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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
92/116

第87話 アイリスは語る



 過去の私がふと浮かんできた私。


 そこへ、再びウザイ女ゴブリン……じゃないわね。


 私は入ってきた存在を確認するために軽く脅す。



 「しつこいわねぇ! その気になればこの檻へし折れるけど。」

 「……おお。それは逆に見てみたい気もするな。」



 返答してきたのは男の声。

 それも、どっかで聞いた声。


 ユッケじゃないとすれば……。



 「……誰? もしかして……アイリス?」

 「そうだ。改めてこんばんは、アリス。」


 「敵であるアナタがわざわざ此処へ何の用? 無いならとっとと出てって貰える?」

 「用があるから此処へ来た。それに、俺は別にお前に対して敵対心を持ってたわけじゃない。昨日の敵は今日の友、そうだろ?」


 「……(何言ってんのコイツ)。」



 そんな事を心の中でグチっている間、アイリスは収納魔法から鍵を取り出す。


 ……えっ?

 収納魔法?


 何でレベル40のコイツが持ってるの?



 そんな疑問をすっ飛ばすかのように、アイリスは檻の鍵を開けて中へと入る。


 そして、扉を開けたまま私に話かけた。



 「……どういうこと?」

 「此処からは話し合いの時間だ。ゆっくり話して悩みでも解消すればいいと思ってな。テーブルは……コレで良い。」



 ……何よコイツ。

 とっとと死ねば良いのに!


