137・血ぃ吸うたろか
ドガンッ!
自身に向かって勢いよく下ろされた必死の棍棒。全てを避けるまではいかなかったが、何とかギリギリで身を捻る事が出来た。僅かに鼻の先を掠めてしまい鼻から血が噴き出てしまうが簡易な回復魔法を施し事なきを得た
僅かに掠っただけでもこれだ。直撃を食らえば確実に一瞬でミンチになってしまう事が改めてしたくも無いが認識出来てしまった
「ちっ!危ねぇなおい!シスター・エリー!アンタは先に部屋に戻ってろ!」
「シスターで結構です!嫌です!ジールさんのご飯も作ったんですから一緒に食べないと駄目です!」
腹ペコシスターに気を取られてしまうと戦闘に集中出来ない。それなら絶対防御の結界があるのならシスターだけでも先に結界のある部屋に戻ってくれたら後はどうにでも出来るのだが・・・どうやらそれは叶わないらしい。せめて余計な口を挟まないで貰いたいとこだが
「ったく、先にこいつを何とかするしかねぇか」
食事の乗っているカートを握り締め頑張れ、とジールを応援しているシスター。そんな元気が戻ったのならさっさと部屋に戻ってろと思うが、空気が全く読めていないシスターはやはり天然か、それでも全く行動に悪意が無いのが救いか。だが取り合えず今の状況を覆す為には目の前の棍棒を振り回しながら暴れているトウコツを何とかしなければならない事には変わらない
「『身体強化トライフォード』!」
全身に魔力を張り巡らせ掛けるのは三重の身体強化。動き自体は鈍いトウコツ相手に神龍戦の時の様なスピードな必要ない、あるとすればその硬い外皮を切り刻むだけの力
そしてジール自身もそれを理解していた為、体がギリギリ無理なく耐えられる程度の身体強化を施した。既にトウコツの動きではジールを捉え切れていなかった所の三倍掛け、これでは自慢の棍棒でジールにダメージを与えることは難しいだろう。だがそんなジールを見てトウコツはさらに愉快そうに口を歪ませ大きな声で笑っていた
『ばっはっは!そうでなくては!血沸き肉躍る、これこそがワシが求める戦いじゃわい!』
「何が血沸き肉躍るだ!この戦闘狂め!」
棍棒を振り回し続けるトウコツに対し素早い動きで翻弄しながらそれを避け、握り締めている短剣で少しずつ傷をつけていくジール。そしてそれと同時に簡易な詠唱でにより魔法でも攻撃も仕掛けてみている、がそれでは特に目立った効果は得られていないみたいだ
もしかして相性や弱点がるのかと思い色んな属性でそれを試みてはいたが特に効果は無し、唯一ジールの愛用の短剣でこそが少しではあるが傷を付ける事が出来ていた
『そんなチンケな魔法でワシの体を傷付ける事が出来る訳無いわい!』
「るっせえな!傷ならいっぱいついているじゃねぇか!」
『ばっはっは!確かに!ワシの体に傷を付けるとは中々良い武器を持っておる。だがこの程度の擦り傷、ワシにとっては何の支障もないわい!』
トウコツの言う通り、確かにジールによる攻撃は少しずつトウコツの体に傷を付ける事は出来ていた。だがその傷のどれも浅くまるで致命傷には至っていない。これではせっかく施した身体強化の意味は無い・・・がジールの狙いの本筋は別の所にあった
「うしっ!大分傷が付いたな・・・これでも喰らいやがれ!」
トウコツの全身に満遍なく切り傷が付いた事を視認したジールは愛用の短剣を一度腰の鞘に戻し、トウコツから距離を取る為にその場から大きく後方へと飛んで離れた
そして両の掌を合わせ魔力を練り上げ詠唱を行っていった
「血脈を彩る夜香蘭の花よ!その花弁を朱に染め赤を彩れ!」
ジールの背後の景色が歪むほどの膨大な魔力を練り上げ詠唱を行う。その練り上げられた魔力はジールの周りに漂いながらその色を赤へと変化させていった
そしてその赤い魔力が濃い紅へと変わりジールの姿が見えなくなりそうになった瞬間、ジールの詠唱は完成した
「『アマリリス ヴァンピール』!」
ジールが魔法名を唱えた瞬間、ジールを覆っていた紅い魔力の塊が術者から離れたと思ったら、それは霧の様に漂いトウコツの体に纏わりついた
『何じゃコレは!?鬱陶うしいのう!こんな霞の様な魔法がワシに効く訳無いじゃろ・・・が、な、何じゃ!?ぐぉおお!?』
