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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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132/167

132・清廉潔白

「クスッ。苦手なものがあるなんて、ジールさんもやっぱり人間なんですね」


内股になりながら床へとへたり込むジールを見て軽く微笑むシスター。諸々の事情を軽く聞いた後、シスターは決してジールを蔑むことなく、むしろようやくジールに対しての警戒を完全に解いたようにも見えた

いい歳して軽くお漏らしをしてしまったジールに対しても優しく接する事が出来るのは、彼女がそれだけ慈愛に満ちた人間だという事が分かる。これを目撃したのが件のデカメロンことシャルであったならば、その醜態を笑い飛ばし、あっという間にその噂が王都全体にまで広まるだろう


「な、なんだよそりゃ・・・まるで俺が人間じゃない様な言い方じゃないか」


ブルブルと震える足腰に何とか力を入れ必死に立ち上がるジール

軽く湿ってしまっている股間に手を当てコソッと浄化の魔法を唱えて誤魔化そうとするが、そもそも浄化の魔法は光属性であり、それを最も得意とする職業であるシスターにそれがバレていない筈が無い

だがそれを見て見ぬふりをしてくれるシスターはやはり優しいのだろう。それとも視界に入れたくないだけか、どちらかだ


そして壁伝いに手を当て何とか立ち上がったジール。それを待っていたかのようにシスターは答えを返した


「ふふ、だってジールさんはこの界隈じゃ有名ですもの。あくまでも噂程度でしか聞いた事はありませんでしたが、ですがその噂だけ聞くと、とても人間とは思えなかったもので・・・でも安心しました。ジールさんも私達と何も変わらない人間ですもの」


「その噂の内容ってのが気になるが・・・なぁアンタ、ひょっとして最初から俺の事知ってたのか?」


「えぇ、勿論。ジールさんの事を知らない人の方が少ないんじゃないですか?」

みんなのお財布ですもの

と続けようと思ったシスターだがそれは口に出さなかった


「やられた・・・ったくアンタも大したもんだよ。それならそうと言ってくれればいいのによ、って最初は信用してなかったのか。その噂ってやつのせいでな・・・」


どうせ碌な噂じゃないんだろ、と思うジールだが彼にとっては自分の噂話が勝手に独り歩きする事は珍しい事では無かった。若くして世界最強の称号を手にしているのだ。それに対して色々な嫉妬や妬み、または怨嗟などが全くない筈が無いのだ

いわれのない言葉や非難を投げ掛けられたことは一度や二度ではない。だがそんな事をいちいち気にして相手にしていてはこちらの身が持たないのだ。要は、言いたい奴には勝手に言わしておけ。と言うのがジールのスタイルでもあった


だがシスターはそんな噂話を耳にした事があっても、最終的には自分の目で判断し自分を信用してくれたのだ。そこは素直に喜ぶべきことだろう・・・たとえ、その切っ掛けがお漏らしであってもだ


「よし、まぁいいか。それよりシスター・エリー、食事の準備は出来たんだよな?そのカートに乗っているのがそうなら俺が代わりに押して行ってやるよ」


色々思う所はあるが、シスターの信用を得られたならそれはそれで結果的には良かったのかもしれない・・・お漏らししたが

それにシスターの信用無くして今回の依頼は遂行出来ないのは確実だからだ


「えぇ、今ちょうど運んでいた所ですよ。ジールさんの分もいっぱい作っていたのでいつもよりも時間がかかっちゃいました」


「へぇ、俺の分も作ってくれたのか。そいつは嬉しいな、ここの町についてから何も食べてなかったから正直、腹はめちゃくちゃ空いていたんだよ」


「そうなんですか!それは良かったです。ちょっと作りすぎちゃったかなと思ってたけど、それなら丁度良かったですね!」


そんな会話をしながらシスターに変わりカートを押し始めるジール。先程までは床にへたり込んでいたので分からなかったが、カートを押し始めるとそこから料理の香りがふわりと鼻孔をくすぐる様に漂ってきた。その全体像は薄い布が掛かっていて見えないが、間違いなくその香りだけで自分が運んでいる料理が旨いのだろうという事が分かる

そんな事を考えていたらついジールのお腹の虫がグゥ~と鳴き声を上げた。いきなり鳴いてしまった腹の虫に少し恥ずかしそうに焦るジールだが、そんなジールをシスターは面白そうに笑いながら見ていた


「ふふふ、お腹空きましたね。早く子供達にも持って行ってあげましょう」


相変わらず心が澄んでいる。そして心だけじゃなく何より外見が綺麗だ。見た目も中身も綺麗な人間なんてそうそう居ないだろう

そんな美しく可憐である自分の横を歩いているシスターを見てジールは思わず自分の鼓動が早くなるのを感じてしまった


「あ~、あぁ。そ、そうだな」


いやいやこんな時に何を考えているんだ俺は

思わず赤面してしまった自分を窘める。今は余計な事を考えるよりこの依頼を遂行し、地下に眠るお宝ちゃんとご対面せねば、と元々の目的を改めて確認する事で何とか取り繕う

だがカートを押している自分の両手がジワリと汗ばんだのは身体が火照ってしまったのが原因なのだろう。しかしそれはシスターにはバレていないのが幸いか・・・股間の湿りと違って


「あ、そう言えば」


と、思考が変なところに飛んでいたジールにシスターからふと声が掛かった


「ジールさん、ここに居る怨霊の正体って分かったんですか?さっき部屋で何か言いかけてましたけど・・・」


その言葉を聞き自分の手の湿り具合と股間の湿り具合を確かめていたジールは慌てて手を引っ込め、一度軽く息を吐いた後キリっと引き締めた表情で話し出した


「あぁ、そうだな。さっきは言いそびれちまったけど・・・ここの地下に封印されていた怨霊なんだが、いや正確には封印されていた、か。・・・それはな、『四凶』と呼ばれる怨霊達だ」


「え?しきょう、ですか?」


「あぁ、四つの災いと書いて四凶だ。怨霊の中でも特に質の悪い、強いて言うならどちらかと言えば神々に近い悪神、いや禍神と言った方が正しいか。そんな奴らが封印されていたんだよ」


「え・・・禍神って、神様がここに封印されていたんですか!?」


ジールの言葉に驚きを隠せないシスター。それもその筈、神々を崇拝する教会の地下に神が封印されていたと言うのだから

だがそれはシスターの勘違いであり、あくまでも神に近しい存在であって、ジールが四凶をそう呼ぶのはそれ程までに強力な存在だと意味するところであった。だがシスターを勘違いさせたのは自分の言い方の問題であることは確かで、ジールは慌ててそれを訂正する


「いやいや、神様っつってもアンタが想像してるような神様とは全く違うから安心しな」


「はぁ・・・つまり結局は何なのですか?」


ジールの遠回しな言い方にいまいち理解が追いつかないシスター。それを見て何とか上手く説明しようと頭を捻るが、自分では要領を得る言葉が見つからなかった為、諦めて取り合えず全てを説明してみる事にした


「いいか、分かりにくいと思うが聞いてくれよ?」

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