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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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97/139

97・世の中は甘くないって事

ジールをいとも簡単に落としたシャル。長い付き合いの中で彼の性格を良く分かっているのだろう。潤んだ瞳、さらに必殺の上目遣いを披露していた顔を下に向け、してやったりとほくそ笑む。だがその顔をジールに見せる訳にはいかない、せっかくの作戦がパァになってしまうからだ


小さな理性より大きな本能が圧勝し、未だに高らかに馬鹿笑いをしているジール

そして一通り笑いながら自分に押し付けられているシャルの柔らかい二房の爆弾を堪能した後シャルの肩に手を置き話し掛けた


「それで、シャル君。その依頼と言うのは何なのだね?」


視線を下におろせば見事な絶景。山あり谷ありの見事な峡谷が自分にムニムニと押し付けられている。鼻息フガフガ目はガン開き、いつもはクールを気取っている英雄ジールもこうなってしまえば形無しだ

だがその言葉を聞いたシャルはほくそ笑んでいた口元を一層ニチャリと歪ませた。何故なら自分の作戦が全て上手く行った事を確信したからだ


その瞬間自分の肩に置かれていたジールの腕をバッっと振り払い、何事も無かったかのようにいきなりジールとの距離を取る。そしてカウンターに置いていた自分のグラスを手に取り再びグビグビとアルコールを自分の体の中に納めて行った。

いきなり自分が堪能していた絶景が無くなったことで一瞬呆気に取られるジール。だがそんなジールの事なんかお構いなしに飲み切ったグラスを再度ドンッとカウンターに置いたシャルはジールの質問の答えを言い放った


「なぁに、大したことじゃないさね。たかがドラゴン10体の討伐さね」


「へ?」


間抜けな声が出た

振り払われて行き場をなくしていた両手が宙を彷徨い、ワキワキと動かしていたそれがピタリと止まる

一瞬、ジールはシャルが何を言っているのか理解出来ない、だがそんな冗談を言う相手にも見えない。自分の胸に残されていた暖かな二房の残滓を感じながらもう一度シャルの言った事を反復する

どらごんじゅったい?

このデカメロンは何を言ってるんだ?

宙に浮いたまま止まっていた己の両手を戻し胸の前で組み替える。聞き間違えか?

そんな事をグルグルと頭の中でハテナマークを浮かべたまま思考が彷徨っていたジールにシャルの追い打ちの声が掛かった


「ちなみに!・・・アンタに依頼料はあげないからね」


「は?・・・いやいやいやいや、ちょっと待て!色々ツッコみたいところがあるが、まずそのドラゴン10体の討伐って何だ?国からの依頼か?」


シャルの言葉にようやく桃源郷に逝っていたジールの思考が現世に帰ってきた。余程シャルのハニートラップが効いたのだろう。神経の全てが押し付けられていた胸の部分と熱を以上に帯びていた下半身に持っていかれていた為思考がまともに働いてなかったみたいだ

だがシャルの言葉が色々理不尽だった為、組んでいた腕を放し少し距離が空いていたシャルに慌てて詰め寄った


「まぁ国からの依頼っちゃあそうなるさね。まぁ間引きみたいなもんさ、ドラゴニア山からドラゴンの個体数が異常数確認されているみたいだから、その数を少し減らしてくれって事さね。麓の村にも少し被害が出ているみたいだからね。大事になる前にってのがあのバカの判断さね」


ドラゴニア山

世界でも有数のドラゴンが生息する山と呼ばれている。ドラゴンと呼ばれる魔物は世界広しと言えど最強の魔物と呼ばれる一角を担っている。だがその性格は個体によって様々で、温厚な種も居れば荒々しい種もいる。そしてドラゴニア山に生息するドラゴン達はその後者にあたる

自ら自分たちの縄張りを出ようとする訳でないが、シャルの言うように個体数が増えてしまえば餌を求めて縄張りから出ざるを得ない、と言う訳だ。要はその矛先が王都に向かってくる前に数を減らしてくれ、そういう依頼なのである。そしてシャルの言うあのバカとはおそらく国王の事なのだあろう

さすが国の中枢に気に入られているシャルである。国のトップである国王を馬鹿呼ばわりとは他の者が言えば一発で不敬罪で斬首の刑だろう


「・・・断る。割に合わねぇな、流石にそれはめんどくせぇし依頼料も無いとなると俺にその依頼を受けるメリットが一つも無いじゃねぇか」


両手を上にあげシャルの依頼をスパッと切り捨てるジール。別に依頼がこなせない訳では無いのだろうが流石の英雄ジールでも最強の魔物と呼ばれるドラゴン10体を討伐するのには少々骨が折れるみたいだ。しかも依頼料無しとは受ける理由が全く無いのも頷ける

先程まで気持ちがいいぐらい堕とされていたのをすっかりと忘れているみたいだ


だが断られることを前提にトラップを掛けていたシャル。彼女の方が何枚も上手なのをジールは失念していた。ジールに断られても張り付いた笑顔を崩さないシャル、何故なら既に奥の手を打っていたからだ


「何か勘違いしているみたいだから言っておくけどね?ジール、もうアンタに依頼料は払ったじゃないか」


「はぁ?何を言ってるんだお前は。俺は何にも貰ってねぇぞ?むしろここのメシを奢ってやったぐらいじゃねぇか」


確かに、ジールがそう言うのも頷ける。だがニヤニヤとしたままのシャルはもう一度グイっとアルコールを飲み干した後、空のグラスを突きつけジールに告げた


「いーや、払ったさね。それもお釣りが来るぐらいにね。ジール・・・アタシの胸は気持ち良かったかい?」


「っ!?なななな・・・嵌められたーーー!!」

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