表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
89/116

第84話 SpecialEpisodeアリス 私が死んだ日 1.

※中盤から鬱展開の話が登場します。

 よって、レイアウトを変更しました。


 鬱展開が苦手な方は閲覧をお控えください。



―――――――――――――――――――――――

―アイリス視点―



 会談解散の後、昼食をササッと済ませた俺はとある所へ訪れていた。



 【朱の騎士団】達が駐屯しているキャンプである。

 ゴブリンの洞窟から僅か200メートル。



 何やら慌ただしい空気。

 とある一件により【朱の騎士団】と【ル・レンタン組合専用取引所】が、1時間少し後に合同で会談を行う予定らしい。

 此方で処理する人物が残っているからとの理由を、解散後にワゼリス本人が村長に話していた。



 俺が此処に来た目的はアリスを良く知る人物に話を聞きたかった。

 あと、ついでにワゼリスから直接呼ばれたのもある。



 すると早速、二人の兵士がキャンプ場の正面で見張っていた。



 兵士は気付いて俺の首に槍を向ける。

 

 (……護衛するには充分だな。相当鍛錬を積んでいる)


 護衛を内心誉めながらも、俺は疎い敬語で話しかける。



 「そこの者、何者だ?」

 「アイリス・オーリアです。【朱の騎士団】団長のワゼリス・ダートさんに取り次いで貰えませんか?」


 「アイリス様ですか。それでは本人確認をした後、お近くまで私が案内致します。」

 「本人確認? 生憎そんなもの……うおっ!」



 兵士の一人が槍を引いて腹に突き刺そうとする。

 突然とはいえ、こんな程度で刺される俺ではない。

 アッサリと回避する。



 俺は構えを取って臨戦態勢だ。

 だが、二人の兵士は槍を戻した。



 「ケガが比較的軽い、素手同士の勝負なら少し相手してやるが……どうだ?」

 「御冗談を。本人確認はこれでしまいです。ご迷惑と疑いをしてしまい、申し訳ありません。」


 「わかりました。」



 俺が本人であることは、咄嗟の回避能力で判断するしか無かったのだろう。


 (俺……昨日ケガで寝込んでたよな?)


 ……という素朴な疑問は抜きにしよう。








 俺は兵士の後ろに付く。

 幾つものテントが立ち並ぶ【朱の騎士団】のキャンプ場。


 600~700名程連れてきたらしい。

 ホントは半分以上連れてきたかった……と会談でワゼリスが、頭を垂れて落ち込んでいたのが何故か印象に残っている。



 「アイリス様。此処のテントの中にお入りください。」

 「……ここですか?」


 「そうです。何か御不満でも?」

 「いや……別になんでもないです。」



 数十の兵士に護衛された、普通のテントよりは少し大きい位のテント。

 強いて言えば、木製のドアが取り付けられていた。


 正直最もデカいテントだと思ってたのだが……。


 「ちっさ!」と言えばゴタゴタになるので、口をつぐむ事にしよう。



 《アイリス様、ワゼリス様のテントは非常に頑丈な素材と緻密な構造で出来ております。簡単に壊れる事はありません。》



 ……見映えよりも、性能を重視したらしい。

 しかもこのテントが一番大きいものではないため、指揮官を見つけ辛いというものあるのだろう。



 「失礼します。」

 「おお! アイリス殿。お待ちしておりました。どうぞ、此方にお掛けください。」


 「ありがとうございます。」



 俺は3回ノックし、ドア開けて閉める。

 ワゼリスが歓迎し、勧められた木製の椅子に着席した。



 「突然呼び出し、本人確認をして申し訳ありません。アナタに一つお聞きしたい事が。」

 「何でしょうか?」


 「アナタ達……アイリス殿、モーク殿、ユッケ殿は何処に旅立つ予定ですか?」

 「【鉄の王国・アイロン】です。」



 何処?と聞いてきた限り、俺達があと少しで此処を去る事を知っているのだろう。


 どうしてそれを?と気になったが、答えはワゼリスの返答だった。



 「実は【鉄の王国・アイロン】では、長年大きな問題を抱えておられましてな。今回それが過去類を見ない深刻ぶりでしてな。」

 「??? 問題って何でしょうか?」


 「【塩不足】です。」

 「……えっ?」


 「アイロンに到着しても塩は高値で買えません。そこで私から、今後必要になるであろうと塩100キロを御用意しました。」



 俺はあまりの発言に混乱する。


 いやいや、いくら何でも……塩不足は国としてはマズイのでは?


