噂
17.
クリスマスまで2週間。
世間は楽しそうにどこもかしこも飾り付けられ、ソワソワした雰囲気に押しつぶされそうになる。
「あ〜!!赤点待ったなしだろこんなの!」
「うるさいよ澄元。」
クリスマスより僕達は最大の難関、期末テストに潰されていた。
「うるさいって志河、お前俺より勉強できねぇだろ!」
「う!る!さ!い!」
教室を見渡せば皆が皆、血走った目でペンをノートに走らせてただならぬ雰囲気が包んでいる。
「俺たちクリスマスに脅しかけられて彼女欲しいって思うけど、テストにも脅されてんだよなぁ。」
「・・・僕はクリスマス一人じゃないけどね・・・。」
「んぁぁ!?なんだって!?おまっ、お前、まさかっ・・・。」
「依弦とクリスマス会うよ。」
「依弦!?!?お前らいつの間にそんな親しく・・・!!くっそー!!」
僕達が緊張感も無く騒いでいると依弦がひょっこり顔を出した。
「テスト前なのに余裕だねぇ君たちぃ〜!」
「星河サン!!いや全然余裕じゃないぞ俺達!」
「依弦は余裕そうで羨ましいよ・・・。」
「まぁ私学年順位10位以内だしね?」
誇らしげに依弦は長い髪をはらった。
『 ・・・あのセット最近多いよね。』
『 志河くん名前呼びしてるよ。』
『 付き合ってんのかな?』
僕達が話していると教室の何処からかそんな声がチラホラと聞こえる。
依弦の誤解は徐々に解け始めていて、依弦自身容姿も整っていて成績も優秀なせいで、依弦の人気は上がる一方だ。
『でも志河くんに星河さんは勿体なくない?』
『 わかる、星河さんなら選び放題だし志河くんなんて選ばないでしょ。』
「・・・。」
分かっている。
依弦が仲良くしてくれるのは単にあの時出会ったのが僕だったからだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
これ以上の関係の期待も、思いを馳せる事も許されない。
分かっていた事だ。
僕は奥歯をグッと噛み締めた。
「なぁ、お前と星河サン付き合ってはないんだろ?」
依弦が帰った後、澄元は少し心配そうに、深刻そうに聞いてきた。
「うん、付き合ってないよ、友達。」
「じゃあ聞き方を変える。」
「ん?」
「・・・お前、星河サンの事好きなのか?」
「・・・。」
澄元にこんな事を聞かれたのは初めてだった。
好きかと聞かれて僕はなんて答えていいか分からず、一瞬黙ってしまった。
「いや、好きとかイマイチ分からない、かな。それに僕が依弦を好きなんて恐れ多いよ、釣り合わないしね。」
「・・・本当にそう思ってるのか?」
「・・・どういうこと?」
「いや、いい。何でもない。」
「・・・澄元、お前もしかして依弦の事好きなのか!?」
「いやいやいや!なんでそうなるんだよ!お前の脳内が見てぇよ俺は!」
「なんだ、違うのか。」
澄元は呆れたように、僕は吹き出して二人して笑い合った。
「ま、俺は志河の事応援してるからな?」
「何言ってんだよ。」
そして僕達は無事12月の行事のラスボスである期末テストを二人ともギリギリ赤点を回避して喜んで抱き合った。
順位表が張り出され、見に行くと依弦は8位のところに名前が載っていた。
「いやぁ、流石星河サンだなぁ。」
「僕達なんて下から数えた方が早いのにね。」
『 ほら、あれだよ、星河さんと付き合ってるとかいう志河くん。』
『え?あれが?あんな冴えないのが好きなのかな。』
『ね、意外だよね。』
僕達の後ろの方からまたヒソヒソと話し声が聞こえる。
「・・・こういう噂ってあんまり気持ちのいいもんじゃねえな。」
「・・・放っておけばいいよ。」
「あいつら好き勝手言いやがって・・・。」
澄元は僕より噂話をする子達に怒っていた。
普段お調子者だけれど、友達の事になると正義感溢れて、言われた本人より怒って、言いたいことを代わりに言ってくれる。
そんな良い奴が友達で良かったとしみじみ思う。
「気にしないで澄元、大丈夫だよ。」
「・・・俺の方があいつらより星河サンよりお前のいいところ知ってるし、お前の事好きだからな。」
悔しそうに口を尖らせて澄元は掲示板の前から去っていった。
「・・・あんなセリフの方がよっぽど変な噂されるんだけどな・・・。」
僕は苦笑いをして澄元のあとを追った。
何故気づかなかったのか。
こんなに言われているなら、依弦本人にまでこの噂が届いているだろうという事に。




