迷宮の洋館
予定の日になり聖水を受け取った後に私達は再びダンジョンに足を踏み入れる。
森の入口までは特に事件も起きずに辿り着くことが出来た。
「特に森全体がおかしくなってる雰囲気はない……のよね?」
自分で言いながらも、私の感覚は魔力や本当に雰囲気だけでの判断だ。
実際にどうかは何度もここに来ているリナに聞かないとわからない。
「そうですね。特に森全体の感じは変わってないと思います。なので、本当に突然現れたあの森の洋館だけがおかしい感じかと」
「ますます謎が深まるわね」
色々とダンジョンについて書かれた本とか資料を読んだけれど、目新しい情報はなかった。
実在するかわからない変異するダンジョンの噂なども調べた。そちらでも仮に存在していたとしてダンジョン全体は組み変わる規模であって、一部のみが変質するような噂はなかった。
「未知に対しては現地調査するしかないってわけよね」
「そうなりますね」
「まあ、ぐずぐずしててもしかたない。ひとまず洋館がまだあるか見に行くわよ。突然現れたものが突然消える可能性もあるのだから」
「わかりました」
森の入口前で、いつでも戦闘に入った場合に対応できるように装備を確認して中へと足を踏み入れた。
新しい道や様子のおかしい魔物などとの遭遇はなく森の洋館への道まで辿り着くことができたけれど、その道の入口でリナが足を止めた。
「うーん?」
「すぐに向かうのは危険かしら?」
「そうではないんですけど。報告があったのが1人だけにしては、落ち葉とかが地面に見当たらない気がして」
「それは……まずいのかしら?」
「いえ、まあ報告しないで探索する冒険者もいますから。この国の場合は報酬がでるので報告するだけ得に近いんですけど。普通はダンジョンなんて勝手に探索して自己責任みたいな場所ですから」
まあ、確かにそのとおりだ。
「ただ、誰かと遭遇したり……誰かが荒らしてしまっている可能性も考えて調査が必要ですね。こうなってしまうと」
「そうね。完全に未探索と思って調査すると、誰かが触った後かもってことね」
改めて私達は洋館に向かって足を進めた。
木々の間を歩いていき、前と変わらない洋館が姿を表した。
前との変化は特にないと思ったけれど、庭の土に探索のために歩き回ったであろう足跡がある。
「これがギルドに報告した1人で入ったって人の足跡かしら」
「それ以外の人の場合もありますけど、ひとまず庭はすでに探索済みみたいですね」
「前回は目では全体をみたけど、細かいところまで見ておけば何かあったのかしらね」
「どうでしょう。流石に庭に剥き出しになっていたら気が付きそうですけど。あれ?」
「なにか見つけたの?」
「いえ……あそこ」
リナが指さした方向を見る。
そこには洋館1階のどこかの部屋の窓がある。いや、おかしい。
たしか、あの窓は私がゴブリンを殴り飛ばして割れたはず。
だけど、その窓は完全に直っている。
「私が割ったわよね?」
「正確にはゴブリンを叩き込みました」
「そうよね。あそこの窓だったはずよね」
「ダンジョンの何かによって直ったんですかね? あと扉は誰が閉めたんですかね?」
「扉は……まあ勝手に重みとかで閉まる作りでもおかしくはないけれど」
早くも謎が増えてしまった。
「気を引き締めていくわよ」
「はい!」
私たちは洋館の扉をゆっくりと開き中に足を踏み入れた。
入ってすぐは開けた玄関ホールとなっている。そして、奥に左右に分かれて上に登る階段があった。
その階段の間に事前の情報にあった台座が存在する。これがどこかの貴族の家を模倣したものであるならば、過去に家に繁栄をもたらした先祖の像とかが作られていそうだ。
「結構広そうですね。外からだと回り込みづらくて奥行きはわかりにくかったですけれど」
「そうね。ただ、ダンジョンが適当に作ったり偶然できたにしては、何かを模倣していそうなくらいしっかりした作りよね」
「そうですね。それで、この台座が……本当だ。マークがありますね」
リナは台座に近づいてしゃがみ込んで観察している。
「特に触っても光りませんけれど……」
「不用心すぎるわよ」
「用心しすぎると何も進みませんよ」
このあたりは判断は冒険になれているかどうかの差なのかしら。
どこで無茶をしていいかどうかみたいな。
「このホールだと他にはなさそうね。こういう建物の探索の場合ってどうするのが定石なのかしら?」
「いや、冒険者でも中々屋内でどうこうの依頼はないですよ。素材集めろとか果樹園に来てしまった魔物を退治してくれとかですし」
「そういうものなのね。じゃあ、ひとまず1階から調べてみましょう」
「わかりました」
ホールの中を見渡すと階段を正面として左右に両開きの扉があった。
正確に言えば右の扉は片側しかついていなくて奥に通路があるのが見えている。
おそらくは左の扉の先も通路になっているだろう。
「まあ見えてる右からかしらね」
「では、アタシが前を」
そう言ってリナが扉の先の地面に片足をついた時、背後から魔力の気配がする。
振り向くと報告にあったように台座のマークが淡く光っていた。
「リナ。戻ってみてくれる?」
「は、はい」
リナが突き出した足をホールの中に戻すと光が消えた。
「……ホールよりも中に入ろうとすると反応するのかしらね」
「今のところはその可能性が高そうですね」
「あと……やっぱりこの魔力は呪いの類ね。効果はまだわからないけれど」
「どうしますか? 先に浄化してしまうとか?」
「この前みたいに何かが出てくる可能性もあるし。台座に呪いがかかっているんじゃなくて、建物に呪いがあるとしたらここだけ浄化してみ無意味よ。かなり例は少ないけど、建物そのものが呪われている事例は存在しているからね」
「その事例の場合はどうやって解決を?」
「大規模の呪いは触媒だとか呪いのための大本の魔法陣がどこかにあるわ。それをどうにかする。もしくは呪いをかけた本人をどうにかするってところね。だから、調査を続けるわよ」
「わかりました。でも、呪いの洋館ってなると、急に不気味に聞こえますね」
「あなた呪いに対しては人一倍鈍感なんだから気をつけなさいよ」
「はい……可能な範囲で気をつけます」
冒険はあの子のほうが経験があるから前を歩いてもらっていたけれど、この場合は私が前を歩いたほうがいいのかしら。
でも、ダンジョン内の建物だから魔物が現れる可能性を考えると、そちらの対処に慣れているリナが前のほうがいいし。
呪いはそもそも事後の対応が重要になる。
何かあったら私がすぐに対処するってことでいきましょう。
「アリアさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。少し頭の中を整理してただけ。一旦、台座の光は無視して進みましょう」
「わかりました」
さて、本格的に洋館の調査開始よ。




