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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
98/116

第93話 新たなる道へ 後編



―――――――――――――――――――――――

~エース視点~




 ハァ……ハァ……ハァ……。




 この特訓、思ったより随分キツイっすね。


 【八連九打】を乗り越えた者のみの特訓なのは間違いないっす。



 一匹当たっただけでも電撃の走るような痛みが響いてくるのがヤバい所ですね。


 時速200~400キロで巣に戻るとかどんだけ帰りたがってるんすか……。




 特訓から2時間。

 あれから【アタリ虫】が巣へ帰るけど、まだ全部回避出来て無い。


 運が良くても2回はどうしても当たってしまう。




 俺が息を荒くして下を向いていると、アイリス先生が助言をくれた。


 先生は近くの木に腰掛け、俺の特訓をずっと見ていた。



 「エース、一回休め。練習を多くやるのは何も言わないが……かといって体を壊す程やるのは間違っている。時には見る事も成長の一つだ。」

 「……先生って、全部回避するのに何回この特訓やったんすか?」


 「80ぐらいだ。少ない回数でマスターしたいのなら……目でみて、音できいて、体で覚えろ。」

 「……はい。ありがとうございます。」



 俺は前を向けずに下を見ながら、へとへとの状態で近くの木に腰掛ける。


 アイリスが俺に近付いて緑草を手渡す。



 「だが……お前のやる気は俺に伝わってるぞ? 明日出来でも出来なくても、お前は一歩ずつ、確実に成長している。」

 「あ、ありがとうございます……。」



 俺は先生から貰った緑草を、口いっぱいに頬張る。



 苦い。

 けど、体の底からほんのり癒される感じを感じた。












 回復が終わった俺は、巣に帰ってくる【アタリ虫】をじっくりと観察していた。


 

 何回か見てわかった。

 【アタリ虫】は、巣へ一直線に迫ってくるのだ。



 【アタリ虫】は自分が予め巣の特定の場所に向かうと決めたら、もう他の場所へ変更する事が無いのだ。

 言わば猪突猛進タイプの突進である。


 (つまり、突っ込む時には既に飛んでくる位置は決まっていると言うって事っすね)




 此処で、昼頃にユッケが放った【剣舞】について考えることにした。


 (【剣舞】の技は早い。でもあの時、ユッケの持っていた物は木の棒が一本。分裂するなど有り得ない……)


 俺の予想が正しければ、ユッケは木の棒一本であの速度の攻撃を出していた事になる。




 「……ん? って言う事は……?」




 その深い思考の結果……俺はあることに気がつき、ついつい独り言を漏らした。


 (わざわざ剣を見てから攻撃を回避する必要は無いっていう事っすね!)


 その独り言を聞いたアイリスは、少し微笑んだ後にワザとうたた寝を始めた。



 まるで、ホッと一安心したかのような微かな微笑みだったのを俺は一瞬見えた。




 俺はやる気を再び燃やし、ゆっくりと巣の前に立つ。

 今更気がついたのだが、俺の立つ後ろには100を超える【アタリ虫】の死骸が散乱していた。


 (【アタリ虫】さん、すまないっす。もう少し、俺の練習相手になって欲しいっす。)


 木の棒を右手で強く握り締め、500メートル程の上空から向かってくる700程の【アタリ虫】さん達に向かって一喝した。



 「【アタリ虫】さん! 夜までに絶対回避して見せるっす! 本気! 本気っすから!」



 それに応じるかのように、【アタリ虫】が一斉に巣へと突進してきた。



―――――――――――――――――――――――



 夜23時。

 アイリスは心身共に疲れ果てたエースを抱え、ゴブリンの洞窟へと帰還した。



 村長はアイリスが帰るのをずっと待っていてくれていたらしく、アイリスの分の食事をとっておいてくれていたのだ。

 勿論、エースの分も頼んでおいてくれていた。



―――――――――――――――――――――――

―アイリス視点―



 俺はゴブリンの洞窟最後の食事に食らいつく。



 やはり最後の食事はバラライ鹿の丸焼きだよな。


 なんだかんだ、俺がゴブリンの食事で一番好きな食い物だ。

 シンプルな味付けでも食べる場所によって脂身や身の締まりなどのバリエーションがあって飽きない。



 「村長さん、ありがとうございます。明日は早いと言うのに、わざわざこんな遅くまで俺の為に起きて頂いて……。」

 「いえいえ、気にする事はありません。それと、アナタに一つだけお渡しするものがある故、待っておりました。」


 「???」


 (俺に渡す物って何かあったか?)


