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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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136・腹ペコシスター

「くっ、はは・・・そうだったな。早く届けてやんねぇとな」


今にも止めを刺されそうなジールだったが、凛と響いた場違いなシスターの声に少しではあるが思考が回復する


そう言えば食事を運んでいる途中だったっけ、とは言ったもののまともに体が動きゃしねぇ・・・一体どうすれば


少し回復した思考で今の状況を打破する為にジールは何とか思考を巡らす。揺れ動いていた視線に力を入れ霞んで見えていた景色に焦点を合わした。目の前に居るのは大きく棍棒を振りかぶったままのトウコツ、だがその視線はジールではなく少し離れていたシスターの方を向いていた

今までシスターの存在に気付いていなかったのか、だが彼女の声が響いた事でその存在に気付いてしまっていた。大きく振りかぶった棍棒をそのままに、ジールに向けていた巨体をそのままシスターの方へと向け一気に走り出した


『忌々しいあの封印師の娘め!その結界さえなければワシがその四肢を粉々にしてくれるのにのぉ!』


シスターの声はジールの意識を繋ぎとめる事が出来たが、それと同時にトウコツの意識もシスターに移る事となってしまった

ドスドスと激しい足音を響かせながらシスターとの距離を詰める。そしてその距離がすぐに縮まったと思った瞬間、振りかぶったままの棍棒をシスターに向けて一気に振り下ろした


「シスター!!」


突然の行動に全く反応出来なかったジール。助けに行く事も防ぐ事も間に合わない・・・脳裏に最悪のビジョンが浮かんでしまう・・・が


ガキンッ!


振り下ろされたトウコツの棍棒に対しシスターの体を淡い蒼の光が包む

それは子供達が居た部屋の結界の様に見えたが、よく見ればその形は大きな聖盾のような形をしていた。そしてそれがトウコツの攻撃とシスターの間に阻まりそれを防いでいた

絶対防御の盾イージス

それはシスターが首から下げているブルーメタルトパーズの効果であった。あらゆる物を防ぐ絶対の盾、それが物理的なものだろうが概念的、仮想的なものであろうが何であれ。その対象を守る為に作られた絶対防御の盾。そしてこのプルーメタルトパーズのその対象はシスターとして創られていたのだ、それが亡くなった父からの贈り物であった


『ぶはぁ~。相変わらずの結界、ワシらの攻撃を全て跳ね返しよるわい』


弾かれた自分の棍棒を握り直し鼻から一気に空気を吐き出し忌々しそうにシスターを包む光の盾を睨む


「ジールさん!私は父から貰ったこの首飾りがあるから大丈夫です!ほら、さっさとやっつけて早く子供達の所へ行きましょう!」


「さっさと、ってよ・・・簡単に言ってくれるな。ふぅ・・・」


シスターの声に苦笑いをし肩で息をするジール


焦った、マジで焦った。だが流石の防御力だな。俺も初めて見たが・・・ホントにシスターの親父は何者なんだよ。まぁ取り合えずシスターが無事なのは良かった、だけどこの症状を何とかしねぇとどうにもこうにも・・・あのデカい棍棒野郎め、厄介な魔法を掛けやがって・・・ん?待てよ、魔法?・・・そうか!


相変わらずフラフラと倒れそうなジール。トウコツのシスターに向けた攻撃に一瞬全身の血の気が引いたがそれはシスターの首飾りにより危惧する必要が無かった

そして安心して肩の力が抜けたジールの頭にある事が閃いた


「く、そうか。魔法で受けた攻撃、つまりこれは呪いみたいなもんだな。それにこれが魔法による攻撃となれば!」


ジールはそう言うと震える膝に当てていた両手を胸の前に持って行き、その両の掌を合わせ言葉を紡ぐ


「はぁはぁ・・・全てを守りし光明なる母よ、加の者を癒し光を与えよ『ハイエンドレキュペレイション』」


ジールがそう呟くと全身を覆いつくすような光が溢れ出し自身を包み込んだ


『んむぅ?』


その光に反応し、シスターを睨みつけていたトウコツがジールの方を向き直る


「・・・完治っと。ふうぅ~~、中々今のは堪えたぜ棍棒ちゃんよ!さぁ今からが反撃だぜ!」


ジールを覆っていた光が収まった時には、そこからすっかり風邪を完治させた元気一杯のジールがこめかみに青筋を浮かべて現れた。結局本人は最後までそれが風邪と言う症状だと気付くことは無く、魔法による呪いだという認識で終わっていた。だがそれは結果としてトウコツの神異を退けるに至ったのであった


