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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
88/116

第83話 RGB調停



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



◆◆◆◆◆23日目◆◆◆◆◆



 俺は何時の間にか何処かのベッドの上で目を覚ました。


 此処は……洞窟なので朝夕どちらかは判別しかねるが、倒れて此処へ運ばれたのだろうという事がわかった。


 すると隣にいるシルエットが見えた。

 モフモフしたチョコレートパンに近い……アイツじゃねぇか!



 「あ、アイリス! 無事だった?」



 物凄く甲高い声でモフモフしたチョコレートパン似のアイツが、寝込んでいる俺の横でぴょんぴょん飛びながらそう叫ぶ。



 「僕の事わかる? 僕は優しくてこんな感じでモフモフしているかわいいモークタンのモークだよ!」

 「五月蝿いぞモーク。ついでにお前、俺が記憶喪失だと思ってヘンな情報入れようとしてるだろ。」


 「ゲッ! ……チェッ、折角アイリスに優しくして貰おうと思ったのに……。」



 本性を表したチョコレートパン……モークを無視し、俺はベッドから上半身を起こす。




 うぅ……。

 痛たたたたた……。

 流石に腹のケガはかなり深刻なようだ。


 俺は腹を抱えて痛みを抑えようと、収納魔法から緑草を10枚取り出して口に入れる。


 モークは俺が楽になるように、近くの緑草を黙って俺に渡した分も混ざっている。


 根はなかなかいい奴じゃないか……。




 ……それにしても、バルサンのあの512分裂は流石にこたえたな。

 おかげで一番ダメージを受けた腹のダメージと、魔力切れによる無理な戦闘継続によって戦闘不能。


 並みの人間なら死んでるぞ……。

 そんな戦闘方法は予想外だった……。



 「アイリス、ちょっと寝込んでたんだよ。15時間位かな?」

 「15時間そんなに寝込んだのは初めてかもな……。」




 すると、村長が俺の元へ来た。



 「おお……アイリス殿。お身体の加減は如何ですかな? ずっと心配しておりました。」

 「腹はまだ緑草が必要ですが、他は大丈夫です。それより……勝負の結果は、どうなったんですか?」



 俺は肝心の結果を聞いておらず、それ以降どうなったのか知らない。


 一体どちらが勝ったのだろう?

 いや、あの状況は俺の負けだろうな……。


 すると、村長は困ったような表情でこう告げた。

 どう言って良いのかわからない様子で俺を見つめていた。



 「正直、どちらが勝ったのかわからないのですよ。ユッケの魔法を使っても、ほぼ同時に気絶したという結果で……。」

 「……えっ?」

 「簡単に言うと……引き分け。勝ちも負けも無し。」


 「……。」 



 俺は何も言えなくなった。


 (……えっ?あれだけやって結果引き分け?)