 私はアイリスが下を向いた瞬間に右足で蹴り下ろす。

 普通なら虚を突かれて食らうハズ。



 ……でも、アイリスはそういう普通枠の人間とはかけ離れていた。



 まるでその攻撃がわかっているかのように、少し顔を引いてギリギリ回避した。


 足は地面に着地し、ドーンという衝撃音を鳴らす。

 でも、土に一切のヒビは入らなかった。

 多分魔法か何かで衝撃を吸収されてる。


 首を戻したアイリスは私を鋭く見つめた。



 「おいおい、人の話は最後まで聞けよ。学校とかで習わなかったのか?」

 「ど……どこでこの攻撃見てるのよ!?」


 「見てるって……見てたけど。」

 「見てないじゃない!」


 「はいはい、わかった。それから……しれっとパンツ見えてたぞ。女の子ならそう言う所、気にするんだろ?」

 「……キャッ! 見ないでよ!」


 「パンツ凝視する男が多いと聞いたことはあるが……俺は興味が無い。安心しろ。」



 私は早々に右足を引いて恥ずかしい部分を慌てて隠す。


 この頃、荒い行動のせいで他人についついパンツを見せてしまうことに恥ずかしさを覚え始めていた。



 そんな光景を見て飛び上がるほど興奮する獣臭い男達を見て来た。


 だけど、アイリスには無かった。


 そもそもそんなのどうでもいい。

 失せている感じがした。






 アイリスはそんな事など一切無視して用件を伝える。



 地べたにアイリスが収納魔法からだした小さなテーブルを置き、お互い向かい合わせ。

 私は胡座、アイリスも胡座で座った。


 アイリスは両手をテーブルの上で組み合わせてこう語る。



 「俺達はとある一件でノノアさんと親しくなってな。当然ノノア・リリーは知ってるよな?」

 「うん。色々あって、今は仲良し。」


 「俺はノノアさんからアリス。お前の過去を聞いてきた。」

 「それが何だって言うの? 『やっぱり人間のお肉を食べるのはダメだから今度から止めよーねー。』なんて言って、いい子に育つようにサポートでもするつもり?」



 アイリスは私の質問に首を横に振ってこう言い放った。



 「まだ19歳で独り立ちもヒヨッコの俺如きが、地獄から独り立ちして生きてきた13歳の女の子に生活の仕方を教えるのか? ……俺はアドバイスをしに来たんだ。」

 「アドバイス? 私の何をアドバイスするの?」



 私は心の中に眠っている気持ちを無理矢理押しつぶし、余裕の表情で見栄を張る。


 それを見たアイリスは一転、大声で笑い出した。



 「アッハハハッ!」

 「な……何が可笑しいの?」


 「どうして見栄を張る? それが本当の気持ちか? 無理矢理本当の気持ちを押し殺して、どうやって幸せになる?」

 「!? ……どうしてそれを?」


 「お前が邪魔扱いしていた女ゴブリンがちゃんと見ていた。お前が目を覚ましてからも食事に一切手を付けず、指で地面に何か書いてるって報告が来てる。」

 「……。」


 「そんなに落ち込んだ事情があるのなら、誰かに話せば良かったんじゃないか?」



 私は頭を垂れ、木製の机と地面を見つめた。

 そして地面の土に大鎌を描いた。



 ぐうの音も出ない……。



 幾らアイロンを心底恨んだからって、アイロンによって苦しんでいる人間を躊躇い無く殺しちゃったのは悪い事……。


 他の人よりも強くなったのは良いけど……結局私はこの5、6年間、

 人間のお肉を食べてただ強くなっただけ。



 「まぁ……アリス、お前がそうなるのも無理は無い。アイロンのミスで両親が死に、今度はアイロンの人間が愛猫を殺した。俺でもアイロンをぶっ潰したくなる。」

 「そうよ……でも、当時の私は子供。全く力が無かった。気づいちゃったの、人肉を食べるとかなり強くなるって。」


 「人間を殺したという自覚はあったか?」

 「始めは凄く躊躇ったけど、そんな事忘れちゃった。慣れってすごいよね。」


 「ほー……良心あるじゃないか。」



 私はアイリスの最後の発言に目を向ける。

 「えっ? どうして?」という疑問がそうさせたの。


 アイリスは私の反応に気付き、こう語る。




 「一方的に人間を殺す場合、普通の凡人はずっと罪悪感に付きまとわれるんだ。心の奥底に眠っている良心が、『止めて!』ってずっと叫んでるんだろうな。」

 「……。」


 「お前の場合アイロンって言う敵対する奴がいたから、尋常じゃない罪悪感をゴリ押しではねのけたんだろうな。」

 「うん、多分そうかな。」


 「だが、いかなる理由があっても人殺しはダメって言うのが一般的だな。かと言って魔物殺したらダメって言わないのは、俺にとっちゃ意味がわからんが。」




 アイリスは大きく深い溜め息を吐く。


 (レベル40程度の力で私の攻撃を殆ど受け流していた。回避能力と根性が尋常じゃなかった)


 私はいままで気にならなかったアイリスの何かを感じた。



 アイリスも、私とは違った辛い人生を歩んで来たんじゃないかなぁ……。


 気になった私は聞いてみる事にした。



 「アイリスさんは……どんな人生だったの?」

 「俺か? 魔物を殺しまくった人生だ。お前より辛い道は歩んでいない。だが、強くなるためにしたという目的は同じだな。」


 「いつから魔物を殺しまくったの?」

 「8歳の頃からだな。10年ぐらいか? この森でずっと特訓していた。」


 「どうして強くなりたかったの?」

 「モークタンを殺せなかったという理由で、周りから【臆病者】と言われた。単に見返したかっただけだ。」



 モークタンって事は、子供が最初に剣を握るあれだよね。


 私はお父さんとお母さんが死んじゃったし、この時から既に人肉食べまくってたけど。



 「だが、俺はこれで良かったと思っている。俺が情を捨てきれずに殺し損ねたモークタンは今……仲間になったモークだ。」

 「えっ!?」



 私はモークという言葉を聞いて驚いちゃった。



 「俺の両親をバカにすんじゃねぇ! 俺はモークタンに生まれて後悔もしてねぇ!」



 ってあの時の私にそう言ったっけ?

 何だかデカくてヘンなモークタンだったのは覚えている。



 ちょっと酷いことしちゃった……。


 ※第63話参照。



 アイリスは目を少し長く瞑ると、目を大きく開いて私に助言した。




 「この世界の今、『人を殺すな』なんていっても結構やってるんだよな。躊躇無く殺す奴もいるのに、子供のお前が罪悪感に押し潰されるのが見てられないんだ。」

 「だったらどうするの!」




 私は強い口調でアイリスに思いをぶつける。



 どうせ……言うんでしょ?

