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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
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第88話 それぞれの夕焼け



 先日の夕方、アイリスがアリスと語っていたその日、ワゼリスとバルサンはとある会議に出席していた。

 場所は【朱の騎士団】のキャンプ場である。


 【ゴブリン軍団】には村長とモークが出席した。


 一体それは何か?




 戦後の後処理。

 言わば、戦犯の処罰である。



 「本日は皆さん、私共の処罰会議にお集まりにご参加いただきありがとう御座います。バルサン殿、気長にご覧頂きたい。」

 「構わん。俺もその捕まった奴に聞きたい事が山ほどある。」



 外に設置された高級感溢れる木製の椅子に座りながら、ワゼリスは感謝を述べた。


 その隣に座っているのがバルサンである。

 バルサンは干し肉を食いながら足を組んでただただ前を見つめていた。


 更にそのバルサンの隣でゴブリン村長が素朴な木製の椅子に座っていた。

 その膝の上に、村長の好意でモークが少し恥ずかしそうに座っていた。




 ワゼリスの側に控えるのはノノアとロガー、エリス。


 バルサンの側は黒色のフードを被った精鋭の男2人。


 そして、ゴブリン村長にはモークが護衛としてついた。




 【朱の騎士団】と【ル・レンタン組合専用取引所】の兵士達が、真ん中の道を開けて両端で立っていた。

 罪人がこの真ん中を道から此処へ向かってくる。


 (……下手すりゃ、俺もこの道を通らされるハメになっていたのか……ゴブリン村長のせいでもあり、ゴブリン村長のお陰かもしれねぇ)



