124・悲しき現実
「・・・」
シスターに着いて行き教会の中へと入っていくジール
蝋燭の灯りだけを頼りに進んで行く為、中の状態や教会の構造が分かりにくい。ここへ到着した時に外観をザッと見た感じとての年季の入った古い建物だという事は分かっていた。だがそれにしては教会の中は埃っぽい感じも無く古い建物特有のカビの様な不快な臭いもしない
つまりそれだけ中の状態を清潔に保っていると言う訳だ。外にあった花壇も同様だが、この教会がとても大切にされているという事が良く分かる
それに特に気になる点が一つ
「なぁシスター、この教会なんだが・・・辺境の町にあるにしては少しデカすぎないか?」
そう、ジールの言う通り、彼等が今居るこの教会はお世辞でも無く辺境の町にあるにしてはかなり立派で荘厳な造りをしていた。それこそ町に入ったばかりのジールに町の外れにある教会の火の灯りが見えるぐらいには大きな造りをしていたのだ
「すいません、詳しくは部屋についてからお話致しますので少し静かにお願い致します」
「え?それはまた何で?」
「すいません、お願いですからあまり物音を立てないように・・・まだ日が沈んだばかりで問題は無いと思いますが念のため・・・」
「良く分からないが・・・分かったよ」
ジールの問い掛けに対し小さな声で返答するシスター。その事に疑問を持つが蝋燭の小さな光で見え隠れするシスターの顔がとても冗談を言っている様には見えず、それ以上シスターに声を掛ける事はしなかった
二人が黙ってしまった事で教会内の広い身廊に二人の足音がやけに響いて聞こえる。黙ってシスターに着いて行きながら出来るだけ中の構造を把握しようと目を凝らして辺りを見渡そうとするジールだが、やはり暗くて見えずらい。この暗さはただ単純に日が落ちただけの暗さでは無いように感じる
この町に来た時と同様に、この教会自体が何か特殊な雰囲気に包まれているかのような、そんな気配を感じる。だがこの依頼内容を思い出してみれば、そうか、確かそうだったな
と、再びその内容を改めて思い出すジールだった
ゆっくりと静かに移動しながら北回廊の奥へと進んで行く二人
その間ジールが唯一確認できたのは中央の礼拝堂の奥、祭壇がある場所に僅かながら見えた地下へ続く階段だった。そしてそこから勘違いであって欲しいが、濃密な黒い霞の様なものが漏れ出していたように見えた
その詳細を目を凝らして確認しようとしたがシスターの後を着いて進んで行く間にその景色は視界から切れてしまったのだ
そして祭壇より北回廊の奥へとドンドン進んで行き見えてきたその突き当りの部屋、一番奥の扉から少し光が漏れている様に見えた。それに気付いたジール、そしてそれと同時に一つの疑問が沸き上がった
「なぁシスター、そう言えばここは灯りを点けないのかい?さすがにこんなに暗かったら歩きにくいだろ・・・それに子供達も居るみたいだし危ないんじゃないか?」
「・・・」
思わず口に出てしまった言葉。先程シスターに静かにするように言われた手前、思わず出てしまった言葉に慌てて手で口を押えるがそれに対しシスターは咎める事もせず代わりに沈黙で答えた
後で説明する、か
その沈黙を先程の答えと同じと受け取り再び口を閉じたジール。そしてそのジールに振り返ることなくシスターはその光が漏れている扉の前で立ち止まった
「カイト?私よ、今開けるから少し離れててね」
そして扉を静かにノックしながら小さく声を掛けるシスター。そして中に居るであろう子供達の一人なのか、その子供に声を掛けながら扉のノブに手を掛けゆっくりと扉を開けた
・・・が
「え?どうなってんだこりゃ?」
開けられた扉の中を見たジール、いや中を見ようとしたが見えなかった。シスターが開けた扉の箇所、本来ならそこが中へと続く出入口になっている筈なのだが、そこ全体に薄い白い膜の様なものが張っていて中の様子が見えない。その事に思わず呆然とするジールだがシスターはそれを気にする様子も無く、その膜の中へと歩みを進め入って行った
シスターがその膜に触れると同時に、それはゆっくりと波紋を広げながらシスターを中へと受け入れて行った。その現象に未だ唖然としているジールがシスターに倣いゆっくりと手を伸ばしその膜に触ろうとした・・・がその時、膜の中からニュっと腕が出てきてジールの手を掴んだ
突然の事で思わず悲鳴が出そうになったジールだが、それより先にシスターらしき人の声がジールへと掛った事で何とか醜態を晒さずに済んだのである
「すいません、忘れてました。この結界は最初は私と一緒じゃないと入れないのでした」
伸びてきてジールの手を掴んだ腕の奥、膜の奥から声が聞こえて来たかと思ったらそのままジールの腕を掴んでグイっと膜の中へと引きずり込んだ
「うぉお!ぶつかるぅう!・・・ってアレ?」
いきなり腕を引っ張られたジールは抵抗する事も出来ず慌ててしまう。そのまま目の前まで迫ったと思った膜に思わず目を瞑ってしまうがそれはシスターの時と同様、ゆっくりと波紋を広げながらジールを受け入れた
通り過ぎるときに感じた感覚は薄い膜を通り過ぎるというより一種の結界を通り抜けるような感覚だった。つまりシスターが言っていた『結界』と言う事が間違っていないのだろう
そしてその結界を通り抜け、ジールの目に飛び込んできた光景は・・・
「あ~お姉ちゃんだ!お帰り~」
「わーい!お姉ちゃんが返って来たぞ~!」
「あれ?変なおじさんが居る?ねぇそのおじさん誰なの?」
「変なおじさんが居るぞ!やっつけろー!」
年端もいかない子供たちがわらわらとジールに向かって集まって来たのだ
そう言えばここは孤児院も兼ねているんだっけ、とジールは自分に群がってくる子供達を見ながらそんな事を思い出していた
「こらこら、やめなさい。このおじさんはお化け退治に来てくれたのよ」
ポカポカとジールに向かって攻撃を繰り出している子供達を優しくあやす様に宥めるシスター。いきなり変なおじさんが部屋に入って来たのだ。警戒するのも分かるがシスターと一緒に入って来た事は確かなので敵ではないのは分かっているのだろう。ただ、知らないおじさんが入って来たのだ。子供達にとっては攻撃対象になっても仕方ないのだ。・・・それに遊んで欲しいのもあるのかもしれない
シスターが窘めるも一向にポカポカ攻撃を止めようとしない子供達。それに対しまるでその攻撃が全く効いていない様に呆然と立ち尽くしているジール
そしてその口はモゴモゴと何かを言いたそうに動いていた。この部屋の中の光景に色々と質問をされることを予想していたシスター。だが当の本人はそれに対して何も言ってこない。それどころかモゴモゴしており、この部屋に入るまで注意しても口を開いてきた軽薄さを感じるジールの姿は見えなかった
それを不思議に思いジールに近づくシスター
するとモゴモゴしている口は何かを言っている。決して呆然と立ち尽くしている訳では無く、何かを伝えようとしている。それもすごく小さい声で
少し近づいただけでは聞き取れなかったシスターは群がっている子供達の間を抜け、ジールの口元にそっと耳を近づけてみた。すると・・・
「お、おじさん・・・まだピチピチの二十台なのに・・・おじさん・・・」
「・・・」
現実を受け止めきれない悲しいおじさんが立ち尽くしていた




