131・チキンハート
「そんでな、そん時のデカメロンの顔と言ったらもう・・・」
「きゃははは!それでそれで!?」
「そのメロンのおばちゃんはどうなったの?」
「おばしゃん怖い~」
「・・・何か悪口にしか聞こえない気がするんだけど」
シスターが食事の準備をしている間、子供達に自分の体験談を聞かせているジール。しかしその内容は体験談と言うよりほとんどが自分の愚痴のようなものであり、主に最近やられてばかりのシャルに対するものだった
だが、子供達はシャルの事なんて知っている筈が無く、ただ「デカメロンおばさんって酷いんだよ」という内容の話をさらに自分の都合良い内容に切り変えて話しているだけであり、子供達にとっては、メロンのおばさんって怖いんだ、という擦り込みに近い事が記憶として残ってしまっているのであった。カイトは他の子供と違って何となくそれが分かっているような素振りを見せるが、如何せん何の証拠も無い為、特に口を挟む事なくジールの話を遮る事もしなかった
そしてその盛大な都合のいい愚痴話がドンドン盛り上がり、ジールに至っては話している事が楽しくなってきたのか、大袈裟に手や足を振りながらシャルに対する不満を愚痴に変え子供達に面白可笑しく話しまくっていた。カイトもやれやれと思い、子供達に交じって大人しく聞いていたが、その話が三つ目の終盤に差し掛かった頃ふとジールの話に口を挟んだ
「・・・なぁオッサン、盛り上がってるとこ悪いんだが。ちょっと姉ちゃん遅くないかな・・・」
「そんでそのデカメロンのオバサンはな・・ん?何だ良い所なのに・・・ってそう言えばそうだな。確かに少し時間がかかりすぎてる気がするな。よし、少し様子でも見てくるかな」
「え~続きは~?」
「メロンおばちゃんって怖いんだね~」
「おばしゃんはどうなったの?」
熱弁を振るっていたジールところに冷静なカイトの声が水を差す。それに対してまだまだジールの話が聞きたい子供達が不満の声を上げるが、それをカイトは優しく制する
「今からオッサンはお姉ちゃんを迎えに行くから続きは帰ってから聞こうな?それまでは俺が遊んでやるから良い子にして待っていようぜ?な?」
「え~また後で続き聞かせてね?」
「おじちゃんお腹空いた~」
「おじしゃん早くお姉ちゃん迎えに行って?」
「・・・だからお兄さんだっつーの。あーカイトだっけか?じゃあ子供達の事頼むわ、すぐに迎えに行ってくるからよ」
あれだけ言い聞かせたのに結局オジサン呼ばわりされてしまう所はやはり見た目の問題か。確かに二十代にしては中々内容の濃い人生を送って来たジールは、実際はその実年齢よりは老けて見えるのかもしれない。良く言えば貫禄があると言う事なのだが・・・
子供達の中心に居たジールはカイトに子供達の事を任せ、この部屋に入って来た扉の方へ向かいゆっくりとドアを開ける。そこには入って来た時と同様に薄い膜、要はこれが結界なのだが、その結界を通り部屋の外へ出て行こうとした
「オッサン、姉ちゃんに変な事すんなよ?」
「し、しねーよ!・・・ったく」
そのジールの背中に届く生意気なカイトの声。思わず二の足を踏んでしまったジールだが振り返る事無く何とか部屋から出て行ったのである
「大丈夫かよあのオッサンは・・・」
ーーー
部屋から出たジールはシスターが向かったであろう場所へゆっくりと歩みを進める
「う~改めて見ると何か気味悪いな」
元々亡霊などの霊的なものが苦手なジール。勢いもあって部屋から出たのはいいのだが、直ぐに灯りを持って出てくる事を忘れてしまっていた。だがカイトにあんな言葉を掛けられてしまった手前、直ぐに部屋に取りに戻る訳にも行けなかった。しかし流石に真っ暗な中まだこの教会の内部構造を全て把握していないまま歩く訳にもいかず、小さな声で「ライト」と唱え魔法により小さい灯りを灯したのだった
