130・白と黒の狭間
「それでシスターが言うここにいる怨霊の話に戻るんだが・・・あ~何というか正直なところ、俺一人がこのまま退治する事に関してかなり分が悪い」
珍しく歯切れの悪い言い方をするジール。やはり世界最強の名を冠するジールと言えど物理攻撃や魔法攻撃が通じるか分からない怨霊を相手にするには一歩進みにくいにかもしれない。それとも別に理由があるのか・・・だが全く対策が無い訳では無く、今だ手にしている人魚姫の涙をシスターに見せながら言葉を続ける
「それでな、その退治する時にこの宝石を借りたいんだが・・・いいか?」
「はぁ、それは別に構いませんが?それが役に立つのですか?」
「やっぱりダメだよな・・・っていいのかい!いやいや役に立つってもんじゃない、シスター・エリーには分からないだろうが、アンタが首に掛けているそのネックレスと言いこれと言い、とんでもない代物なんだぞ?」
「はぁ・・・そんなもんですか?私には良く分かりませんが・・・それよりジールさん、怨霊の正体は分かったのですか?」
三大秘宝の一つの人魚姫の涙を戦闘に使用する事に関して全く躊躇が無いシスター。そもそもジールがそれを使う事に関してシスターの了解を得ようと思ったのも、もしかしたら自分の考えている作戦が上手くいかない可能性だってある訳だ。そしてその場合は最悪、人魚姫の涙が破損してしまう事だってあるかもしれない。そうなってしまえばその価値は計り知れないのだ
それ故、シスターに予め了承を得ようと、言い難くはあったが尋ねてみたところ、当のシスターは何の気も無く、むしろそんなものが役に立つなら是非使ってくれとも取れる言い方をする始末
ある程度の覚悟を決めシスターに尋ねた自分が馬鹿みたいだ、とズコッとコケてしまいそうな程に力が抜けてしまった
「はぁ・・・まぁいいか。で、だ。確かにアンタが言うようにここの怨霊についてはある程度目星が立っている。まずその怨霊は『ソレ』では無くて『ソレら』だ。そして残念ながら噂通り、怨霊である事は間違いないだろう。そのソレらは恐らくだが四体の怨霊が封印されていた筈だ。そしてソレらは怨霊の中でも特に強力なしき」「姉ちゃん腹減ったー!」
ジールが今までにないくらいの真剣な表情で真面目に喋っていたところを、他の子供達と奥の部屋に行っていたカイトが大きな声を出しながら飛び込んで来た
「・・・」
せっかくナイスアップルこと、シスター・エリーに得意げに語っていたのに・・・それを邪魔されたジールは痛めつけられた股間の恨みも相まってこれでもかと言うぐらいの殺気を込めた視線をカイトに投げ掛けた
「姉ちゃん!俺腹減った!」
しかしそんな視線に全く気付く事無いカイトはズラズラと彼に続いて奥の部屋から出て来た他の子供達と一緒に自らの空腹をシスターに訴える。中にはナイスアップルに飛び付きながら訴えている子供も出る始末。その衝撃で修道服の上からでも分かる確かな膨らみがぽんよと揺れ動く
稀代のデカメロンほどではないにしろ、その柔らかく揺れ動く果実は本人の美貌も相まって確かな攻撃力を備えジールに襲い掛かる
「くっ!・・・な、何てうらやま、いや、羨ましいんだ!」
だがそんな歯軋りが聞こえてきそうなジールの魂の叫びはシスターの耳に届いておらず、飛び付いてきた子供の頭を優しくなでながら聖母の様な微笑みを浮かべるシスター。それはまさにこの教会兼孤児院の母と言うのが相応しいとも言える確かな光景であった
反する位置に居るオッサンはギリギリと血の涙を流しそうな勢いなのだが・・・二つの光景は似て非なる光景の様で、ある意味この世の格差が見事に表現出来ていると言っても過言では無いのかもしれないのだ
「はいはい、じゃあ先にご飯にしましょうね。ジールさんの分も用意しますので話の続きは食べてからにしましょう」
そんな光と闇の部分、白く輝く光景の聖母から優しく声が掛かった
しがみ付いている子供を優しく引き離すと、その子をカイトに「お願いね」と言い引き渡す
「じゃあちょっと準備してくるから、いつもの様に絶対にこの部屋から出ないようにしてね」
そう言いながら壁に掛けてある燭台のうちの一つを手に取り、ドアに手を掛けて食事の準備をしようとこの部屋から出ようとした
するとそこに闇の黒い光景を創り出していたオッサンの方から声が掛かった
「念の為、俺も着いて行こう。その首飾りをしている限りは大丈夫だと思うが・・・この部屋に居る子供達は結界があるから安全だと思うし、まぁ手伝うついでってやつだ」
いつの間にか血が滲むほど喰いしばっていた歯軋りは止んでいたみたいで、ハンターらしくキリっとした表情に戻っていたジール。それもこの教会に巣食っている怨霊の正体がはっきりした理由か、財宝を求めて受けた依頼のはずが実質かなり難儀な内容になりそうだという懸念から来るものでもあった
その為、シスターに着いて行きながら改めてこの教会の内部構造を含め、出来る事なら自分の考えている作戦が実行出来るかを確認もする必要がある事も含まれていた
だがそんな真剣な表情に戻ったジールに例の少年、カイトが鼻を鳴らしながら声を上げた
「はん!姉ちゃんに変な事する気だろ!この変態親父!」
「ばっ!へ、変な事する訳ねぇだろうが!俺は今後の事を真剣に考えてだな!べ、別にあわよくばシスター・エリーのナイスアップルをモミモミしようなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇから・・・はっ!?し、しまった!」
「・・・一人で大丈夫です」
結局自ら墓穴を掘ってしまうジール。やはり人間、己の黒い闇の部分をそう簡単に正す事なんて出来ないのかもしれない
シスターはそんなジールを蔑むようなジト目で睨み、静かにドアを閉めて出て行ったのだ
「いってらっしゃ~い」
それを呑気な声で見送るカイト
「は、嵌められた!」
そして床に崩れ落ちながらそれを見送るしかなかったジール
あわよくば薄暗い蝋燭の灯りの中、こっそりと後ろからナイスアップル見放題!と思っていたジールの下心は儚くも散ってしまったのであった。結局、真剣に怨霊の対策を考えていたハンター・ジール、それも事実なのだろうが、最終的にはいつもの変態ジールの名前が上回ってしまったのであった
「ねぇねぇ、おじちゃんはどこから来たの~」
「おじちゃん遊んで~」
「おじちゃん肩車して~」
そんな崩れ落ちたジールにわらわらと群がってくる子供達。先程ジールの大きな声で泣いてしまった子供も恐る恐る近付きながら再びツンツンとしている
「おいオッサン、皆と遊んでやってくれよ」
そんな子供達を目にしたカイトもジールが悪い人間ではないと分かったのか、そもそもこの結界の構造上悪意や害意があるモノは入る事が出来ないのだが・・・だがそれをカイトは知る由も無く、自分の判断でそう思ったのだろう。ジールに群がっている子供達を見てそう声を掛けた
「・・・よし、分かった」
そんな群がっている子供達の中心に座り込んでいるジール
色々と諦めたのか、それとも割り切ったのか、よっこらせっとゆっくりと立ち上がる。そして小さな子供達をぐるっと見渡しながら一言
「遊んでやろうじゃないか。だがその前に、お前たちに一つ言っておく事がある!俺はまだ『お兄さん』だ!」
「・・・なんだそりゃ」
ビシッと指を指しながら宣言したジールにボソッとツッコむカイトであった