 今まで私は陰口で散々言われてきた。


 言うことは皆同じ。



 この時までは、そう思っていた。




 「もし、自分に罪の意識があるのなら……どんな事があっても地獄まで生きろ。自殺なんてしたら地獄の世界で殺した奴らに永遠に袋叩きにされると思え。」

 「!!!」


 「あとは、自分みたいな状況を抱えてる奴らをたくさん救ってやれ。それが……生きている間に出来る『償い』の一種だ。」




 私はアイリスの発言に身体を震わせる。


 『生きろ』?

 『救え』?


 意味がわからなかった。

 そもそも、人を沢山殺して生きろといった人間は……私の中では殆ど居なかった。



―――――――――――――――――――――――


  

 当時アイロンにいた私は大人のひそひそ話を沢山耳にした。


 皆、意見はたった一つ。

 「『人喰い鬼』死刑になれ!」だった。


 当時、インターネットと呼ばれる不特定多数の人間がとある話題に付いて様々な意見を出し合う場所があった。




 「最近、この街でヤバい奴が出たらしい。」


 「何々? ウワッ!? 『人喰い鬼』? マジ気持ち悪い。死ねばいいじゃんww」


 「全く……狂ってやがる。早く祟りか何かで死んでくれ。」


 「捕まって死刑以外だったら許せねぇな!」


 「10人以上だぜ……死刑確定乙ww」


 「親は誰だ? 犯人捕まったら特定斑宜しくww」


 「現場の写真持ってるから、場所特定して知り合いの研究員に送っておきます。」


 「おお良いじゃん。」


 「それにしても……一体どんな教育をしたら此処まで歪むのか?」


 「どうせ虐められてたぼっちなんだろ? 八つ当たりでやったんじゃねwww」


 「アイロンさん。早く捕まえて死刑にしてください。」




 ……私の気持ちなんかお前らにはわからないでしょ?と思っていた。


 ……酷いよね?



 私はただ……強くなるために……強くなるために必死で生きてきたんだよ?


 ホントはずっと……辛かったんだよ?



 誰も私の気持ちを理解してくれない。


 誰も聞いてくれない……。

 誰も信じてくれない……。



 罪悪感もそうだけど、誰にも信じてくれない方がもっとつらかったの……。


 

―――――――――――――――――――――――












 でも、アイリスは違った。

 アイリスは『生きろ』と言ってくれた。






 救われた。


 今まで張り詰めていた魂が抜けるような、解放された気分がした。






 でも、『生きろ』の本当の意味は思っていたのとは少し違った。


 アイリスはこう付け足す。




 「言っておくがお前の場合、何としてでも『生きる』っていうものは楽じゃない。寧ろ今すぐ『死ね』っていった方がマシな選択かもな。」

 「……どうして?」


 「世間の一般人が『そうですか、頑張って生きてください。』とでも言うと思うか? 批判と雑言の嵐間違い無しだ。」

 「あっ……。」



 ずっと見てきた経験から考察すると、どう考えても世間一般人の選択はアイリスの言う通りであった。


 私は意表を突かれた。


 『生きろ』という選択肢は、楽な道じゃなかった。


 アイリスは更に続ける。




 「それでも生きて、自分のように困ってる奴らを救えるようになれば……悪口を言う奴は居なくなると思う。まぁ、遺族側の悲しみは消えないがな。」

 「……。」


 「まぁ環境がアレだったからそうであって、ホントの『人喰い鬼』は間接的にアイロンだったというのが俺の意見だ。」




 だんまりの私を見て頭を掻いたアイリスは、収納魔法から何かの延べ棒を取り出す。


 それは何の変哲もないサングラスだった。


 あれ?

 このサングラスって……。



 まぁいい、ほっとこ。




 「お前に一つ提案をしよう。俺は今此処の洞窟に済んでいるゴブリン達の先生をやっている。一週間たたずして俺達は【鉄の王国アイロン】へ向かう。」

 「……それがどうしだの?」


 「どうだ? 俺達に付いていってアイロンに意見を言ってみるか?」

 「……えっ!?」




 意外な提案。

 私は両手にテーブルを付け、身体ごと前屈みになってアイリスを凝視する。



 アイリスの仲間になれ?

