127・噂の財宝と噂の怨霊
財宝
その言葉を聞きジールがピクッと反応する。だがその反応はあまりにも僅かであった為、シスターはそれに気付かなかった。それに話しているシスターの悲しそうな顔を見るとそこまで反応出来なかったのだ
「勿論、私はそんな事は知りませんでしたし、気にも留めませんでした。でも・・・その噂を信じ、財宝を狙ってくる盗賊達にとってはこの古びた教会は格好の的だったのです。噂が流れ始めて数日、日もすっかり暮れ子供達が寝静まった時の事です。私が礼拝堂でその日の最後の御祈りをしてた時に、この教会の入り口の扉が大きな音を立てて蹴破られたのです」
一息
「いきなりの事に私は何が起こったのか分かりませんでしたが、怒号と共に数人の人達が入って来た事ですぐに盗賊が侵入して来た事が理解できたのです。それが分かった私は慌てて子供達が寝ている部屋へと戻り、父が残してくれた首飾りを握り締め盗賊達が教会の中を荒らしていくのを過ぎ去る事を待っているしかありませんでした・・・そして彼等は地下に続く扉を見つけたのです」
「・・・」
黙って聞いているジールだが、シスターの頬を伝う涙を見てその時の恐怖が手に取るように伝わってくる。しかしそれは当然だろう。平穏に暮らしていた所にいきなり現れた盗賊達、そこにいるのは幼い子供達と自分だけ・・・いくらジールを地面に沈めたカイトでもまだ10歳ほどの年齢だ。力が強い大人の男、それも何をしてくるか分からない盗賊達だ。きっとシスターも必死になって守る選択をしたのだろう
涙を流しながら震える両手、怖かったはずだろう、恐ろしかっただろう
そんなシスターの様子を見てジールは自分でも気付かず拳を力強く握り締めていた
「そして彼等が地下への扉を開け放った時・・・ソレは現れました」
「なぁ・・・その扉に鍵ってのはかかってなかったのか?」
と、ここで黙って聞いていたジールがシスターに問いかけた。その問いに対し流れていた涙を拭いながらシスターは答える
「いえ、鍵は元々かかって無かったと言うか・・・その扉自体に鍵を差し込むような穴はありませんでした。ただ・・・その代わりに扉の周りに四本の杭のようなものが打ち付けてあって、その杭同士を結ぶように何か文字が書いてある白い布が扉が開かない様に被さっていました。盗賊達はその布を引き千切って扉を無理矢理開けたのです」
「・・・ちなみにその杭ってのにも布に書いてあったような文字はあったのかい?」
「え?えぇ、私には読めない文字でしたが・・・教会にある蔵書の書物で見た事があるような文字だった気がします。確か・・・梵字?ですか?そんな感じの形の文字だった気がしますけど・・・それに杭には文字と布には無かった何か模様の様なものも書いてあった気がします」
シスターの会話に気になる事を投げ掛けたジール。思い当たる事があるのだろうか、そのシスターの答えを聞き少し考え込んでいた。その圧倒的な魔力量により忘れがちだが、ジールは元来、瞬間記憶能力を持っているのだ。それ故、天才、英雄、一度見たモノは忘れる事が無い。例えそれが戦闘における体術や、難解な書物であっても・・・だ。その変態極まりない性格もあって忘れがちだが、つまりジールの知識量は通常のそれでは無い
その膨大な知識量の中からシスターが言った内容を少しずつ擦り合わせていく
大きな杭に模様?東洋の封印術か?それに梵字と言やぁ・・・いやまさか、こんな町の中の教会にそんなものが・・・
「なぁシスター・エリー。その模様ってのは具体的にはどんな形をしてたんだ?」
少しの思考の後、擦り合わせて来た答えを確実に真実に近づける為、再度シスターに質問を投げ掛ける。そのジールの顔は至って真剣そのもの、もしかして自分の考えが・・・いや、勘違いであって欲しい、予想が外れていてほしい、そんな考えが浮いて沸き出てくる
