聖なる拳の辛勝
次の作戦を決めて動きだす。
私が隙を見て攻撃を狙うことからリナが前にでて気を引く。
――というのが理想だったけれど鎧は迷わず私の方に向かってくる。
「なんでそうなるのよ!?」
よく考えると最初の攻撃も私だし、その後の振り回しは両方を近づけさせないために見えたけど、私狙いだったのかしら。
だとすると、この作戦は若干やりづらい。
カウンターをただ入れるだけなら私にもできるけれど、ピンポイントで狙った場所に攻撃をするのは荷が重い。
というよりも回避と隙を見つけるので今の私には限界だ。
「こっち向け!!」
リナはそういって腕と兜を攻撃しているけれど、鎧は私を狙ったままだ。
呪いさえ気にならなければリナが急所を狙って攻撃してくれてもいいんだけれど、呪われる可能性が否定しきれてないのがここまで影響を及ぼすのね。
……ちょっと待って。
そう考えるとこんな魔物とかがダンジョン内に今後も現れるとしたら対応できる人っているのかしら。
神官の神聖魔法もおそらく聞くだろうけれど、目に見えて前線に出張って戦う神官がどれだけいるか。
いや、今考えるのは駄目だ。そんなのは終わってから考えればいい。
「もう、やれるだけやってみるしかないわね!」
私は気持ちを切り替える。そして作戦も切り替える。
ピンポントで狙えないならば鎧越しでもダメージを与えるしかない。
ここまでは魔力が切れて呪いに対処できない状況を避けるためと、もう一つの懸念で使ってこなかった魔力を込めた一撃。
「一回食らってみなさい!!」
私は鎧の攻撃のあと無防備になった腹部に、魔力を込めて威力を増した右拳を叩き込む。
「いったぁ!? やっぱりこのグローブじゃ駄目!」
そして、魔力と別で懸念してたこと。
駆け出しのグローブで魔力を込めた強い一撃を、鎧とか岩などの硬い質の相手にぶつけた場合の拳への反動がどれほどか。
つまり、グローブを突き抜けて私の手に結構な痛みが返ってきた。
ただし、その痛みに見合った結果はでてくれたようだ。
鎧は吹き飛んで壁に勢いよく音を立ててぶつかる。
まあ、すぐに立ち上がった――いや、なにかおかしい。
「何かしらあれ」
「わかりませんが……効いてるみたいですね」
鎧は一見無傷に見えた。腹の鎧も砕けたりはしていない。
だけど、理由は不明だけれど鎧のあちこちから紫色の煙みたいなものが漏れでるようにして空気中に消えていく。
「もしかして、中に何か体っぽいものはあるけど、本体は鎧自体の可能性ってあるかしら」
「アタシは見たことないけど、可能性だけでいえば否定もできなさそうです」
「……ちょっと、試してほしいことがあるわ」
「なんですか?」
鎧は態勢を整えきる前に指示を簡潔に伝える。
そして鎧はしつこいことに私狙いらしい。
聖なる魔力を感知して脅威と感じているのか、別の理由かはわからないけれど。
ひとまず私は回避に専念する。
その間にリナが準備を整えて攻撃をしかけた。
私に攻撃をし続けてがら空きの背中にリナの攻撃が命中すると、今までは無視していたその攻撃に対して反応が見られた。
人間だったなら『ぐぅっ』とかうめき声を上げていそうな反応を。
反射的に鎧がそちらに体を向けようとした隙を見逃さずに、ちょうど目の前に現れた脇腹に吹き飛ぶほどじゃない威力に抑えつつ拳をぶつける。
「アリアさん! 効きました!」
「やっぱり鎧のほうが本体みたいね」
私がリナにだした指示は単純なものだ。
ショートソードに聖水をかけて攻撃するという単純なもの。
聖水は本来は呪いの浄化や身を清めるイメージがあるけれど、アンデットや呪いに対しては凶器になるほどの天敵だ。
まあ、聖水の数には限界があるから毎回これができるとは限らないけれど。
少なくともこの鎧が洋館における最大の敵と判断できそうな今であれば、そこで使い惜しむ必要はない。
その後はリナにもターゲットがうつることも増えて挟み撃ちに近い形で、こちらが優勢になっていく。
ただし、かなり相手もタフでどうすれば倒れるのかがわからなくなりつつあった時だ。
「アリアさん。聖水をひとつは念の為に残したいと考えると今ので最後です」
「私も結構手が痛いわね」
それに単純に体力的にもきつくなってくる。
攻撃こそ当たらずに立ち回れているけれど、代わりに回避と攻撃に動き回ったせいでスタミナという面で体力切れが近い。
『ヴァァァ』
「うん?」
ただし相手も同じように限界は近いらしい。
声ともいい難い音をだすと紫の煙が今までで一番多く吹き出す。そう思った瞬間、鎧そのものが煙になるように消えていき中身がでてきた。
「あれは……えっと、ゾンビですか?」
「いえ、多分ただの遺体よ。操り人形みたいに、あの鎧が利用してるみたいだけれど」
鎧がほぼ消えたと思うと中からはボロボロに風化してかろうじて服といえるものをきた人間の遺体だった。
ただ、死んでからかなりたっているのかガリガリに細くなっている。
あそこまで細い場合はゾンビにならない。もしくはゾンビになったとしても自分の体重を結局支えきれないで倒れたままになる。
少なくとも鎧をきて立ち上がるなんてことは不可能だ。
空中に上がった紫の煙の一部はその人の手の中に吸い込まれるように移動していったと思うと、一本の剣が現れる。
おそらく、鎧ほど大きな形を保つことができなくなって最後のあがきかしら。
問題は……アリアの聖水が使うにしても残り一瓶だけなことだ。
「しょうがない……覚悟決めるわ」
「アリアさん。そのグローブで剣相手は」
「だけど、聖水つけない剣であなたが打ち合っても仕方ないじゃない」
「それは……」
「まあもしもの時は残った聖水をすきを見てあいつにぶっかけなさい。私がひとまず相手するわ」
しかし、ゾンビじゃなくて遺体をそのまま操るとは趣味が悪いわね。
さしずめ鎧の姿の時は、あの遺体に人間で言う骨の役割をさせてたのかしら。
相手は剣を両手で構えてこちらへ向かって走ってきた。
本体はあくまで剣そのもの――狙うは上から振り下ろす一撃。
私は相手の攻撃をよく見て回避する。
ただ、その途中で不意に遺体の背中側からの姿を見て、台座に触れたときのビジョンが頭によぎった。
もしかして、オールド家の人間の遺体?
意識が一瞬乱れてしまった瞬間、回避に半歩ほど足りずに剣の先端が左腕のグローブのない部分を斬った。
その瞬間に痛みで現実に引き戻される。
「痛いわね!?」
私が痛みに反応したそれを隙と思ったのか、敵は勢いのまま剣を振り上げた。
ただし、それは私の狙っていたもの。
そのまま私めがけて振り下ろされた攻撃を回避して、剣の足で踏みつけるようにして剣を地面に無理やり固定させる。
そのまま右拳に魔力を練り上げて剣の腹めがけて振り下ろした。
「これで終わりなさいよ!」
拳が剣にぶつかると、ヒビが入りそして折れたかと思うと空中に煙となって霧散した。
そして剣を持っていた遺体は操っていた糸が消えたように地面に倒れた。
「勝ったけど、正体というか何者だったのかはすっきりしないわね」
「無事に勝てただけで良かったですよ。正直、体力的に粘られたら危なかったです」
「それは……そうね」
こうして、洋館の主と思わしき鎧との戦いは、どうにか私たちが勝つことができた。