 塩が無いと人間死ぬぞ(塩分摂り過ぎもダメのは当たり前だが)?



 「えっ? 塩不足で国が保ってるんですか?」

 「他の国との取引で一部は何とかなっていますが……。散々たる有り様のようです。」


 「ホントに良いのですか?」

 「ええ。バルザンとの一騎打ち、一部始終を村長からお聞きしました。そして、モーク殿のル・レンタンでの活躍。粗品としてお受け取りください。」



 ワゼリスは地べたに横たわっている袋の方向に手を向ける。


 一応サングラスに確認してみた所、10キロの塩が入った麻の袋が10袋。

 100キロの塩であった。



 「ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます。」

 「うむ。今此処で収納魔法の中に入れてやりなさい。」


 「はい。」



 すぐさま俺は塩の袋に駆け寄ると、収納魔法の中に次々と入れ始めた。


 ダークゴブリンとの苦い思い出である土木作業のお陰で、体力が付いた気がする。

 世間一般ではそれをスタミナというけれど、いつかステータスで表示されないだろうか?



 そんなこんなで塩をしまい込んだ俺は、此処に来たもう一つの目的で重要人物での面会を求めた。



 「ワゼリスさん。ノノアさんと面会しても宜しいですか?」

 「目的は?」


 「アリスの件です。現状、アリスの事を最も知っている人物はノノアさんしかいません。」

 「……アリスは今どうしている?」


 「今まで自分が犯してきた罪悪感に押しつぶらされて、苦しんでいます。俺みたいな外野が騒ぐ権利はありませんが……苦しんでいる人間は見過ごせません。」



 ワゼリスは黙って下を向いて考える。


 そして、ワゼリスは……。



 「ノノアの面会を許可する。兵士! アイリスをノノアの所へ連れて行け。」

 「はっ。かしこまりました。」

 「ありがとうございます。」


 「アイリス殿。最後に折り入って頼みたい事がある。これは仕事ではありません。約束です。」



 ワゼリスは俺にとあるお願いを出した。



 「わかりました。それと、塩に関してはありがとうございます。」



 俺は即決て判断したあと、黙ってワゼリスのテントから退出した。








 俺はワゼリスの許可によってノノアのテントの中に入った。




 テントの中にある荷物は綺麗に整えられていて、先程の兵士による先導の時にサッと垣間見た男達の荷物とは大違いであった。


 まぁ……そんなに整頓に比較的疎い確率が高い、男という性格なので、乱雑にする理由は非常に理解出来る。



 「アイリス、わざわざワゼリスに頼むなんて……私に何か重大な用かしら?」



 ノノアさんは俺が来るのが意外だったらしく、目を見開いて出迎えた。


 早速話を切り出す。



 「アリスの事について聞きたい。幼少期の頃に何が起こったのか、全て話してくれませんか?」

 「悪いけど……ロクな話じゃないわよ。」


 「分かっています。……ですが、アリスは今、自分が犯したことによる罪悪感に潰されています。荒れた時代のせいなのは間違いないが……まだ13歳の少女が、一人で背負うものじゃない。」