だがシスターの答えはその予想を確信に変えてしまうのだった
「シスターで結構です。模様・・・ですか?う~ん、詳しくは私もちゃんと見てはいなかったんですが・・・何かそれぞれの四本に違う模様が書いてあったように思います。模様と言うよりかは絵に近いような気が・・・たぶん羊とか犬みたいな絵にも見えましたけど・・・」
ボンヤリとした朧げな記憶を頼りに何とか思い出そうとしながら答える。だがシスターのその言葉を聞いた瞬間、顎に当てていた手を離し大袈裟に組んでいた膝を叩きならすジール。その音にシスターはビクッとなってしまう。だがその後に頭を抱え込んでしまったジールを見て何とも声を掛けずらくなってしまった
「あ、あの・・・ジールさん?」
そんなシスターの声が耳に届いていない様子のジールは自分の予想が的中してしまったのか、盛大に溜息を吐きながらガクッとうなだれた様に首を下へと下ろしていた
「・・・かぁ~、ビンゴか。本物だとすればコレは少し・・・いや骨が折れるな」
近くにいるシスターに聞こえるかどうかの小さい声でブツブツと言い出し始めるジール。そんなジールを見て再度声を掛けようか悩んでいたシスターだが、このまま声を掛けても彼の耳には届かない様な気がした為ジールの独り言が終わるのを大人しく待つ事にした
そしてブツブツが続く事数分、体の前で手を組み大人しく待っていたシスターにブツブツが止まったジールが再び質問を投げかけて来た
「はぁ・・・取り合えずやるしかないのか・・・なぁ、それで?その扉から出て来たソレってのはその後どうなったんだ?」
俯いていた顔を上げ険しい表情のままシスターに声を掛ける
思考は纏まったのか、ソレに対する対抗手段を考えているのか、ジールのその表情からは今の思考は読み取れないが、その中でもどうにもジールが疑問に思った事があるのだ
「は、はい。その扉から出て来たソレはあっという間に盗賊達の命を刈り取り、この教会から出て行こうとしました」
ジールの質問に素直に答えるシスター
だがジールの疑問はまさにそこだった。そしてその疑問に丁度答えるようにシスターは言葉を続ける
「出て行こうとしましたが・・・何故かソレは見えない壁に阻まれている様にこの教会から出られないみたいで・・・そうしている内に日が昇って来たと同時にソレは再び扉の奥に隠れてしまいました。ですがその悍ましい程禍々しい力は教会から徐々に漏れ出し、今ではこの町全体を覆うようになってしまったのです。その力のお陰で町には誰も寄り付かなくなり住んでいる人たちは少しずつ移り住んで行きました」
ふうっと一息吐きながらシスターは続ける
「私たちも本当はそうしたいのですが・・・小さい子供達も居る為そう簡単にはいかないですし、何より育てて貰ったこの教会を簡単に捨てる訳にはいかない気がして・・・」
そういうシスターの目には再び涙が溜まっていた
ジールも感じていた町全体の雰囲気。それは確かに、人が住めるような空気では無いように感じた。出来るなら早くここから離れたい、息苦しい、体全体を倦怠感が包む、そんな感情が膨らんでくる。だがよもやそれがこの教会の地下に封印されていた『ソレ』が原因だとは・・・
それでこの町全体が澱んでいるように感じたのか・・・それより封印されていた扉から解放されたのにも関わらずこの教会から出られない?それならこの教会自体に封印術が組み込まれているのか?いやしかし、それなら・・・
シスターの答えに一つの疑問が解消されたかと思ったら再びまた違う疑問が沸き上がる
そしてその沸き上がった疑問を再度シスターへと投げ掛けた
「なぁシスター・エリー。ソレは教会からは出られないにしろ扉からは出てこれたんだよな?じゃあ何であんた達は無事なんだ?」




