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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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98・シャルの依頼

「さぁ、そうと決まればさっそく出発しようじゃないか!」


「いやいやちょっと待ってくださいよぉシャルさん。俺はさっき帰って来たばかりなんですからぁ」


陥落したジールをしり目に勢いよく立ち上がるシャル。立った勢いでジールの依頼料となった二つの爆弾がブルンッと揺れ動く。それを見て立ち上がろうにも立ち上がれないジール。立ち上がろうものなら何か違うモノが立ち上がっているに違いない

先程嵌められたばかりだというのに全く学習能力が無い英雄である。「出来れば明日にしましょうよ」と前屈みになりながら情けない声を出し何とかシャルを引き留めようとする。だがそんな必死に訴えているジールを一瞥してフンッと鼻を鳴らすシャル


「なぁに言ってんのさね。明日になればアンタはトンズラしてるに決まっているじゃないか。ほらさっさと行くよ!」


シャルはそう言い放つとジールに近寄りガシッと後襟を掴んだと思えばそのままズルズルと店の出口の方へと引っ張っていった


「ちょっ!く、苦しい・・・ま、待ってくれ!せ、せめてデザートの豆抜き豆乳プリンを食べてから・・・あぁれぇ~~」


バタンッ


「毎度あり~」


ジールの必死の叫びも虚しくシャルにより店の外へと引き摺られていった。二人が居なくなった店内は残っている冒険者の同情の視線と今日もしっかり儲かった店主の弾んだ声が響いていた



~~~


それから数時間後


「何がドラゴン10体の討伐だ!」


「あっはっは!これは楽しくなってきたねぇ!」


店を出た後すぐに目的地を目指した二人・・・一人は少しヤケクソ気味だったが。目的地までは馬車を経由して2,3日ほどかかる距離であったが、世界でも屈指の実力者の二人、ジールは持ち前の脚力、シャルは特殊な風魔法を駆使してものの数時間で辿り着いた


だが目的地に到着した二人の目の前に待っていたのは空一面を埋め尽くすドラゴンの群れであった


「ドラゴンのスタンピードなんて聞いた事ねぇよ!」


「アタシだって今初めて見てるさね!これは無事に帰ったらあの馬鹿にお仕置きが必要だね!」


元々ドラゴニア山から溢れ出した数体のドラゴンを討伐するだけの依頼

二人はそこに向かう前に一番近くの麓の村で一度休息を取るつもりでいた。だが現地に辿り着いた二人が見たのは既に壊滅していた村だった。ドラゴンを間引きするどころか自分たちの身も危ない状況

二人は休息する暇すら与えられずそのままドラゴンの群れとの戦闘に入ってしまったのである


「うらぁ!ちっ!クソが!ただの雑魚どもの群れならまだしも・・・こいつはシャレになんねぇぞ!」


愛用の短剣を振りかざし次々とドラゴンを切り裂いていくジール。だが空を飛んでいるドラゴンに短剣を当てるにはいちいち飛び上がらなくてなならず、さらにそのサイズにより一撃が致命傷にまで至っていない

ドラゴンの堅硬な鱗を切り裂くジールの腕前とその短剣の切れ味は称賛に値するものだが、今のこの状況ではさほど役に立ってないように見える


「何をチンタラやってんだい!『バキュームブレード』!」


一向に数が減らない事に苛立ちが隠せないシャルはジールを叱咤すると、両手を前に突き出し呪文を唱えた後真空の刃を打ち出した。それは『鮮血の大賢者』と呼ばれているシャルが最も得意とする風魔法の一つである

その得意の風魔法を駆使し、宙に浮いているシャルの両手から放たれた刃はドラゴンの身体より遥かに大きく、そして容易くドラゴンの身体を切り裂いていく。その刃に触れたドラゴン達はそれを防ぐ事も出来ず次々と身体をバラバラされ空から堕ちて行った


「いちいちウルセェんだよ!『スパイラルフレア』!」


それに反応し一度短剣をしまったジールは一息に螺旋状に渦巻いた炎を目の前に群がっているドラゴン達に放った。ドラゴンに襲い掛かった炎はあまりの高温に周辺の景色をゆがめている。その熱量により加工すら難しいドラゴンの鱗も容易に融解し、重力に逆らう事無くボタボタと地面に落ちていっている

勿論、その鱗を纏っている本身が無事に済む訳も無く断末魔を上げる暇も無くあっという間に命を散らしていっていた


「あっはっは!ジール!アンタまだ詠唱にこだわっているのかい!?」


「はぁ!?そんなん当たり前だろ!それにお前だって未だに詠唱しているじゃねぇか!」


「アタシはアンタと違ってこの方がイメージがし易いのさね!アンタなみたいなイカレた脳の構造なんてしてないのさ!」


「はっ!どうだか!おっとぉ、『ボルテニックスカノン』!」


ドラゴンの群れを蹴散らしながらも楽しそうに会話をする二人。持って生まれた類まれなる才能もさる事ながら、生粋の戦闘狂である二人。少し判断を間違えれば一瞬であの世逝きなこの状況を心から楽しんでいるみたいだ

背後から獰猛なる牙でジールを噛み砕かんと迫って来たドラゴンを紙一重で避けると、その顔面に直接バチバチと放電した雷の魔法を叩き込んだ。それを受け一瞬で炭と化した躯は風に流されあっという間に空中に散って行った

ドラゴンの群れを捌きながらもそれを見ていたシャルはやれやれと肩を竦めながらジールに再度話掛けた


「相変わらず非常識なスピードだよ。アンタみたいな速さで術式を構築されちゃ誰も敵わないだろうね!よっ、世界最強の英雄さん!」


「お前が言うな!鮮血の大賢者さんよぉ!」

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