第89話 仮RGB連合特訓隊完成
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―アイリス視点―
◆◆◆◆◆24日目◆◆◆◆◆
朝8時。
この日も先日と同じ【グルドの森】の中心に、同じ人達で会議が開かれた。
今回の話し合いはノノアさんが大いに関わる話である。
【朱の騎士団】の一部をこの【グルドの森】に滞在させようというのである。
目的はそう、戦力強化。
俺達の教えをたった1ヶ月足らずである程度受け継いだ生徒達が、今度は【朱の騎士団】達に教えるというものである。
そのためには、生徒達が人間を迎えいれても大丈夫なのかを確かめる必要があった。
村長さんが出した条件は生徒達の賛成9割以上である。
だが、一つ大きな問題があった。
ルーサーが模擬戦争で勝手な行動をしてしまった為、生徒達が持ちはじめた信頼が落ちてしまったのである。
「ルーサー以外にもそう言う心を根に持っている人間がいるのではないか?」と生徒達は警戒したのだ。
大丈夫という保証も危険という保証も無い。
「……先日の夜、私は全ゴブリンの意見を取りまとめる事にしました。結果……。」
「……。」
村長さんは机の上に用意してあった紙を持ち上げ、読み上げた。
ワゼリスとノノアは結果を黙って聞く。
だがそこに緊張感は無く、両者諦めの表情であった。
「全ゴブリン433体。賛成378、反対55。比率約85.4%……よって、我々【ゴブリン軍団】は【朱の騎士団】の参入の許可を不可と決定する。」
「……分かりました。決定であれば仕方ありませんなぁ……。」
「……ですが! 彼の一件があったとはいえ、ノノアさんの功績は大きい。8割を越えただけでも充分な成果です。」
「……?」
ワゼリスは不可という言葉に酷く落ち込んだ。
だが、村長さんが放った言葉に顔を上げて眉をひそめる。
「よってゴブリン達の提案が多くあがった案で取りまとめを行った所、賛成412の反対21で可決されました。」
「……はて、その意見とは?」
「ノノアさんが信頼出来る最大20名程のメンバー達だけ、【グルドの森】滞在を許可しましょう。勿論、ノノアさんも此処へご参加ください。」
「!!! ゴブリン村長殿! 感謝致します!」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、礼なら後で生徒達にいってくだされ。生徒達はあなた方を見捨てた訳ではありません。寧ろ、この数値は期待している証拠です。」
諦めていたワゼリスとノノアは頭を下げて村長さんの慈悲に感謝した。
数百名程から最大20という大幅減少は痛いが、それでもゴブリン達が受け入れてくれた事が嬉しかったのだろう。
こうして【朱の騎士団】の一部は、この【グルドの森】で滞在することを許可された。
しかし、それで終わらないのが村長さん。
今度はバルサンに交渉を持ちかけた。
「あと、もう一つ。バルサン殿。あなた方も私達と訓練をしていきますかな? 闇取引か何かで、命の取り合いをする機会が多いのでしょう?」
「まぁ……否定はせん。だが、俺達はお前らとドンパチするハズだったろ? 信頼してねぇんじゃねえか?」
「いえいえ、生徒達はあなたのご勇断に感謝しておりますよ? おかげで此方も死者を出さなくて済みました。」
「だが、俺達の方はこの一件で死んだ奴が居る。ローズっていう男だ。多分、お前らのどっちかがやったんだろう?」
……えっ?
