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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
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第92話 新たなる道へ 中編



―――――――――――――――――――――――

―モーク視点―



 夜20時の10分前。



 今日はアイリスが【サプライズゲスト】とやらを呼んでいるらしい。


 しかもソイツ。

 俺達と旅を共にするらしい。




 誰かな?




 ……別にどーでも言いレベルの




 エドワルトくんとか、


 ルーサーくんとか、


 魔物殺しくんを呼んでくるんじゃないの?




 アイリスが俺を見ながら薄いニヤニヤ顔をしているのが微妙に腹立つなぁ……。






 すると、奥から誰か気配が。


 (……ルーサーじゃない。もっとヤバヤバの気配がするんだけど!)


 薄々感じる普段とは違う何か。

 そして、何かちょっと前に感じた事のある強者の気配がした。




 と、と、取り敢えず、消去法で考えよう。



 多分気配の強さでルーサーじゃない。


 バルザンだったら【サプライズゲスト】なんて呼び方絶対アイリスはしない。


 ワゼリスは商人だからこんな気配じゃない。


 俺が今まで接触して来た中で強い強者は……。


 (……いた。しかも、ソイツに撃たれた)



 

 そして俺の予想が「だいせーかーい!」と言わんばかりに、【サプライズゲスト】が姿を現す。




 「おいおい……マジかよ。」

 「……。」

 「ほぅ……確かに【サプライズゲスト】ですなぁ。」




 ユッケは少し複雑な表情をし、


 村長さんは感心し、


 俺は無言で彼女……というか少女を見つめた。




 「アリスです。この度の一件、本当にごめんなさい。」




 少女……アリスは俺達に向かって頭を深々と下げた。


 俺の体がピリピリとヒリつく。


 (……前に両親の事を言われたからかな?一発殴りたいなんて感情が込み上がってくる)


 両親の悪口を言ったアリスを、自分が今も若干引きずってしまっていた。




 その時、アリスが俺の前までゆっくりと歩いて再び頭を下げる。




 「あの時はごめんなさい。両親をバカにするような事を言ってしまって。」

 「……改心したと自分で思ってる?」


 「……いいえ、これからの自分の行動で見せなきゃって。そう思っています。」




 ……ヤバイ。

 逆にこっちが怒りに任せて殴ったらダメな奴だ。


 「これから改心するのを行動で示す」


 って言ってる奴を殴る意味は今の所皆無だしね。




 「ふーん……まぁいいや。今度からは他の人達に向かって両親の悪口を言っちゃダメだからね。親バカにされてキレない人ってあんまりいないからさ。」

 「……はい。」


 「じゃあ、許す。どーせ僕達と一緒に旅する仲間でしょ? わっざわざカタコト挨拶なんかしなくてもさ、もっと自然でいよーよ!」

 「……そうですね。ありがとうございます。」



 やはり、謝ったすぐに自然になれる奴はそうそういない。

 アリスは戸惑いながらカタコトの敬語を俺に向けていた。



 俺はアリスの機嫌を一瞬で元の状態にするにはどうしたら良いのか模索する。


 (……あ、これ良いじゃん。サイテーだけど)


 ある一案を思い出した俺は、本当は滅茶苦茶躊躇いながらも早速実行してみることにした。




 「だからさ、自然で良いんだって。」

 「……はい。」


 「とうっ!」




 俺は勇気を持ってアリスの一瞬の隙をついて彼女の胸に飛びかかった。


 羞恥心とやらは女の子の本性を露わにする……って本に書いてあった気がする。



 「キャアッ! ……ちょっと、なにすんのよ!」

 「スリスリスリスリ!!!」


 「このクソ変態野郎!」

 「よっと。」



 アリスは俺の飛びつきに大きく反応し、本来の口調であろう感じに戻った。


 ジタバタするが、俺は体をアリスに擦り付けるという変態攻撃を仕掛ける。


 キレたアリスは両手で俺のモフモフを掴もうとするが、その前に俺が後方へ下がる。



 「ちょっと、気持ち悪いんだけど? はぁ……はぁ……。」

 「あ、自然になった。」

 「モーク……やっていいかもしれない相手とやっちゃいけない相手が居るんだぞ?」



 流石のユッケも顔をしかめて俺を軽く咎めた。


 アイリスは相変わらず俺のやった事の意味が分かってないような顔付きだった。




 一方、肝心のアリスはというと……。

 軽くキレていた。


 心なしか、謝っていた時よりも表情が明るくなったように見受けられた。




 「あんたさ、何したかわかってんの? こっちはこっちで色々気を使ってたのにさ。」

 「だから、今のように自然な感じで良いんだって。」


 「こっちは謝ってたんだよ?」

 「何時までも過去の事振り返ってないで前向けって事だよ。何ちょっとした失敗で引きずってんのさ?」


 「!!!」




 アリスは少し仰け反った。


 普通に自然に出た言葉だが、アリスには酷く驚いたのかな? 