 「……わかったわ。事の経緯を教えてあげる。そこのイスに座って。」



 俺は彼女に言われた通り、木製の椅子に座った。


 「ハァ~。」という深い溜め息をノノアは吐くと、ノノアは最初にこう断言する。



 「最初に言っておくけど、彼女は生まれつきでカニバリズムになった覚えはないの。」

 「何がそうさせたんですか?」


 「同じ人間が作った最悪の環境によって、彼女はそうするしか無かったのよ……。」



 そしてノノアは、幼少期に当の本人から聞いたという過去のアリスを全て語ってくれた。



―――――――――――――――――――――――



 ノノアがアイリスに、今まで見て来たアリスの全てを語っていた。






 その頃、アリスは付きまとう何かにうなされていた。



―――――――――――――――――――――――

~アリス視点~



―――――――――――――――――――――――












 「止めて! もうイヤだ! もういらない!」



 私は必死に体をもがく。

 激痛に耐えながら必死にもがく。


 全身針の付いた縄に強く縛られ、目の前には禍々しい黒い悪魔のようなシルエットがいた。


 悪魔は血の滴るぶつ切りの肉を持ってこう叫ぶ!



 「!え食く早 !ぁさ。いいでけだう食を肉のこるいてっ持の俺だた。い無は要必るすに気」



 悪魔は何かの言葉を発したかと思えば、一瞬で縛られている私に近付いて肉を口に押し付ける。

 そして、悪意のある声でこう言った。



 「?ぞだ肉の間人たいてっわ味くし味美とっずが前お !ろけ開を口く早、キガ !ぁさ」



 悪魔は口を開けようと全力の拳で私に一発殴り、肉を押し付けた。


 (やだ! いやだ! ホントにやだ!)


 私は感情に動かされるまま、口を開けまいと全力で抵抗する。



 「?ぞるえ貰てめ認、らたっなく強 !ぜうおまちち堕でまことるち堕ままのこ、らたっだ……。いなさ許と度二を前おは間世。たし殺んとこと。たし殺山沢を間人は前お !キガソク」


 

 すると今度は、悪魔が私の耳元でこう囁いた。

 意味が理解出来なかったハズなのに、段々と意味が分かってきた。








 確かに、私は沢山ころした。



 いっぱいころした。



 食べたいからころした。








 一回堕ちたら、次はもう……どうでもいいよね?








 (……ダメ!ソイツの言葉に、耳を傾けちゃダメ!)


 すると、心の中から自分の声が聞こえた。



 「あんたなんかに……そんな事言われたく無い!」

 「!よるやでん遊でまるち堕、らたっだ ?かき好おがのるす激刺を覚痛になんそ。てっがやしか抜詞台なうそ偉、に癖のネタたい撒が分自 !ハッハッハ」



 すると悪魔は激昂して後退し、もう一本の縄を取り出す。

 その縄にはおびただしい数の銀色の何かが付いていた。






 もしかして……全部針!?




 そして、姿を変えて黒服の販売員の姿に変えて宣伝を始めた。



 「!~せまいさだくみし楽御ぞうどを刃と風いし涼。様奥の方其がすで速早 !すで供提ごの枚000Ɩ貨金白段値おてけ付も本千を針い太し少は回今 !スビーサルャシペスにミキなMなんそ」



 悪魔はそう言うと、紐を扇風機のように回転される。


 わざとゆっくり目に回転させながら私の方に近付いてきた。



 凍てつくような風が私の顔に突き刺さる。


 (ヤバイ!ズタズタにされる!)


 私は再びもがく。

 しかしもがけばもがくほど、縄に付属した針が体の中で暴れ、痛覚を激しく揺さぶる。



 「キャアァァァ!!! イヤだ! イヤだ!」



 私は叫び声を上げる。

 しかし無情にも、扇風機が段々と近づいていく。



 そして……。



―――――――――――――――――――――――
























 「キャアァァァ! 止めて! もう止めて! ……あれっ?」



 私は自分の叫び声で目を覚ました。

 何よ……全部夢だったの?


 (もうこれで……3回連続だよ……?)



