赦されざる事
11.
僕は力なく笑った彼女を見つめた。
自分がどんな顔をしていたか分からなかった、彼女の目には僕の顔がどう写ったのだろうか。
何かを話そうと口を開いた彼女より先に言葉を放った。
「今、話さなくていい。・・・風邪ひくよ。」
僕は握りしめていたマフラーを彼女に巻いた。
「理由はどうであれ、僕には怪我している女の子をこのまま放置して過ごせない。星河さんが嫌じゃないのなら僕の家で手当されて欲しい。」
目を見開いた彼女が困ったように微笑む。
「でも、こんな姿、ご家族の人がビックリするんじゃ・・・。」
「母さんも兄さん、いや、ご近所で噂になってたんだ、だからみんな理解してくれる。大丈夫だよ。」
コクリと頷いた彼女をおぶって僕は家の方向に歩を進める。
「ありがとう、ごめんね。」
「なんで謝るのさ。僕達、友達なんだし。」
優しい言葉をかけてあげれなかった。
いや、そんな言葉をきっと彼女は求めていなかっただろう。
ーーーー
「ただいま。」
僕が家に戻るとまるで分かっていたかのように母さんと兄さんが玄関で待っていた。
「依弦ちゃん、こちらへいらっしゃい。」
母さんは優しく星河さんに声をかけて僕はそっと彼女を下ろした。
手を引かれて星河さんは母さんとリビングに消えていった。
「・・・お前が俺の話聞いて慌てて出ていったから母さんに話したんだよ。そしたらお前と星河さんが友達だって聞いたからさ。きっと連れてくるんじゃないかと思った。いや、連れてくるって信じてたよ。」
「兄さん相変わらず察しがいいんだね。」
「何年お前の兄ちゃんやってると思ってんだ?」
兄さんは僕の額を軽く小突いて、優しく笑って僕の頭をぐしゃっと撫でた。
リビングに兄さんと向かうと手当された星河さんがソファに座っていた。
口元の絆創膏や丁寧に手当された手足が尚更痛々しさを感じた。
力ない瞳でそこに居る彼女はまるで人形のようだとも感じてしまった。
「志河くん、ありがとう。お兄さんも、ありがとうございます。」
「気にしなくていいからね依弦ちゃん。少し詳しく聞かせて貰っても大丈夫?それとも蒼月と2人きりの方がはなしやすい?」
兄さんは優しく星河さんに話しかけた。
「いえ、大丈夫です。手当もして頂いたので、きちんと話そうと思います。」
僕達はリビングのテーブルにつき、星河さんから話を聞くことになった。
自分の想像以上に早くこの残酷な事実と対面する事になって、正直、心の整理が間に合って居なかった。
「ご近所で噂になっていると思いますが、私が虐待を受けているのは事実です。」
彼女はハッキリと淡々と話し始めた。
「実は私の父は義父でして、私の母の再婚相手なんです。二人が再婚したのは私が8歳の時です。義父は、母の以前の男との娘である私が大層気に入らなくて私への態度は明らかでした。そして義父は自分で会社を持っていまして、多忙で家を空ける事が多いんです。その間母は寂しさで私に八つ当たりする事が多くなり、家を空けて出ていく事も多くなりました。元々短気な父親は仕事での不満でを最初は母に当てていました。ですが耐えかねた母が逃げるように外を出歩くようになり、もう今では殆ど顔もあわせません。そして父の不満は私に向けられ、帰ってくる度に殴られ暴言を浴びせられ、母も顔を合わせると私に暴力を振るうようになってしまって・・・。昨日から父親が帰ってきていて皆さんに迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい。」
そこで彼女の話は終わった。
「じゃあ今は依弦ちゃん、基本は家で一人なの?」
「そうですね、二人とも帰ってこない方が多いので基本一人です。」
「警察とかに相談したりしないの?」
「二人とも酷く世間体を気にしているのでそれがバレたらただじゃ済まないと思います。それに警察に相談したところであの2人はきっと私を手放さないので・・・。」
母さんからの質問にも星河さんは顔色一つ変えずに答える。
兄さんは黙って話を聞いて、僕は彼女にかける言葉が見つからなかった。
「・・・ところで、志河くんのお家、お父さんは・・・。」
「あぁ、うちの亭主、五年前に他界しちゃってね。」
「・・・線香あげに行かせて貰っても大丈夫ですか?」
彼女の問いに母さんは優しく了承した。
僕達は線香をあげる彼女の背中を見つめていた。
「凄くいい子なのね。あんないい子なのに、どうして・・・。」
そう言う母さんの目からは涙が溢れていた。
星河さんは10分ほど父さんの仏壇の前から離れなかった。