 チャンスと気付いた俺はすかさずたたみかけた。




 「折角仲直りして仲間になったんだから、遠慮すんなって。」

 「……ありがと。」




 アリスはそう言うと納得した。

 右足を軽くトントンさせながら横を向いている。


 ツンツンデレデレって奴だね!


 だけど、アリスは収納魔法から大鎌を取り出して恥ずかそうな顔でこう叫んだ。



 「だからといって……ハレンチな事をして良いってわけじゃないでしょーが!!!」

 「そ……それは、最初俺も抵抗したんだけどあ、アリスの為もあったしそれで……。」


 「……それで?」

 「……もうちょっと大きくなった方が後の将来性も良さそうだし……。」


 「変態野郎! 死ね!」



 怒りがてっぺんまで上がったアリスは、俺に向かって大鎌を高速で振り回す。


 刃の部分にこびり付いていう血みたいなものが、この黒と銀の大鎌の怖さを余計に引き立たせる。



 「痛っ! 痛ててっ! よっ! 痛っ!」



 だけどアイリスの立場もあるのか、アリスは俺に向かって刃先を向ける事は一度も無かった。

 絶対撃てば当たるハズのクロスボウ自体を取り出さなかった事に関しては、多分アイリスの手腕かな?



 逆に言えば、アイリス達が早々に止める事は無いということになる。



 「……程々にしろよ。」

 「ホッホッホ! 仲が良い程喧嘩をすると良く聞きますからな!」

 「あれは喧嘩というより、復讐っぽく見えるんだが……。」



 寧ろ俺がボコられている間、じっくり鑑賞していた。



 「絶対許さないからね!」

 「ごめんなさい! 痛っ! ベッ! アババ!」


 「さて、仲の良いお二方は置いておくとして……置いてけぼりの私達で勝手に頂こうかと……。」

 「「待って! 俺(私)も食う(食べます)!」」



 俺が村長さんの言葉に反応して食らいついた。

 ……と、同時にアリスも食らいつく。



 「お前ら仲良しじゃねぇか!」



 いち早く俺達にツッコミを入れたアイリスであった……。








 「ガボガボ! ごくんっ! ムシャムシャ! バクバク!」

 「ガガガガガ! ガババババ! ンブォンブォ!」

 「お二方、随分派手な食べっぷりですなぁ! ワゼリス殿から有り余る程の大量の食事を頂いたので、何時もより多く召し上がって下さい!」



 俺は食で気持ちを晴らそうと、何時もより倍以上の速度で目の前の飯を食らう。


 アリスも負けじと小さい体で頬張っていた。

 10人前行くとは……そこそこやるじゃん。



 だが、1000人を食べた俺相手じゃ無理無理。



 「……おいしかったです。御馳走様でした。」



 案の定アリスは11人前で限界を迎えた。

 壁に寄りかかって軽く息を吐いている。


 食欲の限界というものは、人間の場合は突然襲いかかってくるらしいとアイリスから少し聞いた。


 例えばパンを食べていた時、限界の来る直前の味が「小麦粉」になるのだとか。


 多分アリスはそんな状態なのだろう。



 「あんた……やるじゃない。何人分食うのよ?」

 「前に言ったじゃん。『1160人分食べちゃった』って。」


 「そんな『食べちゃった』程度で収まるわけ? あんたの食欲。」

 「うん。」



 アリスの質問に俺は軽々しい返事をする。

 ぜぇぜぇと息を荒げるしかないアリスはそっぽを向いた。


 大食い勝負においては負けを認めたらしい。



 「で……でも、まだあんたに負けた訳じゃないから!」

 「へー。他になんかあるの?」


 「……射的。ハンデなし。」



 俺絶対ムリじゃん。

 確定で的に当たる奴VS弓すら持ったことない俺?


 ……アホじゃん!



 ……しかし実際レベルの高いアリスには、俺より余裕で上回っている特技の数は多い。



 「マ……マダマケテナイデスネ。」



 俺は渋々カタコトで認めるしか無かった。




 結局俺は何時ものように村長から強制ストップをかけられ、恨み消しの毒草ゼリーを50個頂く事にした。


 毒草ゼリーを俺達が食べる光景に、アリスが終始ビビっていた事も追記しておこう。










 ……だけどさ、やっぱり仲間が多いとさ。

 もっともっと楽しくなるよね!


