼女の純粋な碧眼へきがんが私を見つめます。

聖女の育成魔法は、暴走した古代システムを鎮める鍵になるかもしれません。

それに、旅先での「人間照明」としても便利です。


「ええ、もちろん。貴女も戦力ですわ、エリナ様。……ナナ、貴女も来なさい。現地のシステムへのハッキングには、貴女の力が必要です」


『了解。メインシステムハ「自動運転モード」ニ移行。私ハ、ドローンアバターデ同行シマス。……初メテノ、お出かけデス』


ナナの声が少し弾みました。

メンバーは決まりました。

私、クラウス様、エリナ様、そしてAIのナナ。

最強にして最恐の「農園視察団」の結成です。


翌朝。

私たちは特注の魔導馬車に荷物を積み込みました。

中には、保存食としての野菜スープの素や、防寒用の毛皮、そして何より大切な「黄金のスコップ」も忘れずに。


「留守は任せたわよ、タガヤス君」


私が声をかけると、農園の入り口にたたずむ巨大なゴーレムが、『ガガ……リョウカイ……』と片手を上げました。

彼は今や、農園の頼れる番人です。

不審者が来れば、その優しげな熊手で丁重に「排除」してくれるでしょう。


「よし、出発だ!」


御者台に座ったクラウス様がむちを振るいました。

馬車が雪を踏みしめ、北へと走り出します。


冷たい風が頬を打ちますが、私の心は熱く燃えていました。

北の大地に眠る古代の謎。

そして、まだ見ぬ未知の味覚。


「待っていなさい、氷の塔。私のスコップで、カチカチに凍った大地をふかふかに耕してあげますから!」


こうして、私たちの新たな旅が始まりました。

目指すは極寒の地、ノースガルド。

そこで待ち受けるのが、野菜作りよりも過酷な「世界救済」のミッションだとは、この時の私はまだ、少ししか予感していませんでした。


(第3章 完)


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