 と考えている間もなく、村長はとあるゴブリンを読んで何かを持ってこさせた。



 村長に呼ばれたゴブリンが1メートル程ある横に長い木の箱を、食事の邪魔にならないように俺の右横にソッと置く。

 不思議な木箱に疑問を抱いた為、聞いてみる事にした。



 「この木箱の中身は何だ?」

 「先生の目で確かめて見てください。」



 彼はそう告げると、木箱についていた少し錆びた南京錠を外す。

 そして、中身を俺に見せるように両手でゆっくりと開けた。



 ……。



 ……あっ!



 俺は中身を見た瞬間、懐かしくもちょっと不思議な気持ちに包まれた。




 中身は白い骨の片方を鋭利に尖らせた、昔俺が特訓の中盤~終盤にかけて使っていた武器であった。

 長さ91センチ。

 基本的に突くタイプの武器である。


 サングラス曰わく、

 どうやら強化魔法だけでなく、武器自体の強化までも施してあるようだ。


 ハッキリ言って強い。

 




 元々此処へ来た目的は、無くしたこの武器を入手する事だった。

 滞在中ずっと無いと思っていたら……まさかまさかの此処、ゴブリンの洞窟に保管されていたのか……通りで見つからない訳だ。


 村長は、俺に渡すまでの経緯を詳細に語ってくれた。



 「元々はアナタ達が生徒に教えてくれた褒美として渡す予定で、この贈品をユッケ殿に渡そうとしたのですが、『それはアイリスの物だからアイリス本人に渡してくれ。絶対に喜ぶ。』と言っておられましてね。」

 「それで、俺を待ったのはわざわざこの為か?」


 「はい。」



 そう言えば特訓自体の途中から、ユッケがストーカーレベルで俺の事見てたって本人が言っていたっけ?


 嬉しいのと、妙な気持ち悪さが重なり合う。

 なんとも複雑な気持ちである。



 「私達がこの武器を見つけたのは偶々ですなぁ。ちょうど1年ほど前に生徒が私の元へ持ってきましてね。所々傷付いて痛んでいたので、いろいろ強化を施して秘密の場所に保管していたんです。とは言え、秘密と言ってもただのガラクタばかりの物置みたいな部屋ですがね。」



 そして村長は、「アナタ達に教えなかったのはそのような物置のような部屋を見られるのが恥ずかしくて……。」と付け足す。



 なるほど……。

 所持者が分からなくてどうしようか困ってた所に、偶々持ち主の俺が来たのか。




 「ありがとうございます。元々、コレを探しにこの森へ寄り道していたんです。」

 「なるほど、そういうことでしたか。これはこれは申し訳ありません。この武器が持ち主の所へ戻った事に、僭越ながらお祝いをさせて頂きます。」


 「保管してくれてありがとう。」




 俺は武器、【尖った太いホネ】を入手した。

 収納魔法の中へ入れることにした。




―――――――――――――――――――――――


◆武器説明◆


 名称 尖った太いホネ

 種類 槍、剣


 効果 クリティカルで出血多量の確率上昇。


 注)必ず当てる必要あり。


    通常

    攻撃+80(+150) 早さ-15


スキル なし


―――――――――――――――――――――――




 サングラスから口頭で武器の詳細が語られた。

 更に一言付け加えて、出前店長の短剣よりは弱いが……結構強いとの事。



 出前店長から貰った短剣の詳細が、明晰のプロであるサングラスでさえも解析に時間が掛かっている。


 とある職人からそばの容器を使って特注で作った一品と言っていたが、ひょっとしたらその職人が相当な人物なのだろうか?