 もしもああしていたら、こうしていたら……という想像を、周囲に悟らせないようにメシを食いながら膨らませる。


 今頃自分は首を飛ばされる立場に居たのかも知れないと考えると、バルサンは少し肝を冷やした。



 「では、一人目の処罰と参りましょう。連れて来なさい!」



 ワゼリスが数回両手を叩く。


 すると、数人の兵士に紐で無理矢理引っ張られながら真ん中の道をよろけながら歩く姿があった。



 兵士は彼をワゼリス達の目の前まで来させ、跪かせた。

 彼は喋れないように布で口を覆われていた。



 「ワゼリス様、只今つれて参りました。」

 「うむ。……それで、その口を布でどうして覆った?」


 「勝手な行動をしてしまい申し訳ありません。その……暴言や雑言を吐いて暴れるので、ワゼリス様の機嫌を損なわせぬよう、このような処置を取らざるを得ませんでした。」



 兵士の発言に彼は兵士を鋭く睨んだ。


 「今すぐ殺してやる」とも言いたげな、激しく湧き上がる殺意を兵士は感じた。


 だが兵士は揺さぶられる事無く、ずっとワゼリスを見つめていた。



 「ふむ、それならば仕方ありませんね。では、布を取って頂きたい。」

 「畏まりました、ワゼリス様。」



 兵士はワゼリスの命令に従い、彼の布を取った。



 「……ツッ! わ……ワゼリス様!」

 「エドワルト・ルーサー。どうしてお前がこの道を歩かされたか、お分かりでしょうか?」


 「そ……それは、何というか……その……。」

 「何か言いたいのですかな? 遠慮せずに言ってみなさい。」


 「俺は……昔、魔物に親を殺され……。」

 「うむ。その説明は随分前に全部聞いた。」



 彼……ルーサーは、ワナワナと震えながらワゼリスを見る。


 ワゼリスは「それと何の関係がある?」とでも言いたげであった。



 「そ……その、ですから……魔物の中に、本物の武器を持った物がいたのでつい――」

 「馬鹿者!!!」



 ワゼリスは怒りの余り席を立って怒鳴った。



 「私はお前達に『本物の武器は持つな!』とあれだけ警告したハズ。どうしておまえだけがあの時本物を持っていた?」

 「そ……その……。」


 「言い訳は不要!!! 私が何より許せないのは、そんな魔物を殺しまくろうという私情を持ち込んだ結果……お前は何を忘れたと思う?」



 ルーサーは下を向いたまま黙って首を横に振った。


 ワゼリスは大きな溜め息を吐くと、悲しげな表情のまま椅子に座ってこう告げた。



 「……信頼ですぞ、ルーサー殿。アナタに対する信頼も、部下がアナタを頼った尊敬も、アナタは勝手な行動で全部水の泡になってしまった。」

 「……。」


 「失った信頼はそう簡単には取り戻せない。アナタは魔物を殺すという欲にとらわれ、部下を見殺しにしようとしたのです。」



 実際、ルーサーの行ったことは許されざる行為であった。


 危険を承知でゴブリン達の裏をかこうと濁流に身を任せた。一緒に付いていった部下数十人が飲み込まれ、死ぬ寸前であった。


 あの時ゴブリン村長が助けていなければ、ルーサーは模擬戦争で数十人失う無益な大損害を被るハメになる所であった。



 アリスと実績を取り合った程の優秀なリーダーが、危険な綱を一緒に歩ませようとしたのだ。

 信頼が0まで落ちたのは明確であろう。

 


 「アナタは自分の事を信頼して付いてきてくれた人に向かって、どのように謝るのですかな? この一件は非常に重いですぞ?」

 「……申し訳ありませんでした。」



 ルーサーは頭を地に付けて深く謝罪した。


 その言葉には反省の念が深く籠もっているのを誰もが感じた。


 (本能のままにやったとは言え、母親を魔物に殺されたらそうなるよね。ちょっと気持ちわかるかも)


 特に昔の境遇が似ているモークはルーサーの気持ちを良く理解出来た。



 親を誰かに殺されて、ソイツの前で「おはよう」と全ての感情を押し殺して挨拶出来る人間は、どれくらいいるのだろうか?








 パチパチとかがり火の音が聞こえるだけとなった場の中、ワゼリスは判決を出すことにした。




 「……エドワルト・ルーサー、長考をしてしまい済みません。只今より、判決を下します。」

 「はい。如何なる処罰もお受け致します。」




 ルーサーはやつれた表情でただ目の前の地面を見つめていた。


 そんな様子を気にする事なく、ワゼリスは判決を言い渡す。




 「本日を持って、【朱の騎士団】の脱退することを命令します。」




 「脱退」という言葉を聞いたルーサーは顔を上げて動揺した。


 (死罪では無く、だ……脱退?)



