青冬
12.
仏壇から立ち上がり、星河さんはとりあえず家に戻ることになった。
「依弦ちゃん、家で寂しいなら晩御飯だけでも食べに来て頂戴ね。いつでもいいから。というか、来て欲しいわ。」
「・・・ありがとうございます、本当にありがとうございます。」
「・・・蒼月」
母さんと星河さんが話してると兄さんが耳打ちしてきた。
「星河さん、送ってきてやれ。」
「・・・言われなくても。」
ーーーー
星河さんは靴を履いていなかったので僕は再び彼女をおぶって歩いていた。
「ごめんね、おぶらせちゃって。」
「全然気にしなくていいよ。それより、どうして靴履いてないの?」
「お父さんが怒った後、『もう顔も見たくない』って髪の毛掴まれてそのまま外に出されちゃったんだ。」
「・・・今日学校休んでたのも、お父さん?」
「うん、昨日の夜ふらっと帰ってきて殴られて、足の痣が酷くて学校行けなかったの。心配かけちゃってごめんね。」
聞けば聞くほど生々しく、自分が今まで想像もした事のない、経験した事のない話で、僕は奥歯をグッと噛み締めた。
「友達になったばかりなのに迷惑かけて本当にごめんね。」
そう呟く彼女の声は少し震えていた。
「・・・謝ってばかりだね、星河さん。」
「そりゃそうだよ・・・。」
「この事他の人は知ってるの?」
「ううん、友達なんて居ないし皆知らないと思う。」
友達も居なくて頼れる人も居ず、家でも居場所のない彼女の心境なんて僕に分かるはずも無かった。けれど自分がそうだったらと想像するだけで生きた心地がしなかった。
「別に誰かに話したりもしない、このまま友達でも居たい。友達として、頼ってきて欲しいとは思う。頼りないかもしれないけれど、いつでも力になりたいんだ。」
「ーーー。」
僕は彼女の言葉を聞き取る事が出来なかった。
身体を震わせる彼女を背中越しに感じて、情けなくも僕まで泣きそうになってしまう。
ーーー
「ありがとう、送ってくれて。助けてくれて。」
「いいよ、お父さんは大丈夫そう?」
「うん、元々鍵は閉められて無かったけど入ったら怒られるからあそこに居たの。今はもう寝てるし大丈夫。ありがとう志河くん。」
「明日は、学校来る?」
「・・・行くよ。待ってて。」
「分かった、また明日ね、星河さん。」
そして僕は彼女を扉の前で下ろし、彼女の家をあとにした。
今日の空は酷く真っ黒だった。
「・・・志河、くん!!」
後ろから星河さんの声が聞こえた。
「依弦!星河さんじゃなくて依弦!」
鼻と頬を真っ赤にした星河さんが叫んだ。
「・・・!!」
まるで必死な彼女に僕は少し笑ってしまった。
こんな一面をきっと他の人達は知らないだろう。
「また明日!・・・依弦!」
女の子を名前で、しかも呼び捨てにするのなんて初めてで急に恥ずかしくなった僕は振り向かず走って家まで戻った。
言ってみたものの思った以上に照れくさくて心臓の音がハッキリ聴こえる。
明日は、また学校で彼女と会える。
「・・・蒼月。」