 まあ、閑話休題。






 あと、村長の言う物置部屋というものがちょっと見たい気持ちが湧いた。


 行っていいか聞いてみることにした。



 「村長さん、その物置部屋とかを見せて貰って良いですか?」

 「ええ、別に構いませんが……宜しいのですか? 所々に埃があり、見せれる物では……。」


 「構いません。」

 「畏まりました。食事後に御案内致します。」



 村長は頭を下げて快く承諾してくれた。






 食事と最後の毒草ゼリーが終わり、村長に案内された俺は物置部屋へ向かう事にした。


 ……とは言え、ゴブリンの洞窟の内部自体が複雑な為、今どこにいるのかはサッパリ分からない。



 村長は何処からか鍵を取り出し、モークが激突すれば余裕で壊れそうな木製の扉についている錠を開けた。

 そして、扉をゆっくりと開ける。




 中は様々な本や書類。

 銀製の壊れた部品か何かや金メッキの何に使うかよく分からないもの。


 そこには多少の埃が掛かっており、苦手な人にはちょっと近寄り難い場所だ。


 更に、四方3メートルという狭い場所に所狭しと綺麗に並べられているため、多少の埃でも絶大な威力を発揮していた。




 確かに村長さんの言う、ガラクタ部屋のようなものだったのは間違いない。



 「時間の許す限り、ゆっくり見ていってくだされ。……ゴホッゴホッ!」

 「村長さん、すみません。即刻見て終わります。」


 「いえいえ、ご遠慮ならさずに。……ですが私にはこの部屋は向かないようで……ゴホッゴホッ! 申し訳ありませんが私は部屋の前で待っておりますので。興味がありましたら持ち帰っても構いませんので。」

 「は、はい。」



 何か申し訳ない気持ちが残りつつも、村長は咳をしながらこの部屋を出ることにした。



 俺は何か興味をそそられるものはないかと、金属のものには全く興味を持たず、本や書類を軽く流してみることにした。

 様々な書類や本に目を通してみると、止まるものも多くあった。


 その止まる書類や本の多くは、所々が燃えた後がくっきりと残っており、かろうじて読める物ばかりであった。



 (……?【鉄の王国の塩不足を救え!】。って言うか結構最近の話っぽいな。って事は、ワゼリスはこれを知ってて塩を?)


 ※ワゼリスがアイリスに塩をあげた件については、第84話参照。


 (……?【残忍アカサカ!民の希望を潰すかの如くNo.5に昇格!我らの願い、無念!】。ちょっとした告発本か何かだが、この本は燃え過ぎてて字が殆どわからん。だが、ノノアの話なら……コイツがアリスの宿敵かな?多分アリスは恐らく……)


 ※第85話参照。アリスの過去を見たければ第84~86話参照。ただし、過激な表現が含まれています。


 (……?【イミルミア帝国による、大地国アースの統治の条件に関する誓約書(極秘、コピー)】。ちょっと誤字があるが、なんだか酷い条件っぽそうだから奴隷にされたんだな。可哀想に。それにしても、大地国アースって聞いた事無いぞ?どの国だ?)


 (……?【虹スライムの謎に迫る】そう言えば俺の父さんが虹スライムを見たって言ってたよな。ちょっと戦ってみたいから今後の旅の目標の一つにしよう。……うわ、コレも容姿以外は全部燃えてて読めない)


 ※詳細は第1話参照。


 (……?【イケザキに隠し子?】これはタイトルだけしかわからん。有名人の個人的なニュースのラッシュはもう御免だ)



 だが、結構色々な話がある。言わばここはある意味簡易情報の倉庫なのだろう。



 俺は気になっためぼしい書類を収納魔法の中に入れた。

 何かに使うかもしれないので、ついでによく分からない金属系も全部入れておこう。


 この部屋は俺は嫌いじゃないと思った。



 そして、全ての書類を10分程で流し読みした俺は、満足感を得てこの部屋を出た。



 「如何でしたかな?」

 「村長さん、色々見てて面白い物もありましたよ。それにしても、あの書類はどこから?」


 「ええ、近くの色々な村から出た燃えたゴミや資源ゴミからこっそり頂戴した物です。たまに摩訶不思議な本や物を持ってくる生徒がおりましてね。わざわざ返すのも人間に見つかると危険ですので、仕方なく此処に置いている訳です。」


 

 それにしても、生徒も凄い物を持ってくるものだ。

 多分ゴミの中にめぼしいものが無かったから、仕方なく適当に持ってきたのだろう。



 「そうですか。お陰で面白いものもありましたので頂きました。ありがとうございます。」

 「いえいえ、先生にガラクタを処理して頂いて此方こそ助かっております。お風呂は後ろの道を少し歩いていただくと到着しますので、お入り頂いても構いません。」


 「じゃあ、俺今から風呂に入ります。明日はお別れ……ですね。」

 「……はい。先生方のお別れ、我ら全力でお見送りの祝いをさせていただきます。」



 村長は悲しそうな表情を俺に見せまいと頭を深く下げる。


 (……出会いと別れが同時に来るなんてな)


