呪われた日記帳
通路には左右に扉がある。
庭がある側にある扉は2つだけれど、外から見えてる窓の形と間隔から想像すると個室が2つといったところだろう。
反対側の扉はわからないけれど、玄関ホールの奥行きから想像すると個室ではなさそう。
他に奥に続く通路は見当たらないことを考えたら、結構広めの部屋だと思う。
「手前の部屋からでいいですか?」
「問題ないわ。気をつけてね」
リナは手前の個室と思われる扉のそばに寄って耳をすませる。
そして、ノブを回して慎重に扉を開く。
「ここは客室ですかね?」
中に入ってリナはそう呟く。
私も中に入るとかなり荒れた様子だけれど、大きめの長机とそれを挟むように複数人すわれそうなソファが置かれている。
「客室か応接室かしらね。しかし、中にまで植物が侵入してるわね」
「ですね。この部屋は窓が割れてるとかじゃないんですけれど」
それに埃とかもない。
まあ、ダンジョンに突然現れた洋館だから埃を理由に人の出入りがあるなんて考えはしないけれど。
この部屋には特にめぼしいものや、台座のマークのようなものは見当たらない。
「次の部屋行くわよ」
「はい。でも、何なんですかねこの洋館?」
「さっぱりわからないわ」
「明らかに人工物ですよね」
「まあ、ダンジョンの中に遺跡とかができるくらいだから人工物自体は普通なんじゃないかしら?」
「うーん。ここまで建物って感じのものはアタシは聞いたことないですよ」
「私もまあ聞いたことはないけれど」
次に奥の部屋に同じように入ると、そこは書斎に見える家具が配置された部屋だった。
ただ、この部屋も荒れていて正確な所は想像するしかなさそう。
壁にある棚の中には本を収められそうだけれど、一冊も存在していない。
「引き出しとかになにか入ってないですかね?」
私が棚を見ている間にリナがそう言って机の引き出しを開けた瞬間に馴染みのある気配を感じた。
反射的にそちらを見ると引き出しの中には一冊の本が見えた。
「日記帳とかですかね?」
「リナ、ちょっと――」
私は止めようとしたけれど、それより先にリナはその本を手に取ってしまう。
その瞬間に、本から魔力が発された。
「えっ!?」
「やっぱり!」
私は咄嗟にリナの本を持つ手を握り魔力を流す。
「アリアさん!?」
「ちょっと落ち着きなさい」
魔力がその手から本に流れ込んで魔力は落ち着いた。
やっぱり何かの呪いがかかっていたわね。
「あなた、鈍感なのもあるけれど……呪いに好かれてるの?」
「どういうことですか!? ていうか、なんで急に手なんか握って」
「何赤くなってんのよ。あと今の会話で察しなさいよ。この本呪われてるのよ」
「そうなんですか!?」
私はリナの手から本を抜き取る。
そして、表紙をめくるとあのマークがあった。ただ、手書きされているというよりは元からそういうデザインとして作られている感じね。
「何か変なのよね……このマークの意味とかさえわかればいいんだけれど」
「そうなんですか?」
「呪いのマークだとしたら、そんなものが元からデザインされている日記帳とかメモ帳が作られると思う?」
「普通はないですね。呪いの神様とかがいて、その信仰とかがなければ」
「そんな神がいないとは言い切れないけれど、この大陸では聞いたことないわよ」
「そうですよね。でも、じゃあ……ダンジョンが生み出すのも変じゃないですか? 呪いが付与されてるものといっても、その道具や武器自体は普通のはずですよ」
「そうね。というかダンジョンが生み出して呪われたものは、わざわざマークとかは刻まれないわよ」
この国に来てからかなりの呪いのかけられたものを浄化してきたけれど見たことがない。
それこそ、この前のソードみたいにダンジョンから生まれたかわからないものぐらいだ。
「どちらにしても、もう少し調べる必要がありそうね。リナはとりあえず、もう少し気にしてみなさい。ランタンとかといい呪いのかかったものを見つけすぎよ」
「そればっかりは運の部分もあるじゃないですかー」
この部屋には他にはめぼしいものは見つからなかった。
日記帳と思わしき本も特に何かが書かれているわけではなかった。
だけど、こんなものダンジョンで見つけたなんて話聞いたことあるかしら。
ただの日記帳を手に入れられたところで報告されていない可能性もあるけれど。
「アリアさん。こっちの部屋なんですけど」
通路に戻って反対側の扉をリナが調べてなにかに気がついたのか私を手招きしてくる。
「中で何かが動いています」
「こっちに気がついてる?」
「いえ、特にこっちに向かってきている感じはしないですけれど。さっきアリアさんがそこそこの声だしてたのにこの反応だと、部屋に入ると反応してくるタイプかもしれません」
「……なんかごめんなさいね」
呪いに気がついていないから咄嗟にリナを止めようと声だしたけれど、洋館の中になにかいることを考えたら少し警戒心が薄かったかしらね。
「どうしますか? 反対の通路を先に調べるのもありだと思いますけど」
「いえ、どちらにせよいつかは対峙することになるし、何者かは確認しておきたいわ。先にこちらで接触して、危険そうなら洋館自体から撤退してもう少し人を募ってきたほうがいいわ」
「わかりました。では、いきましょう」
私は念の為手につけているガントレットをしっかりとついてるのを確認する。
そして、お互いに目でタイミングをはかりながら扉を開いて部屋に飛び込んだ。