 俺とバルザンが全力で戦ったあの一戦。

 正直引き分けで終わるなんて思っても見なかった。



 「その数時間後、ワゼリス様が兵を連れて此処へ来ましてな。バルザン側も幹部が揃っている以上、此処で話し合いを設けることになりました。」

 「……まぁ、その方が手っ取り早くて済みますね。」


 「我々【ゴブリン軍団】代表3名、【朱の騎士団】代表2名、【ル・レンタン組合専用取引所】代表2名で集まろうとしたのですが……。」

 「肝心のバルザンが気絶しているからどうすることも出来なかったと言うことか。でも、代理は立てた筈では?」


 「それが、【ル・レンタン組合専用取引所】の方達が『バルザン様のご意志無しで勝手に我々が話を進める訳には行かない!』の一点張りでして……。」



 ……なるほど。

 それで行き詰まっているということか……。


 主思いが強い部下なのは戦う前から薄々感じていたが、ちょっと信頼し過ぎな気もする。



 「ところで、バルザンは目が覚めたのか?」

 「5時間程前に目を覚ましたとのご報告があります。首の骨が折れて気絶したと……。今は首を曲げれないように固定して安静にしております。」



 それ普通なら死んでるんじゃ……と突っ込もうとしたが、安静にしていれば大丈夫だろう。



 すると、今度はユッケが入ってきた。



 「アイリス、加減は?」

 「腹は痛むが、まぁなんとか。」


 「そうか……それはよかった。」



 ホッとしたユッケは珍しく真剣な顔つきに戻り、俺に質問を投げかけた。



 「早速だが、お前に少し聞いていいか? スキル【野蛮道】の事だ。」

 「スキル【野蛮道】? 呼び名じゃなく、スキルにそんなのがあったのか?」


 「ああ。あの時、お前のステータスが飛躍的に上昇したのは何となく感じただろ?」

 「今までの激痛が一瞬で楽になって、回避能力もかなり上がった。戦闘能力も向上していると思う。」


 「サングラスが言うには、スキル【プレイヤースキル】の一種であるスキル【野蛮道】が発動したらしい。詳しい事は済まないが知らん。」



 スキル【プレイヤースキル】の一種、スキル【野蛮道】が発動?


 訳が分からなさすぎて困惑していると、モークが助太刀をする。



 「つまり、【プレイヤースキル】って書かれた袋の中に……幾つか宝石があるってこと。宝石がスキルって思って。」



 なるほど。

 何となくだが理解した。



 つまり幾つかあるスキルの総称を【プレイヤースキル】と呼ぶ。

 そしてその中の一つが【野蛮道】というスキルってことか。



 ……正直言って滅茶苦茶である。


 いつ身に付けたんだこのスキル?



 しばらく悩んでいると、ユッケが機転の効いた質問をして来た。



 「アイリス。昨日以外にもなんかこう……昔同じ感じが来た事はあるか? あったら、その時の状況も話して欲しい。」



 俺はその時の事を思い出し、事の経緯を周りに話した。












 話終えた頃には、皆の顔が苦しそうな表情をしていた。


 それもそうである。

 俺だってトラウマ級の出来事なのだ。



 「特訓中にミスって、魔物が仕掛けた落とし穴に押して……ホネで作られた針に刺さって、8時間の針地獄コース。お疲れ様だね……。」

 「閻魔様主催の地獄のマッサージですなぁ……。」

 「いや、違う。あの閻魔でさえも逃げるマッサージだな……。」

 「ハハハ……。で、その後にその【野蛮道】っぽいやつが来て、自力で脱出したんだ。痛みは一気に消えた。」


 「それが、【野蛮道】って奴か……結構ヤバイ状況の時に起こっているな。」

 「しょーじき言って使い辛っ!」



 確かに両方の出来事に共通する所。


 それは、体力が殆ど残っていなかった時だ。

 ただ、死ぬギリギリまで体力を減らさなければそもそも発動しない。


 状態が切れる前に俺が気絶してしまったため、どれくらいその状態が継続するのかもわからなかった。


 モークが「使い辛い。」と言うもの納得の条件なのだ。




 ただ、強力なのは間違い無い。

 多分あの時の回避能力は、90超えたんじゃ?と疑うほど飛躍的に上昇していた。


 回避だけではなく攻撃、守備、早さ、攻撃速度……殆どのステータスが急激に高くなっていた。




 結局の所、「使える切り札が一枚増えただけだね。十分じゃん!」というモークの発言に、全員が納得する結果となった。










 それから間もなくして村長以外は各自の仕事へと移動し、俺は女ゴブリンから貰った緑草を混ぜた毒草ゼリーを頂く。


 それまで食べていた毒草ゼリーよりも甘さ控えめで、個人的にはずっと食べていけそうな程度の甘さであった。


 コレを1日4回。

 コレだけで明日になればほぼ完治する。


 美味いから別に気にしていない。




 食事中にジワジワと腹の痛みが収まっていく。

 腹に残って血を滲ませていた無数の傷の大半が、このゼリーによって完璧に塞がった。


 緑草でかなりの治癒力なのに、毒草で更に回復を上乗せしている。


 俺専用の回復アイテムなのだ!




