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【最終章完結!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第3章

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第7話:教授、畑の肥やしになる


パチン、と。


乾いた指鳴らしの音が、静寂を取り戻した制御室に響きました。


私が目を開けると、そこには心配そうに覗き込むエリナ様の顔がありました。

彼女の手はまだ水晶板に乗せられたままで、魔力の使いすぎで少し顔色が青いです。


「リ、リゼットさん……? 戻って……きたのですかぁ?」


「ええ。ただいま戻りましたわ、エリナ様。お仕事、ご苦労様でした」


私はヘッドセットを外し、優雅に髪をかき上げました。

周囲を見渡すと、毒々しく点滅していた赤い警報ランプは消え、穏やかな青白い照明が戻っています。

天井から鎌首をもたげていた除草レーザーも、銃口を引っ込めて大人しくなっていました。


『システム再起動完了。……おはようございます、マスター』


スピーカーから、ナナの澄んだ声が流れます。

そこにノイズや敵意は微塵もありません。

メインモニターには、私の生体データと共に『ADMINISTRATOR(管理者)』の文字が輝いていました。


「な、なんだと!? バカな!」


背後から素っ頓狂な叫び声が上がりました。

シュタイン教授です。

彼は自分の持っていた杖をバンバンと叩き、モニターを睨みつけています。


「吾輩のハッキングが破られただと!? ありえん! 古代語コードの解析にはあと数百年はかかるはずだぞ!」


「数百年も待てませんわ。野菜がしなびてしまいますもの」


私は教授の方を向き、冷ややかに微笑みました。


「残念でしたわね、教授。このプラントは、貴方のような無粋な泥棒よりも、美味しいものを愛する私を選んだようです」


「くっ……! おのれ、小娘が! こうなれば力ずくだ!」


教授は懐から魔石を取り出し、再び強引にシステムへ干渉しようとしました。

往生際が悪いですわね。

これだから、他人の畑を荒らす害虫は困ります。


「ナナ。不法侵入者に対する『正規の対応』をお願いできるかしら?」


『了解。……対象ヲ「不燃ごみ」ト認定。プラント外へ、強制排出シマス』


「不燃ごみ……ふふ、いい得て妙ですわ」


次の瞬間。

教授の足元の床が、パカリと開きました。


「へ?」


教授が間の抜けた声を上げた時には、もう手遅れでした。

そこは、かつて収穫後の野菜クズや石ころを地上へ排出するためのダクトの入り口。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」


ヒュンッ!


教授は杖を取り落とし、真っ逆さまに穴の中へ吸い込まれていきました。

ダクトの奥からは、「吾輩は天才なのだぞぉぉぉ……!」という叫び声が遠ざかっていきます。


『地上出口マデ、約三十秒。エアシューターデ射出シマス』


「お見事。エリナ様、私たちも地上へ戻りましょうか」


私は呆気に取られているエリナ様の手を引き、エレベーターへと向かいました。


地上に出ると、そこには見事な放物線を描いて空を飛んでいく教授の姿がありました。

彼は農園の彼方にある堆肥場コンポストの山へと、頭から綺麗に着地しました。


ズボッ。


「……リゼット。あれはなんだ」


剣についた血糊を拭いながら、クラウス様が呆れた顔で近づいてきました。

周囲には、気絶した傭兵たちが転がっています。

どうやら地上戦も決着がついたようです。


「ただのゴミ捨てですわ。少し大掛かりでしたけれど」


私は堆肥場へ歩み寄りました。

教授は発酵中の落ち葉や牛糞の山から這い出し、酷い臭いを漂わせながら涙目になっています。


「お、覚えていろ……! この屈辱、王立学術院に報告してやる!」


「あら、どうぞご自由に。その代わり、不法侵入と器物破損の請求書もセットで送らせていただきますわ」


私が黄金のスコップを突きつけると、教授は「ひぃっ」と悲鳴を上げて後ずさりました。

しかし、その目はまだ死んでいません。

彼は逃げ出しながら、気になる捨て台詞を吐きました。


「い、いいか! 古代遺跡が目覚めたのはここだけではないぞ! 北の大地でも『氷の塔』が反応しているという報告があるのだ!」


「北の大地……?」


「そうだ! 世界は再び古代の力に飲み込まれるのだ! その時になって泣きついても知らんぞーっ!」


教授はボロボロの白衣をなびかせ、傭兵たちを置いて一目散に逃げ去っていきました。

逃げ足だけは一流です。


「……やれやれ。騒がしい客だったな」


クラウス様が剣を収め、ため息をつきました。

エリナ様も地上に出てきて、太陽の光に目を細めています。

地下での戦いは終わりました。


しかし、教授の最後の言葉が、私の心に小さなとげのように引っかかりました。

北の大地の異変。

それが、私の前世の記憶や、この遺跡のシステムと何か関係があるのでしょうか。


『マスター。有機肥料(教授)ノ確保ニ失敗シマシタ。追撃シマスか?』


私のポケットに入れた端末から、ナナの物騒な提案が聞こえました。


「いいえ、必要ありません。腐った肥料は土に毒ですから」


私は空を見上げました。

冬の澄んだ空気が、火照った頬を冷やしてくれます。

今はただ、守り抜いた農園の平和と、手に入れた新しい「おもちゃ(巨大工場)」の活用法を考えることにしましょう。


それに、お腹も空きましたしね。


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