 「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。」



 非常に荒い息遣いをなだめるように、自分の右手で心を抑える。


 先程の恐怖が鮮明に浮かび、本能的な衝動に駆られていたかも。





 大丈夫。

 大丈夫。

 大丈夫。



 私は今、檻の中に閉じ込められているだけ。

 私は今、檻の中に閉じ込められている。

 ……今、檻の中に閉じ込められている。





 ユッケと名乗る人間に、無理矢理腕を食わされてからずっとこの悪夢が付きまとう。




 今思うとあの喉と全身から来る激痛は、【毒草】に近いもの。


 耐性がそこそこある私でも死にかけになるほどの濃密な毒素の量だった。



 ユッケの前に戦ってたアイリスの肉って言ってたけど、どうやらアイツは【野蛮道】だったみたい。

 ……そんな事なんかどうでもいい。




 夢に出て来たあの悪魔。

 夢を見させる結果になったのはユッケだけど、あれはユッケじゃない。


 今まで隠れていた私の契約者だね、きっと。


 (今まで抑えられなかった欲求に従ってきたから分からなかったけど、逆らった結果がコレ。ひどいよ……) 




 どうしよう……私……。

 呼吸を落ち着かせ、布団の中にうずくまる。




 人間を沢山殺した罪悪感と、あの時我慢しておけば良かったという後悔が同時に波となって襲い掛かる。




 ごめんなさい……ごめんなさい……。

 生きたかったの。


 私の人生を狂わせた、貧乏人に関心の無い大人が嫌だったの……。




 絶え間なく襲い掛かる罪悪感の中、私は過去を思い出していた。



―――――――――――――――――――――――












 ……私の生まれ故郷は、結構な都会だった。

 これは、今から13年前の話。



 【鉄の王国・アイロン】の第二の首都と呼ばれる……シルバーシティで、私は一人っ子の長女として産まれた。


 私の愛称はアリス・ナバーと名付けられた。


 大きくなったら、それが名前になるようにお父さんとお母さんが一生懸命考えたそう。




 小さなマンションにお父さんとお母さんと生活してた。

 生活は窮屈で、貧乏だった。




 ……けどね。

 幸せだった。



 

 昔はママとパパと呼んでたっけ。


 一緒に過ごした時間は、何よりも幸せな時間だった。






 いっぱい褒められた。

 沢山やらかしちゃってしかられた。


 ケガして泣いた時にはママが魔法と緑草で治してくれた。

 パパは高い高いをしてくれた。


 寒い時は布団を一緒に分けてそばで寝た。

 時々パパが布団から離れちゃって、カゼ引いちゃってた。


 パパの給料が良い日には、色んな楽しい所に三人で一緒に行った。


 汚れた猫を拾って一緒に育てた。

 綺麗な白い猫だった。


 白猫の名前を一緒に考えて、「チェシー」と名付けた。


 ママの料理は暖かかった。

 パパの背中はおっきかった。




 ……楽しかった。








 でも、そんなに長くは続かなかった。

 私が3歳になって2ヶ月。



 ついでに言うとお母さん、お父さんと呼び始めたのもこの頃からね。




 ある日のこと。


 お父さんが携帯電話を持って誰かと話していた。

 何時にも珍しく、お父さんは動揺していた。



 「……そんな! ちょ……ちょっと待ってください! どういう事ですか!? ……兎に角、今すぐ其方に向かいます。」



 お父さんはすぐさま携帯電話を鞄にしまい込み、休日にも関わらず仕事の支度をしていた。


 まだカルナ言語の読み書きを習って一年の私は、詳細が理解出来なかった。



 「おとーさん。どうしたの?」

 「済まないアリス、お父さんは緊急の用事があるんだ。」


 「きんきゅーのよーじ?」

 「ああ、そうだ。」

 「アナタ。どうしたの?」


 「済まない……非常に大変な事になって、会社に向かわないといけない。兎に角、また後で話をする!」



 そして父さんは朝の8時に慌てて家を出て行った。










 午前1時。

 私は一人で布団を独占するように寝ていた。


 お母さんはずっとお父さんをずっと待ってると言って私を先に寝かせた。



 何で帰ってきた時間が分かるのって話?

 だって、その時のおとーさんは……。



 「……タダイマ。」

 「アナタ! どうしたの? そんなにケガして!」


 「クソッ……アイロンめ! アイロンめ!」



 ママの心配する大声と、パパの殺意溢れる怒鳴り声でこの時目覚めた。


 この時の私は直ぐに、ただ事ではない気を直ぐに感じた。

 私は扉越しに気に耳を立てた。



 何故か極度の冷静状態であった私は、この時の内容が録音出来ないか考えた。


 理解出来ない内容を未来の自分に託したのだ。



 自分でも何故この結論に至ったのか理解出来なかった。


 (どうしたのかな?おとーさんがあんなに大きな声出すの初めてだよ?)