俺はてっきり、両者死なずに済んだと思っていたが……。
ゴブリン村長は少し目を見開き、左手で顎を持って考え込む。
そしてハッと何かに気がついた村長さんは、目を閉じてしばらく黙り込んだ。
そんな思考を一瞬の間に考えていると、ノノアはバルサンに頭を下げた。
「バルサン殿、申し訳ありません。ローズさんを殺したのは私です。」
「……ほぅ。本当にそうか?」
「はい。間違いありません。」
「お前はウソを付いているな?」
「!?」
「多分お前のレベルは70後半、ローズのレベルは96。単純なレベル差でもかなり辛ぇ勝負だ。しかもローズの回りにはモフモフした茶色の毛が落ちている。……誰かを庇っているな?」
ノノアはバルサンの推理に口を曇らせる。
ノノア以外の誰かがやったんだろう。
でも、一体誰が……。
「ごめんなさい! ローズは俺が殺しました。」
すると、ノノアの影から一匹のモフモフした茶色の魔物が出て来た。
ソイツがバルサンに向かって謝ってきた。
……モークじゃん。
俺はモークを呆気ない顔で凝視する。
今まで、聞かされていたかった反動で大きく衝撃を受けた。
村長さんはモークを見つめて黙ったまま成り行きを見守る。
「お前か?」
「……はい。」
「何故勝てた?」
「相手の武器が刃物だったからです。ローズさんの攻撃が俺のモフモフのせいで殆ど通用しなかったからだと。」
「なるほど……どうして殺した?」
「あの夜、俺はあなた達の組に宣戦布告の紙を出す予定でした。あなた達の組の場所が分かったのは、【朱の騎士団】のお陰で……ノノアさんが付き添いとして同行しました。その途中で、ローズさんにたまたま出くわしてしまって……。」
「……で?」
「このまま見過ごせばノノアさんは勿論の事、【朱の騎士団】はあなた達の貴族さんによって解散させられます。全ては2800人を守る為に殺りました。」
バルサンはモークの言葉を聞いて、黙って考え込む。
(此処は俺が出るか……。)
俺は席を立ち上がり、モークの隣まで移動する。
そして、俺はバルサンに頭を下げた。
「……え? アイリス……なんで?」
モークは戸惑いの顔を隠せず、つい素の口調へと戻った。
「バルサン、済まない。」
「アイリス、お前がどうして俺に謝る?」
「俺の仲間である以上、この一件を知っておくべきだった。……だが俺は今聞かされた。パーティーのリーダーとして、責任は俺が持つ。」
バルサンは黙ったまま、右手の人差し指でトントンと机を叩いた。
どんな返答をされるかは分からない。
1分もたたずして、バルサンから返答が返ってきた。
「……アイリス、俺と一緒にちょっと表へ出ろ。」
「分かった。」
俺はバルサンと共にこの話し合いの場から立ち去った。
そして、少し歩いた所の小さなスペースまで来ると、バルサンは俺に聞いた。
「俺達は別に、ローズを殺された恨みがあるっていう訳じゃねぇ。あの時の事を考えりゃあ、アイツらも下手すりゃ死んでただろうしな。仕方ねぇ。」
「……ありがとうございます。」
俺は頭を下げて感謝する。
すると、バルサンは俺に指を指す。
「だが、お前に一つ聞きたい事がある。」
「なんですか?」
「どうしてお前はあのモークタンを庇った? レベルが高ぇ珍しい奴だっただけじゃ理由にならん。どうして仲間にした?」
モークタンを仲間にした理由がどうしても聞きたかったのか。
うーん……話せば長い。
もうちょっと簡潔に話せないかと思考を巡らせた結果、俺の口から出たのは僅かな文字だった。
特に恥ずかしくなった訳ではない。
ただ、素直に……正直な思いである。
「その……モフモフしてかわいいから。」
「か……可愛い? ……そうか。確かにそう言えば、『可愛いは正義』って理由は色んな所から聞くしな。」
呆気にとられたバルサンは数度席をして困った顔をする。
(ちょっと聞きたかった事とは違ったかな?)
素直に、正直に答えたつもりだったが……バルサンの困った返答に俺はどうすれば良いのか分からずに軽く硬直する。
すると、バルサンは大きく笑った。
「大したガキだ……お前と勝負できて光栄だったぜ。」
「……? バルサンさんも滅茶苦茶強かったです。」
俺はバルサンの意図が分からなかったものの、バルサンの事を褒める。
正直あの戦いはもうやりたくない。
村長さんの言っていた【野蛮道】でもギリギリの勝負だった。
もしほんの少しでもミスれば、俺は先に地獄へ行っていたのだろう。
「兎に角、ローズの事はお前の面子で大目に見てやる。モークをもっと見てやれ。アイツがどんな奴になるかは、お前の舵で決まる。」
「はい。ありがとうございます。」
「……これ以上長居は待っている奴らに迷惑だ。……戻るか。」
「はい。」
結局、俺とバルサンの話し合いはこれで終わった。
「モーク、お前のやってしまった罪を許そう。アイリスが顔を立ててくれたお陰だぞ?」
「……ありがとうございます。」
「ノノア・リリー。仲間を庇うのは非常に綺麗なんだが、嘘を言ってまで罪を被る必要は無い。例え恩人相手だとしてもだ。他の奴に同じようなヘマをすんじゃねーぞ?」
「ありがとうございます。バルサン殿。」
席に付いたバルサンはノノアとモークの一件を軽く流した。