 「お……お待ちくださいワゼリス様!」

 「オイ! 罪人は跪け!」



 ルーサーは納得出来ず、慌てて立ち上がる。


 しかし側に居た兵士は、ルーサーが立ち上がらないように無理矢理抑えつけた。


 罪人は必ず跪かなければならないという常識があるからである。



 「どうか……どうかそれだけは!」

 「どうしましたか? これでも私の慈悲で斬首刑を見過ごした所ですが。」


 「斬首刑なら喜んで受けます! 【朱の騎士団】のまま死ねることこそ有り難き幸せ!」

 「了解しかねますな。もう決めた判決は覆りません。素直に認めなさい。」



 ワゼリスは首を縦に振ることなく、自分の決めた判決を無理矢理押し通すことにした。



 「ワゼリス様! ワゼリスさまあぁぁぁぁ!」



 ワゼリスの思いを汲み取れず、ただ脱退という単語を突き付けられたルーサーは右手を突き出して彼に救いを求める。



 「ゴブリン村長殿。後の事は彼を任せます。宜しいでしょうかな?」

 「ええ、構いません。」


 「兵士達! 罪人をゴブリンの洞窟まで連れていけ。」

 「「「畏まりました、ワゼリス様!」」」



 そんな哀れに嘆き悲しむ姿を晒す事が耐えられなかったワゼリスは、ゴブリン村長に後を託して兵士達に命令された。


 そしてルーサーは次々と何かを叫びながら、数人の兵士達に引っ張られながら連れ去られていった。




 「あ、村長さん。僕、おトイレ行きたいから席外していい?」

 「トイレというより、ルーサーの件ですかな?」


 「……ぴんぽーん、何時もだけど鋭いね。」

 「ホッホッホ! 構いません。ついでにおトイレでも行っておきなさい。」


 「中々気張って戻れないかも知れないけど、りょーかい!」




 それから少し後、思い出したかのようにモークは村長にお願いをする。


 許可を貰ったモークはすぐさまルーサーの元へとぴょんぴょん跳んでいった。






 「さて、次の人物をお呼びしましょう。」

 「次は誰だ? 俺が知る限り、この戦争でデケェ罪背負った奴なんて居ないハズだが……。」


 「バルサン殿。アナタも最近よく知る人物です。」

 「俺が? ……まぁ、さっさと呼んでくれ。」



 バルサンは頭を抱えながら考え込むが、特に見当たらなかったので諦めることにした。



 「では、連れて来なさい!」



 ワゼリスが兵士達に指示をだし、奥から一人の罪人が血反吐を吐きながら連れられてくる。



 バルサンはその顔と姿を見て、衝撃の余り席を立つ。



 「フレッド?」

 「……ええ。」



 何か言いたげの表情を残しながら、ワゼリスはバルサンの確認に首を前に倒す。


 (そりゃそうか。元々【朱の騎士団】を潰そうって強く言い出したのはコイツだからな。それに、【朱の騎士団】での言動が過ぎるとの報告もあったから幾度も警告したハズだが……)


 バルサンは薄々納得したのか、目を少し長く瞑って席を座った。

 腕と足を組んで物思いにふけた。




 フレッドは跪かせられると、意気消沈したようで頭を地面と垂直にさせた。


 そして、絶望したような表情でワゼリスに助けを求めた。



 「ワゼリス……ゴフッ! た……助けてくれ。」

 「……申し訳ありませんが、ゴブリン村長曰わく『不可能』との事。」

 「この状態ですと、もう既に腸の中で卵を産み、大量に寄生しておられますなぁ。助かる道は微塵も無いかと。」



 フレッドはマトモに喋ることすら出来ず、数匹の寄生虫と共に軽く吐血する。

 今のフレッドは、寄生虫に中からモゾモゾと食いちぎられている状態だ。



 そんなフレッドを見たワゼリスは苦い表情を崩さずに答え、更にゴブリン村長がとんでもない発言をして追い討ちをかける。



 ワゼリスは溜め息混じりの声でフレッドに告げた。



 「フレッド殿、私はアナタの事を最後の最後まで信じておりましたが……。これ以上、私の我が儘で部下達を傷つけることはできません。誠に申し訳ありませんが、新しい人生で素晴らしい人生を歩んで頂きたい。」

 「こ……これは……ゲフッ! き……貴族を……殺すのか?」


 「現在、今までのアナタの悪事が公に出ております。王はたいそう御立腹だったそうです。死刑をお望みとの事。」

 「……ゴフッ! ゴホゴホッ! ……今まで嘘で丸めて来た見返りという訳か。」



 フレッドは王の怒りを受け、目をつぶって今までの行いを少し悔やんだ。


 するとバルサンがフレッドの所へ近寄り、とある質問を始める。



 「一つ聞こう。茶色のモフモフしたモークってやつの捜索の件で、お前は西門を任せたハズだ。部下達はそもそも来なかったという発言らしいが……お前はモークを見たのか?」

 「……いいえ。」


 「だが、モークはワゼリス達と共に西門から出たらしい。どうしてモークを見なかったのか、説明してくれ。」

 「……。」



 フレッドは黙ったままビクとも動かなかった。


 死んでいないハズなのに、生きている活力が抜けているようだった。



 そんな状態にもかかわらず、フレッドは気合いで口を動かす。



 「……お……俺は……ゴホゴホッ! ち……遅刻した……。」

 「……そうか。お前から理由を聞けて良かった。少なくとも、行く意志はあったのか。結果がこうなって良かった。」



 バルサンは色々思いつつも、納得したような顔付きをしながら椅子に戻って足を組んだ。


 (あばよ、フレッド。ただただ金の為に闇の世界へ突っ込むんじゃねぇぞ……)


