105・vs神話の生物
「なるほどな・・・まぁ何れにせよだな」
そう、何れにせよなのだ
黄龍の説明により何となくだが今の現状を理解したジール。だが神龍と相対している事には変わりなく、その原因が何であれ神龍と敵対してしまってる今、素直に引いたところで逃がしてはくれないだろう
何よりあの体躯、遠目でサイズは少し分かりにくいが群がっていたドラゴン達より明らかに小さい。どちらかと言うとジールとシャル、ドラゴンよりは人間に近いサイズ程小さく見える。それも黄龍が言う通り生まれたばかり故そのサイズなのかもしれないが、だがそのサイズなので侮れない、そのスピードが
神龍から放たれた熱線のスピードを考えれば恐らくだが神龍自身の速さもそれ以上だろう
つまり逃がしてくれないではない、逃げれないのだ
只でさえ満身創痍のシャルを抱えているのだ。四神の力を借りたとして上手く逃げれるとは思えない。それに仮にここで逃げれたとして代わりに被害に合うのは王都の人達かもしれない。そう考えるとやはり黄龍の言う通りここで叩いておくしかないのだ
すっかり晴れた白煙の中からゆっくりと羽ばたき宙に浮かぶ神龍
二度ほど放った自身の熱線が防がれた事に不満を持っているのか、再びそれを放ってくる様子は見られない。七色に輝く神鱗を中心に伸びる四肢、そしてその両腕の先の伸びる鋭く大きな白銀の双爪。それをギラリと光らせジール達の方を睨んできている
いつ襲い掛かってきてもおかしくない状況。その中、先に口を開いたのはシャルだった
「・・・ジール、悪いけどアタシは足手纏いになりそうだから下りておくさね。地面に降りるぐらいなら何とかなるから離してくれないか」
「お、おう。分かった・・・出来るだけ離れていてくれ。今回はもしかしたらヤバいかもしれねぇから・・・」
「はん!アンタがそこまで言うならそうなんだろうね・・・もし生きて帰れたらしっかり報酬は弾むから・・・死ぬんじゃないよ」
「ふっ、それは楽しみだな。じゃあ何とかしてみるしか無いじゃないか」
ジールの肩から腕を放しゆっくりと地面に降りていくシャル。お互いの会話の中で二人とも普段言わないような会話を交わす。それが今が普通な状況ではない事を物語っていた。もしかしたら・・・そう思う、だから敢えてお道化て見せたのだろう。いつものジールなら報酬は弾まなくていいからそのデカメロンを弾ませてくれ、そのぐらいの事は言うだろう・・・つまりそんな余裕も無いという事だ
シャルが地面に降りたのを確認したジール
よしっ、と気合を入れ直して神龍との戦いに身を置く事に覚悟を決めた。今回は流石に無事では済まないかもしれない。既に神龍の攻撃で一度死にかけた、それ程の相手。今まで過去にここまでの危機があっただろうか・・・そんな事をふと振り返り、グッと神龍を見据えた。後はやるしかないのだ
「よーしっ!出来るだけやってみるか!・・・ってアレ?神龍は?」
一瞬、ほんの一瞬、地面に降りたシャルを確認するために神龍から視線を外した
その一瞬に見失ってしまった
『っ!?白虎よ!躱せ!!』
呆けていたジールの頭上から黄龍の声が響く
そしてそれと同時に、ギャウン!と甲高い声
それに反応したジールは自分の左に居た白虎に向けて視線を移した
「白虎っ!?バカな!四神一の速さだぞ!」
そこには腹部を大きく切り裂かれた白虎が嗚咽を吐きながら吹き飛んでいた
白虎が傷を?そんな筈が無い!四神随一の神速だぞ!?その白虎が反応出来なかっただと!?
一瞬で思考がフル回転する
『これは・・・速過ぎる!』
黄龍ですら目で追いかけるのがやっとの様。七色の軌跡を残しジール達の間を一瞬にして通り過ぎた神龍。神龍からすれば通ったついでに携える双爪で薙いでやったようなものだろう
通り過ぎたままジール達の後ろに浮かび白虎を切裂いた白銀の爪を見ながら優雅に笑っている様にも見える
「こんのっ!クッソたれがぁ!『身体強化トライフォード』!」
その神龍を見た瞬間、ジールの沸点は一気に頂点まで達した
己の身体に三重の身体強化をかけ腰に差している愛用の短剣を抜きながら神龍に肉薄する。ここでジールが選んだのは魔法による遠方攻撃では無く近接による肉弾戦
だがそれは正解と言えるかもしれない。何故なら神龍のそのスピードに於いて、着弾するまでに距離がある魔法では確実に捉える事は出来ないだろう。それが分かった上での身体強化だった
普通、魔法使いが行使する身体強化は精々二重が限界だろう。人間の身体はそれ程強力な強化に耐えられるように出来ていない。それ以上は筋肉が、骨が、神経が耐えられないのだ。それを一気に三重掛けするジール
ギシギシと体が音を立てるがそんな事はお構いなし
自分の召喚獣である白虎が切り裂かれたのが余程癪に障ったのか、音を置き去りにする程のスピードで周りにソニックブームを撒き散らしながら神龍に切りかかった
「食らいやがれ!このトカゲ風情が!」
自分の愛用の短剣でも神龍の白銀の鱗を切裂くのは難しいだろう
そう思ったジールは自分の短剣にさらに強化を重ね魔力を纏わせながら振り抜いた。そしてそれはジールの思惑通り効果があった
ガキィイイン!
余裕を見せて己の双爪を眺めていた神龍はジールの攻撃を脅威と感じたのかその鋭い爪で受け止めたのだ。つまりそれが己の身体に傷をつける程の攻撃だ、と本能で感じたのだ
「ちっ!受け止めてんじゃねぇよトカゲ野郎!」
受け止められた短剣をそのままの勢いで次々と振りかざしていくジール
それを全て双爪でいなしジールの攻撃が自分の身体を傷つけないよう捌いていく。そしてその一つ一つの攻防が衝撃波を生み出し空気を揺らがしていた
『・・・ジールよ、トカゲ野郎はないんじゃないか?』
それを見ていた黄龍がボソリ
自分も一応黄龍と名乗るドラゴン故、ジールの吐くトカゲ野郎は聞き捨てならなかったみたいだ