 こんな殺人鬼の私を?



 しかも……行き先は私の人生を狂わせた国。

 ……アイロン。


 【朱の騎士団】へ戻れば、私は批判される。

 単独行動が仇となったからね。


 ワゼリスは許しても、たぶん幹部達が黙っていない。




 それと、アイリスがどうなるのか見てみたい。


 魔物に殺される身となるのか。

 はたまた、有名冒険者になるのか。


 見てみたい気がした。




 「いい機会だと思うんだが……試しに突っ込んでみたらどうだ?」

 「突っ込む途中で死んだら意味ないじゃない。」


 「まぁそれも人生だ。俺達とアイロン、どっちも正義の旗振りまくって、どっちが本当の正義かを決める。死者が出ても仕方がない。両方必死でやってるからな。」

 「イケメンでもないフツーの顔の割には、そーとーえげつないこと言うじゃん。」


 「生きている【環境】が、そういう頭の考え方させた。異論は無い。これが俺……【臆病者】、アイリスの人生。」




 アイリスはワザと私から目をそらし、そう言った。


 彼にも私にも響く、その【環境】という言葉。


 それを何事も無かったかのように滑稽に話すアイリスを見て、私はだんだん羨ましくなった。




 加入したいのは山々。


 大変そうだけど、そうじゃないと人生なんてつまんない。



 ……でも、私はアイロンから追われている身。


 私はともかく、アイリス達を巻き添えにしてアイロンへ飛び込むのは危険。


 ……やはり、ダメかな?



 「ちょっと待って! 実は私、アイロンから追われてる。私が付いていったら、アナタ達も同罪だよ?」

 「同罪? それがどうした?」


 「……! ……どういう事かわかってるの!?」



 アイリスはまるで魔王ように微笑んだ。


 滑稽ににやける姿は何処か堂々たる佇まいであり、私の背中がブルリと震えた。


 (今の何?身の毛もよだつほどの感触……)



 それに対し、私は強い口調で問い詰めた。

 



 デメリットしかない私を連れて、何がそんなに笑っていられるの?


 そんな心配をよそに、アイリスはこう告げた。




 「一人で罪なんか抱え込む必要は無い。俺達も罪を一緒に背負ったらいい。少なくとも……お前が大人の女になるまでは、な!」

 「!!!」


 「罪からは絶対に逃げられる事は出来ない。罪を犯した者のすべき事は……逃げずにその罪と【向かい合ってみる】こと。その誠意が本気ならば、神様って言うやつも流石に目を向けてくれるんじゃないかな?」

 「向かい……合う?」


 「そうだ。ずっと逃げてちゃダメなんだ。」




 アイリスは大きく両手を広げ、強い口調で歓迎した。




 私は未だかつてない程心を揺さぶられた。



 戦闘の時とは全く違い、何一つヘイトの感情を持つことなく私を歓迎していた。


 アイリスはきっと優しい人なんだ。




 ……決めた。

 少なくとも今が多分、人生の分岐点なんだね。


 一生ないかと思ったけど、どうせアイロンの連中に追い掛けられるよりかは……。






 そっちの方が、正々堂々っぽくて良いじゃない!






 私は重い腰を上げるような態度で告げた。

 私の運命は、此処で大きく変わるのかな?



 「……仕方無いね。アイリスの旅仲間になってあげる。」

 「よし! じゃあ、今度はこのメガネを掛けてくれ。メガネを掛けた途端、もう二度と後には引き返せない。過酷な冒険に付き合って貰おう。」


 「アッハハ! 時代遅れのメガネで修羅への認証? ちょー古典的なやり方じゃない。」

 「そうかな? 俺はちょー最新鋭だと思うが?」



 私はメガネを見て指を差しながら大笑いするが、アイリスは面白がるように観察している。



 「……それはともかく、私はアナタ達の仲間になってあげる。えっと……メガネを掛けるともう仲間確定なのよね?」

 「一つやって貰いたい事があってな。」



 私は特に助けもなく、普通にメガネを掛けた。

 開始早々、私はこのサングラスの意味を知った。


 (……うぇっ!? ちょっと何コレ!?)