纏わりついてきた紅い霧を棍棒を振り回す事で振り払おうとするが、対象が無機物である為物理的な攻撃ではそれを振り払う事が出来ていない。そしてトウコツの攻撃を意に介さずそれは意思を持っているかのようにジワジワとゆっくりトウコツの体内へと侵入していった
己ではない他の、しかも人間の魔力が自分の体内に入っていく不快感。その不快感につい持っていた棍棒を落とし逞しい両の手で全身を掻きむしる。だがその抵抗も空しくトウコツを覆っていた紅い魔力は全て体内に入り込んでしまった
『な、なんじゃ・・・何も起きんではないか?』
一瞬の静寂
そして
『ぐっ!?こ、これは!?ぐわぁあああああ!!』
全ての紅がトウコツの中へ入った瞬間、それはトウコツの全身に根を張りながら勢いよく行き渡る
そして栄養の媒介をトウコツの血としてジールが傷付けた切り傷から外皮を突き破り一気に花を咲かせた
赤、紅、朱、赫、緋
あらゆる赤の色の花を咲かせながら開いた花弁はトウコツの全身を覆い隠すほどに広がっていた
「綺麗・・・」
その花弁を血の赤に染め咲き誇る夜香蘭の花は何とも言えず妖艶にそして美しく見えた。そして拳を握り締めジールを応援していたシスターもその美しさについ見入ってしまっていた
「っはぁはぁ・・・どうだこのクソったれが!」
何度も使用してきたジールのオリジナル魔法。その中でも絶大な威力を誇る今回の魔法は、威力はあるものの、その魔法自体に早さが無い。それ故使用する場面は限られてくるのだが、特に今回の様に速さが無く外皮が固い相手には効果的である。どれだけ外皮が固くとも中からの攻撃には耐えれないだろう、それに己の血を媒介にされるのだ。避けようが無い
だがその威力故、膨大な内蔵魔力量を誇るジールさえ思わず片膝を着いてしまう程の魔力を使用してしまう程であった
『ぐ・・・ば、ばっはっは。や、やはり歯応えがある相手じゃわい』
「マジかよ、まだ息があんのか・・・」
支えていた大木の様な二本の足が崩れ、その身を教会の床に晒してしまったトウコツ。その側には使用していた棍棒が落ちておりそれを再び握るような気配は見られなかった
だがそれよりもまだ息がある事に感嘆しているジール。己の中でも最上級の威力を誇る魔法をぶつけたのだ。流石四凶と言ったところか、しかしその流石の四凶の一角でも最早動ける程の力は残っていないようだ。全身を夜香蘭の花に覆われている姿は宛ら墓標の様でもある
醜悪な体面をしていたトウコツからすれば皮肉のそれとも捉えられてもおかしくは無いだろう
「はぁはぁ・・・ふぅ、よし。これで止めだぜ棍棒野郎」
息を整え片膝を着いていた足で地を踏みしめる。魔法を詠唱する為に戻していた短剣を再び手に取りトウコツの方へと歩み寄っていく。当初の封印する予定とは大分掛け離れてしまったが、四凶の一角を滅する事が出来るのだ。結果オーライと言ったところだろう
ジールがトウコツに歩み寄っていくその様子を黙って見届けているシスター。慈愛、救済などを真意とする教会のシスターからすれば何とももどかしいのかもしれない。だが相手が相手だ、自分が口を挟む訳にはいかないだろうという事は腹ペコながらも分かっているみたいで、両の手を合わせ祈る様に目を閉じていた
そしてトウコツの前まで辿り着いたジール。目の前には綺麗な赤のお花畑が咲き誇っているが、その苗床になっているトウコツは既に固い外皮もボロボロに裂け、容易に止めを刺す事が出来るだろう
それを分かっているジールもゆっくりと短剣に魔力を纏わせ頭上に掲げた
「じゃあな、あばよ」
そしてそれを一気に振り下ろした・・・が
「ぐっ!?がっ!?」
ジールが短剣を振り下ろした瞬間、その側を一陣の風が通り過ぎたと思ったら全身から血を吹き出しながら倒れてしまうジール
何が起こったのか理解出来ずそのまま教会の床の冷たさを全身で感じてしまっていた
「ジールさん!?どうしたんですか!?」
目を瞑り祈りを捧げていたシスターもジールの声に思わず目を開き現状を把握しようとしていた
と、その時不快な音を鳴らしながら声が響いた
『クカカカ。ざまぁねぇナ、トウコツちゃんヨ。只の人間に何て様ダ』




