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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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125/161

125・尊い犠牲

二十代でも子供達にとっては充分おじさんと呼ばれてしまう対象になると思ったシスターだが、当の本人も二十代を少し過ぎており、おそらく年齢だけで言うとジールと同じぐらいか、それか少し若いぐらいだろう。だがそのシスターは子供達からお姉ちゃんと呼ばれている事を考えたら、結局は見た目の若さなのだろう

それが一瞬で何となくだが理解できたシスターはそれをジールに告げる事は無かった。ジールからそっと離れたシスターは彼が正気に戻るまで待つ事にしたのである。だがそれは一人の子供によって直ぐに訪れる事となった


「くらえ不審者め!」


「ぐっ!?がはっ!?そ、そんなバカな・・・」


一人の子供、周りの子供達に比べたら少し背の高い一人の男の子が繰り出した必殺の一撃がジールの股間にクリーンヒットしたのだ

あまりの激痛に思わず内股になりながら崩れ落ちていくジール。目には若干の涙が浮かんでおり歯ぎしりが鳴るぐらい強く歯を喰いしばっていた。どれだけ鍛え込んだ稀代の英雄ジールでもソコだけは鍛えようが無かったのだ

崩れ落ちたおじさんをドヤ顔で見下し、拳を上に突き出し勝利の狼煙を上げているカイトと呼ばれた少年。そんなカイトを少し離れた場所から慌てて窘めるシスター


「こ、こら!やめなさいカイト!ほら早くドアを閉めるから、皆ももっと奥に入って」


崩れ落ち股間に両腕を挟みながらピクピクと震えているジールを尻目に子供達を扉から奥へと促すシスター。動けない程の甚大なダメージを受けたジールは置いてけぼりだ


「し、しどい・・・」


あまりの仕打ちに涙が零れ落ちそうになってしまう。だがその場を動かなければ扉を閉める事が出来ないし、このままでは話が進まないだろう

未だ立つ事が出来ないジールだが、何とか芋虫の様にズリズリと這いながら前へと進んで行ったのであった


そして芋虫ジールが完全に室内に入ったのを確認したシスターはようやく部屋の扉を閉める事が出来たのである


「さて、改めて自己紹介しますね・・・ってコラ、カイト!おじさんをツンツンするのは止めなさい」


扉を閉め部屋の方へと振り替えたシスターの目に入ってきた光景は、芋虫ジールの突き出しているお尻を指でツンツンしている男の子、カイトの姿だった。ジールのがそうなってしまったのはそのカイトのせいなのだが、ジールのオケツをツンツンしながらカイトはシスターに尋ねる


「なぁ姉ちゃん、このオッサン、アレだろ?またギルドから来た人だろ?こんなオッサンで大丈夫なのかよ?どうせまた直ぐに逃げ出すに決まってんだよ」


「カイト、そんな事言うんじゃありません。せっかく来てくれたんだから・・・それにオッサンなんて言ったらダメよ?この人は、ほら・・・あれ?そう言えばまだ名前を聞いてなかったかしら?」


「はぁ~、またかよ。姉ちゃんは変なとこで抜けてるんだから。名前も聞いてない変なオッサンを中に入れたのかよ?このオッサン、ホントにギルドから来たのか?」


シスターの答えに盛大に溜息を吐き出すカイト。どうやら同じような事は今まで何回もあったようみたいで、だが、確かに。ジールがこの依頼を受けた時も今回の依頼自体がギルドで埃を被っていたような依頼だった。それにジール自身もそれを認識していたような節はあった

つまり今回の依頼自体は何回も未達成であり、ジールの様なギルドに所属している人間が何人も失敗してきたのだ


つまりこの教会に来たのはジールが初めてではないという事だ。それならばカイトの言う事は納得できるのだろう。・・・だが名前も聞いていないオッサンを中へ案内するシスターはどうかと思うカイトの言葉は全くもって的を得てしまっている


そんな会話を繰り広げていたカイトとシスター。その時、ずっと黙って地面に這いつくばっていた芋虫さんがいきなりガバっと立ち上がった


「さっきから黙って聞いてればオッサンオッサンと連呼しやがって!俺はこう見えてもまだピチピチの二十代だ!それに俺にはジールって名前があんだよ!分かったかクソガキ!」


甚大なダメージから回復したのか、立ち上がったと思ったらカイトに向かって大声を上げる。だがジールは忘れていた。ここが孤児院だという事を、つまりジールに甚大なダメージを与えたカイトは兎も角、他にもカイトより小さな子供達がいるのだ・・・という事は


「「「うわぁああ~~~~ん!!!」」」


こうなるのも無理はないだろう

知らないオッサンからいきなり怒号があがったのだ。他の子供達より頭一つ大きなカイトでさえいきなり怒鳴られて少し涙目になっているぐらいだ。それより小さな子供達が怯えて泣くのも仕方が無いと言えるのだ


「ちょっ!ま・・・スマン!悪かった!言い過ぎた、お願いだから泣き止んでくれ!」


「あらあら、全く。ジールさん、でしたっけ?いきなり大きな声を出したらダメですよ。子供達がビックリするじゃないですか」


「いや!そんなつもりじゃ・・・」


ジールは子供達の鳴き声を聞いて慌てふためいてしまう。最強の名を冠しているジールも子供達の泣き声には弱いみたいだ。それに自身が孤児院出身という事も相まってどうにも子供達には頭が上がらないようにも見える

股間に当てていた両手を必死に振り乱して何とか泣いている子供達をあやそうとあたふたしているジール。だがそんなジールの背後からゆっくりと小さな影が歩み寄って来た。そしてその影は片足を後ろに振りかぶるとそれをジールのアレに向かって思いっ切り振り上げた


「いきなり大声出すんじゃねぇよ!ビックリするだろうが!」


「なっ!?ぐっ!?ぐっはぁ~~・・・しょ、しょんなバカな・・・」


振り上げられた足、カイトによってジールは再び両手を股間に当てながら地面へと崩れ落ちていくしかなかったのだ

二度目の強襲

それは確実にジールの急所を抉り取り、彼の意識を桃源郷の彼方へと運んで行ったのだった

ブクブクと泡を吹き白目になったジール。重力に逆らう事なぞ出来る訳無く必然と再び冷たい床へと芋虫の様に這いつくばるしかなかった。そんな目も当てられないジールを目の当たりにした子供達はビクッと泣き止んだと思ったら、先程のカイトの様にワラワラと群がってジールをツンツンし始めたのである。まさに怪我の功名、棚から牡丹餅、災い転じて福となす。ジールの貴重な犠牲のお陰で驚いて泣いてしまった子供達はあっという間に泣き止む事が出来たのである。おまけに楽しそうにツンツンしているのだ。彼の犠牲はきっと無駄では無かったのだろう


「ふんっ!どんなもんだ!思い知ったか不審者め!」


「あらあら、これはしばらく待つしかないかしらね・・・」


そんなジールを見下ろす様に腕を組み仁王立ちするカイト

それに対し困ったように頬に手を当てながら少し微笑んでいるシスター

二人の表情は対照的ではあったが、そのどちらも地面に泡を吹いて伏しているジールを心配している様子は全く見えなかった

哀れなり、ジール 哀れなりジールのジールよ

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