116・この紋所が!
「はぁ・・・さっき言ったじゃないかい。人魚姫の涙って」
「はぁ!?に、人魚姫の涙って、おまっ!」
何度目かの溜息を吐きジール向かって言い放つシャル。だがジールに至っては今初めて聞いたような反応を見せ、そしてそれに驚き再度あんぐりと口を広げアホ面を晒していた
そのやり取りを見ていた店主はやれやれと肩を竦め、ジールに憐れむような視線を投げていた
「・・・シャル、それ何処で買ったんだよ?ってか良く買えたな、そんな代物。本物か、それ?」
「だから言ったじゃないさね、報酬は全部使っちまったって。それに出所は教えないよ。それと本物に決まってるじゃないかい。何たって国から・・・おっと、これ以上は秘密さね」
言いかけた口を慌ててつぐむシャル。その姿を見たジールはそれだけで全てが納得いった
あぁコイツは今回の件でまた国王から国宝をぶんどったな、と。そして依頼報酬の代わりに手に入れたのだ、人魚姫の涙を
「お前・・・まぁそれは触れないでおいてやる。それより、神鱗はどうしたんだよ?まさかアレも売ったんじゃねぇだろうな?」
口まで出かけた言葉を飲み込み、神龍の戦いで唯一手に入れた戦利品の事を聞くジール
しかしカウンターを挟みそれを聞いていた店の店主はジールの言葉を聞いた途端、拭いていたグラスを思わず床へと落としてしまった。パリンと言う飛散音がしたかと思えばいきなり千切れるんじゃないかと思うぐらいブンブンと頭を振り始めた。いきなり頭を振り始めた店主を見た二人はギョッとした顔をするがそれも一瞬、直ぐに頭を元の位置に戻した
「お、おい。今の聞き間違いじゃないよな?ジール、今ひょっとしてお前、し、神鱗って言ったか?」
頭を激しく揺さぶった為、店主の両目が少しグルグルと動いているが、そんなこと気にも留めていない店主はカウンターからグイっと身を乗り出し顎に携えている髭がジールに当たるんじゃないかと思うぐらい顔を突き出してくる店主。思わず色んな食材の匂いがむわっと漂ってきて顔をしかめるジールだが、それよりも店主のあまりの顔の迫力に押し負けてしまった
「お、おう。依頼中の流れでそうなっただけだけどな。アレは確かに神鱗で間違いないと思うぞ・・・まぁ、手に入れたのはシャルなんだがな」
「・・・ジール、お前何を言ってるのか分かってるのか?人魚姫の涙ならまだしも、神鱗だと?人魚姫の涙なら国が管理してるのはハンターなら誰でも知ってるさ。だが神鱗はアレだぞ、もう伝説のお伽噺になってるような代物だぞ?何百年としてそれを見た事がある奴は居ないんだぞ?いくらジール・ストライダル、お前さんだとしても嘘は言っちゃあいけねぇよ。ハンターの沽券にかかわるぞ?」
ジールの顔面を凝視しながら一気に捲し立てる店主。その表情はジールが言っている事を全く信じていないのが手に取るように分かる。さらに店の中に居る他の客たちもいつの間にか聞き耳を立て、人によっては体ごとジール達の方を向きヘラヘラと馬鹿にしたような態度を取っていた
それが意味する事はつまり、この店の中の人間は誰もジールの言った事を信じていないという事だ
だがその空気を感じ取ったジールはシャルの方を向き
オイ
と一言
そしてシャルもそれを聞き、首からぶら下げていた人魚姫の涙を背中の方へ回し空いた胸の間に再び指を入れゴソゴソと何やら動かし始めた
ジールに反抗せずに素直に言う事を聞いている所を見ると、シャルも店主を含め他の客たちに馬鹿にされた様な扱いを受けた事に少なくとも腹を立てているようだ
そしてシャルが動かしていた指が止まった
ニヤリとほくそ笑むシャル
ニヤニヤとシャルの胸の間を見ているジール
「ちっ」
バッチーン!!
「いってぇええ!!」
「しつこいんだよアンタは!少しは空気は読め!」
店内にいる人間が全て注目していた中、一人だけ注目するところを間違えてしまった変態。今度は右の頬を思いっ切り引っ叩かれ、その勢いでカウンターに頭を打ち付けてしまった。そこれそカウンターに大きな亀裂が入るほどの勢いでめり込んでしまう。だが二回目になるがどこから見ても自業自得である
ジールがめり込んだ勢いでガラガラと壊れたカウンターの破片が辺りに飛散する。その光景を見た店内の人間はこれは死んだかもしれんね、と一同が思う。だがめり込んだ頭が止まっていたのも一瞬、それがもぞもぞと動きだした
「ぐっ・・・しゅまない、ちょっと調子に乗りましゅた」
一瞬意識を持って行かれそうになったジールだが、持ち前のタフさで何とかめり込んだカウンターの中から無理矢理頭を抜き出してきた。だが今度は先程とは反対の右側の頬が大きく腫れ上がっていた
つまり今ジールは両の頬とついでにオデコがプックリと盛大に腫れている為、正直、どこが目か口か分からない程酷い事になっている。その為、口も思うように動かず上手く喋れないようだった
それに加え、店内の冷ややかな視線も突き刺さってきたところでようやくジールも自分だけが空気が読めていない事に気付いた・・・すでに手遅れなのだが
「よしゅ、シャルしゃんや、見せてやりなしゃい」
「・・・」
だがそれでも、顔がパンパンになりながらもまだ自分が英雄としての威厳を保っていると勘違いしているジールは、ここぞとばかりにシャルに見せつけてやれと言わんばかりに手を挙げて促す
そんなジールを白い目で見ているシャルは、呆れた顔を通り越して憐れむような視線をジールに投げ掛けていた。そしてそれはシャルだけでなく、店内全員の人達も同じような顔をしていたのだ
「まぁこのアホはほっといて・・・ほら!刮目せよ!これが世界三大秘宝の一つ、神鱗さね!」