 俺は悲しみの感情を必死に抑えながら、黙って後ろを向いて風呂へと向かった。






 大浴場の風呂をたった1人で軽く満喫し、そして部屋に戻ろうと洞窟の真ん中を少し下を向きながらとぼとぼと歩く。




 「アイリス、下を向きながら歩くなんてお前らしく無いね。」




 すると、目の前で格好つけてきた一匹が俺のこの様を見て一言かましてきた。


 格好つけはあるのだが、その言葉一言一言に何か重みを感じた。

 普段めんどくさそうに物事をこなすが、最後までやり遂げるタイプの真面目な所が浮き彫りになっているのだ。


 俺を放っておいて寝ていると思った俺には、内心動揺していた。




 「モーク……起きてたのか。……いや、別れってちょっと辛いんだなと思ってな。」

 「片方が死んだ訳じゃないから別にいいじゃん。生きてたらまた会える機会があるって。」


 「……もし、俺達がアイロンで死んだらどうする? 二度と会えなくなるぞ?」

 「そんなの別にどーだっていいじゃん。アイリスの死を弄れる他人がこの世界にいるの? そもそも【臆病者】って言われたくなけりゃ、これから何かでっかい事すればさ、誰も憂さ晴らしに大口叩けないじゃん。」


 「……お前も良いこと言うな。」

 「だってそーじゃん。今までバカにしてた奴らに何時かさ、『【臆病者】は【臆病者】じゃ無くなっちゃった。どーよべばいいの?』って言ってやる位の人間になろーよ! それを目標に特訓してたんじゃないの?」



 真面目に語るモークの話は真っ当で、俺の願っていた最初の夢を覚えていてくれた事に感動を覚えた。


 俺はそれを「間違ってない。寧ろ当たってる。」とばかりに軽く高笑いする。



 まるで悲しんでいた自分を忘れるかのように……。

 まるで自分を勇気づけるように……。




 「……ハハハッ。モーク、立派にアドバイスしてくれてありがとう。お陰で心残りが消えた気がする。」

 「じゃあ明日超早起きだし、寝よ?」


 「そうだな。明日からはアリスを含めて、4人で冒険だ!」

 「レッツ冒険♪ レッツ冒険♪」



 モークは俺が元の俺になった事を見ると、何事も無かったかのように軽いタイプに早変わりする。




 だから俺はモークを嫌いにならなかったのだろう。

 寧ろ一緒に居ると、妙な安心感とやらがジワジワと湧いてくる。


 めんどくさがりやで口の聞き方はちょっと酷いけど、やる事は決して砕けずに最後までやり遂げる。

 そんな性格と誰でも気楽に振る舞う姿に、俺はどこかで励まされているのだろう。




 そして俺はモークと軽くアイロンの事について議論(というよりも到着したら何食べたいか)を交わした後、部屋に着いた。

 ゴブリンの洞窟最後の夜である。



 「アイリス、おやすみ~! Zzz……。」



 部屋に着くや否や、モークは燃料切れでも起こしたかのようにそう言って布団に倒れ、ものの数秒足らずでいびきをかき始めた。


 わざわざ俺を待つために待っていてくれていたのだろう。

 だが、それにしても酷い。


 (うわ!うるさっ!っていうか俺こんな状況で良く起きなかったな)


 やっぱり気楽過ぎてたまに迷惑な、何時ものモークであった。










◆◆◆◆◆30日目(最終日)◆◆◆◆◆



 朝5時30分。

 夕日が上がらずに底冷えが体に響くこの真冬の朝。


 「ドン!」と荒く扉が開く音と共に、俺達を起床するメンバーのご斉唱?である。



 「起きてますかー!!! モーク!!! アイリス!!! おーきーてーまーすーかー!!!」



 ユッケによるモーニングコールである。

 今日は最終日の為なのか一段と声がデカい。



 俺はギリギリで起きたが、モークは極楽の中へご招待中だ。



 「黄色魔法レベル3、【雷球】!」



 そこへ、現実へ叩き落とすユッケの強制目覚ましが炸裂する。

 随分手加減しているが、モーニングコールにしてはちょっとどうかと……。


 冷たいものに耐性があり、熱いものにも耐性があるモーク。

 雷とかのそっち系はどうだろうか?



