恨みと呪い
自分の頬を軽く叩いて気持ちと集中をリセットする。
台座の呪いについては、また状況が変わってからにする。
それよりも、私がアックスを持ってきた理由のほうを片付けるとしましょう。
「リナ。周囲を警戒していて、鎧が反応してくる可能性もあるわ」
「なにする気ですか?」
「扉にノブがないなら壊すしかないわよ」
「……もしかして、それを持ってきたのって」
私は階段下にある扉の前でアックスを振り上げる。そしてそのまま、扉にめがけて振り下ろした。
魔法で防御されているなどもなくアックスは扉に突き刺さったと言えるような状態になる。
さすがに一撃で壊し切ることはできないわね。もっと正しい振り方とかを知っていれば別なんでしょうけれど。
「もういっかい!」
私はアックスを引き抜いてもう一度扉に叩き込む。数度繰り返していくうちにアックスがつくった亀裂が広がり始めた。
「ふぅ……あとは、これでいけないかしらねっ!」
私は最後にアックスを近くに立てかけて、助走をつけて肩から体当たりした。
扉は見事に壊れて私は勢いのままに扉のすぐ奥の壁にぶつかった。
階段の横幅的には間違ってないけど、狭いわね。
「アリアさん。大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それよりも、開いたわ」
「中になにかありますか?」
「そうね」
中を少し進むと狭いながらにも空間をいえる部屋が現れた。
特に他に扉もなく私だったら物置にしてそうな広さだけれど。
「これは……なんというか、悲しさすらあるわね」
「何がですか?」
リナも私に続いて中へと入ってきた。
「何もない……わけでもないですけれど、物はなにもないですね」
「そりゃそうよ。これ見なさい」
私は地面に落ちていた木の板を拾って渡す。
「これは……差し押さえですか」
「立派な洋館だけれど、持ち主の財政状況はよくなかったみたいね」
「そんなことあります?」
「代替わりして商売に失敗したとかでこうなることはあるわよ。ただ、これがあるってことは別荘とかではなさそうね」
「でも、ダンジョンの洋館に差し押さえしにくる人いるんですか?」
「いるわけ無いわよ。ただ、ここまでなってくるとこの洋館は偶然というよりは、実在する洋館を再現したか記憶を元に再現したかと思っていいと思うわ」
可能性としてはずっと考えていたけれど、さすがにこの痕跡はダンジョン内で偶発的に作られたとしたらおかしい。
そして、そうなってくるとあの家紋も悲しい現実を突きつけてくる。
「私の予想だけれど、あの家紋が示す元貴族であるオールド家の洋館だと思うわ」
「確かに可能性は高そうですけれど、ラビリアとの関連性がなさすぎるのは不思議ですね」
「多分、オールド家の生き残りかオールド家との取引が命綱だった誰かの恨みが家紋を呪いのマークにしてしまったのかも知れないわね」
「そんなことあるんですか」
「私も実際に見るのは初めてよ」
ただ知識としては知っている。
マークであったりサインのような物を用いて対象にかける呪いは存在する。
ただし、稀に偶発的に呪いをかけるつもりで使っていたわけではないマークが効果を持つ事例があった。そしてその多くは理由はどうあれ恨みや妬みを発端としてるらしい。
「そうなってくると……おそらくあの鎧がこの洋館の主でしょうね。調べてみて他にそれらしいものはいなかった」
「なるほど。でも、生きている人って感じではなかった気がしますが」
「まあそこはまだ謎が多いわね。もしかするとダンジョン内で死んでしまった冒険者が、もとはオールド家の人間だったとか。そして、何かのきっかけでこの洋館を生み出してしまった」
「聞いたこともない現象ですが……」
「私だって自分で言ってて、何言ってるんだろうとは思うわよ」
だけど、そうでも考えないと結局のところ原因は突き止められない。
それにそうでも考えないと、家紋という偶然にしては特定的すぎるものがあることに納得がいかなくなる。
「まあ、なんにせよ。あの鎧をどうにかして、可能なら正体を暴きましょう」
「わかりました! ……この札はどうしましょうか」
「まあこの部屋に置いておきましょう」
ダンジョンの戦利品として持ち帰るには、あまりにも微妙すぎるし。
こうして、洋館の目に見えるすべての部屋の探索が終わった。
鎧がいた2階奥の部屋を除いて。
後は隠し通路でも見つからない限りは、主と思われる鎧をどうにかするだけ。