 そんな毒草ゼリーをスプーンでガツガツと口に運びながら、俺は幾つか村長に質問をしていた。


 まず、最初に捕まえた捕虜に関しての事だ。




 アリスは現在、完全に回復しており個人専用の檻の中に入っている。


 どうやら人を食べた事が今になって罪悪感が襲いかかり、完全にふてくされて飯にも手をつけなくなった。



 逆にルーサーは荒くれ者で、度々檻をぶっ壊そうとして躍起になっているらしい。


 出された食事を一切を食わず、寧ろ運びにきた女ゴブリンを罵倒しまくる始末だ。




 「特にアリスは深刻です。下手をすれば自殺行為を行う恐れも……。」

 「明日、アリスとルーサーに会えますか? 俺が説得しに行きます。」


 「ええ、構いません。三者会談が明日の朝8時からなので……15時頃に予定しておきます。」

 「ああ、御願いします。」




 明日の会議、【ゴブリン軍団】代表は


 ダークゴブリンのボス

 村長

 俺


 の三名で決まった。



 どうやらバルザンやワゼリスの希望で推薦されたらしい。

 ついでにモークとユッケも了承済みとの事。


 (アイツら……絶対めんどくさくて出たくなかっただけだろ……)


 結局俺は嫌がりながらも、出席することにした。

 いつの間にかゼリーを食べるスピードが速くなっていた。








 「楽しかったからまた一勝負しようじゃねぇか!」



 ……とバルザンが言ってきた暁にはマジで殴り飛ばそう。


 ……道具禁止縛りでは二度と戦いたくない。



―――――――――――――――――――――――



◆◆◆◆◆24日目◆◆◆◆◆



 雪が降るのではないかと思うほどの凍りつく寒さの中、この日の早朝6時に【グルドの森】の中心に作られた場所がある。


 それは木製の少し小さな建物で、中は円形のテーブルと椅子が置かれているだけの部屋だ。


 三者会談場所である。



 ゴブリン村長とワゼリスには最後に残っている課題があった。


 戦後処理である。




 この世界の常識では、勝った方が負けた方に条約を結ばせることによって、互いの衝突を避けてきた。


 ゴブリン村長の提案により、アイリスとバルサンが一騎打ちをし、勝った方を勝者とする事に三者は合同した。




 ところが……。




 【ゴブリン軍団】と【朱の騎士団】はどうすることもできず、【ル・レンタン組合専用取引所】の面々はバルサン様の判断無しで決める事を敢えて自重していた。




 そんな困った状況の中、昨日アイリスがほぼ同時間に目を覚ました。


 アイリスは体力が非常に少なく、いつ死ぬかもわからない危機的状況だった。


 ところがアイリスはなんと緑草だけで峠をアッサリと越え、この日出席が決まった。




 余りにも信じられない事実に、ワゼリスやバルザンも口が閉じなかったという。








 そして、午前8時06分。


 室温21℃に温められた部屋。

 三者が静粛な空気の中、決められた席に着席した。


 ゴブリン村長が開会の宣言を行う。



 「ではこれより、三者会談を執り行う。」



 アイリスはそれぞれの面子を見渡す。

 今までこの戦いで活躍をして来た人物達だ。



 【ゴブリン軍団】

 ダークゴブリンのボス

 ゴブリン村長

 アイリス・オーリア


 【朱の騎士団】

 ワゼリス・ダート

 ノノア・リリー


 【ル・レンタン組合専用取引所】

 バルザン

 365006(メッセージを送った密偵)



 首が動かないように白い器具で固定されているバルザンは、アイリスを見てフッと笑った。


 (アイツ……あんだけのダメージを3日そこらで完治させやがったのか……)


 決して嘲笑ではない。

 常識から外れた出来事に、自分の頭では理解が追い付けない事による突発的な笑いであった。


 (うわぁ……マジでもう一勝負!とか言わないでくれ頼む……)