 「アババババババ!!! 痛っ! 何するの……ってもう朝?」

 「おはようモーク。この俺の大声で起きないから強硬措置を取らせてもらった。有り難く思え。」


 「朝から魔法をマトモに食らって『有り難い』訳無いじゃん!」



 色々軽く揉めたが、効果は抜群である。

 モークが途中でガクッと寝落ちする事は無さそうだ。




 俺とモークはユッケの指示で御世話になった部屋の片付けをせっせと行う。


 俺達がコレをやり始めている頃には、多分アリスもユッケに叩き起こされていることだろう。



 布団をたたみ、


 普段着に着替え、


 狭い隙間に入り込んだゴミや虫などを麻のゴミ袋に入れて縛り、


 火鉢に残った灰や薪の燃えカスを火の始末に注意しながら壺の中へ入れ、


 薪の数が適正かどうかを見てから綺麗に薪を整頓し、


 村長から貰った魔術本を麻の紐で縛り、


 最後にユッケからの鬼レベルのチェックを3回程やり直しされてようやく了承してくれた。



 了承された頃には、俺とモークの部屋は前の状態よりも少し綺麗になった位にまで落ち着いた。



 「よし、最後にこの部屋に『御世話になりました』と言った後に電気を消せ。俺達の冒険の思い出になるように、しっかり頭を下げろ。」

 「「御世話になりました。」」



 俺もモークは2人で頭を深く下げた後、色々と思いのあるこの部屋の電気を消した。



 もう此処に残した後悔は無い。



 そう言い聞かせるように、少し強めに消した。



 「……よし、村長の所でゴブリン洞窟最後の飯を食うぞ。俺はアリスの部屋の掃除を了承次第、村長の所へ向かう。お前らは先に食べておけ。待ってても構わん。」

 「わかった。」



 俺とモークは先に村長の部屋へ向かう事にした。










 部屋に着くと村長は頭を深々と下げていた。

 最後の食事の挨拶である。



 「朝早くからおはようございます。アイリス殿、モーク殿。生徒達の成長振りをずっと端から見て感動致しました。アナタ方に出会えて良かったと心から思っております。」

 「ああ、此方こそ衣食住を頂いて御世話になりました。大変素晴らしい冒険の思い出として心の中に残るでしょう。」



 俺も村長に頭を下げて感謝を述べた。

 30日も美味い食事を食わせて頂いたのだ。



 「僭越ながら冒険に役立つかと思い、このような物を手土産にどうぞ。」

 「「!?」」



 村長はゴブリン達を読ぶ。

 呼ばれたゴブリン達は布を被せられたら状態にある、80センチもある大きな壺4つを持って俺の前に置く。


 そして、村長の「開けなさい」というのを合図にゴブリン達は布をどかす。



 中身は4つは食料、

 もう一つは娯楽であった。


 1つ目はゾンビ牛の干し肉。

 2つ目は寄生虫を完全に取り除いた生のゾンビ牛。

 3つ目は【試練の森】で採れた果物や野菜であった。

 4つ目は【朱の騎士団】から貰ったパン。

 5つ目はあの香味草とパイプ4つである。


 ……非常に助かる。

 これでしばらくは食料に困らなくて済みそうだ。



 「遠慮なく、お受け取りください。」

 「やったー!!! めーし! めーし!」

 「ありがとうございます。頂きます。」



 モークの飯関連のテンションの上げ方は尊敬の念すら覚える。



 俺は軽く頭を下げると、収納魔法の中へ全て入れる。


 あとは、返さなきゃならないものがある。

 初日に貰ったあの本である。



 「あの……初日に貰った魔術本と翻訳本です。お返し致します。」

 「どうですか? 全て理解しましたか?」


 「いえ、まだ3割程です。それに、理解した大半が魔法陣が難しくて……。」

 「そうですか。では、その本はアナタにあげましょう。」


 「……良いんですか?」

 「魔術は人の心に大きく影響する魔法。アナタのような、偏見にとらわれずに種を越えてでも仲良く出来るような者が持つ者でございます。」



 まさか貰えるとは思っても見なかった。


 此処まで言われればこれ以上「返す」のも悪い。



 「……ありがとうございます。日々精進して参ります。」

 「何時か天にも届く魔術とやらをお見せ願いたいものですな。勿論、破壊行為は禁忌ですぞ?」


 「「アハハハハ!!!」」



 俺達は


 天にも届く魔術とやらを見たい……か。

