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二つの不誠実 ――前世の記憶に目覚めた公爵令嬢は、愛する人の秘密と隠された真実を解き明かす  作者: 水月 絃


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15. 成果報告と贈り物

 へろへろになった侍女と共に帰宅したリエットを、父と義弟は嬉しそうに迎えてくれた。しかしどうやら、彼らも成果こそあったものの、決定的な「それ」は掴めていないようだ。


「私は当家に降嫁した王族の手記を改めて調べたのだが……数代前に遡っても魔法に関する記録は見当たらなかった。やはり残っているのは神話に関する記録が全てと言って良さそうだ」


 はじめに公爵がうんざりした様子で述べた。

 神話における魔法。それはリエットがこの数日でも嫌というほど目にした記述である。


 女神エクリエルから「魔法」を授かった初代国王は華々しく建国を宣言し、異国から迎えた王妃と共に素晴らしい治世を築いた。民も貴族も豊かな、それはそれは素晴らしい国であったという。

 しかしそれを羨んだ周辺国との戦いが起こり、各国との、魔法飛び交う熾烈な戦いが繰り広げられた。

 結果的に疲弊した各国は勝者を得ることなく和解、協定を結び、多少の緊張がありつつも、その平和は現代まで続いている。

 

 ―――というのがざっくりとした概要だ。書物によって、飛び交うそれが火の玉であったり、石の礫であったりしている程度で、さほど大きな違いは無い。


 以降は、各代で賢王が王妃と共に良政を敷いたという程度の記述に留まるのみだ。

 神話ではない、各王の記録を照らし合わせると、その良政において、具体的に発布した法や取り入れた技術などがある程度は分かるものの、魔法の行使についての記録は当然無いのだった。


 続けてテオフィルが口を開く。


「魔石と、魔道具が現存することは確認できたよ。もう製造できないから大変に貴重ではあるけれど……。もしかすると、王家がそうした魔道具を使った可能性があると思って、今は魔石の国(アーデルシュタイン)の資料を見ているところだけど、今のところそんな記述は無いね」


 隣国や、魔石の国(アーデルシュタイン)とは言語が違う。元は同一の言語から成る様で、似ている点もあるし、教養としてある程度は教わるが、それでも異国の書物を読み進めるのはかなり骨が折れることだ。そもそも、そんな暗殺魔道具が実在したとて、魔石の国(アーデルシュタイン)としては大事な切り札である。確実にその情報を覆い隠すだろう。


「私も魔法の調査が行き詰ってからはテオフィルを手伝っていた。結果、かつて少数の魔道具がこの国へ輸入されたという記録を確認している。購入者に関する正確な情報はないが、非常に高価な品だ。大半は王家や、ごく一部の高位貴族が保有していたと見るべきだろう」

「そうなのですね……」


 リエットも僅かばかりの成果を報告する。魔法の色に、初代王妃の髪の色。

 三人は情報を突合せ、ううん、と唸った。


 かつて王族に与えられた魔法は、行使すると赤色を放つらしいこと。

 魔法と似た不可思議さを持つ魔石、魔道具は現存しており、また王家でも保有されている可能性があること。

 故第一王妃やシャルル王太子の髪色は、初代王妃から継がれたものかもしれないこと。


 進展はあった。現状、王家やフェリクが怪しいことも変わらない。しかし現時点で新たに、確度を以て出せる解はなさそうだった。


「お父さま、テオフィル。ありがとうございます。夜会が終わりましたら、また今後のことをご相談させてください」


 侍女の様子を見つつ予定よりもゆっくりと進んだため、既に夜は更けている。頭を悩ませたところでこれ以上の答えが得られそうにないのであれば、明日の夜会に備えて早く体を休めた方が良いだろう。


 まずは明日、夜会のパートナーとなるフェリクをかわさなければならない。流石に衆目の中でのプロポーズのような羽目を外しはしないはずだが、さり気ないアプローチをやり過ごし、かつ「前世」の襤褸が出ないようにしなければならなかった。

 父とテオフィルがしっかりと頷く、と、父は思い出したように告げた。


「ああそうだ、フェリシアンから贈り物が届いている。部屋に置いてあるから、確認しておきなさい」

「はい」


 先日の贈り物攻撃の続きだろう。そう踏んで、大した構えも無く新たに届いた箱を開いたリエットは驚いた。


「……!」


 若草色の初夏を思わせる華やかな生地に、淡い金糸で精緻な刺繍が描かれている。花が芽吹いたようなアクセサリーは、きっとドレスにぴったりだろう。夜会に適した、意匠の凝らされた一式は、リエットの胸を甘く疼かせた。


――フェリクさまの色……。


 婚約者故、ドレスを用意してもらったことは初めてではないが、ここまで露骨にフェリクの色を表したものを贈られたことはない。そのうえで、相手の希望だけを詰めたデザインでもなく、きちんとリエットの好みも反映しているのだから、憎らしい。こんなもの、嬉しくなってしまうではないか。


――フェリク様は敵、フェリク様は敵……!


 確定ではないものの、ほとんど漆黒に近いフェリクには気を許してはいけないのだ。幾ら彼が優しくとも、彼が求めているのは「リサ」の記憶で、母の仇かもしれないのだ。そう思うのに、こうした、独占欲の気配を感じるだけで、フェリクがリエットの趣味を理解していると知るだけで、己の決心を揺らがせようとするのだった。



本日、もう一話更新しています。

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