 しかし、そんな本心の気持ちが読めるハズもないアイリスはずっとチビチビ震えていた。

 バルザンとの戦闘は道具が使えてもイヤである。






 【ゴブリン軍団】側の話し合いの全ては村長が話していた。


 ボスと俺はただ聞いているだけであった。



 「……なるほど。これは【ル・レンタン組合専用取引所】ばかりを責められませんね。」

 「20歳になると親から名前を与えられる権限……親が万が一事故などのケースで死んでしまっては、【冒険者】か闇商売に落ちるかの選択しかありませんなぁ。」


 「更に【冒険者】の仕事は正直かなり大変な仕事ですからね。命懸けの仕事なのに、中堅から一番下の初心者達までの給料は致命的過ぎます。そこを我ら組合が何とかするのですが……私の組合はこの所、初心者達を養う人数が多くて資金が重なりがちです。」

 「モークやノノアさんから聞きました。ホームレスを助けているそうですね。」


 「昔貧乏だった時に助けてくれた人への、ほんの恩返しです。助けているのではありませんよ。」



 村長の質問から出て来た【冒険者】の実態を、ワゼリスが此処にいる者達にわかり易く教えてくれた。



―――――――――――――――――――――――



 ざっくり説明すると、

 この世界の一般の組合の仕組みはこうだ。



 1.とある条件をクリアした上で、組合は冒険者組合と契約を交わす事が出来る。


 2.契約すると様々なクエストが来る。クエストは必ず、規定期間以内に達成するように命じられる。この際、規定期間以内のクエストは他の組合が介入出来ない。


 3.規定期間以内にクエストをクリアした報告と実績が確認次第、通常の報酬より上乗せされた分の報酬が組合に届けられる。


 4.規定期間を越えたクエストは他の組合がそのクエストを受ける事が出来る。規定期間を越えた組合はペナルティ(罰金)が与えられる。


 5.余りにもペナルティが多い場合は、組合の解散を命令されることもある。


 6.実績を積み重ねる度に信頼度が増していき、次第に報酬の高いクエストが舞い込んで来るようになる。


 7.現状のクエストだけでは物足りないと感じた場合は、個人としてのクエスト受注は可能。そのクエストを所属している組合が協力するのも可能。ただし報酬は通常の料金のみ。



 以上が組合の仕組みである。




 例えば初心者が【朱の騎士団】に入り、【スライム10体の討伐】を受けたとする。


 まだ8歳のアイリスが慣れ始めた時に受けた報酬は石版9枚、小石版6枚であった。


 ※冒険者組合に登録を初めてからしばらくの間は、誰でも通常よりかなり高い金額を貰える。



 だが、ル・レンタンで組合員数4位【朱の騎士団】の信頼性は高い。

 さらに新人養成に力を入れている冒険者組合は、特別報酬を出している。


 なんと報酬は特別報酬を含めて銅貨3枚、石版8枚程になるのだ!




 その差はおよそ4倍近く。

 組合に入るメリットが目に浮かぶであろう。



―――――――――――――――――――――――



 ワゼリスの「資金が重なりがち」というのは、



 「初心者に払うお金が掛かり過ぎてこれ以上、仲間を招く余裕も中堅達の給料を増やす金はウチには無い。」



 という事である。




 更にワゼリスはル・レンタンにいるホームレス達を招いて兵士まで育てていた為、ホントはかなりカツカツであった。


 ※ホームレスとワゼリスが彼等を招き入れた話については第64話参照。


 この国の幹部達を盛大に招く為に開いたあの晩餐会で出した費用は、実は残った余り物と貯蓄に使うハズだった金を引き出した……言わば赤字である。

 手を抜けば弱味に漬け込まれるので、悟らせない為に無茶をしたのだ。


 ※晩餐会については第58話参照。



 「……となると、模擬戦争を受諾したのは金銭に余裕がなかったからという事ですかな?」

 「ええ、何とかしてアナタ達との戦争を回避する方法を裏で探っていました。ですが、ルーサーが勝手な行動をしてしまい、更には幾人の犠牲が出てしまいました……。」



 戦争に資金は付き物。

 ワゼリスがギリギリの金銭で動かせる兵士の数が丁度500程度だった。


 (2800人いる割には、何で500なんだろと思っていたが……そう言うことか)