本当は持ち前の魔力で盛大に教会内を明るくしたいのは山々なのだが、シスターが言っていた「ソレは何故か灯りに向かって襲ってくる」という言葉を覚えていた為それを実行する事が出来なかった
ソレ等に対しての対策はまだまだこれからであり、それを完遂するまではジールと言えどソレ等と相対する訳にはいかなかったのだ
それにジールは何故霊的なものが苦手なのか
ハンターとして夜の森や洞窟の様な暗い場所は平気なのだが、その最たる理由としては「だってアイツ等攻撃が効かないじゃん」という事らしい
そう言いながら未だに霊などには遭遇した事が無いジール・・・つまりはただのビビりであった。それにこの教会の雰囲気も相まって、そのビビりにさらに拍車を掛けてしまっていた。ソレ等にビビるならまだしも、居るかどうかも分からないお化けにビビり散らかしているジール。肩を強張らせながらビクビクと教会の中を進んで行く。確かに、己が小さく照らすライトの灯りがぼんやりと写す古い教会内の静かな廊下は見ようによってはかなり不気味に見えるかもしれない
「う~・・・ら、ラ~ラララ~ラ。ふ、フフフ~ンフフ~ン」
恐る恐るその静かな廊下をゆっくりと慎重に歩みを進める。いつものジールからは想像できないぐらいのビビりっぷり。そしてあまりのビビりっぷりに少しでも気を紛らわす為、いきなり歌を歌いだす始末
だが大きな声を出したらソレ等にバレてしまう可能性がある為、あくまでも小声で歌っている
と、その時
「フフフフ~ン。あ、フフ~ン」
ガタンっ
「みぎゃぁあああああ!」
そんなビビりのすぐ側でいきなり物音が鳴り響き大声を出してしまった。結局、警戒して小声で歌っていた事には何の意味も無かったみたいだ
「・・・な、なんだネズミかよ」
物音がした方を恐る恐る確認したジール、とそこにはジールの事を不思議そうに愛くるしい目で見上げているげっ歯類のネズミちゃんが居た。そんなネズミちゃんはビビりのジールを見つめ鼻をヒクヒクと数回動かした後、何事も無かったかのようにその場からさっさと退散していった
「お、驚かせやがって・・・そ、そうだよな。お化けなんている筈が」
「あれ?ジールさんじゃないですか」
「うっぎゃあああああ!!」
額に浮かんだ冷や汗を拭い、一息域を吐き出した瞬間、その油断した背後からいきなり聞こえてきた声に再び悲鳴を上げてしまった
その声の張本人、シスターは食事の準備が終わり、その食事が乗ったカートを押していたところに発見したジールに声を掛けただけ。だがそのジールが思いもしない声を上げて直立のまま万歳して固まってしまっている。シスターからすれば当然只事には見えず、むしろ部屋にいる筈のジールがここに居ることも不思議なのだが、それよりもジールの今の様子が気になって仕方なかった
ひょっとして・・・アレが
そんな事が頭に過る
「ど、どうしたんですか?そんな声を上げて・・・何か居ましたか?」
食事の乗っているカートから手を離し、慌ててその真意を確かめるべくジールに駆け寄る
固まったままのジールは虚ろな視線を泳がせていたが、目の前に見知った顔のシスターを確認した後、何とか震える喉を絞り出しながら声を出そうとした
「・・・し、し、し」
「どうしたんですか?アレが出ましたか?大丈夫ですか?」
ジールの余りの形相にシスターも首から下げている絶対守護のネックレスを握り締めながら覚悟を決めた
きっと出たのだ、アレが
そんな覚悟を決めたシスターにジールは一言
「・・・し、小便チビッたかも」
そんな言葉を残しヘナヘナと力無く、その場へと座り込んだのだった