 バルサンの心中は、どこか仕方のない気持ちに包まれた。








 ワゼリスは目をつぶって、フレッドに判決を告げる。



 「フレッド殿、お主は斬首といたす。お覚悟は……出来ておりますかな?」

 「は……ゴフッ! ゴフッ!」


 「執行係、構えろ。全処理班は寄生虫の排除を頼みます。」 

 「「はい。畏まりました、ワゼリス様。」」

 「……。」



 フレッドはもう答える事すら出来なくなった。

 このままでは、おびただしい寄生虫がフレッドの体中を突き破り、激痛のまま体が弾け飛んでしまう。


 実際ゾンビ牛による寄生虫で死んだ者達は、どれも肉片と大量のニョロニョロする生き物にすげ替わっていたという……。



 ワゼリスは早急に処刑するため、執行係を呼び寄せて構えさせた。

 寄生虫の処理には専門の処理班を側に控えての、万全の体制を整える。



 「わ……わ……ワゼ……リス……。」

 「……最後の言葉ですな。何でしょうか?」



 フレッドは最後の力を振り絞って、ワゼリスに何か話そうとしている。


 ワゼリスはまるで今だけは聞きたくなかったと言わんばかりの哀しい顔を大きくする。




 「す……すま……な……かった。」

 「…………斬れ!!!」




 最後のフレッドの言葉の後、ワゼリスは全ての感情を押し殺して執行係に斬首を命じる。



 執行係はワゼリスの命令通り、剣をフレッドの首目掛けて全力で振り下ろした。



 「ガッ!!! ドッ!!!」



 フレッドの首は、中にいた数匹の寄生虫もついでに胴体から離れて地面に落ちた。

 空へ噴き上がる血飛沫と共に、近くにいた寄生虫達が空へと投げ出された。


 フレッドの周りは、虫と鮮血の色へと染まった。

 それと同時に、彼の周りにへばりついていた黒紫色の何かが抜けていくのが確認出来た。



 寄生虫の侵入を恐れたワゼリスは早急に処理班に命令を下す。



 「……全処理班に告ぐ、フレッドの死体や全ての寄生虫を皆に見せないように処理しろ。死体は丁寧に扱い、私が事前に指定した場所にある棺桶の中に格納しろ。葬式は明日の昼に行う。」

 「「「はっ、了解しました。」」」


 「それと執行係、事前に分かっていたとは言え……急な処刑を頼んで済まない。何かおかしな事があれば私の所へ来なさい。」

 「ワゼリス様。お気遣い、誠に感謝致します。」



 執行係はワゼリスに感謝してその場を立ち去り、処理班はフレッドの周りに人を立たせ見えないようにした。




 「……おい、ワゼリス。ホントに……これで良かったのか? ホントは救いたかったんじゃないのか?」




 処理班によるフレッドの死体を処理している途中、バルサンは複雑な思いを乗せてワゼリスに聞いた。


 フレッドとワゼリスの関係を外部から知る者として、聞きたかったのだ。




 「……これも運命。団長が私情ばかりでは組合を動かせません。しかし、私情を入れて部下達を困らせてしまいました。説得出来なかった私は、その罪を背負って生きていかなければいけません。最後のフレッド殿の言葉は、とても哀しいものでした。」

 「……そうか。……俺だって直接この手で多数の人間を殺してきた。哀しいぜ……皆とメシを食うためと言い切って躊躇いもなく魔法撃っちまうんだ。」


 「人間を失うことは、悲しいですな。」

 「ああ、間違いねぇ……。」

 



 バルサンとワゼリスはそれぞれの気持ちを思いつつも、どこか悲しげでわだかまりの残る結果となった。



 そして、フレッド処刑から数十分後。

 死体と全寄生虫の処理が終えたのと同時に、処罰会議はひっそりと幕を閉じた。



―――――――――――――――――――――――

~ルーサー視点~



 兵士に連れられた俺は、黙って彼らに引かれながら森の中を歩く。


 両手を縄でガチガチに縛られ、後ろには屈強な兵士が3人……逃げることは出来ない。




 心の外は皆そう見えているのだろう。

 ルーサの奴がやっと大人しくなったと。


 だが、心の中で俺は発狂していた。






 ……ああああああああああああああ!!!




 ……この俺がぁ!

 このエドワルト・ルーサー様が【朱の騎士団】脱退?



 ワゼリス様の命令にずっと従ってきた俺様がぁ……脱退だと!?



 若くして【朱の騎士団】の10の中でずっと努力してきたのに……いきなり脱退!?




 ……ふ……ふざけんなあぁぁぁぁ!!!