『ばっはっは!アレを退けたか!やはり楽しめそうなやつじゃわい』


それを見ると嬉しそうに笑いだすトウコツ。己の魔法を無効にされた事に憤るどころか愉快そうに笑う。それは自分がまだ存分に暴れる事に喜びを感じている事にある

まだだ、まだまだ壊れるでない、まだ暴れさせてくれ

本能に忠実なトウコツは落ちていた短剣を拾い上げたジールに向かって再び近寄って行った


「ジ、ジールさん!」


再びジールとトウコツの戦闘が始まろうとした時、結果的にジールの窮地を救う事の発端となったシスターが嬉しそうに微笑んだ後、口を開きジールに向けて声を掛けた


「私もお腹空きました」


「・・・」


俺の心配をしてたんじゃないのかい!

心の中で盛大にツッコミを入れたジールは、ただの腹ペコシスターの言葉に肩を落とし溜息をを吐いた


「・・・さ、気合を入れて行くとしますかね」


シスターの的外れな発言により張りつめていた場の空気が死んでしまった。それを何事も無かった事にし、拾い上げた愛用の短剣を握り締め、こちらに向かってくるトウコツに向き直った


それにしてもシスターってあんなキャラだっけ?もしかしたらこっちが本来のシスター・エリーなのかもな


この教会に来た当初のシスターの事を思い出すジール。今の天然キャラとは似ても似つかない様な気がするが・・・


『神異より告げる、一名難訓』


そんなどうでもいい事を考えていたジールに、走りながら近寄ってくるトウコツにより再び呪いが掛けられる。それにより再びジールの体がぐらつく、が


「ん!?おぉ!?・・・くっ、何度も通じるかよ!『ハイエンドレキュペレイション』!」


トウコツの難訓による魔法の呪いは最早ジールには効かない。ジールの詠唱と共に再び光が覆っていき万全の状態に戻す

ジールが唱えている回復魔法、それは只の回復魔法ではなく、対象の相手の全てを回復させ万全の状態に戻す最上位の回復魔法である。それが呪いであれ、そして四肢が千切れる様な重傷であれ全て万全の状態に肉体を戻すのだ。これはジールが神龍との戦いの後に編み出したオリジナル魔法であり、身体強化の重ね掛けによって起こる肉体の崩壊を防ぐために考えられた魔法であった。・・・こんな最高難度の魔法を僅か数日で編み出す事自体が異常なのだが、ジールは然も日常的に考え創り出してしまう事が出来る

それはジールの内蔵されている異常な魔力量と脳内に詰め込まれた膨大な知識があっての事だろう。特にその魔法に込められている魔力量を考えれば、他の者には真似が出来ないのは確実だろう。何せその回復魔法一度につき、四神の一柱を召喚できるぐらいの魔力量が込められているのだから・・・それならばこの破格の回復量も頷けるのかもしれない


呪いを解除するだけの魔法なら今回ジールが使用した魔法程、ハイレベルな魔法を行使する必要は無いのかもしれないが相手が禍神である四凶の一角だ。只の解除魔法では効果が無いのかもしれない。それ故、ジールは万全を期して自らが編み出した最高の回復魔法を行使したのだ

だが、使用する為の魔力量が多すぎる為、何度も乱発は出来ない。つまりやはり短期決戦が好ましいのは変わらないという事だ


「ジールさん、お腹空きました」


「黙らっしゃい!もう少し待ってなさい!」


完治した思考で今の戦況を冷静に分析するジール。他の四凶の奴らが手を出してこない内に何とか子供達がいる部屋に戻る算段を考える・・・腹ペコの子の声がその思考を邪魔するが


『ふ~む、これは最早通じぬか。ならばワシの好きな肉弾戦といこうかの!』


二人の場違いなやり取りを全く意に介していないトウコツはそのまま走りながらジールへと逼迫し、その勢いのままジールに向かって棍棒を振り下ろした


「だってお腹が空いたんですもん!」


「じゃあ先に行ってったら?ってうぉおおお!?」


横目で腹ペコシスターの相手をしていた所にトウコツの棍棒が目の前まで迫って来てしまっていた

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