 面白い。


 強くなったら何時かやってみよう。



 笑い終わったタイミングで、丁度ユッケとアリスが村長の部屋へ入室する。


 俺はユッケに村長から貰ったものを詳細に説明した。



 「そうか。……ありがとうございます。」



 事情を聞いたユッケは頭を下げて感謝を示す。

 食料問題は冒険中のパーティーでは死活問題になりかねない。


 食えない金より美味い食い物の方が重要なのだ。



 そして、この間にノノアと箱を持った数人の付き人が入室する。



 「アイリス殿。ワゼリス様とバルサン様からお祝いの手紙を貰っております。どうぞ。」



 バルサンとワゼリスは残念ながらル・レンタンでとある一大プロジェクトをやっているようで、此処へ来れないらしい。

 ……が、両者がわざわざ俺らの為に手紙を出してくれたらしい。


 後で読もう。



 「それと、バルサン様が冒険の必需品とばかりにコレをお持ちいたしました。開けなさい。」

 「「畏まりました。」」


 

 付き人が箱を開けた。

 中身は回復薬と魔力回復薬。


 しかも全部黄緑色。

 それがそれぞれ20本。


 普通に買ったら何枚金貨がいるのだろうか?


 ※色による回復の性能の違いは第2話参照。



 「ありがとう。アイリスが喜んでいたとお伝えください。」

 「はい。」



 俺は計40本もある回復薬と魔力回復薬を収納魔法の中に入れた。


 気を見計らって、村長が手を大きく叩いてこう告げた。



 「さあさあ! 折角お偉い様方がお集まり頂いた所で、ご馳走を頂こうではありませんか!」

 「さんせ~! 食うぞ~!」

 「だな!」

 「おいモーク! 皆の分も食べんじゃないぞ? 程々にな!」

 「おなかいっぱいにしたいし。」

 「カボチャのスープでるかな?」


 

 村長の呼びかけに個性派揃いの返答で返す。


 そして、女ゴブリン達が大皿と小皿。

 取りスプーンとスープを運んで俺達の前に置く。



 朝食だと言うのに、初日運びこまれた食事よりもいくつか追加されていた。



 冬カボチャのスープは当然追加。

 パンも追加。

 まさかのゾンビ牛炭焼き(塩)。

 フルーツ各種。


 そして、俺とモークとユッケには毒素ゼリー。



 ゴブリンの洞窟最後の飯に相応しい献立であった。

 モークが終始見ていられないほどの気持ち悪い顔でトロン顔をしていたのは、最早俺達にとっては恒例の行事である。










 食事が終わった俺達はお別れ会に出る事になった。



 生徒達に会う最後の時間でもある。

 ついでに言うと村長から、エースが不在だと聞いた。


 理由が何となく理解出来た。



 そんなエース不在の中、

 最初に俺が壇上に立ち、ゴブリン達に最後の別れを告げた。




 「おまえ等は良く頑張ってくれた! 全員、総回避70を突破してくれて俺は嬉しく思う。おまえ等のその数値は、俺達にずっと付いてきてくれた証だ。その証を踏み台にして、もっともっと高みを目指してくれ!」

 「「「アイリス先生、今までありがとうございました!」」」


 「よく頑張ったな! お前らの成長を見て俺は沢山の勇気を貰った。お前らでこのゴブリンの村を守っていけよ。」

 「ありがとうございます! ありがとうございます! うっ……うっ……!」




 何人かのゴブリンは我慢出来ずに涙を流す。


 こんな俺の為に涙まで流すのか……と考えると、何だが嬉しくも悲しい気持ちになる。


 だが別れを繰り返して人は勿論、ゴブリンも強くなる。

 また何処かで出会えることを夢見て……その上を目指すのだ。




 「泣きたかったら今は泣け。いっぱい泣け。泣いた分だけ、おまえ等は強く……勇敢になれる。最後に……俺の為に泣いてくれてありがとう。」




 俺はゴブリン達に向かって頭を下げた。

 同時に、ゴブリン達は泣きながらも盛大な拍手を貰った。


 嬉しかった。

 心の底から認めてもらえた気がした。






 そしてユッケが壇上に立ち、最後の別れを告げる。




 「皆! たった1ヶ月の間だったが、おまえ達の授業は楽しかった! 回避だけじゃなく、それぞれの得意とする分野をこれからもとことん身に付けて欲しい! 最後になるが、先生から一生懸命頑張るお前らに……特別な魔法を見せてやろう!」