 アイリスはずっと妙に気になっていたあの数字の理由をこの説明で理解した。




 更にルーサーの勝手な行動により犠牲が出てしまい、ワゼリスは葬儀の出費を余儀なくされた。

 ……と思っていた。



 「……ホッホッホ! 私がそんな事を読んでいなかったと思っているのですかな?」




 村長は【犠牲】という単語で笑う。


 「何!?」とワゼリスは村長の笑いに眉をひそめた。



 「実はあの時、ルーサー殿が上陸した場所から70メートル程の中流で頑丈な網を敷いておりました。幾つか引っかかりましたよ?」

 「何!? ……って事はまさか……。」


 「魚と一緒に馬、人間も引き揚げましたよ? 7頭の馬は泥水を飲み過ぎて死んでしまいましたが……幸い人間は全員峠を越して目を覚ましました。数週間すれば何時ものように練習が出来るかと。」

 「馬を幾らか失ったのは痛いが……ゴブリン村長、感謝する!」



 ワゼリスは立ち上がり、ゴブリン村長に頭を下げる。


 人間の葬儀に掛かる値段は計り知れない。


 数十人一気にやると諸々込みの費用は、総額白金貨40~50枚。

 カツカツのワゼリスにはかなり大ダメージであった。



 ワゼリスには非常にありがたかっただろう。

 ……ただ、【朱の騎士団】の象徴である馬を7頭も失ったのは痛いのは事実であるが。


 一頭一頭丁寧に時間を掛けた大切な馬を亡くしたルーサーには、それなりの罰が与えられるのは間違いなかった。






 話はそれたが、次はバルザン達である。


 冒険者の給料が低いというのはよくわかっただろう。

 彼等が取った悪に落ちるというのは、よくよく考えてみれば仕方のない事であった。



 「俺達は別に悪っていう仕事だと思ってはいるぜ。でも、仕方ねぇんだ。マトモに食っていく為にな。」

 「組員のメンバー達は皆、名前はあるのですかな?」


 「俺が把握している所で、1割無い。みんな金に困って此処へ来た人間だ。」

 「なるほど。……基本的な仕事は如何程に?」


 「情報戦さ。闇社会っていうのは物もそうだが、色んな希少情報が転がり込むんだ。」



 ワゼリスから次々放たれる質問に、バルザンは包み隠さずに話した。



―――――――――――――――――――――――



 バルザンの説明を要約するとこうだ。



 1.闇社会は情報、物何でも組合同士(時には国と組合)で取引する。


 2.闇社会の法律は無し。情報や物などの略奪は勿論可能。取引先を殺すのも可能。


 3.基本取引の殆どは、様々な国で違法とされている物品や情報。そのため、通常の金額よりも高値で取引される。


 4.過去には力ずくで組合を乗っ取ったケースもあり。




 つまり、無法地帯の取引である。

 その分高値であり、儲けも半端ではなかった。



 【朱の騎士団】のアリスは【ル・レンタン組合専用取引所】と取引により、処刑された人間の死体3体を白金貨2枚、金貨7枚で買った。


 実際この死体は、【イミルミア帝国】で首を切られた死刑囚であり、焼却場で焼かれるハズだった。

 【ル・レンタン組合専用取引所】はそこで死体を回収する組合で一括購入し、一体辺り金貨3枚で済んだ。


 アリスが3体買ったので金額は金貨9枚である。




 つまり、実質白金貨1枚と金貨6枚の儲けである!