 《メンバーの加入を確認しました。【ミニチャン】の設置処理、ステータス処理、時間遡行処理、戦闘処理を開始します。》



 サングラスを掛けると、緑色の世界が広がった。


 そして、何処からか機械混じった女性の声が流れる。その緑色の世界から、大量の数字が10秒以上も流れてきた。

 



 そう言えばこのサングラス……。

 アイロンが喉から手が出るほど欲しいらしく、マジで狙っているって話を少し聞いた事があった。


 紫外線防止にはビミョーな緑色のレンズ。

 その機能いる?とまで思った、収納可能のレンズ。


 このサングラスは完全に合致していた。



 「どうだ、スゲェだろ? 故郷で偶々出会ったオッサンと仲良くなって、貰ったんだ。壊したら怒るからな。」

 「アイリス……その……貰ったオッサンって誰? 故郷は何処?」


 「うーん、南国旅行から帰ってきたばかりの服着てた。サングラス大好きなオッサンだった。場所は……イケザキ村。」



 アイリスは左手で顎を触りながら、私の返答にすぐさま答える。


 ちょっとはぐらかしてるのは、その人から強く言われてるからだね。


 (……間違い無くサン・グラース。よりによって、こんな辺境にいたの?)



 嘗て、サン・グラースと面識のあった私。


 よりによってあの南国オジサン、サングラスをアイリスに決めたんだ。


 (……運命ってそう言うものなのかな?)


 神様の悪戯と言うものを現実だと思えるほどだった。








 それから少し居座ったアイリスは「また会おう」という言葉を残して、檻のカギを掛けずにカギだけ持って出て行った。


 ワザとカギを掛けずに出て行ったのは訳があるけど、どうしてなのかは分からない。



 すると、アイリスと交代するかのように女ゴブリンがおどおどしながら入ってきた。



 「お……お食事をお持ちしました。」



 本来なら怒りで怒鳴りつけていたであろう女ゴブリン。


 (人間のお肉に変わるものを……探さなくっちゃ!)


 数十分程度のアイリスの口下手で優しい語りは、私の心を少しずつ動かそうとしていた。



 「……カギ掛かって出られるから、檻の前に置いて。食べる気になったから。」

 「は……はい!」



 ゴブリンは私に了承してもらったのが嬉しかったのか、おどおどした態度から急に明るく振る舞った。


 そんな女ゴブリンの振る舞いをみた私は、彼女にこう質問する。




 「アナタ達って人間をそーとー恨んでるんでしょ? 本気で復讐したい?」

 「そうですね……恨んで無いって言う訳ではありません。心の隅に死を望んでいる気持ちは、多少なりともあるかと。」




 女ゴブリンは檻の入り口手前に、食べ物が置かれた木製のプレートを地面に置いてそう言った。



 ただ、自分の今の気持ちを答えただけの返答。

 長年積み重なった純粋な想いを、ただ言葉にしただけ。


 濁る所が何一つない、本当の気持ちだった。



 信頼した私は、更にもう一つ飛ばす。




 「もし、アナタが人間殺せる力を持ったら……最初に誰を殺すの?」

 「いいえ。殺すつもりはありません。」


 「……どうして?」

 「恨みを買っちゃうからです。私が人間を殺してしまえば、人間はゴブリン達をより危険視してしまいます。そうなれば、私の責任で仲間達が死んでしまう。それが悲しいのです。」




 私は今まで殺してきた人達の最期の瞬間を思い返した。



 思い返せば、一生恨んでやるという顔だった。

 それも殆どが、アイロンに踊らされたタダの一般人。



 殺してメリットだったのは、食料確保とレベルが上がったことしか無かった。




 「だったら、どうするの?」

 「ゴブリン達が人間と同じ地位になるその時まで、耐えるしかありません。魔物に生まれた運命は皆そうです。耐えきれずに人を多く殺して、結果強靭な人間に殺されたケースも少なくありません。」


 「そう……アナタ達がどうして行動に示さないのかわかったわ。……ありがと。」

 「どう致しまして!」




 女ゴブリンはさっきまでの気迫した空気をアッサリ切り、にこやかな笑みで私に頭を下げて出て行った。






 (頑張れば、何時かはきっと報われる……ね)