 「「「???」」」


 「【序位魔法・虹光『改』】!」



 ユッケが魔法をゴブリン達の上に飛ばす。

 序位魔法とは特殊魔法の



 すると虹色に輝く7筋の光発生し、茶色で染められたこの辺り一面を虹色に照らす。


 虹色に光輝くこの様は幻想的で心が奪われそうであった。


 ユッケ……流石粋な事をする。

 この魔法にゴブリン達は涙を流しながら喜んでいた。






 「それではこれにて、先生方のお別れ会を終了したいと思います。生徒達は最後に先生方に礼をしてください。」

 「「「今まで、ありがとうございました!」」」



 1分程の幻想的な光を浴びた後、村長の合図でゴブリン達が頭を下げて俺達に最後の感謝を述べた。



 「それでは、先生方は出発なさってください。」



 俺達は村長に案内され、出口に向かう穴へと向かった。



 「アイリス先生、ありがとう!」

 「ユッケ先生! ありがとうございます!」



 ゴブリン達は俺達に別れの挨拶と感謝を、俺達が見えなくなっても飛ばし続けた。


 そんなお別れに答えない俺達じゃない。



 「皆~ありがとな~!」

 「頑張れよ!」



 俺達も大きく手を振ってゴブリン達が見えなくなるまでお別れをした。








 「ありがとうございました。またどこかで会える日まで楽しみにしております。」

 「此方こそ村長さん、今までありがとう。」


 「それでは先生方。さようなら。」

 「「「さようなら~!」」」



 村長さんとは入り口軽く最後の別れをした。



 ちなみにモークは途中から抜けて、自ら出向いてきたノノアさんに最後の挨拶をしていた。


 モークに助けられてから、ノノアさんにとっては「命の恩人」だと言う。

 救われた者にとってはそれが魔物であっても関係ないのだろう。




 そんな悲しくも清々しい数分後。


 俺達がモークと合流し、アリスの所へ向かおうと思ったその時。

 それは起こった。



 「ユッケ先生! 【剣舞】挑戦したいっす!」



 1人の生徒が突然行く手を阻み、ユッケに向かってそう言い放った。

 生徒は木の棒を右手に持っている。



 「エースか、お別れ会に居なかったのはこれか。……良かろう。ただしラストチャンスだ。失敗したら次は何時になるか分からん。」

 「それでもいいっす! 俺が出来る最大限の事をしてきたっす! 挑戦したいっす!」


 「よし、お前のその思いに応えてやろう。付いてこい。」

 「ありがとうございます!」



 ユッケは少し開けた所まで移動すると、収納魔法から木の棒を持って構えた。


 エースも何時でも大丈夫と言わんばかりに気合いを剥き出しにする。



 「よし、1回目……【剣舞】!」



 ユッケから凄まじい数の連撃がエースに降り注ぐ。


 (……おい!行けるぞ!)


 俺がそう思ったのも無理は無い。


 エースはその速度を読み切り、一撃一撃を回避したり棒で弾き返していた。



 「アバババババ!!!」



 ……だが後半でまだ治療中の所に木の棒が当たってしまい、8連撃のダメージを食らう。



 「もう1回っす!」



 最後まで諦めないのがエースの基本となる性格。

 この選択は当然であろう。



 「じゃあ、2回目……【剣舞】!」



 再びユッケの連続攻撃がエースに襲いかかる。




 その時、エースの目が変わった。


 (……!あの時、俺が本気を出した目と同じだ!絶対に死なないって思ったあの時の!)