 私は寝室部屋の中を調べ始めた。

 すると、とある物が出て来た。


 (どらいぶ……れこーだー……お父さんが言ってた。これは音を未来にのこすまほうの道具)



 このアイロンという国は、科学と魔法の両方で大きく発展した類を見ない国。



 実は最近になって建国したばかり。


 実例のない出来立ての杜撰な政治体制だった事が、私達の一番の不幸だったのかもね。



 【異世界】の古技術を、魔法と融合した科学を駆使して色々な発明品を生み出している。



 私はその発明品の1つ、【ドライブレコーダー】の赤色のボタンを恐る恐る押した。



 「ゴン(ピッ)!」



 丁度お父さんがお酒の瓶を置くタイミングが一致し、機械音は気付かれずに済んだ。



 私はソッと、扉越しの会話をドライブレコーダーに録音することに成功した。


 その時の録音の内容がこれ。


 今もドライブレコーダーを持っている。


 独学で習得した【収納魔法】。

 その奥深くに、ずっと。



 アイロンでは鉄製品を国外へ持って行く事は禁忌だけど、そんな事知った事じゃない。


 アナタ達が……私達の幸せを壊したんだよ?






 「クソッ……何で俺達がこんな目に遭わなくちゃならない! 【異世界】の精巧な時計をこの手作りたいという思いで職人になったって言うのに……何故だ、何故だ!」

 「どうしてアナタがそんなにケガをしているの?」


 「『俺達が作る時計にはそれぞれ個性がある。人間の手によって生み出された時計には、魂が籠もっている!』とアイロンの当局者に向かって訴えたら、見せしめとばかりに連れてきた数人ごつい男にリンチされた。」

 「ええ!? ひどい……。」


 「オマケに、はした金を渡されてお前は解雇だって……。」

 「……(少し泣く音がする……)。」


 「アイロン発展の為に、古い奴は皆切り捨てる。俺達の仕事場もそんなものだったのかよ……。」






 ここからしばらくは涙の声とお父さんの悲鳴がしばらく続き、そして録音が終わった。


 言葉が分かるようになって聞いてみたけど、ただただ悲しかった。

 許せなかった。




 しかも、彼らの迫害はこれだけじゃなかった。



 次の日にはわざわざマンションの前まで駆け付けたアイロンのとある【マスコミ】が、私のお父さんを徹底的に批判した。


 ※マスコミ……マスコミニケーションというもの。不特定多数の人間に情報を伝えること。



 恐らくアイロンがこのマスコミに金を使って指示したのだろう。


 批判されたらどうなると思う?



 私のお父さんはもう再就職すらも出来なくなった。

 手に職を付ける仕事ですら、何処へ言っても不採用だった。



 更に……。



 「もう此処に済まないでおくれ。私ももう疲れたんだよ。」

 「大家さん! そこをなんとか……お願いします! せめて……せめて夫の再就職までは!」


 「毎日毎日マスコミが酷くてね……。近所の人間に根掘り葉掘り聞くわ、私を散々責めるわ。もう年取った私には限界なんだよ。あのマスコミ達を沈ませる為には……申し訳ないけど、アナタ達には此処から出て行って貰いたい。」

 「そんな……!」

 「その代わり、アリスちゃんの教育費用と衣食住の費用は私が全額出す。子供が道端で野垂れ死ぬ所を見たく無いからね。」



 結局私の両親は、家を離れることになった。


 その代わりの条件として、私は大家さんの援助で学校に通う事となった。

 短時間で徹底的に勉強させされた。



 お父さんは日雇いの仕事、お母さんは水商売で働いた。

 別の安アパートに住んでいたそう。


 この時の私、3歳3ヶ月。



 「この国が安定するまでのしばらくの辛抱。アリスちゃん、その時までに今度はお父さんお母さんを幸せにするんやで。」

 「うん! 私、頑張る!」

 