 心の中ではこう思っていても、口には出せなかった。


 ワゼリス様の悪口に他ならない。


 (いや、俺の目標はまだ終わっちゃいない。母の敵であるダークワイバーンを殺すチャンスは幾らでもある)


 心に篭もる大いなる殺意を持ったまま、ゴブリンの洞窟へ向かっていた。


 (手始めに、ゴブリンを幾らか殺して経験値でも貯めるとするか。少々手強いが、俺のレベルで無理矢理押してみせる)


 その矛先は、ゴブリンに決める事にした。




 


 ゴブリンをぶっ殺そうと考えたその直後、後ろからぴょんぴょんと跳びながら此方へ向かう何かが来るのを感じた。


 茶色のモフモフした糞モンスターだと見てわかった。



 だが、兵士は剣と槍を構えて茶色のモフモフを警戒する。



 「何者だ!?」

 「アイリスんとこのモーク。ルーサーくんとちょっと話したいからいいよね?」

 「!?」



 さっきまでの態度とは打って変わってそれぞれ兵士が槍と剣を収めた。


 コイツらとゴミ魔物が知り合いだと?



 「お……おう、モークか! 本拠地で見た時とは違ってデカくなったか? 特殊変異体魔物ユニークモンスターかと思ったぜ……。」

 「ああ、それはその……いろいろあって。」


 「そのいろいろが早過ぎなんじゃないか?」

 「うん、そう。」



 モークはぺったんこになって兵士の思いに同情していた。



 それより、何の用事で俺様に来た?

 俺は見下すような視線でモークを見つめてこう言った。



 「茶色のモフモフの糞魔物であるモークタン如きが、俺様に何のようだ?」

 「君がクチの悪いルーサーくんね。ちょっとしたアドバイスを伝えにきただけ。」


 「ゴミ以下の糞魔物が格上の俺様を生徒扱いする気か?」

 「……さっきから口悪いよ? そんな口調じゃ皆に嫌われちゃうんじゃない?」


 「黙れ。ゴミのお前に適当な呼び名と態度をしただけだ。」



 俺様の理屈を聞いたモークは、「あっそ。勝手にやってね。」という捨て台詞を吐いてそっぽを向いた。



 「俺がこんなザマだから余裕をぶっこいてるのだろ? ああ?」

 「別に。ゴミ魔物ってバカにしてる君のほうこそ、僕に滅茶苦茶余裕ぶっこいてない?」


 「この俺様がお前如きに怖じ気づくとでも? 俺様のレベルは100、お前は1。この差こそがお前らがゴミ以下って呼ばれる所以だ。」

 「僕が1? ふーん、君にはそう見えるんだ。知識ゼロとバリバリの先入観だらけでおめでたいね!」



 モークはニコニコしながら体を左右に動かしてそう言う。

 随分と舐めた態度をとっているようだ。


 (なんだコイツ……。妙に隠れてる殺気のようなものが微かに見え隠れしているんだが……)


 だが、その行動はかえって恐怖を覚えた。



 「そんなに試したいなら、今此処で軽くドンパチしてもいいけど?」

 「言ったな……?」

 「おいおいモーク、俺達の気持ちも考えてくれよ。」


 「責任はボクが取るよ。それに、コイツ嫌いだから一発痛い目あわせる。モークタンをこんなに差別する人間久し振りに見た。ソイツに剣渡して。」

 「わかったよ。」



 モークに堪忍した兵士は、俺の縄を解いた。



 兵士から剣を貰った俺は、いち早くモークタンに向かって走り出す。

 そして、俺は剣でモークに斬りかかった。



 「死ねぇモーク!」

 「【カゲヲアヤツルモノ】!」


 「……は?」



 ……が、モークはアッサリと回避し木の側で地面から下に落ちて消えていった。

 俺は訳がわからず唖然の空気に包まれた。



 だが、所詮は何処かへ瞬間移動するタイプの弱スキル。


 俺はどこからでも襲いかかって来るのを防ぐ為に、ゴブリンと同じ技を使った。



 「【神よ、我に自然の力を与えたまえ。悪しき魔物、我が代理となりて葬りさる! ・雷光の剣】」



 剣は雷の力を纏った。

 そして俺はその剣を地面に突き刺す。


 辺りの地面は雷が潜伏する罠へと変わった。


 (何処だ? 何処に居る?)


 俺は木の辺りをくまなく探す。






 ……クソ、数分見たが全くわからん。

 モークの色と木の色が同化していて、人の目では判断が出来ん!


