129・結界術
不思議に思うジール。だが得体のしれない実力を持つシスターの親父の事だ、まだ何かを隠しているのかもしれない。そう思ったジールは組んでいた腕を解きシスターに向き直りながら尋ねた
「なぁ、親父さん、その首飾り以外に何か言っていなかったか?例えば・・・この部屋について、とか。ソレに襲われそうになった時にここに逃げ込んだのは何か理由があるんだろうし」
「ん~、この部屋についてですか?この部屋は元々子供達の遊び場と、奥の部屋は寝室も兼ねていたのでここに逃げ込んだのは元々多くの子供達がここに居たからっていうのがありますが・・・」
外したネックレスを自身の首に掛け直しながら答えるシスター。肩までかかった綺麗な金髪がふわりと持ち上げられ、ジールの鼻孔をくすぐる様ないい香りに思わず鼻の穴が膨らんでしまう。ずっと真面目な話をしているのにいちいち別の部分が反応してしまうのは悲しいところだ。だがこれは仕方ない、男だもの
そうしてネックレスを元の位置に戻したシスターは「あ、そう言えば」と言い、何かを思い出した様子でポンっと可愛らしく手を打った
「確か生前の父が何か生活に困ったらこの部屋の隅に立てかけてある燭台の中の宝石を売ればしばらく生活に困らないだろうからって言ってました。ただ、この町の人達はとても良くしてくれていたので食事に困る事は無かったのですっかり忘れていましたが・・・実際にその燭台の中の宝石に頼ろうと思ったことは無いので見た事はありません」
シスターはそう言いながら部屋の隅にある燭台を指さす
ジールはシスターに促された燭台に歩み寄り「ふ~ん、どれどれ」と言いながら燭台に填められている蝋燭を取り外した
「ん~何も無いように見えるが・・・あ、もしかして裏側にあるのか?」
壁に掛けられている燭台を手に取り一通り眺めてみるが特に何も見当たらない。が、色々と弄り回していると蝋燭が刺さっていた針の下、台座の中心部分がガコッと少し横にずれた
そしてその中を覗き込むとそこにはぼんやりと薄く光る宝石の様なものが目に入った
「おっ・・・あったあった。よっと・・・」
その宝石は窪みの中に綺麗にはめ込まれていた為、指では取り出す事が出来ないように見えた。そこでジールは腰に差してある愛用の短剣を取り出した後、それを上手く使い何とかその宝石を窪みから外す事にした
「う~ん、中々取れないな・・・球体じゃないのに綺麗にはめ込まれてやがる・・・お、よし、何とか取れたぞ」
グリグリと宝石を傷つけないように慎重にとりかかっていたジール、それは普通の宝石と違って少し歪な形をしていた。敢えてその形を表現するなら涙の様な、ティアドロップ型の様な・・・
そして上手く取り外す事が出来たジールはそれを掌に載せ光に照らしながら眺めてみる。大きさはジールの人差し指の半分ぐらいのサイズ。そしてそれは宝石自体が波打つように美しく海の様に光り輝いていた
「お~こいつはまた何と見事なもんだ。って何か最近見た事ある気がするんだが・・・」
綺麗な球体では無くティアドロップ型の宝石。それは印象深い形をしている事に加え、宝石自体が生きている様に波打っている。そんな大層な代物を一度見たら忘れる訳が無い
そしてジールの記憶の中に最近の出来事が一瞬でフラッシュバックしてきた
「ん~どこで見たっけな・・・あっ!?そう言えばこいつはあのクソメロンが持っていたやつじゃなかったっけか!?」
ジーっと眺めていた宝石の事をようやく思い出すジール。ついでにその時の事も色々と思い出してしまった。スリスリとその時派手に腫れていた自分の顔を擦りながら二房の渓谷を思い出しながらつい暴言が飛び出てしまったジール
燭台をグリグリと弄っていたジールがいきなり大きな声を出した事にビクッと肩を竦めるシスターだが、その内容が気になった為、恐る恐るジールに尋ねてみた
「あの・・・クソメロンって誰の事ですか?」
「ん?いやナイスアップルちゃんには関係ない事だから、それよりも、これは多分一つじゃねぇな。恐らくだがこれを媒介にした結界術なら・・・」
シスターの問い掛けを軽く流しグルっと部屋の中を見渡すジール。今手にしている燭台は部屋の隅にある物の一つ。そして部屋全体には四隅の燭台に加えそれぞれの間に一つずつ、計8台の燭台が目に入った
だがジールはその燭台全てを調べる素振りは見せず、他にその宝石がどこに埋め込まれているの見当が付いているみたいで他の燭台をグリグリといじくる様な事はしなかった
「あの・・・ナイスアップルって誰の事ですか?」
「恐らく、全部で4つあるはずだな。あそこと、もう2つはカイトたちが入って行った部屋の奥の隅にあるはずの燭台の中だな・・・なぁシスター・エリー。カイトたちが入って行った部屋の中にも燭台はあるんだよな?」
「シスターで結構です。え、えぇ。この部屋と同じように壁に何カ所か燭台が掛けてあった筈ですが・・・あのナイスアップルって・・・」
「そうか・・・ならやっぱりこれは普通の結界術じゃねぇな・・・それにクソメロンが大枚を叩いて手に入れた『人魚姫の涙』を4つも使っていやがる。それにこの燭台に刻まれた文様は東洋の文字だな。四陣の結界術か?何れにしろ東洋の結界術だな、この技と同じようにアレも地下に封じ込めていたのか・・・だとしたらこの教会から出られないようにしているのはまた別の封印術か?それともその媒介が地下に別にあるのか?・・・それは実際に調べてみないと分からねぇな。だがこれを媒介にしているとなればアレを封印できていたのも頷けるな」
シスターの疑問なぞ耳に入らず、一通り思考を巡らしこの部屋に施されている結界についての結論を見出す。そしてこの結界のレベルの高さに感慨を覚えるしかなかったのだ
それ程までにこの部屋に施されている結界は優れていたのだ、それもただの古い教会に施すレベルではない。王都の城、それこそ王族を守るレベルのそれすらも遥かに越えている
そしてその結果に唸りながらゆっくりと息を吐き出すジール。自分の想像を遥かに越えていた結界の結果に未だ信じる事が出来ずにいた。だが、実際にはそれが現実に自分の目の前に広がっているのだ。信じる他無いだろう
「ふぅ・・・なぁ、シスター・エリー。アンタの親父さんって一体何者なんだ?」
「ナイスアップルって私の事かしら・・・それにクソメロンって・・・え?あ、はい。私の乳ですか?あ、父ですか?」
顎に手を当て何やらジールとは別の思考を巡らしていたシスター
ブツブツを独り言を言っていたのはお互い様で、だがジールの声に我に返った
「あぁ。アンタの親父さん、ただの神父じゃないだろ?」
「いえ、そう言われましても・・・私にとってはずっと優しい良い父でしたから。それに何か特別な事をしていた様にも感じませんでした」
「ふ~ん・・・まぁいいや」
シスターの言葉にいまいち納得していないジールだが、シスターが隠し事をしている様にも見えなかった。その為それ以上の詮索に一度区切りをつける事にした




