強いひと
19.
顔文字で人をこんなに追い詰めさせるメールができるのはきっと依弦くらいだろう。
僕は部屋からスタートダッシュをきり、光の速さでマンションの下まで駆け下りた(わざわざ階段を使ったんだ)。
下では依弦が、熊のごとく仁王立ちで立っていた。
いや、熊じゃない、後ろに般若が浮かび上がる。
そんな怒らせることをしたのか・・・?
僕のせいで変な噂が立ったと怒られるのだろうか。
「・・・遅い、乗って。」
いやいやいやいや!
正直、2分とかからず下まで降りたんだけれども・・・それでも遅かったらしい。
言い返すことも出来ず、言う通り依弦の自転車の荷台にソロソロと乗る。
僕を乗せて依弦は黙って自転車を漕いだ。
とても話しかけれるような雰囲気ではない。
人気のないところまで連れていかれてそこで置き去りにでもされるのだろうか。
そしてもう関わるなと、目の前で宣告でもされるのだろうか。
依弦が自転車を停めたのは、あの、以前教えて貰った依弦の秘密の場所がある山の麓だった。
そのまま依弦は黙って山を登っていくので僕は何も言わずに後を追って登った。
フェンスをくぐり抜けてあの秘密の場所に着き、ようやく依弦は足を止めた。
「・・・ねぇ、蒼月くん。」
「・・・な、何でしょう・・・。」
「貴方、私のこと・・・嫌いなの?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・は?」
一瞬、依弦の言ってる事が理解できなかった。
嫌い?
何故僕が依弦を嫌うのか。
「・・・いや、嫌いならこんなに依弦と絡まないよ・・・。」
「・・・そう。」
下を向いてそう呟いて、ツカツカと僕の前まで歩いてくる。
スパーンッッ!!
「・・・!?!?!?」
思いっきり、思いっっきり振って僕の頬を叩いた。
ジンジンと痛む頬を抑えて叩いた人を探す。
・・・いや、依弦しか居なかった。
「なっ・・・なんで叩いたの・・・!?!?・・・え!?」
「・・・あんた、私に仲良くして貰ってるとか、釣り合わないとか、自分と仲良くしてるから私まで悪く言われるとか思ったの!?」
「・・・えっ・・・うん・・・思ったし言った・・・。」
「なんでそう思うのよ!むしろ私があんたに迷惑かけてるし、仲良くしてもらってるじゃない!釣り合う釣り合わないとか意味わかんない!勝手に決めつけて勝手な自己完結してんじゃないわよ!!」
正直、唖然とした。
まさか、そんな事で怒られるなんて思わなかった。
「私は蒼月くんと絡んで皆に何をどう言われたっていいのよ!でも蒼月くんが悪く言われるのは耐えられないわ、私は蒼月くんのいい所いっぱい知ってる。知らない人に蒼月を悪く言われるのは心底腹立つ!でも悪く言われるのが当たり前だと思ってる蒼月くんにも心底腹が立つ!・・・私は蒼月くんが大切なの、だから私が大切に想う貴方を悪く思わないであげてよ・・・。」
依弦はそのまま泣き崩れた。
・・・僕は、こんな風に誰かに言われるのは初めてで、自分のために泣いてくれる人も初めて見た。
目に何かが溢れそうになって、それをグッと堪えて唇を噛んだ。
「・・・ありがとう・・・ごめんなさい・・・。」
初めて抱きしめる依弦は思っていたよりも小さくて、細くて、柔らかくて。
肩を震わせて僕にしがみつく『それ』が、いつか消えてしまうんじゃないかと思って、優しく、強く抱きしめた。
「・・・依弦、女の子達にも色々聞かれたでしょ、何て答えたの。」
「・・・あぁ、あれね。」
僕の為に鼻を啜らせて目も鼻も真っ赤にした依弦が、とても愛おしく感じた。
ーーー
『ーーー星河さんと志河くんと仲いいよね。』
「・・・・・・そうだね。」
『でも、付き合ってないでしょ?仲良くしてるのも情的なさ!なんで志河くんなんかと絡んでるの?』
「・・・・・・。」
ーーパンッ!
『・・・・・・えっ、いたっ・・・。』
「・・・志河くん『なんか』?あんたが蒼月くんの何を知ってるわけ?私が誰と仲良くしようと関係ないでしょうが!本当そういう噂大好きね?気持ち悪くて反吐が出るわ!」
『ひっ、ごっ、めんなさ・・・。』
「次、要らない事私や蒼月くんに言ったら・・・熊の餌にしてやるからね。」
ーーーー
「そしたらさ!泣いて帰っちゃって!めんどくさいわね!女の子!」
「はははっ・・・。」
怖すぎる。
まさか僕の前にあのビンタの被害者が他に居たなんて。
・・・いや、流石とも言えた。
依弦らしくて、そうやって真っ直ぐに怒って、泣いてくれる。
「あはは、依弦には適わないよ。ありがとう。」
そんな彼女が、僕は、好きだ。
僕の好きな人は、強い。




