115・ショッピング
神龍との激闘から数日後~
行きつけの飲食店から外まで聞こえるジールの叫び声が響き渡っていた
「だから!俺への報酬が全く無いってのはどういう事だよ!?」
その声を辿り店の中の方へ場面を切り替えてみると、カウンターに座り相変わらずの量の料理を息を吐く暇もない速さで掻き込んでいるデカメロンこと、シャルに向かって不満をぶちまけているジールが居た
ドンッと両手をカウンターに叩き下ろし、シャルに詰め寄るジールだが、当のシャルは涼しげな顔でジールの文句を聞きながらも料理を食べ続けている
「おい!聞いてんのかよ!」
「っるさいね。そんなもんとっくに使っちまったよ」
だがバンバンとカウンターをしつこく叩き続けているジールによって、積み上げられている料理が少しずつ零れ落ちていっているのが鬱陶しくなったのか、少し溜息を吐きながらジールの質問に答える
そしてそのシャルの言葉を聞いたジールはあんぐりと口を開き愕然とした表情を浮かべた
「つ、使っちまったって・・お前、今回の依頼の報酬がいくらあったと思ってんだよ!?どうせお前の事だ、ギルドマスターやら国王やら脅してたんまり稼いだんだろうが!それを俺にも少しは分けろってんだよ!」
ジールが言う事は的を得ており、確かに元々の依頼であるドラゴニア山によるドラゴンの間引き。今回は結果的にその依頼内容、難易度を遥かに越えていた。普通、ギルドからの依頼の不備がある場合は、仮に依頼を失敗したとしても元々の依頼料に加え、それに追加される情報料など、さらに依頼を完遂できる事が出来れば内容による追加報酬が加算されるのだ。だがその追加料金は微々たるもので、結果的に命があっての事なのだ
だが今回の相手はあのシャルだ。国のトップである国王すら脅すようなヤツだ。それを微々たる追加料金で済む訳がない。それこそ国庫を揺るがすような、それか城の宝物庫の扉を開けさすか、少なくともそのどちらかを行ったに違いない
それを当然ながら理解しているジールはシャルの言う、全部使っちまった、そんな訳があるはずないだろう。何に使ったら全部無くなっちまうんだ
そう思うのは至極当然の事と言える
「ん、ほらコレさね。アンタも聞いた事があるんじゃないのかい?」
だがジールがそう言ってくるのが分かっていたみたいで、この世が終わったような顔をしているジールに向かって首からぶら下げていたチェーンの先、胸元からゴソゴソと何やら取り出した
それを見たジールは一瞬、強張っていた顔がニヤリとスケベ面に変わるがシャルが谷間から取り出した物を見て再び表情が固まった
「こ、これは・・・何だコレは?」
「何だコレはって・・・ジール、ハンターを名乗りながらコレの存在も知らなかったのかい?」
シャルが取り出したのは海の様に青くキラキラと輝いて波打っているティアドロップ型の宝玉。それは先日までシャルが付けていなかった首から伸びているチェーンの先に繋がっており、シャルが取り出すまで綺麗に胸の谷間の間に収まっていた
「き、聞いた事ぐらいはあるさフガフガ!これはアレだろ!二房の立派な渓谷、いやたわわに実った、いや違う、男の夢が詰まった・・・」
「・・・アンタに聞いたアタシが馬鹿だったよ」
だがジールの視線を掴んで離さないのはシャルが取り出した宝玉では無く、シャルが身に付けている二房の宝玉だった。神龍との戦いで一層に磨かれたように見える二房の宝玉はシャルが取り出した青の宝玉とは違う意味で遥かに存在感を放っていた・・・その効果は人によるが
そしてそれは特にジールにとっては効果てきめんの様で、フガフガと鼻息を荒くしているジールにはシャルが取り出しだ宝玉がまるで目に入っていない
だがカウンター越しにそれを見ていた店の店主が一早くそれに反応した
「お、おいシャルさんよ・・・それはひょっとして『人魚姫の涙』なんじゃないのか?」
「ん?おや、さすがだね店主。これの価値を知っていたのかい」
「そ、そりゃ俺だって見るのは初めてだけどよ・・・これでも昔はハンターの端くれだったんだ。聞いた事ぐらいはあるさ」
「はっ!それもそうか、ハンターやってて世界の三大秘宝の価値を知らない奴なんて居ないさね。居るとすれば・・・この変態ジールぐらいなもんさね!」
シャルはそう言いながらいつまでも自分の胸元をギラついた眼でガン見しているジールの頬っぺたを思いっ切り引っ叩いた
バッチーン!!
「いってぇえええ!!?」
店内に軽快な音を響かせて紅葉色の手形を形成した頬っぺた。その音に店内の他の客はビクッと肩を竦めるが音の出所を一瞥した後、あぁいつものヤツか。と思い再び自分達の食事を再開した
だが頬っぺたが綺麗に真っ赤に腫れ上がったジールは椅子から転げ落ち、その拍子にカウンターに乗っていた空いた皿を盛大に床へとぶちまけた
シャルはそれを見てフンっと鼻を鳴らし蔑むような視線でジールを見た
「いつまで見てんだよこの変態。ったく、アンタにこの価値が分からないとはね。店主の方がよっぽどハンターらしいさね」
「ぐっ・・・何すんだよシャル!いてぇじゃねぇか!」
プックリと腫れた左の頬を擦りながらガバっと立ち上がるジール。いきなりの暴力にシャルを責め立てるがどこからどう見てもジールの方が悪い。だが本人はそんな事を全く思っていなかった
立ち上がった勢いのままシャルに詰め寄るが、ここでようやくシャルが首からぶら下げている宝玉に気付いた
「お?あれ?・・・おいシャル、お前、ひょっとしてそれって・・・」
「はあ~・・・よくやく気付いたのかい。ったくアンタのそのスケベ心は何とかならないのかね」
「う、うるせぇな!これはアレだよ、しょうがねえんだよ!・・・それよりお前、それは?」
片方の頬っぺたが腫れ上がったことでジールの視界が少し塞がれてしまっていた。だがそのお陰か、視界が狭くなったことで熱い視線を注いでいたシャルの胸が見えにくくなった事で見えた青い宝玉
何とも理由が情けないが、ジールはようやくそれに気付いたのである