 大家さんに肩を叩かれてこう言われたのを今でも覚えてる。


 そんな状態が暫くの間続いたけど、今度は更に酷い最悪の出来事が起こった。





 私が4歳11ヶ月の時に起こった悲劇。

 【アイロンショック】である。




 塩の取引を最も重視しているアイロンは、複数の国から高額で取引をしている。


 しかし、記録上類を見ない長期間による強烈な日照りに晒されたこの年は、穀物や大半の野菜の生産が世界全体で1/10以下になってしまった。

 多くの国の家庭が穀物を主食に生活していた事もあり、農家のみならず一般家庭全般にも影響した。


 それによる穀物の高騰化により一般家庭は出費を完全に削減。

 国は金を徴収出来なくなり(食料の高騰により、兵士達にも影響していたそれが理由で無理矢理金を徴収出来なかったの)、多くの国が困ってた。


 そこに、アイロンが高額で塩を求めていた事により大勢の国が値段をふっかけて購入させたの。

 結果、アイロンは資金不足により経済が破綻寸前にまで落ちた。


 それを補う為に、アイロン中の様々な商品の値段が跳ね上がってしまった。

 税金という言葉を借りて、借金返済をしたの。




 私は大家さんの元から離れた。

 一生懸命お金を集める大家さんだったけど、こんな状態じゃ大家さんは家賃を下げる他なかった。


 今までの生活から一変。

 私達は家族でマンションに住んでいた時よりも更に貧乏になってしまった。



 「大家さん、もういいの。無理させちゃってごめんなさい。」

 「ダメだ! ……今此処を出ちゃダメだ!」


 「……今までありがとうございました。……ごめんなさい!」



 私は泣きながら大家さんの所から出て行った。


 自分が無理させちゃってるっていう、無意識に襲い掛かる重圧に耐えられなかったの。


 この選択を選んだのは間違いだったと思っている。






 私はお父さんとお母さんを捜すために働いていた。




□□□□□□□□□□



        閉店のお知らせ


    いつもWINERをご利用いただき

    誠にありがとうございます。


    この度WINERの全店舗は

    10月27日を持ちまして

    全て閉店いたしました。


    オープン以来ご愛顧いただき

    誠にありがとうございました。



    ―――――――――――――――――――――――

     閉店後のお問い合わせ先


     086-72532-24168


     WINER

    ―――――――――――――――――――――――



□□□□□□□□□□




 お母さんが働いていた所は破綻の影響で全店舗閉店である。


 不当に稼いでいた訳でも無いけど、この不景気の影響でアイロンが娯楽を暫く規制したと後で分かった。




 お父さんが働いていたのは日雇い労働。

 作業は中断されていた。




□□□□□□□□□□


 シルバースパイラルタワー中止のお知らせ


 拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

 平素より、BILDER建設をご愛顧いただき誠にありがとうございます。


 10月16日に建設中のシルバースパイラルタワーにつきまして、アイロン中央労働管理局の命令により中止させていただくこととなりました。


 お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますこと、深くお詫び申し上げます。


 何卒ご容赦を賜りますようお願いいたしたす。


 ◆ご注意◆

 敷地内に入るのはご遠慮ください。

 ケガの恐れがあります。


                     敬具

 

□□□□□□□□□□




 体中の塩分の消費が激しい労働や娯楽は全て中止になってしまった。


 塩不足になるとこの様な事態になってしまうのだ。



 そんな事もまだ理解出来なかった私は、その場でうずくまった。


 (……どうしよう? お父さん、お母さん!)