 コレがバレれば大変な事になるのは間違いないのだが……。



―――――――――――――――――――――――



 「まぁお前の所にいるアリスっていうカニバのガキが贔屓にしている関係で、お前らと取引しているっている形には一応なっている。俺達にとっては売れ残りを買ってくれる取引だけどな。」

 「ですが、この一件でアリスからの取引は無くなると思われます。」


 「ホントか? まぁ、人間を食すって言うのはあのガキにはマズいからな。カタギの平民を殺す助長をするのは、正直あまり好きじゃねぇ。」



 バルザンは苦渋の顔をしながらアリスを浮かべながらこう思っていた。


 (このクソな仕組みを作った人間をぶっ殺すならまだしも、何も罪もねぇ操られた人間をぶっ殺す助長をするのは非常に気味が悪ぃ……。それこそただの八つ当たりじゃねぇか!)


 そう思うと、アリスからの取引が消えるのはマシだとバルザンは感じた。



 「兎に角、俺達は金が転がり込む話があるのなら素直に乗ってやる。それも、金貨や白金貨レベルの話ならな。」

 「ほぅ……無い事も無いのだが……。」



 バルザンが提案を出すと、ワゼリスが直ぐに複雑な表情をしながら言い出した。


 バルザンはそれに乗せられるような形で詳細を聞かせようとする。



 「おお! あるのなら聞いてやる。何だ?」

 「最近、麻薬と言うものがこのル・レンタンにも流行りましてな。この街のどこかにアジトがあるんですが……。」



 何やら「麻薬」と言う分からない単語が出て来たと思いながらも、二人の対話を黙って聞いているアイリスだった。






 しばらくするとアイリスは、静寂の雰囲気の中でついついお腹を鳴らしてしまった。


 皆の視線がアイリス一点に集まる中、アイリスは少し恥ずかしそうに右手で頭を掻きながらこう告げる。



 「すいません……気絶してから俺、何も食べて無かったんですよ。アハハ……。」

 「ハハハ! 俺もそう言えばそうだな! 何か腹を満たす食い物は無いか? ゴブリン村長。」

 「ええ、ありますよ。丁度昼時ですので、私達ゴブリンが良く食べている料理をお出ししましょう。」



 アイリスが【うでどけい】を見る。

 気付けば11時。


 (あれから3時間たってたのか。面倒な調停や取引は全部村長がやってくれてたし、俺はただ話の中に入ってただけだけど)



―――――――――――――――――――――――



 一般的な家庭で生まれたアイリスには、話し合い中から沢山出て来た専門用語をイマイチ把握出来なかった。


 寧ろ、それに当然かのように先導するゴブリン村長の知能は計り知れないとアイリスは前から理解していた。




 アイリスとバルザンのタイマン勝負が引き分けになった。

 再戦も考えられたが、両者が拒絶した。


 そのため、協力関係で事を終わらせる結果となった。




 【朱の騎士団】と【ゴブリン軍団】が対等な立場で取引し、


 【朱の騎士団】と【ル・レンタン組合専用取引所】が対等な協力関係を築き、


 【ル・レンタン組合専用取引所】と【ゴブリン軍団】も対等な協力関係を築く。




 この調停の正式名称は『三組合共同調停』と呼ばれた。

 後に世間一般での別名は『RGB調停』という名前が付けられる事となった。


 ※R→Red→【朱の騎士団】。

 ※G→Green skin,Goblin→【ゴブリン軍団】。

 ※B→Balzan→【ル・レンタン組合専用取引所】。


 世界で唯一、魔物と対等な関係を結んだ調停であった。



―――――――――――――――――――――――



 そんなことになるとはつい知らず、数体の女ゴブリンが料理を持ってきた。


 一般的な家庭で良く使われる、底が少し深い容器の中に、じっくりコトコト煮込んだ橙色のスープが湯気を立っていた。



 近付くだけで食欲をそそる豊かな香りが部屋中に染み渡る。



 村長は説明をし始めた。



 「こんな寒い時には、冬カボチャのスープですなぁ。【朱の騎士団】のお二方は既に召し上がられたと思いますが、【ル・レンタン組合専用取引所】は初めてですかな?」

 「ほぅ……裏取引ではデカイので金貨1枚て取引されて結構旨かったが……何やらコッチの方が美味そうじゃねぇか。」



 「腹が減ってるから皆、美味く見えるのかもしれねぇがな。」とバルザンは付け足す。


 良く考えれば昨日もそうだったなと、アイリスは心の中でモークに軽く謝っていた。


 すると早速、食材の感謝を述べたワゼリスとノノアは木製のスプーンでスープをゆっくりと口に入れる。



 「ハハハ! 村長殿! この前食べた物よりも上物ではないか!」

 「美味しい! 暖まります!」

 「ホッホッホ! 先日実りの良い物が採れましてなぁ。実はまだこれよりも上物がありますよ。」


 (アイツら早っ……)