 それから寝るまでの間、私は女ゴブリンとアイリスの語りを頭の中で反芻させていた。



 自殺する気持ち……なんだか失せちゃった。



―――――――――――――――――――――――
















 「……。」




 私は冷静な判断でこの場所を見渡し、状況をすぐさま理解した。


 (また来た……)


 例の夢。

 私は両手両足を縛られている。



 縛られている縄に幾つかくくりつけられたら針が、身体にいっぱい刺さっているのは痛い。


 けど、何故だかガマン出来ないほどじゃない。

 昨日見た夢よりも痛みが随分和らいだ気がした。



 気がつくと目の前には禍々しい黒い悪魔のようなシルエットがいた。


 ……ちょっと小さくなった?


 悪魔は血の滴るぶつ切りの肉を持ってこう叫ぶ!



 「!!!ぜう貰てっ合き付りぷっーた !だ間時の問拷の為るめ虐をんゃち嬢おが様俺、るよにに問拷な正公の様俺、の為るめ虐をんゃち嬢おが様俺たま。んゃち嬢お、かた来とっや」

 「……せめてさ、ちゃんと前から話してくれない? 聞き取れないと話している意味がさーっぱりわかんないの。」



 余裕が出来た私は、イキる悪魔に対してワザと聞き取れないフリをする。


 ホントは言っている意味は分からなくとも、何故か頭の中に入ってくる。

 あくまでちょっとした時間稼ぎって奴。



 その隙に私は後ろに縛られている両足の人差し指と中指を駆使してゆっくりと解いていく。


 針が指に深く突き刺さる激痛を必死に我慢し、両手の拘束を次々と解いていく。

 


 「!ああ ?かのたっ思とるれさ許が罪のそでけだたい聞を話の男なンヘ、に癖の者罪犯たし殺も人何を人 !ぁなく聞を口ため舐と分随 !んゃち嬢お」

 「だ・か・ら! ちゃんと前から話してくれない? 意味の分かんない言葉で色々言われても、なーんにも分かんないんだから!」



 私の大きな怒号に大きく反応した悪魔は、大きな舌打ちをする。



 「お嬢ちゃんは相当なワガママ女だな。ホレ、どうだ? これで満足か?」

 「うん、聞こえる。」



 私は頷いて答える。



 すると、両手の拘束が緩くなるのを感じた。


 その気になれば近づいた悪魔に一発お見舞い出来るけど、失敗すれば水の泡。


 まだ時間は稼げそうなので今度は身体の縄を気付かれないように解いていく。



 「テメーは同族である人間を大量に殺した。お前途中から数え忘れただろ? 何人殺したか?」

 「……顔は大抵覚えてるけど、分かんない。」


 「直接殺した数は67人……どうせ外道突っ走るんなら100位殺しとけよ。この中途半端なガキが!」

 「私が言う立場では全く無いけど、殺した人数で競い合って武勇伝っぽく語っているのは違う! 1人でも10人でも100人でも、殺した人の顔は死ぬまで頭から離れないの!!!」


 「……ハッハッハ! 先日ビビってたお嬢ちゃんとは大違いじゃねぇか! ……だが、拷問の時でもその減らず口は保てるかなぁ!」



 悪魔は何処からか大量のトゲトゲが付いた椅子を取り出す。


 椅子はひとりでに私の側まで移動し、何故か私は勝手に宙に浮き始めた。

 浮いた高さは約3メートル。



 「うわっ! な……なにこれ!?」



 椅子は私のいた所へと向かう。


 そして……。



 「さぁ! 異世界の拷問巡りだ!」

 「まさか……キャッ!」



 悪魔がそう叫ぶと、浮いていた体が突然重力に従って下へと落ち始める。


 私が落ちた所は……大量のトゲトゲが付いた椅子。



 「ギャッ! アァガァァアガ!!!」



 勢い良く椅子に座った私は、獣のような断末魔を上げる。

 身体中にトゲトゲが深く突き刺さり、所々から血が流れ出している。


 (……!!!)