 


 「お嬢ちゃん。そんな所で何してるんだい?」

 「!?」



 暫くすると、後ろから40代くらいのいかつい男が遠くから私に声を掛けた。

 振り返った私は何も言えずに黙って男を見つめる。



 男は両手を広げておどおどしながら話を続ける。



 「いきなり声を掛けたのは悪いが……警戒しないてくれ。それに、その建物に近づくと危ないよ。そこの張り紙にかいてあるだろう?」

 「……誰ですか?」


 「シルバースパイラルタワーを建ててた一人だ。今はアイロンの不景気で炊き出しにしがみつくただのオッサンだけどな。」

 「え、えっと! お父さん……アージス・ナバーさんが何処にいるのか知ってますか?」


 「おお! アイツの言ってたアリス・ナバーっていう愛称は君か。君のお父さんから、『この封筒を渡してくれ!』って頭下げてまで頼まれてな。これだ。」



 私は封筒を貰って中身を開けた。


 シルバーシティの地図だった。

 左下辺りに、赤色ペンで丸が示してあった。



 「何かあったら此処へ来い。」と書いてあった。



 「ありがとうございます!」

 「おお! 頑張れよ!」



 頭を下げた私は駆け足でその場所に向かった。












 「お父さあぁぁぁぁん! お母さあぁぁぁぁん!」

 「アリス、よく頑張ったわね! 会いに来てくれて、ありがとう!」

 「アリス……無事で良かった……!」



 お父さんとお母さんに抱きしめられた私は、再開の涙を流した。

 暖かい温もりと喜び、辛かったけど幸せだった。


 此処は大通りから幾度もそれた脇道。

 お父さんとお母さんはホームレスになっていた。




 民間団体から特別に支給されたワンタッチテントの中で、ダンボールと数枚の布を暖にして暮らしていた。


 申し訳程度のアイロンからの週2回の炊き出しと、民間団体からの週1回の炊き出しで何とか生きていた。










 しかし、私達の幸せは長くは続かなかった。



 アイロンからの炊き出しが僅か10日程で終わってしまい、12月に入ると今まで類を見ない程の寒波が私達を襲った。



 (神さま、どうして私達にひどいことするの?私達が何をしたの?お願い、たすけて!)



 体中が凍りつくような極寒の夜の中で、三人で身を寄せ合って寝ていた。










 そんな中、夢で涙を流しながら教会で自分が頭を下げて願っていた。


 結局、神さまも他の用事で忙しくて手が回らなかったんじゃないの?



 そして、5歳の誕生日の2日後。

 12月9日の夜に事件は起こった。


 この日の朝の気温はマイナス11℃を下回っていた。


 目を開けると、両親は目をずっと開いていた。



 「お父さん? お母さん? ねぇ、起きてよ! もう朝だよ? 私、お腹が空いちゃった。」

 「「……。」」


 「……起きてる? おとーさん、早く起き……えっ?」



 お父さんの手は氷のように冷たかった。

 お母さんの手も氷のように冷たかった。



 気付けば私は床にダンボール、そして数枚の布で覆われていた。

 だが、両親は布も掛けずに薄地のテントで直接寝ていた。


 前日の夜の気温はマイナス21℃。




 両親は、私を死なせない為に布とダンボールを私に掛けた。

 アリスはギリギリ助かったが……。





 両親は死んでしまった。





 原因は飢餓状態による体温低下。

 そこに、昨日襲った寒波による凍死だった。




 「お父さん! お母さん! ねぇ、起きて! 起きてよ! お願い……。」



 

 徐々に意味を理解する私。



 そんな事があるはずがない!

 そんな事があるはずがない!

 そんな事があるはずがない!



 と現実を否定したかった。

 ……だけど、それが現実だと受け取った時には……。




 「おとーさーーーん! おかーさーーーん! 起きて! 起きてよ!」




 私は両親の亡骸をさすりながら号泣した。


 この時、私の理性は少しずつ崩れていった。



 その日、まだ5歳になったばかりの私に死体の処理など出来るハズが無く、亡骸をそのまま放置していた。


 それに、ショックでただ茫然自失の状態に陥っていて何も出来なかったというのも間違いなかった。


 幸い日中にも関わらず気温が低いため、腐敗が全く進んでいなかった。




 そして夜。

 極度にお腹が空いてどうにも出来なかった私は、ある過激な発想を考えついてしまった。


 両親をたった一晩で失った精神的ショックで、正常な感覚と発想を失ってしまった。


 (お父さんのお母さんは私のもの。だったら、食べちゃってもいいよね?だってこのままじゃアイロンの人間に連れ去られて焼かれちゃう……)


 その日、私の理性は死んでしまった。




 次の夜、私は偶然にもその場に居合わせた10歳くらいの女の子に人肉を食べる光景を見られてしまった。

 


―――――――――――――――――――――――




 「……フフッ。なんて醜い人生なのかしら。」




 私は過去の人生を振り返って嘲る。




 どうして私だけがこんな目に逢わなくちゃいけないの?