 

 まるでユッケの攻撃を数ミリで避けているかのようだった。

 「お前の攻撃は全て見切った。」と言わんばかりに、次々と木の棒を使わずに回避していた。


 そして、後半も危ない所のみを木の棒で受け流し……。





 「……合格だ。」





 ユッケがそう呟いたその時、ユッケの放った【剣舞】はエースに一度も当たることなく50回の連続攻撃を終えた。




 「あ……! あ……! あ……!」




 あまりの綺麗な回避にエース本人も動揺と喜びを漏らす。

 ガタガタと体を震わせ、両手に持っていた木の棒をコトリと地面に落とす。


 その表情を見つめながら、ユッケはにこやかな表情でエースにこう告げた。




 「【剣舞】を全て回避した。アイリス、そうだな?」

 「ああ、間違い無い。」

 「ああ……ああ……!!」


 「免許皆伝、おめでとう。よってエースに最後の褒美をやろう。」

 「せ……先生! 俺……俺!」


 「怪我の治療中にも関わらず、昨日はよく頑張ったな。これからは、お前が生徒達を引っ張って行くんだぞ!」

 「は…………はい!」




 エースは涙の後、ユッケのお願いを快く承諾した。

 フッと微笑んだユッケは収納魔法から80センチ程の赤色の剣を取り出してエースに渡す。




 「これは俺達の試練を乗り越え、更に免許を皆伝した最初に送る予定だったものだ。最後まで諦めなかった燃えるような闘志を持つ、エースが持つ方が相応しい。受け取れ!」

 「あ……ありがとうございます! 俺、頑張るっす!!!」




 エースは跪き、両手でユッケから剣を貰った。

 そしてそのまま頭を下げて感謝を述べた。




 「今まで、ありがとうございます。アイリス先生、ユッケ先生!」

 「……安心した。これでお前らの未来も安泰だな。さて、俺達はもう行くか。最初に出て行ったアリスが待ちくたびれているしな。」

 「僕、コレばかりは流石に見直したよ。ゴブリンってこんなに立派で、素敵な魔物なんだね。」


 「さあさあ! 行く手を塞いでて俺達が先生に迷惑だ。とっとと行くぞ!」




 俺達はさらに満足した表情で、早々にアリスのいる所まで早足で歩いていった。


 エースが先生になった以上、俺達が此処にいる利点は無くなったからとっとと立ち去った。






 案の定、アリスは頬を膨らませて大鎌のメンテナンスをしていた。



 「遅いよ~! 何してたの?」

 「悪い悪い。ちょっと寄り道してたんだ。」


 「ふーん。それで、後悔はしてないの?」

 「いや。寧ろスッキリした。」


 「じゃあ、アイロンまでは私が案内するー。」

 「道、間違えたりしない? すっごい不安なんだけどさ……大丈夫?」


 「だっ……大丈夫! 元々アイロン出身だよ私!」



 モークの鋭い質問にアリスは激しく動揺する。


 (ハハハ!アリスが加わって余計に新鮮だな!)


 久し振りにサングラスの出番だな。

 俺は収納魔法からサングラスを取り出し、掛ける。


 緑色の世界へと変わった。



 サングラス、【鉄の王国アイロン】までの最短ルートを道のりを正確に教えてくれ。


 俺達が無理そうなら他の道でも構わん。



 《了解。目的地、【鉄の王国アイロン】までの最適ルートを分析……成功しました。案内に従ってください。》



 「だからさ、何年前に来た最短ルート覚えてるの?」

 「覚えてるわよ! そんな事!」


 「だったら、今からどの方向行けばアイロンへ行く訳?」

 「えーっと、それは……。」



 モークとアリスが勝手に物議を醸しているタイミングで、俺は皆にこう言い放った。




 「皆! サングラスが正確なマップを示してくれている。俺に黙って付いてこい!」




 格好つけた皆の反応はどうだろうか?



 「さんせー! 安心だね。」

 「わ……ワイルドカードずるい。」

 「反論なし。ついて行こう。」



 誰も言い返さなかった。













 【試練の森】のゴブリン達とは別れたものの、新たにアリスが加わった。


 モークに似た口調。

 レベル約140の13歳。

 訳ありの元【カニバリズム】。




 別れて出会う。

 冒険とは皆そんなものである。



 俺達の冒険は、始まったばかりだ!!!



―――――――――――――――――――――――

※これにて第2章、第3章が完結致しました。

 此処からは第4章に入りたいと思います。


 【鉄の王国アイロン】で待ち受けるものとは……

 因縁の相手であるアカサカにアリスはどう立ち向かうのか……


 乞うご期待!!!





 タイトル修正しました。

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