 途中、あることに気付いた私は痛がるフリをする。


 おびき寄せる餌をすぐさま思い付き、試してみる。



 「もう止めて! これ以上やめて! ゆるして! ゆるして!」

 「ああ!? 根性無しが。家畜見てぇな断末魔叫びやがって……もっとメスガキっぽい声て泣けよ!」


 「ごめんなさい! ごめんなさい! これからもっと人を殺す! もっと殺すから! 人間のお肉も勿論食べる! だからお願い! 放して! 放して!」

 「……3日耐えてこれから大量の拷問器具で虐めるつもりだったが……仕方無い。じゃあ、コレを食え。食ったら拷問巡りは無しだ。俺の奴隷だがな。」



 悪魔は私に段々と近づき、血の滴るぶつ切りの肉を私に見せるようにする。


 そして、私のすぐそばまで接近して肉を差し出した。



 「自分から言ったろメスガキ、さっさと食え。」



 私は抗う事なく、自らの手でお肉を受け取り……。




 ……。




 ……。




 ……。




 ……。




 ……引っかかっちゃったね☆




 「やあぁぁぁぁぁ!」

 「何!? しまっ……ギャアァァァァァ!!!」




 私は一瞬の隙を付いて、悪魔の腕を掴みすぐさま場所を交代させる。


 トゲトゲだらけの針に勢い良く身体に刺さった痛みを感じた悪魔は、私と同じように断末魔の声を上げた。



 更に逃げなれないようにしないと!とかんがえた私は、トゲトゲの椅子の付属品である金具を使って悪魔の両手両足、首を無理矢理固定する。



 「こ……こんな事してタダで済むと思うナアァァァァァ!!!」

 「あれれ? 私に3日程非道いことしたクセにさ、『こんな事してタダで済むと思うなー!』って言う権利あんの?」


 「こ……このクソガキ……。」

 「五月蝿い黙れ。」



 更に私は全力で悪魔の顔面を一発殴る。



 「ガアァァァア!!!」



 悪魔は鼻と口から少量の血を流し、悶絶している。


 ……13歳でも舐めないでね。

 レベル100越えてるんたから。




 「私もね、人を殺したって罪の重さはひどく思い知った。頭を地面に下げてでも許されないことって言うのはわかってる。こんな事言う資格なんてそもそも無いかもだけどね。」

 「だから……それをこうやって正す……。」


 「そうやってね、人を散々痛め付けて罪悪感を無駄に煽って、殺しを勧めるアナタのような悪魔さんはね……。」




 私は息を大きく吸って大きく吐く。


 血のこびりついた臭いが強いこの空間。

 私が人間のお肉を食べていた時も、こんな感じだった。


 結局血の臭いになれたのは、私のせいでもある。

 けれど……。



 私は悪魔に向かってこう怒鳴りつけた。




 「昔私をこんな目に遭わせた、【アカサカ】っていう奴に似ているのが物凄く気に食わないのよ!」

 「ガアァァァア!!!」

 



 私はもう一発全力の力で悪魔の顔面を殴った。

 先程よりもマヌケな顔になり、最早悪魔がどちらか分からなくなった。


 私は悪魔の首筋を掴んでこう喚く。



 「いい? もう私の所へ二度と来ないで。今度来たら、その時は【アカサカ】を相手にしたときの態度で地獄を見せてやる!」

 「は……ハイ! わ……わかったから、早く此処から出してくれ!」


 「フン! とっととこの夢を終わらせて!」



 悪魔は悔しそうな表情で見つめていた。

 











―――――――――――――――――――――――
















 翌朝、私は悲鳴を上げることも無くゆっくりとベッドから起きた。



 「ふぁーあ。」



 身体があの夢から起きた時よりも軽くなった事に気付いた。


 (私、結構罪悪感持ってたね。だから、あんな夢が出ちゃったのかも)


 ウトウトしながらそんな事を考えていると、女ゴブリンが来た。



 「失礼します。お食事をお持ちしました。」

 「またそこに置いといて。」



 女ゴブリン退出後、私は渇き切った喉に暖かいカボチャのスープをゆっくりと流し込んだ。


 (……美味しい。暖かい)


 人間のお肉を食べていた時の臓物の温度とは大きく違った、全身からの優しい暖かい感触に私は感動した。



―――――――――――――――――――――――


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