 という結論なんて無い理不尽な疑問をぶつけるしか、今までの人生はそれしか出来なかったからね。

 ただ流されただけ。




 そんな事を思っていると、檻の向こう側から緑色の肌の女の子がこちらを覗いていた。

 女ゴブリンね。


 私は威圧的な態度で答える。

 今は誰とも相手したくなんかない。



 「……何ジッと見つめてんの? さっさと出て行って。」

 「お食事を用意しました。」


 「……要らない。」

 「ですが、もうここ数日何も食べていません。せめて、料理位は手をつけても宜しいかと……。」



 別に腹立っている訳じゃないけど、苦しんでいる所でグダグダ言われるのはあまり好きじゃないの。


 ホントは滅茶苦茶食べたいけど、沢山人間殺した私に食べる資格は無いじゃないの!



 「出てけ! 人殺しの私に構うな!」

 「!? ……落ちいたら、また来ます。」


 「……とっとと失せろ!」



 女ゴブリンはビビッて何処かへ消えた。


 (このまま餓死で死んで地獄へ行って、私を殺した人間が天国から制裁を受けるしか無いよね……)


 皮肉にも、私は両親と同じ死に方で死のうと思った。




 今日の夜、地べたに座り込んで死んでやる。




―――――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――――― 

―アイリス視点―




 「……。」

 「それでね、アリスちゃんは一晩掛けて両親の死体を食べちゃったの。」


 「両親をたった一晩で失ったショックか。」

 「ええ、理性を失ったの。」




 俺はアリスが段々可哀想に思った。


 (酷すぎる……俺よりも下の年頃でそんな事が……)



 「そして、朝に偶々私が見かけちゃったの。何やらグチャグチャ音がする赤色のテントがあったから、興味本位でテントの中を除いたら……。」

 「……アリスが両親を喰ってたのか。」


 「ええ、手と口周りが真っ赤だった。両親の内蔵までも頂いてたわ。まだ14歳で一人だったから、私は腰抜かしちゃった。」

 「アリスの反応は?」


 「『やめて! 私の物に触らないで! お願い!』って両手を広げながらそう言ったの。私をアイロンの研究者だと勘違いして、両親を守ってたのはすぐ分かったわ。……で、色々と誤解を解いていくとアリスちゃんは私に全部話したわけ。」

 「警察に行かなかったのはそう言うことか?」


 「5歳のアリスちゃんにはアイロンの法律が適用されてたから、無罪扱いなの。当時の私はそれ以前に警察に行かせるような事はしなかったわ。」



 なるほど。

 まさか幼児がそんな事をするとは誰も思わないよな。


 しかも、そもそもの原因はアイロンのせいなのは間違いないと思う。



 「結局どうなったんだ?」

 「暫く一緒に生活してたわ。徐々に理性も取り戻して、このまま行けば元のアリスちゃんに戻ると思ったの。……だけど、ある一件でアリスちゃんの理性は全部崩壊した。」


 「それは、何だ?」

 「アリスちゃん、家族同然の価値を持った存在がいたの。」


 「……?」



 俺は今までのノノアを話を反芻し、答えを捜す。




 ……まさか、ウソだろ!?




 「おい、それってもしかして……。」

 「ええ、全部話すわね。」




 ノノアは机から目をそらさずに哀しい表情で答えた。




 それは小さな少女が背負うには……余りにも重過ぎる、過酷な追い討ちの一件であった。


―――――――――――――――――――――――


※不備修正

 後半部分、11歳→14歳に修正しました。

 終盤部分、5歳の少女→小さな少女に修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