 俺が一番今日感じた事であった。

 


―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―ユッケ視点―



◆◆◆◆◆29日目◆◆◆◆◆



 俺達がゴブリンの洞窟で顧問をする事になってからほぼ1ヶ月。


 明日、生徒を置いて此処を去るという悲しいとも成長とも取れる日がやってくる。




 現在、ゴブリン達は今までの俺の習った事を生かして此処へ残ったノノア達へ教えていた。


 俺はそれを木の上で間違いが無いかチェックしている所だ。




 大半の生徒が当初アイリスが目標としていた総回避70を越えることが出来た。


 そのため、「後は己の磨き方次第」と言って教えるのを止めた。




 すると、後ろから器用に木々の枝を掴んで此方へ向かってくる者が一人。



 「ユッケ先生、俺と一戦どうですか?」

 「ケガの方は大丈夫か? エース。」



 ルーサーにかなりやられたエース。


 一昨日の夜中に目覚め、包帯をしままではあるものの、本人自らが進んで復帰を望んだ。



 「包帯の所を出来るだけ加減してくれれば大丈夫っす。」

 「そう言えば、エースから謝罪はあったか?」


 「ありましたけど……気にしてないっす。寧ろ【ピストル】っていう武器を知れた事の方がデカいです。」



 どうやら御本人はルーサーの事についてはあまり気にしてないようだ。


 後はルーサーの努力次第だろう。

 噂によれば、本人自らが願い出てゴブリン達に教えてもらってるって話を耳にした。


 今思えば、アイツ確か【勇者】の素質があるんだった。

 次また会ったらどうなっているだろう?



 「なるほど。それは安心した。」

 「でも、その休んでた分のブランクがあったら怖いんで……今日はその肩慣らしって事です。」


 「了解。此処じゃ下の奴らの邪魔になるから、付いて来い。」

 「OKっす。」



 俺達は少し移動した開けた場所へ移動した。










 「先生、手加減はしませんよ?」

 「最高数値、総回避74の腕とやらを見せてもらおうか。」


 「了解。覚悟するっす!」



 エースは木の棒を構えて俺に突っ込む。

 これは突きの構え……




 「うおっ!」




 突きをする構えの直前に方向転換し、俺の首を右から狙ってきた。


 俺は間一髪でギリギリ回避する。

 真剣だったら大抵の首は飛ぶ代物。


 (おいおい……無茶苦茶だぞ!……だが、それでいいんだ!)



 「流石ユッケ先生っすね。初見で見切るなんて。結構ギリギリを突いたんですけど。」



 エースは止めることもなく木の棒を高速で振り下ろしながらそう誉める。



 「今までに回避した奴はいるか?」

 「後はご存知の通りアイリス先生っす。木の棒だったらワザとギリギリ当たってくれて色々アドバイスくれるんっすけど……真剣だったらギリギリ当たんないんですよ。それもワザとやってるんだと。」



 真剣でやるなんてマジかよ……。

 いや、わかってはいたんだが……。


 中々教え方も上手いな。

 俺が教えた事はそんなに多くないハズだが……。



 まだまだアイリス先生とやらも成長出来そうだ。

 ついでにアイロンでモークも共にシバきあげよう。



 「フッ……そうか。じゃあこれでも食らえ! 【八連九打】!」



 俺は【剣舞】より攻撃速度は遅いが数の多い【八連九打】という技を使用する。



 当然だが素人がこれを真剣で食らったら肉塊に変わってジ・エンドだ。

 ……エース、これならどうだ?



