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二つの不誠実 ――前世の記憶に目覚めた公爵令嬢は、愛する人の秘密と隠された真実を解き明かす  作者: 水月 絃


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10. 養子への疑問

 フェリクが退出した室内で、リエットは重い息を吐き出した。

 気持ちを、切り替えなければ。


「テオ、悪いのだけれどフェリクさまの見送りを――」

「…………」

「テオフィル?」

「……、あっ、ごめん、義姉上、少しぼうっとしてた。見送りね、行ってくる」


 慌てて駆けていくテオフィルに首を傾げ、そこでリエットは先ほど一瞬浮かんだ疑問を思い出した。おそらく、テオフィルが考えていたのもまた、これだろう。


――養子。


 フェリクは養子を取って跡継ぎにしてもよいと言った。必ずしも、後を継ぐ男児を産む役目をリエットが果たす必要は無いと。

 養子という制度自体はあるが、血を重んじるこの社会では養子に継承権を持たせることはできない。それこそ国王か王太子が特例として認めない限りは。

 フェリクには王太子という強力な後ろ盾があるから可能かもしれない。


――なら、テオフィルは?


 リエットは男児ではないので継承権を持たないし、間もなくヴェルディエを出てコルベールに入る身の上だ。当然、リエットの子が持つのもコルベールの継承権のみである。

 リエットの母はリエットを産むとほぼ同時に亡くなり、父は後妻を娶っていない。故に跡継ぎとしてテオフィルを引き取ったとされている。しかしこれは「養子に継承権を付与している」。明らかに特例だった。


 確かにテオフィルは元々遠戚の子爵家次男であり、ヴェルディエの血を引いているから、相当低い順位であれば継承権は持っている。しかし父には弟――リエットから見た叔父もいるし、叔父には息子もいる。

 つまりは、お家断絶の危機も無く、テオフィルよりも余程直系に近い跡継ぎ候補は居たのだ。

 にもかかわらず、何故テオフィルが跡継ぎとして認められたのか。


『王様にお願いしたんだよ』


 同じ疑問を、男系長子制を習ったばかりのリエットが問うた時、父はそう答えたと記憶している。

 そうなんだ、と子供心に納得したそれは、今の今まで掘り起こされることなく、単なる事実としてリエットの中に定着していた。テオフィルもきっと似たようなものだろう。


――おそらく関係ない、けど……。


 リエットの「前世」には直接関係しないだろう。

 しかし、ヴェルディエ家の跡継ぎを巡り、王家とヴェルディエの間に何らかの取引があったのはおそらく事実だ。

 幾ら長年の忠臣といえど、父である公爵が「後妻を娶りたくない」「テオフィルを跡継ぎにしたい」と駄々をこねたところで容易に応じる程王家は優しくないし、そもそも父もそんな駄々をこねる人ではない。


――王家側に何らかの負い目があって、その穴埋めとしてお父様に提案した?


 そしてその時期はきっと、テオフィルが引き取られた、リエットが五歳の頃だ。

 無関係な可能性が高い。それでももしかすると、それを機に、王家とヴェルディエの間に見えない確執が生まれ、今コルベールを通じて何かを企んでいるのかもしれなかった。

 調査が行き詰っている現状、少しでも関係する可能性があるのなら、どんな情報でも知りたいところだ。


――まずはテオに話して、そしてお父さまに、打ち明けよう。


 「前世」はあまりに突拍子も無くて、そして杞憂だった場合の影響を危惧して、リエットはこの件をテオフィルにしか伝えていない。

 しかし、養子を決めた当時の真実は、父――公爵に聞かねば分からないだろう。父の話を聞き、そしてそれから、この記憶を打ち明けるべきだ。


 リエットは「フェリクと話したおかげで気分が良くなった」と態度に表し、しばらく別でとっていた夕食を、家族でとりたいと言づけた。


本日、もう一話更新しています。

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