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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第3章

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第9話:古代野菜の味


宝石のように輝く野菜を、貴方は見たことがありますか?


私の目の前にある皿には、一枚のレタスが乗っています。

ですが、それは普通のレタスではありません。

葉脈の一本一本がガラス細工のように透き通り、内側から淡いエメラルドグリーンの光を放っているのです。


地下プラントでの初収穫。

名付けて「クリスタルレタス」です。


「……リゼット。これを、食べるのか?」


テーブルの向かいで、クラウス様が少し引きつった顔でフォークを握っています。

彼にとって、発光する食べ物は「毒」か「魔物」の認識なのでしょう。


「ええ、もちろんですわ。成分分析はナナにさせましたし、毒性はありません。ただ、栄養価と魔力が普通の野菜の十倍ほど凝縮されているだけです」


『肯定。ビタミン、ミネラル、マナ濃度、全てAランク。摂取すれば疲労回復効果が見込めます』


テーブルの端に止まったナナのドローンが、太鼓判を押しました。

隣ではエリナ様が、「きれいですねぇ~」と目を輝かせています。


「さあ、クラウス様。私の愛する夫として、最初の一口をお願いします」


「……わかった。貴様が作ったものなら、たとえ石でも食べよう」


クラウス様は覚悟を決め、輝くレタスを口に運びました。

ドレッシングはなし。素材の味だけで勝負です。


パリッ。


静寂なダイニングに、小気味よい音が響きました。

クラウス様が咀嚼そしゃくを続けます。

その眉間のしわが、見る見るうちに解けていきました。


「……なんだ、これは」


「お味はいかが?」


「水だ。いや、最高級の天然水のように澄んでいる。噛んだ瞬間に弾けて、甘みが口いっぱいに広がる……。苦味や青臭さが一切ない」


「大成功ですわね!」


私も一口食べてみました。

シャキシャキとした食感と共に、清涼な風が吹き抜けるような味わい。

土を使わない水耕栽培特有のクリアな味に、エリナ様の育成魔法による濃厚な旨味が加わっています。


「おいしいですぅ! これなら、野菜嫌いの子供でも食べられますよぉ!」


エリナ様も大喜びで頬張っています。

地下プラントの再稼働は、大成功と言っていいでしょう。

これだけの品質の野菜を、季節を問わず大量生産できるとなれば、世界の食糧事情を根底から覆すことができます。


「ふふ。これでリゼット屋の株価はまた上がりますわね」


私が経営者としての皮算用を始めた、その時でした。


「……リゼット。なんだか、体が熱いのだが」


クラウス様が首元のボタンを外しました。

見ると、彼の顔色が……いえ、顔そのものが。


「クラウス様? 貴方、光っていましてよ?」


「は?」


クラウス様の肌が、蛍のようにボゥッと青白く発光し始めていました。

手も、首も、顔も。

部屋の明かりを消しても本が読めそうなほどの輝きです。


「な、なんだこれは!? 俺の体が!」


『警告。マナ濃度ノ過剰摂取ニヨル、一時的ナ「生体発光現象」デス。副作用ハアリマセンガ、約三時間ハ照明トシテ機能シマス』


「照明って……! 人間照明係はエリナだけで十分だ!」


クラウス様が慌てて自分の体をさすりますが、光は消えるどころか増すばかり。

氷の公爵ならぬ、光の公爵の誕生です。


「あら、素敵ですわ。夜の散歩に懐中電灯がいらなくなりますね」


「笑い事ではない! リゼット、なんとかしてくれ!」


夫がLEDライトになってしまっては、安眠の妨げになります(眩しいので)。

私はため息をつき、席を立ちました。


「仕方がありませんわね。じっとしていてください」


私はクラウス様の肩に手を置き、意識を集中しました。

土魔法の基本原理、「アース(接地)」です。

彼の体内に溜まった過剰な魔力を、私を介して地面へと逃がすのです。


「土よ、過分な力を受け取りなさい」


私の足元から、微かな振動が床へと伝わりました。

数秒後。

クラウス様の体から光がスゥッと引いていき、元の精悍せいかんな顔色に戻りました。


「……助かった。一生光り輝く男になるところだった」


クラウス様がげっそりとした顔で椅子に座り直しました。

どうやら、クリスタルレタスは一般販売する前に、魔力含有量の調整が必要なようです。

「食べると光るサラダ」として売り出せば、パーティーグッズとしては受けるかもしれませんが。


「でも、可能性は感じましたわ」


私は残ったレタスを見つめました。


「このプラントなら、飢えに苦しむ土地へ、すぐに栄養価の高い食料を届けられます。……ナナ、生産ラインの調整を頼めるかしら?」


『了解。魔力濃度ヲ低下サセ、代ワリニ成長速度ヲ倍増サセル設定ニ変更シマス』


「ええ、それでお願いします」


和やかな夕食の時間が過ぎていきました。

トラブルはありましたが、古代の遺産は確実に私たちの未来を明るく照らしています。


その夜。

窓の外から、コンコンとガラスを叩く音がしました。


「……鳥?」


私が窓を開けると、そこにいたのは一羽の白いフクロウでした。

寒さに震えるその足には、見慣れない紋章のついた手紙が結ばれています。


「北の国からの使い……?」


私は手紙を解き、封を開けました。

中には、震える筆跡で書かれた短いメッセージと、一枚の枯れた葉が入っていました。


『氷の大地を救ってください。私たちの「塔」が、暴走しています』


シュタイン教授の捨て台詞が、現実のものとなって私の手元に届いたのです。

どうやら、私の野菜作りは、一箇所の農園だけでは完結しない運命にあるようでした。


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