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蓮華草  作者: 山猫
第二章 あの時の話
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107/144

107・乾坤一擲

飛び散る火花

神龍の双爪と短剣がぶつかり合う。その度に聞こえる己の体の中からの不快音

神龍の攻撃を躱す

口から鼻から目から流れる赤い液体。それ等は体の外に出た瞬間に自らの膨大な熱量に直ぐに蒸発してしまう


もう意識が・・・

時間にして僅か、音速を遥かに超え光速に迫るほどのスピード。音を置き去りに時間の感覚も無く、最早自分がちゃんと戦えているのか、それすらも曖昧

一合、二合・・・何十合何百合、打ち合ったのか、切り合ったのか

分からない、もう思考が、頭が脳が焼き切れそうだ

飛びそうな意識の中、聞こえてくるのは自分が振りかざす短剣の風切り音。そして神龍を切裂く肉の感触、自分が切られる斬撃音

もう休みたい、短剣を握っている手を離してしまいたい。だけど此奴をこのまま放って置く訳にはいかない

飛びそうな意識の中、必死の形相で歯を喰いしばり真っ赤に染まる両目の眼でギラリと神龍を睨みつける

白銀の美しい鱗、中心に大きく威厳を放つ七色の神鱗、そして鋭く光るジールを見据える双眸

・・・それがニヤリと薄ら笑いを浮かべていた


は?


それを見たジール

何だ此奴は?

俺を侮っているのか?俺を見下しているのか?この俺を・・・

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!


神龍は分かっているのだ。この目の前のニンゲンがもう限界を迎えているのを、この人間が既に瀕死なのを。それが分かっている、分かっていた。ほら、さっさとくたばるがよい。我が双爪の餌食になるがよい

楽しませて貰った礼だ、このまま一気に葬ってやろう


そんな侮った視線

だがそれがジールの逆鱗に触れた


「このクソトカゲ風情がぁ!!この俺を!ジール・ストライダル様を侮りやがってぇ!!ぶっ殺してやる!」


血を吐きながら激昂し咆哮するジール。侮られたのが見下されたのが許せなかった。俺を蔑んでいいのは俺だけだ


「後悔させてやるよぉ!『身体強化ディカプル』!!」


『っ!?イカン!ジールよ!それ以上重ね掛けするでない!』


身体強化十倍掛け

神龍と斬り合いながら行使した重ね掛け。吹き出る魔力、吹き出す血潮。視界が赤く染まる、筋肉が皮膚を突き破り最早ジールの身体は人間の体裁を保っていなくなっていった

こんな身体で戦いなど出来る訳無い

それを見た黄龍は慌ててジールを止めるも時既に遅し、既に自我を保てているかも怪しいジールの耳に黄龍の声は届いていなかった


『マズイ!このままではジールの身体が持たんぞ!まだ魔力の充蓄は不十分だが仕方ない・・・四神よ、いくぞ!ブレスを合わせよ!!』


黄龍の声を皮切りに黄龍を中心に集まる四神。口内に溜めた魔力の塊をブレスに還元し吐き出すタイミングを計っている。それこそ黄龍の合図待ちだ・・・だが


「うがぁあ!あがぁあああ!!」


『くっ!?ジールめ・・・考え無しに先走りおって、これでは狙いが付けられないではないか』


口から血やら吐瀉物やら撒き散らしながら神龍を切り刻んでいくジール。しかし目の焦点が合っていないのか精々軽く白銀の鱗を傷つける程度で、その奥の肉体にまでは届いていない

その証拠にジールの動きの速さに若干戸惑いながらもまるで焦ったような様子を見せていない神龍。どちらかと言うとジールの撒き散らすモノに不快感を覚えているようで遠めに見てもイラついた表情が張り付いている様に見える

しかし黄龍の言う通りその状態は長く続かなかった


「がぁああ・・・あぁ」


叫びながら神龍に切迫していたジールの声が小さくなってきた。それに気付いた黄龍がふとジールの方へと視線を送るとジールの短剣を握り締め振りかざしていた腕が変な方向に曲がってしまっている

それに加え纏っている身体強化における魔力の膜が薄くなっている様に見えた

限界だ

最早誰が見ても火を見るより明らか

そして黄龍は決断した


『これはイカンっ!?ええい、ままよ!ジールよ、少しぐらい当たっても文句言うでないぞ!四神よ圧縮したブレスを合わせて放つのだ!!』


黄龍の合図を今か今かと待っていた四神。極限まで圧縮したブレスをタイミングを合わせて神龍に向けて解き放った


『いくぞ!我が力、受けてみるがいい!!』


そして四神に合わせて黄龍も己の体内に充蓄していた膨大な魔力をブレスに還元して解放した

黄龍から放たれた金色のブレス。轟音を轟かせながら解き放たれた伝説の神獣の一手

それは四神のブレスと混ざり合い幻想的な色合いの軌跡を空に描き出した。思わず見とれてしまう程、その轍は美しかった、がそれとは裏腹にその破壊力は凄まじかった


空を削り空間を削り生命を削り取る

五色に混ざり合った四神達のブレスは極まりなく破滅的であった


限界まで極地まで臨界点まで圧縮し圧縮された四神達の魔力の奔流

それはブレスと言うより細長い一本の線の様

そしてその美しくも破壊的な神獣達の攻撃は五色の残滓を残し一瞬にして神龍とジールがいる場所へと到達した


頼む

ジールに当たってくれるなよ


そう思う黄龍


そして・・・



「っ!!?うがぁあああ!?」

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