96・ハニートラップ
「ゲフッ・・・あん?何だその噂ってのは?」
口を開くと今まで食べたものが出て来そうになってしまう為、慎重に口を開くジール
危うく喉まで出かけたが手にしていたジョッキを口に運び何とかそれを酒を飲む事で胃の中へと押し戻した
「まぁアタシからしたら別に大したことじゃないんだけど。アンタ、依頼を受けるついでに周辺の魔物達を軒並み殲滅してるって言うじゃないかい。ついでに森林破壊で魔物の生態系が乱れるってギルドマスターがボヤいてたよ」
クルっと体ごとジールの方へ向き直りグビグビと豪華に酒を喉に流し込みながら話す。本当は飲みたいけど腹いっぱいで酒がチビチビしか飲めないジールに対しシャルにはまだまだ余裕がありそうだ。ジールの横にあった大きな酒樽をいつの間にか自分の横に置いており次々と手にしているジョッキに注いでいる・・・彼女に限界と言うものは無いのだろうか
「あぁ~ギルドマスターがそんな事言ってやがったのか?って言われてもな・・・特に理由は無いんだが。まぁ敢えて理由をつけるなら魔物は人間の敵だろ?んだったら殺しといて損は無いだろ」
シャルの質問にそう答えるジール。だが返事をしながらも相変わらずチラチラとシャルの胸へと視線を送っている。そんなジールの視線を知ってか知らずかそれを特に気にする様子も無くシャルは手にしていたジョッキをカウンターにドンッと置いた
「ふ~ん、まぁ理由はどうでもいいんだけどさね。あまりギルドマスターを困らすんじゃないよ?アイツの愚痴を聞くのはアタシなんだから」
先程から二人の話に出ているギルドマスター。それは各国が連携してそれぞれに設置している各ギルドのトップ達の事であり、いちハンターが気軽に声を掛けれるような存在では無い。あくまでもギルドは国が管理している施設でありそのトップと言うならば国の重鎮の一人と言っても可笑しくは無いのだ
それを気軽に会話の中に織り込んでいる二人。その会話を聞いただけでも二人がギルドマスターなる人物と懇意にしている事が伺える。かと言って二人が元々貴族とか上流階級出身とかそういう訳では無い
二人の出自は孤児院出身であり今の立ち位置になるまでかなりの修羅場をくぐってきたのだ。だがジールを始めシャルも生まれ持った持ち前の才能でハンターとして登録してから若くして世界でも指折りのハンターになったのだ
それ故、ギルドマスターと気軽に呼べるような存在まで上り詰めたのであった。だが自由奔放なジールに対し国からの直接の依頼や貴族の護衛など率先して受注しているシャルは王宮の城でさえ自由に出入りできるように優遇されていた・・・と言うよりその持ち前の実力もさる事ながらその美貌により王族に気に入られていると言う事もあった
さらに自由奔放で世界最強と謳われるジールを飼いならすのは不可能と悟った国の重鎮たちはその手綱をシャルに任せている、という事に落ち着いたのだ。つまりシャルがギルドマスターに愚痴を言われるというのはそういう流れがあっての事だった
「そんなの知らねぇよ。文句があるなら直接言えって話だ、別に迷惑かけてる訳じゃないだろ」
「だからアタシに迷惑がかかってんだよ・・・ったくまぁいいさ。アンタにこんなこと言っても聞きゃしないのは分かってる事さね。・・・それよりも、ジール」
ハァッと溜息を吐きジールの説得を早々に諦めるシャル。元々説得できるとは思っていなかったのだろう。それにシャルには自分にとってはどうでもいいギルドマスターの事なんかより、どうやらジールに話したい事があるみたいだ
身体をジールの方に向けたままのシャルは己が携えている二つの大きな爆弾を両腕でグイッと挟みさらに強調して押し上げる。そして必殺の上目遣いを使いその顔のままジールに話し掛けた
「なななな、何かな?シャルさん」
効果は抜群だ
「ギルドマスターの事が言ってる事なんかどうでもいいのさ。それより、アタシの依頼に付き合わないかい?報酬は良いんだけど、中々に面倒な依頼でね。ちょいと一人じゃ手に余りそうなんだよ」
シャルの甘い吐息がジールの顔にかかりそうなぐらい近寄り耳にそっと語り掛けるシャル。付き合いが長くある程度免疫が出来ているとはいえ、ジールも男だ。一度収まった海綿体の血流が再び全て下半身へと集中してしまう
それに加え押し上げた爆弾がジールの身体にムニッと押し付けられる
これはアレだ。ぼくはだまされそうなんだ
理性はそう語りかける。そうだ、ぼくはだまされそうなんだ
分かっている。分かっているのだ。だがか細い理性は分かっているのにジールの口から出た言葉は全くの逆の事だった
「はっはっは、私に任せときなさい。君の頼みとあっては断るわけにはいかないだろう」
悲しいかな
やはりこれが男の性なのだ