 バルザンが横目で【朱の騎士団】の二人の食べっぷりを見る。


 そんなに美味いのだろうか? 



 「バルザン様。心配でしたら、私が毒味致しますが宜しいでしょうか?」

 「……ああ、頼む。」


 「感謝致します、バルザン様。」



 なかなか手を付けないバルザンを見た付き添いの365005は、毒味を自ら引き受けた。



 バルザン同様スープに手を付けていなかった365005。

 彼はスプーンでバルザンに置かれたスープをすくい上げ、恐る恐る口にゆっくりと運ぶ。

 


 「……!!! お……美味しいです、バルザン様。それも、この前取引したカボチャよりも!」

 「何!? ……何だこれは!? 美味い!」



 部下の発言に反応したバルザンは、すかさず自分の所に置かれていたスプーンでスープを飲む。

 スープを転がす度、柔らかくなった5,6個ほどの一口大のカボチャがゴロゴロと転がっていく。


 (な……何だこれは?濃厚に溶け込んだカボチャ本来の甘味。そして、口に含んだ時に僅かに感じられるアクセントの効く脂身は!?)


 心の中の動揺が隠せないバルザンは、スプーンをすくい上げる速度をどんどんと上げていく。




 特にバルザンの心を揺さぶる程の美味しさを持った奴がいた。


 それは、希にスプーンからすくい上げられる大物である。


 硬いのかと思えばそんな事は無く、柔らかくじんわりと体中に染み渡った。


 (コイツは、闇取引すれば相当売れる。間違いねぇ……)


 そう確信したバルザンは、村長にある頼み事をした。




 「ゴブリン村長。俺達にもこのカボチャを分けてくれないか? コイツは美味い!」

 「闇取引ですかな?」


 「おう、そうだ。高い金で払おう。」

 「私達は別にお金は入りません。そうですな……バルザン殿には二つ程条件を提示しましょう。」


 「何だ? 大抵の事なら引き受けてやる。」



 バルザンは余裕の表情で村長の答えを待つ。

 すると、村長から意外な言葉が飛び出した。



 「一つ。現状、鉄製品の装備を揃えるのは、いくら闇取引でも非常に難しいと思われます。」

 「そうだな。それを言われちゃ取引は無しだぜ。」


 「そこで【ル・レンタン組合専用取引所】には、比較的監視が甘いサビを大量に入手していただきたい。」

 「サビ? あんな使えねぇクズ物をか? ……飲もう。次は何だ?」



 バルザンは意味が分から無かったが、カボチャを売って利益を出す方が何千倍も良いので承諾する。



 「もう一つ。それは、鉄鋼についての書物を片っ端から集めて頂きたい。」

 「鉄に関する書物全部か? よし、それも飲もう。」


 「では、此方の契約書にお書きください。」



 書物に関する物は魔術本と侮辱(国の政治やトップをバカにする関連)本以外は意外と簡単に入手できる。

 闇取引ならもっと入手出来るという予想を村長は立てていた。


 バルザンは成約文を全て読んだ後、特に躊躇う事もなく契約書にサインをする。


 (カボチャで得たものは壮大ですなぁ)


 村長は心の中で喜んでいた。









 「以上を持ちまして、第一回の三者会談を閉会します。明日の朝8時、此度の方々は再び此処へお集まりください。それまでは解散といたします。」



 かくして、早朝の戦後処理はアッサリと幕を下ろした。




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