モークは俺にちょっと尊敬の眼差しでうるうると見つめている。
(俺、モークをかわいいとバルサンに言っただけなんだけどな……)
俺は熱く伝わってくるモーク目線をワザとそらしながら、秘めた真相を心のなかでボソッと口にした。
そしてすぐ、バルサン自らが本題へと入ることにし、村長さんに持ちかけてきた。
「ゴブリン村長殿、俺は別に構わん。寧ろこっちから願い下げ案件だ。単純な戦力強化には、色々とこの森はうってつけだろうしなぁ。」
「ええ、あなた達の技術を更に磨く場としてお使い頂ければと思っております。追加の取引がありましたら何時でも御自由に。」
「そいつはいい……よぅし! 乗った! 俺もその部隊か何とかに乗らせてもらおう!」
村長さんのサポートが気に入ったらしく、バルサンは勢いの余り席を立った。
余程興味が湧いているようだな。
「ありがとうございます。」
「……で、俺達は何人まで此処へ滞在できる?」
「100名程までなら生徒達と揉める事もありますまい。しかし……それ以上はお控えください。」
「100!? 充分多いじゃねぇか。」
「そうですかな? バルサン様も此処へ残られるという条件も付きますが……。」
「そんな条件でいいのか? 俺は別にその気になれば何時でもル・レンタンと此処を行き来できる。」
なんだかこの【試練の森】が凄いことになってきた気がした。
(今日を含めてあと6日足らず……か。此処で1年過ごすのも無しじゃないけど、アリスとの約束だからな)
残っても言いような気はしたものの、結果は同である。
俺達はあくまで【冒険者】なのだ。
そして、村長さんはバルサンに一枚の紙を渡してこう告げた。
「あと……その他ゴブリン達に勝手な危害、罵声は止めて頂きたい。以上の条件にご了承なら、此方の誓約書にサインして頂きたい。」
「おい、ペンを出せ。」
「畏まりました、バルサン様。」
バルサンは紙を渡されるなり、側近の部下から貰った羽根の先に黒のインクを付けて紙に記入する。
鉛筆の方が書きやすくて良いのだが、羽根のペンだと上手い下手の区別が嫌と言うほど分かる。
ただ、個人的には鉛筆よりカッコイイ気がするのは何故だろうか?
(……字上手っ!相当練習したんだろうか?)
そんな上達のレベルがハッキリわかる羽根ペンだが、バルサンの字はほぼお手本のような字を紙に書いていった。
「随分お上手な字の書き方ですなぁ。」
「これか? 昔はそうでも無かったんだが……他の組の奴らに字を見られて陰口叩かれてな。ソイツらを見た俺の部下達が悔しそうな顔をするのが、なんだが申し訳無くてな……。」
「やはり字は上手く無ければならなければいけないのでしょうかな?」
「稀にそう言う所に敏感な奴がいてな……取引で舐められる事がある。それで取引がパァになるからとんだ厄介者だぜ。」
そんな軽い話をしている間にも、バルサンは見事な腕で組合の名前と自分の名前を書ききった。
それを、村長さんに提出する。
インク漏れ
掠り
止め
跳ね
払い
力の加減
その他羽根ペンの様々な難所を難なく突破していた。
正直30分ぐらい見ていたい気分である。
そんな目をキラキラさせる俺を見たバルサンは俺に提案をして来た。
「どうした? そんな目でオレの字を見つめるとは珍しい奴だなアイリス。お前は羽根ペンを使ったことはあるのか?」
「いや……鉛筆を使ってる。」
「ああ、そう言えばあったなぁそれ。どうせ此処に居るのは1週間もねぇんだろ? そんな目で他人の字を見つめるより、自分の字に惚れるようになってみねぇか?」
「えっ? それってつまり……。」
「俺で良ければ短期間だけ教えようか? 別に金はいい。久し振りに俺を燃え上がらせる勝負が出来た、あの時貰った戦闘を代金として取ってやる。つまり……一種のサービスって訳だ。」
「お願いします!」
俺は頭を下げた。
正直羽根ペンだとカッコイイと思うが、字がヘタな俺は出来ないだろうと疎遠していた。
しかもタダ。
話に乗らない理由は無い。
「よし! 今日はこの一件で無理だが……明日の13時に俺の所へ来い。」
「ありがとうございます!」
今日って言われたら断っていたが、明日だったので少しホッとした。
(モークが勝手にルーサーに喝いれたお陰で、今日ルーサーの所に行かなくちゃ行けないんだよな……アリスの説得に時間掛かったから有り難いけど)
俺達が話している間、村長さんはワゼリスと軽く話し合っていた。
そして、この部屋の皆に向かって大号令を放つ。
「ではこれにて、【三組合連合軍】という名で部隊を発足し、各組合の戦力強化と団結力の向上を目指す! 特訓の期限は1年とする! ワゼリス殿、バルサン殿。何か異論はありますかな?」
「いいえ。我ら【朱の騎士団】は【三組合連合軍】を歓迎致します。」
「俺達も大賛成だ。」
「有り難う御座います。明日、【三組合連合軍】の発足式を此処で執り行います。各々が信頼する者達を集めて、ゴブリンの洞窟の前まで来なさい。これにて解散!」
これにより、【三組合連合軍】という他では絶対見られない変わった組織が完成した。
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