 「ホッ! ハッ! とりゃあ!」



 エースは包帯の痛みを堪えながらも72ある全ての攻撃を回避、木の棒で弾いた。


 どうやら死にかけていた分によるブランクは無いと見える。



 「……この技は朝飯前って事か。」

 「痛いのを我慢すればどうってことないっすね。」


 「なら……もっと上を目指して見るか?」



 俺は少し後ろに後退して集中する。


 もっと上……つまり、【剣舞】の事を指す。

 今の所ゴブリン達にはチャレンジ枠という扱いである。


 3回中1回でも【剣舞】を全て回避した者には『免許皆伝』だとアイリス本人も認めている。



 「チャレンジですか。」

 「今からお前に向かって3回【剣舞】を行う。1回でも回避出来たら免許皆伝だ。」


 「やってやるっす!」

 「では、試験開始。」



 エースは鼻息を荒くしながら自分に自信を持たせた。

 余裕ぶっこいているように見えるが、実際の所はかなり緊張気味である。



 俺はタイミングを見計らって発動させる。



 「1回目、【剣舞】!」

 「とりゃあ! そい! ハッ! ……アダダダダダァ!!!」



 50発程の攻撃が【八連九打】の時よりも約2.5倍の速度で飛んでくる技を初見で全て回避するのは極めて困難。

 アイリスは初見でも難なく突破していたが、コレ自体が異常なのだ。



 案の定、エースは半分を少し超えた辺りで左足が当たってしまった。



 「ハァ……ハァ……。」

 「中断しても構わない。自分で選べ。」


 「ハァ……。まだ行けます。」



 息を荒くするエースだが、続行する。

 ……が、疲れれば疲れるほど回避能力は落ちてしまう。



 「よし。2回目、【剣舞】!」

 「………………ガガガガガアァァァァ!!!」



 今度は半分を超える前に左脇腹に当たってしまった。

 技の都合上、どうしても包帯の部分を叩いてしまうのだ。



 「……すみません。これ以上は……。」

 「そうか。明日の朝、出来そうなら俺の所へ来い。」


 「……分かりました。」



 俺はエースに赤色の回復薬を与えた後、共に語り合いながら洞窟へと戻った。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―アイリス視点―



 バルザンの羽根ペン練習を終わった俺は、軽くスキップしながら洞窟へと帰還していた。


 すると、ユッケと話すエースの姿が。


 俺を先に視界に入れたユッケが珍しい俺のスキップをからかう。



 「お、アイリス。そんなに子供のようなスキップをしてどうしたんだ?」

 「あ……ああ、別に大したことじゃないんだ。ちょっと嬉しい事が一つ出来てな。」


 「子供時代に得るはずだった楽しみを今貰ったのか?」

 「ああ。」



 本当に別に大したことではない。



 数日間の間、バルザンに羽根ペンの練習を教わってもらっていたのだが……。


 「この野郎! 上手くなったじゃねぇか!」と誉められたのだ!



 子供の頃から一人で特訓していたのは良いのだが、肝心の見てくれる大人が誰も居なかったのだ。

 お父さんは多分、俺を褒めると調子こいてミスって死ぬと思ったのだろう。




 気がつけば俺は……。

 今まで大人に誉められた事が今まで一度も無かったのだ。


 生徒に褒められても嬉しかったのは事実だが、大人に誉められる事がこれほど嬉しかったとは!




 その反動もあったのだろう。

 その喜びが抑えられない気持ちが、無意識の内にスキップを生み出したのかもしれない。



 「俺もこれからは誉められるようになればなぁ……。」

 「アイリス先生なら出来るっすよ。」



 俺の柔らかな夢をエースが後押しするように応援する。


 要は頑張り次第ってとこだな。



 「おお、そうだエース。アイリスに【剣舞】の回避の方法、聞いてみたらどうだ?」

 「【剣舞】? エース、もしかして挑戦したのか? 結果は?」

 「ダメっす。【八連九打】とは速度が段違いです。体の事もあって、2回目で止めました。」



 エースは肩を落として溜め息を吐きながらそう呟く。


 【八連九打】というのは知らないので分からないけど、確かに【剣舞】の速度は伊達じゃなかった。


 何か方法は……。


 (……そう言えば、高速で突っ込んでくるアイツの巣がちょっと先にあったっけ?)


 特訓時代に回避能力を上げるスキルアップついでにやっていたアレを思い出し、エースに提案する事にした。



 「エース、俺が特訓してた頃に回避能力を上げる手助けになったある方法があるんだが……どうだ? 此処からちょっと歩いたところにある。」

 「はい! 喜んで受けます!」



 エースは迷う素振りを見せなかった。

 さっきまでの落ち込みようが嘘のように機嫌を反転させ、頭を深く下げて了承した。


 そして話していたユッケから突然引っ張るのも野暮だと思い、エースの返答ついでにお願いする。



 「そうか。ユッケ、ちょっとエースを連れて行ってもいいか?」

 「構わん。じゃあ、俺もついて行っていいか?」



 ユッケの返答に俺は首を縦に振る。

 「よしきた。」と指を慣らしながら喜ぶユッケであった。








 午後4時。

 俺達は目的の場所へとたどり着いた。


 本当なら魔物が襲ってきても可笑しく無かったのだが……。



 「流石だな。【試練の森】のボスなのは納得だな。」



 ユッケはそう言いながら、近くの黒色蜘蛛をじーっと見つめながらゆっくりと歩く。


 すると蜘蛛を含めた全ての魔物が、俺達を見つめた後は何事も無かったかのように消えていった。


 (遂に俺達を襲わなくなったか……)



