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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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120/159

120・怨霊の巣食う町

「ここか・・・」


図らずも世界の語り草となる一節を生み出したジール。彼が脇目も降らず走り通し、目的地の町へと辿り着いたのは既に日が傾いた後であった

それでも常人なら一週間近くかかるその行程を僅か半日程度で終了させるのは流石と言ったところ。色々付けられている通り名のお陰で忘れそうになってしまうが世界最強の名は伊達で無いのだ


だが最強の名を冠するジールでも半日ほど全力で走ったのだ。それは距離で言えばかなりのものであり、流石のジールでも体に若干の疲労を感じざるを得ない

そしてその全力で翔って到着した町、それはジールが拠点を置く王都近くの街に比べかなり辺境にあり、町と言うよりはどちらかと言えば村と呼んだ方がしっくりくる気がする


「ふぅ・・・取り合えず今日はいったん休むか。んでお宝は明日から探すとしますかね」


町に到着したジール。既に元々受けた依頼の内容の事は覚えていないみたいで、頭の中にはお宝の一文字しか残っていないようだ

そして明日には自分の腕の中には見た事無いようなお宝で満たされているであろう予兆に胸を躍らせ、今日は取り合えず休もうと肩の力を抜き、宿泊できる施設を探す為、町の景観をザッと見渡してみた


「う~ん、見た感じあんまり広い町じゃ無さそうだな」


町の入り口から遠目に見ても、その全体像が視界に入る程度の広さ。その町の周囲を数時間でも歩けばグルっと一周出来てしまうだろう。だがあまり広くないその町の中にそれなりの商業施設や旅人が寛げそうな酒場などが設けてあるようで、広くない町ながらも必要なものは全て揃っているようなそんな不思議な町だった


だが世界を股に掛けて渡り歩いたジールが訪れた事は無く、つまりこれと言って特に目立ったような、と言うより失礼ながらわざわざここまで訪れる必要があるような町にも見えなかった

それ故か、日が傾いたばかりだと言うのに町全体は静けさに満ちており、実際ジールが到着してから人っ子一人見かけていない

しかしいくら辺境の町だと言ってもこれは少し異常であった。本来の町ならば夕餉時のある程度の雑踏に包まれていてもおかしくないだろう。それに立ち並ぶ家屋は数多く見られるが、日が陰って来たその中で灯りが付いている個所は数件程度しか目に留まらない。さらに商業施設に至っては、ほとんどと言っていい程全く灯の明かりが点いていなかった


その静けさがそうさせるのか、町全体の空気が澱んでいるように感じられその機能が停止してしまっている、そんな印象を受けてしまう


「・・・怨霊の巣食う町、ね」


そんな町の雰囲気を感じてボソッと呟いたジール。彼がそう呟くようにこの町全体が外界と隔離されているようか空気感。その町の状況を知らない旅人でさえ見掛けないのだ。それはこの町が創り出している独特の雰囲気のせいなのかもしれない。そしてそのお陰か、本来の依頼内容を若干程度ではあるが思い出した。勿論お宝を手に入れる事は大前提ではあるが、依頼を反後にしては元も子もない。それはハンターであるジールの譲れないところでもあった


「・・・先にメシでも食うか」


怨霊の事を思い出し、ブルっと身震いするジール。いつの間にかお宝に目のマークが変わっていた事なぞとっくに忘れ、人の灯りを求めてそそくさと移動し始めたのだ

そしてその町の中で唯一と言っていいだろう、それこそジールが入って来た町の入り口付近にある灯りが点いた建物。初めてこの町に来たジールでも分かりやすく建物の軒先に暖簾が掲げてあった。そしてその書いてある名前、そのお陰でそれが飲食店である事が分かる


『お食事処 旨面うまづら


それがこの飲食店の名前であった


「ちわ~。やってるかい」


店のネーミングセンスはさておき、掛けてある暖簾を潜りながらオレンジ色の灯りが光る店内へと足を踏み入れるジール

店内に入ったジールが真っ先に思ったのは飲食店だと言うのに店の中には客一人居ない静かな店内。そしてその造りは至ってシンプルで、まず正面に対面型の厨房が備え付けられており、そのカウンターには六席ほどの椅子がある。そしてそれ以外の場所には四台の机にそれぞれ四脚の椅子が備え付けられていた。正直言って少なくとも広いとは言えない店内である


その店内も屋外同様に静寂に満ちており、オレンジ色の暖色で灯りが照らされてはいるが何となくどんよりとした薄暗い雰囲気で包まれていた。飲食店だと言うのに食欲を駆り立てるような香りも漂ってこない。ただ、いつ客が来てもいいように厨房の火は絶やして無いようには見えた


そして厨房とは反対の店内に目を移せば四台ある机、客席の一つの椅子に腰かけて雑誌を片手にボケーっと店の店主らしきおっさんが一人座っている。そこでジールはこの町に入ってようやく人間を見つけたのであった


だがその店主は声を掛けながら店内に入って来たジールに気付いておらず、片手に持っている雑誌を虚ろな目で見続けていた


「ちわー!お客さんがいらっしゃいましたよー!」


その店主を見て自分が気付かれていない事に気付いたジール。ようやく人を発見し、少し安堵の表情を見せながら今度は先程より大きめの声で自分の存在をアピールしてみる。なんなら少し店主に近づいて視界に入るような距離で声を掛けてみた・・・だが


「・・・」


未だジールに気付いていないのか全く視線が動くことも無く体が反応することも無い。自分の世界にどっぷり浸かっているのか、それとも実は目を開けたまま寝ているんじゃないか?そう思ったジール。それ程までに旨面の店主らしき人物の反応が無い。せっかく発見した町人だ。このまま反応されないのも少し寂しい所がある

そう思ったジールが店主にグイっと近寄りその顔面を見つめてみるが、店主は虚ろな目のまま雑誌から視線を動かすことなくボーっと眺めたままだ


「どうなってんだコレは?」


魂が抜けている様に全く微動だにしない店主。そんな店主を見て少し気味悪く感じてきてしまう

怨霊の巣食う町

その言葉が再びジールの脳内に蘇る

もしかしてこの店主は既に・・・


そんな事を想像してしまう

そしてその考えを否定するように軽く頭を振る。そのまま店主が見詰めている雑誌に何気なく視線を送ったジール

そして何気なく視線を送って何気なく見えた、その開かれている雑誌の見開きに書かれていたのは・・・


『お父さんには内緒だよ?実録!少女たちのイケない遊び』


「・・・」

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