 だとしたら魔法を使って……!?



 「【魔力球】……【重量化】!」



 気が付けば俺の上には、直径4メートル程の魔力球が落ちてきていた。



 「グハアッ!!!」



 俺は魔力球の重さで地面へ体を叩きつけられた。

 あまりのダメージに俺は血反吐を吐く。


 頭からの直撃は本能で避けたが、重さ150キロ程から逃げられることは出来なかった。



 魔力球が役目を終えて消えた直後、俺の所へ更にもう一発放つ。



 「【水球】!」



 直径30センチ程の水球が落ちてくる。


 それだけ。

 それだけなのに……。


 その水の球が俺の体に命中すると、凄まじい爆発が起こった。



 「バアァァァァン!」

 「ギャアアァァァァァ!!!」



 俺は断末魔の叫びと激しい痺れの後、気を失ってしまった。



―――――――――――――――――――――――



 この日の夜、ワゼリスはワインを飲んでいた。

 少量な故、顔を赤くする程度である。


 酒に強いワゼリスだが、直属の使用人でも飲むのを見た事はほとんどない。


 

 ワゼリスは酷く落ち込んでいた。

 それを少し穴埋めするための飲酒である。


 昔の友を思い出し……黄昏ていた。


 (フレッド殿……昔はこうやって酒を飲み交わしていましたなぁ。酒の弱いアナタはムチャをして酔ってしまい、何時も使用人を口説いてましたねぇ……)


 ワゼリスは中身の入ったワイングラスをゆっくり回し、夕日が沈む景色を見ながらワインを口に運ぶ。


 (スッと喉に通りますなぁ……苦味もコクも香りも全部。どうして事が済んだ後は、こんなにも平常でいられるのでしょう?)


 ワゼリスは涙を流しながら、その一杯のワインを時間をかけて飲んだ。



 もう、フレッドと昔の友のように飲む事は……もうないのだ。


 






 一方の【ル・レンタン組合専用取引所】のメンバー達は、ゴブリン洞窟から100メートル程の森の中に臨時テントを張って滞在していた。


 今後の予定が粗方決まり、明日に備えてゆっくり解散とワゼリスからの話もあったが、どうにも何かわだかまりが残る結果となった。




 バルサンは机の上で考え込んでいた。


 そこへ、彼の悩む姿を見た一人の幹部が心配して声を掛けた。



 「バルサン様。随分と落ち込んでいられますが……何かありましたか?」

 「……俺達は、フレッドを改心出来なかったのか?って考えたら、なんだかフレッドを責められなくなってな。……正直な所、お前はどう思う?」



 元はと言えば、フレッドは彼らにとっては戦犯でしか無かった。


 寝坊によってモークをスルー。

 部下への横暴過ぎる態度。

 的外れ過ぎる意見の無理矢理提示。

 【朱の騎士団】での目立った行動。


 あまりの酷さに、フレッド処刑の報を知った一部の人間は歓喜し友と喜びを分かち合ったほどである。




 しかし、それでもバルサンは腑に落ちなかった。

 自分が努力していればフレッドを変えられなかったのか?と。



 その質問に、幹部はあくまで一人の意見として素直に答える。



 「人というものは何でもいます。バルサン様を慕う私達が居るのもあれば、そうでないものもいるのは……残念ながら0ではありません。」

 「……そりゃあそうだな。」


 「人間って目上から何かを学ぶ時って、本気で慕う気持ちがあれば本気でその人物から学ぼうとし、そうでなければ嘲り罵る。フレッド殿はバルサン様の気持ちが理解出来なかったのでしょう。」

 「つまり、俺が説得しても理解出来なかったじゃなくて……理解しなかったって事か?」


 「はい。個人的な意見ですが、恐らくそうではないかと……。」

 「なるほど、スッキリした。」


 「ありがとうございます!」



 バルサンは目を瞑って考え込んだ。


 (もっと上に立つには、人に慕われやすい人間になれって事か。表の世界も裏の世界も)





 「名前が無い人間を救ってやりたい。」




 嘗て親父に言われた思いを背負っていく思いであったバルサンは、考えされられた気分がした。



※不備修正

 終盤部分の棒線を削除しました。

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