第4話:迷惑な考古学者
私はモニターに映し出された光景を見て、こめかみの血管が切れそうになるのを堪えました。
地上の農園では、土足で踏み込んだ男たちが、私が手塩にかけて育てた冬キャベツの畝を踏み荒らしていました。
その中心にいるのは、爆発したような白髪を振り乱し、汚れた白衣を纏った男です。
「素晴らしい! 吾輩の計算通りである! この反応、古代の『戦略級破壊兵器』に違いない!」
男は大袈裟な身振りで叫び、私の可愛い農機具(ゴーレム・タガヤス君)の残骸に抱きついています。
あろうことか、彼はタガヤス君の装甲板をバールのようなもので無理やり剥がそうとしていました。
「……ナナ。あの非常識な原始人は誰ですの?」
『照合中……。該当データアリ。王立学術院・考古学部長、シュタイン教授。……過去ニ、王太子セドリックノ家庭教師ヲ務メタ記録アリ』
「セドリック様の? ……なるほど、あの人の歪んだ性格は、この師匠譲りだったというわけね」
納得しました。
人の敷地に勝手に上がり込み、所有物を奪おうとする厚かましさ。
まさに師弟関係です。
「リゼット。あいつら、傭兵を連れているぞ。武装している」
クラウス様がモニターを指差しました。
教授の周囲には、ガラの悪い男たちが十数人、剣や斧を構えて警戒しています。
彼らの足元で、無惨に潰されたキャベツが泥に塗れているのが見えました。
「許せませんわ」
私は低く呟きました。
遺跡への侵入よりも、キャベツ一玉の死の方が、私にとっては重罪です。
「クラウス様。地上の掃除をお願いできますか? 私はここから、ナナと一緒にシステムをロックします」
「ああ、任せろ。……不法投棄された粗大ゴミは、速やかに撤去する」
クラウス様が剣を抜き、冷ややかな笑みを浮かべました。
久しぶりに見る「氷の公爵」の顔です。
彼もまた、愛妻(私)の野菜を害する者を決して許さない「農園の守護神」になっていました。
「エリナ様は私と一緒にいてください。貴女の魔力がキーになるかもしれません」
「は、はいっ! 隠れていますぅ!」
クラウス様が階段を駆け上がり、地上へ向かいました。
私はナナに向き直り、指示を飛ばします。
「ナナ、遺跡の入り口を閉鎖! 地下への侵入を阻止して!」
『了解。……警告。シュタイン教授ガ、外部カラ強力ナ魔力干渉ヲ行ッテイマス。ハッキングノ可能性』
モニターの中で、シュタイン教授が奇妙な杖を掲げました。
杖の先から紫色の禍々しい魔力が放たれ、タガヤス君の露出した回路に突き刺さります。
「ノンノン! ただのスクラップではない! 吾輩にはわかるぞ、この地下に眠る『マスターコントロール』の存在がな!」
教授の高笑いがスピーカーから響きます。
「この兵器を目覚めさせれば、吾輩の名声は不動のものとなる! 王立アカデミーの頑固者たちも、吾輩にひれ伏すのだぁ!」
「……兵器ではありませんわ。それは高性能な『全自動耕運機』です」
私はマイクのスイッチを入れ、冷ややかに告げました。
「なっ!? 誰だ!?」
教授が驚いて周囲を見回します。
「ここの所有者、リゼットです。教授、即刻立ち去りなさい。さもなくば、不法侵入と器物破損で訴えますわよ」
「所有者だと? フン、小娘が! 古代の遺産は人類の共有財産、すなわち発見者である吾輩のものだ!」
話が通じません。
教授は杖の出力を上げました。
紫色の電流がバチバチと火花を散らし、遺跡全体の照明が明滅し始めます。
『警告! 警告! 不正ナ魔力干渉ニヨリ、セキュリティシステムガ不安定デス。……コノママデハ、防衛プログラムガ暴走シマス』
「暴走? 止められないの?」
『外部カラノ強制操作ト、マスター(リゼット)ノ正規コマンドガ競合シテイマス。……システム、判断不能。……「排除モード」ヘ移行シマス』
ナナの姿が青から赤へと変色しました。
工場の奥深くから、重苦しいサイレンの音が鳴り響きます。
ウゥゥゥゥゥ……!
『対象ヲ「害虫」ト認定。プラント内ノ全生物ヲ駆除シマス』
「害虫って……私たちも含まれていますの!?」
私の叫びと同時に、天井のハッチが開き、無数の銃口(レーザー除草機)が鎌首をもたげました。
教授の強引なハッキングが、眠っていた「殺虫システム」を最悪の形で叩き起こしてしまったようです。
地上ではクラウス様が傭兵たちを蹴散らしていましたが、地下の状況はそれどころではありません。
私の夢の野菜工場が、一瞬にして処刑場へと変わろうとしていました。




