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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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114/153

114・謀略

どうしたものか・・・

この交渉事が上手くいくと踏んでいたジールは再度頭を悩ませる。が、むしろ先程の掛け合いの何処に歩み寄れる内容があったのか。そこは甚だ疑問だが・・・

だがジールの言葉を聞いたシャルは鬼のような形相でジールの睨んでいたが、一瞬、少し悩む様な表情を浮かべた後大きな溜息を吐きゴソゴソと胸の間から何やら取り出した


「はぁ~・・・まぁいいさね。今回は四神達にもかなり助けられたし、それに四神達に消えて貰っちゃアタシも困るからね。ほら、ジール。使ってやりな、但し、これは貸しだからね」


シャルが胸の間から取り出したのは淡紅色に淡く光る掌より少し小さい球体。優しく光るその宝玉が先程ジールが言っていた『精霊の宝珠』なのだろう。その球体自体が生きているかのように少し鼓動している様に見えた

しかしジールが行使する空間収納とは違い、物理的にシャルの胸の間から出てきたように見えた・・・彼女の爆弾の間の渓谷はどうなっているのだろうか。だがその疑問に答える間もなく、シャルは取り出した宝珠をジールの方へポイっと投げた


「うおっと・・・助かる!この貸しは必ず返すからな!」


投げられた宝珠を慌てて受け取るジール。まさか先程の展開から譲ってくれるとは思っていなかった事もあり、一瞬目を見開いたが何だかんだ言ってシャルが情に深い事を知っているのだろう

両手で大事に受け取った宝珠を直ぐに四神達の元へ持って行く為に再び飛び上がった

それを見送りながら取り出した渓谷の中へ今度は神鱗をしまい込んでいくシャル。そんなに物が入るのか今一度疑問だが、それを携える本人はジールを見送りながらニヤリとほくそ笑んだのだ


「ふふ、上手くいったさね。神鱗は手に入るわ、ジールに貸しは作れるわ、今回の依頼はかなり死にかけたけど結果としては上々さね。それに精霊の宝珠の代わりはまた国王でも脅してみるとするさね・・・今回は依頼内容に大分誤認があったしね」


確かに、よくよく考えてみれば今回の依頼にジールが付き合わされたのは自身が揚げ足を取られた結果であるが、実際にジールが居なければ完遂する事が難しかっただろう。それを踏まえれば、その過程で四神達を召喚し協力を得たうえで、結果彼等を救う行為をするのは至極当然の事と言えるだろう


だがそれは流石シャルと言ったところ。上手く恩を売りつけ、宝珠を渡した上で四神達を助けたのだ。その上さらに神鱗を手中に収める事が出来たのだ。これ以上の結果は無いと言える

さらにシャルが言うように精霊の宝珠は元々国が管理していた国宝を国から受取ったもの・・・いや、受け取ったではない。以前、今回のような事があった時に国王を脅して分捕ったのだ。つまり自分が苦労して手に入れた訳では無い為、正直、失ったところで痛くも痒くもないのだ


「よし、じゃあ四神達はジールに任せてアタシは先に帰るとするさね・・・魔力が回復するまで時間がかかりそうだけどね。ドラゴン達との戦いで魔力回復薬を全部使っちまったのは少し痛かったね。まぁ、その辺りも今度纏めてジールに請求するとするさね」


シャルから受け取った精霊の宝珠で四神達を集め必死になって復活させているジールをチラリと一瞥したシャルはそう言いながらその場を立ち去っていこうと踵を返すが、ふと何かを思い出したように再びジールの方を見て呟いた


「あ、そう言えばジールに言い忘れたさね・・・精霊の宝珠は一回しか使えないって事を。それに伝説の精霊達を全員治せるだけのキャパシティーがあるかね・・・まぁいいさね。アタシには関係ない事さね。後はジールが何とかするだろうよ」


そしてそれはシャルの予想通り、四神達を全て癒す前に割れてしまった精霊の宝珠を見て慌てふためいているジールの姿が見えていた

だが最悪の結果は回避出来ているみたいで消えかかっていた四神達は僅かながらも存在としての色を取り戻している様に見えた。そしてそれを遠目から確認したシャルは少し胸を撫で改めて下し帰路に着くのだった


残されたジールはいつの間にかシャルが帰っている事なんか露知らず、割れてしまった宝珠の代わりに、少しでも四神達の存在を確かなものにする為に残り僅かな魔力を振り絞って四神達に注いでいるのだった・・・それこそ魔力がすっからかんになるまで、気絶するまで


「・・・キュゥウ~~~・・・」


バタンッ


『あ・・・ジ、ジールよ・・・とうとう意識を失ったか・・・だがお陰で我等も何とか消えずに済みそうだ。後はゆっくり住処に戻り療養するとしよう。スマンな、ジールよ。先に還らせてもらうとする』


シャルの立ち去ったしばらく後、何とか消滅を避ける事が出来た四神達もジールの送還を待つ事無くそれぞれ自らの住処へと還って行った。それこそ少しでも早く失った魔力体を癒すために

四神達が還って行った後、辺りは先程までの戦闘の爪痕を残しながらも元々の辺境の静けさが戻っていた。だが失われてしまった村の人達の命や自然に包まれていた山々の雄大さは戻る事は無い

神龍が言っていた

「起こしたのは貴様等人間だろう」と

疑問に残ることが多かった戦いであったが、戦いに携わった者達はそれを疑問に考える余裕がある者など居なかった。ただ命あるものは少しでも早く休養を取るべく、そして命を散らして逝ったモノ達はその残留思念を現世に残せずに散っていったのだ


・・・

そして数時間後、若干ながら魔力が戻ったジール

目を覚ました後ゆっくりと身体を起こした。そしてジールが目にした風景、静けさに包まれている更地になった大地、その中心にポツンとただ一人残されていたのだ・・・今回の戦いにおける最も功労した人物だというのに


「・・・放置ってひどくないですか」


残されたジールの呟きを聞いてくれる者は誰も居なかった



「ちっ、生き残りやがったか」


ジールの居る場所から遠く離れた場所、そこから小さく呟かれた言葉、その存在に気付く者も誰も居なかった

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