 今回の一件で【試練の森】全体が協力関係になった。

 ヘタをしていればあのバルザンの部下と殺し合いをしていたのだ。


 もう殺し合いにこりごりの魔物達は、その後もこの協力関係を崩すことなく保っている。

 俺相手に向かっていくのは無駄死にだという要素も半分あったのだろう。



 本来ならもうしばらく掛かる所も、戦闘無しで来たので思ったより早く来れた。



 「おい、エース。あれを見てみろ。」

 「……あれ、なんなんですか?」



 俺はエースに呼び掛けながら右手の人差し指をあれに向けて示す。


 エースは言葉が見つからずに首を傾げた。


 すると、長年各地を旅してきたユッケはあれとやらに見覚えがあるようだった。



 「……あれは【アタリ虫】の巣か? 随分大きい巣だが……。コイツが何か回避能力を上げる手助けになるのか?」

 「ああそうだ。……丁度良さそうだな。そろそろ帰って来るかな?」



 俺はそう呟くと、ゆっくり近付いて巣のすぐ前に立った。


 ユッケとエースが分からなさそうに首を再び傾げていると、お目当てのものが巣目掛けて空から向かってきた。

 距離およそ1000メートル程。


 (おっ? ずいぶんと少なくなったな)


 特訓時代より数は少なくなったが、速度は相変わらずのようだ。


 すると、遂にエースが俺の謎の行動に質問してくる。



 「あの……アイリス先生は何を狙って――。」



 エースが話し掛けようとしたその時、俺に向かって500程の虫が目にも止まらぬ弾丸の如き速度で襲いかかってきたのだ!



 俺はその一匹一匹を注意深く見定めて必要最小限の動きで次々と回避していく。



 虫は俺に当たらずにただ思いっきり巣へ突っ込んでいく。

 突っ込んでいく度に「ドッ!」という衝撃音が巣の中から響いてくる。



 「うおっ! なんですかこれは!?」

 「……なるほど、そう言うことか。」



 俺が久し振りの特訓していたその間、エースは仰け反り、ユッケは薄々納得していた。




 40秒が経過した頃には、突っ込んで来た虫全てが巣の中へと入っていった。


 だがその40秒という長い間、【アタリ虫】の理解不能に近い突進の回避をしていた俺は、額からダラダラと汗を掻いていた。


 軽い溜め息を吐いた俺はエースとユッケの元へと戻り、手で汗を拭いてこう告げる。



 「……ふぅ~。見たか? これが【アタリ虫】の特性だ。何故か巣へ帰る時に有り得ない速度で巣に突っ込むからその名前がついたらしい。」

 「まさか、今さっきやったのがその手助けと?」


 「そうだ。【アタリ虫】の飛んでくる速さは時速200キロから400キロ。しかも的が小さくて思いの外脆いからケガをし難いんだ。」

 「巣へ帰ってくるタイミングは分かりますか?」



 エースの質問に、俺は右手で顎を触りながら少し後に答えた。



 「そうだな……大体5~10分程度の間隔で巣へと戻ってくる。先ほどの奴らを全部回避出来たら、明日の早朝までにユッケに会って此処へ来い。」

 「はい! ……ところで、此処を皆に教えるのはダメですか?」


 「ダメだ。中途半端な者では心が折れる。ユッケの技にあるその、【八連九打】とかいう奴を回避出来たらこの場所を教えろ。」

 「はい! 分かりました!」


 「後は努力次第。俺から教えることはもう無い。明日、【剣舞】を回避出来るのを楽しみにしている。」

 「はい! 楽しみに待っていてください!」



 エースは大きな声でそう答えた。

 彼の目の奥底には、何者にも代え難い燃える何かがあった。


 是が非でも【剣舞】の回避を成功させたいのだろう。



 「遅くても24時には帰ってこい。俺は先に行く。」

 「そうか。ユッケ、村長に言っておいてくれ。『今日の飯は最後の晩より美味そうなものがあるからいらない。』ってな。」


 「……わかった。」



 俺がユッケにそうお願いすると歯を見せて笑い、洞窟へと戻っていった。


 エースは巣の前に立っていた。



 「エース、訓練が終わったら俺に声を掛けろ。23時45分になったら、俺が強制的に訓練を止めさせる。」

 「分かりました。」



 俺はそう告げたあと近くの木に腰を掛け、エースの特訓を日が暮れるその時までずっと見ていた。

 これが、回避専門の先生としての最後の授業であった。



―――――――――――――――――――――――



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