106・オーバーヒート
「黄ちゃん!今は!そんな事!言ってる余裕は!無いんだよ!」
ボソリと呟いた黄龍の言葉をしかっり拾いながらも神龍と切り合い続けるジール
その後ろでは傷ついた白虎の側に赤く炎に包まれた翼をもつ朱雀が近寄り、復活の光で白虎を癒していく
不死鳥と呼ばれる朱雀、その不死の力を持って癒す光は深く切り裂かれた白虎の傷を一瞬にして塞いだ。お互いグルルルとキュゥウンと短い言葉を交わす。宛らお礼を言った白虎に朱雀が返事をしたように見えた
「おい!四神に黄ちゃん!そろそろ!手を貸してくれよ!このままじゃ埒が明かねぇ!」
音速を超える速さで攻防を続けるジール
だが決定打に欠けており未だに神龍の白銀の鱗を傷つけるに至っていない。その間にもジールの身体は悲鳴を上げ今にも筋線維が切れてしまってもおかしくない。その証拠にジールの皮膚の節々が筋肉の膨張に耐えきれず裂けて血が滲みだしている。神龍と互角に切り合っている様に見えるが実のところジールの身体は限界を迎えていた
『う~む・・・加勢したいのは山々だが、我達では神龍を捉えられまい。速い上に少し小さ過ぎる。我もサイズを小さくすれば良いのだろうが・・・それでも追いつけまい』
傷が治った白虎に続き残りの四神もそれぞれが黄龍の近くに飛んできてジールと神龍の攻防を見守っている。幾度か青龍が援護をしようとブレスを吐きかけるが全く照準が合わない。それによりもしかするとジールに当たってしまっては元も子もない
体躯の大きさを自由に変えられる黄龍が加勢した所で身体強化が出来ない神獣、精霊達にとっては意味をなさないだろう。彼等は魔力の塊から顕現した故、身体強化など己の身体を強化する魔法は実体を持つ肉体ではないため対象にならないのだ
・・・そう神龍と違って
「まさかっ!?くそっ!こいつは魔物と同じって事だったよな!?」
ジールと切り合いながら全身に魔力を張り巡らせる神龍
その瞬間
目の前に居たジールの視界から消えた
「ぐぁあああっ!」
その瞬間全身から血を吹き出すジール
切り刻まれたのだ、誰に?神龍にだ
もしかして、とジールが思ったその束の間。神龍は魔法を使ったのだ
身体強化の魔法を
既に音速を超えたスピードで拮抗していたジールと神龍。だが神龍の身体強化によりその速さは単純に倍になったのだ。いや、速さだけではない。勿論腕力も含め全ての身体能力が倍になっているのだ。ギリギリのところで拮抗していたジールがそれに対抗出来る訳無い
だがジールも切り刻まれながらも握り締めていた短剣を落とすことなく歯を喰いしばって耐えていた
『ジール!ぬぅ、まさか身体強化を使うとは・・・まだ生まれたばかりでこの強さとは』
神龍の攻撃をまともに食らってしまったジールに焦る黄龍。最早己では追いつく事が出来ないだろう
伝説の神獣と言えどあくまでも精霊の範疇と言ったところ、神話の中の神の龍には到底及ばないのだろう
だがだからと言って何もせずにいる訳にはいかない
『ジールよ!少し時間を稼いで足止めをしてくれ!我等の全力のブレスで葬り去ってくれる!』
「・・・クソが、無茶を言いやがる」
血だらけになっているジールにそう呼びかける黄龍。それを聞いたジールもまだ不屈の精神で強い目の光を曇らせていない・・・まだ諦めていないのだ
そしてジールの口からヤケクソとも取れるような大きな咆哮が上がった
「やってやがるよぉお!!後で責任持てよ黄すけぇ!『身体強化セクスタプル』!!」
一度解いた三重の身体強化。そしてそれを遥かに上回る六重掛け
全身から真っ赤な噴煙をが立ち上る。急激な体温の上昇における血の蒸発、流れ落ちている血がジールの身体を霧の様に包んだ。それと同時にブチブチとジールの身体から嫌な音が聞こえた、筋線維が耐えきれず次々と切れているのだ
「いくぞクソトカゲ野郎が!」
だがそんな事気にしていては現今の意味が無い。切れる筋線維、ヒビが入る骨格、全身に広がる焼けるような痛み
だがジールは穴と言う穴から血を吹き出しながらも神龍に再び切りかかった
長時間は持たない、それ以上はジールの身体が壊れてしまう
『よしっ!今の内だ!四神よ、今のうちに全ての魔力を込め最大限まで圧縮したブレスを溜めるのだ!』
黄龍の呼びかけに取り囲むように直ぐに集まる四神。黄龍を中心に陣を組み一気に魔力を練り上げていく。彼等も時間が僅かしか無いのが分かっているのだ・・・ジールの身体が壊れるのが
再び神龍との肉弾戦を均衡に戻したジール
ドラゴンの群れの戦いからの連戦。だがそれでもジールの魔力は切れる事を知らないのか、身体強化の六重掛けを施した全身を包む膨大な魔力、愛用の短剣を覆う鋭利な魔力、それらが少しも緩む気配が無い
だがやはり・・・
ブチブチ ゴキゴキゴキ
「うぐぅ!・・・は、早くしてくれよ皆」
ジールの身体は直ぐに限界を迎えてしまいそうだ




