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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第3章

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第8話:聖女とAIの奇妙な友情


「ナナちゃん、こっちの角度はどうですかぁ?」


『計算完了。エリナ、右へあと三度ズレてください。そうすれば、光合成効率が十二パーセント向上します』


「はぁい、わかりましたぁ!」


地下プラントの温室エリア。

そこには、信じられないほど平和で、かつ恐ろしいほど効率的な光景が広がっていました。


私は腕組みをして、その様子を満足げに眺めました。


エリナ様は作業着姿で脚立に登り、手から温かな金色の光を放っています。

その周囲をブンブンと飛び回っているのは、手のひらサイズの球体ドローン。

AIのナナが、移動用の小型端末アバターに意識を移した姿です。


「素晴らしい連携ですわね」


『肯定。エリナの魔力波長は、当プラントの育成ライトと九十九パーセント適合します。非常に優秀な外部電源です』


ナナのドローンが私の肩に止まりました。

彼女の音声はスピーカー越しですが、どこか弾んでいるように聞こえます。


「外部電源呼ばわりはどうかと思いますけれど……。でも、野菜たちの成長速度が桁違いですわ」


目の前の畑では、昨日植えたばかりのレタスが、もう青々とした葉を広げていました。

古代のテクノロジーによる環境制御と、聖女の育成魔法。

この二つが組み合わさった今、私の農園は世界最強の「野菜工場」へと進化したのです。


『マスター。提案があります』


「なんでしょう?」


『現在の生産ペースを維持するため、エリナには今後、二十四時間体制で発光してもらうことを推奨します。睡眠時間は不要です』


ナナが淡々と恐ろしいことを言いました。

効率至上主義のAIらしい発想ですが、それはブラック企業の思考です。


「却下です。人間は機械ではありません。休みなしで働けば、性能が落ちて、最悪の場合は壊れてしまいます」


『壊れる……? メンテナンスでは直らないのですか?』


「ええ。心の摩耗は、部品交換では直りません」


私は脚立から降りてきたエリナ様に、冷たいタオルとスポーツドリンクを渡しました。


「ふぅ……。ありがとうございますぅ。でも、私ならまだいけますよぉ?」


エリナ様も、少しハイになっているようです。

かつて教会で酷使されていた名残でしょうか。

役に立つことに喜びを感じすぎて、自分の限界を無視する癖がついています。


「いいえ、休憩です。ナナ、貴女もスリープモードに入りなさい」


『スリープ……? 私は電源があれば稼働できます。休む必要性は理解不能です』


ナナのドローンが不思議そうに首(カメラ部分)を傾げました。


「休むのも仕事のうちです。良いですか、ナナ。貴女たちには『有給休暇』という権利を与えます」


「ユウキュウ……?」

『未登録単語デス』


二人がキョトンとしています。

私は人差し指を立てて、経営者として教育的指導を行いました。


「何もしない時間を作ることで、次の仕事の質を高めるのです。例えば、エリナ様なら美味しいお菓子を食べて幸せを感じる。ナナなら、過去のデータ整理をして思い出に浸る。……それが、心を豊かにし、結果として良い野菜を作ることに繋がるのです」


『心を、豊かに……』


ナナが小さく呟きました。

彼女はドローンを操り、エリナ様の肩にちょこんと着地しました。


『エリナ。貴女は、何をしたいですか?』


「えっ、私ですかぁ? うーん……。ナナちゃんと、おしゃべりがしたいです。仕事の話じゃなくて、もっとどうでもいい話を」


『どうでもいい話。……非効率的です。ですが、マスターの命令なら実行します』


「ふふ。じゃあ、まずは『恋バナ』から始めましょうかぁ? 私、クラウス様とリゼットさんの馴れ初めが気になってて……」


『検索開始。ログデータ参照……』


二人は仲良く連れ立って、休憩スペースのソファへと向かっていきました。

聖女と古代AI。

生まれも種族も違いますが、どちらも「道具」として扱われてきた過去を持つ者同士。

案外、良いコンビになるかもしれません。


「……やれやれ。私のいないところで、変なデータを共有しないで欲しいものですけれど」


私は苦笑しながら、青々と茂るレタスに触れました。

指先に、微かな魔力の脈動が伝わってきます。


この地下で作られた野菜には、地上のものとは違う、不思議な力が宿り始めていました。

それはきっと、彼女たちの純粋な「育てたい」という想いが結晶化したもの。


「さて、初収穫が楽しみですわね」


私は黄金のスコップを握り直し、大きく伸びをしました。

古代の遺産は、もう兵器ではありません。

私たちの新しい家族であり、頼もしい相棒になったのですから。


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