第81話 アイリスVSバルザン
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
「【魔力球】!」
バルサンは何の変哲も無さそうな魔力球を俺に向かって開幕早々放つ。
すると魔力球はいきなり同じ大きさで64分裂し、俺に襲いかかってきた!
(危なっ!流石は魔力球使い。伊達じゃない!)
動揺した俺だが、こんな所で躓いてはいけない。
余裕で全て回避する。
「それじゃあこっちもお返しするぞ。【魔力球】!」
「ヘッ! たった一発の魔力球なんざで俺が……。」
バルザンは余裕の表情で回避しようとする。
だが、これで攻撃するのではない。
分裂させるのだ!
「【分裂50】!」
「なんだと? グッ!!!」
50等分の小さな球に分裂した魔力球の一部が、バルザンに襲いかかる。
数発程直撃したが、バルザンは自慢の体力で受けた。
分裂させた為ダメージは少ない。
まだまだ先が思いやられる。
バルザンは受けた痛みをもろともせず、俺に襲いかかってきた。
「フン! ハッ! トリャッ!」
気合いの叫びをあげながら魔力を纏った拳で一撃を与えようとする。
だが、そんな攻撃では俺に当たらない。
「【魔力球】! 【魔力球・変幻】!」
「なっ! マジかよ……。」
「【剣舞】!」
何とバルザンは魔力球で白い剣を生成してきたではないか!
ついでに64個の魔力球で襲いかかる。
道具禁止だがこの剣は魔力で出来ている。
セーフだと言わんばかりに、村長は何も発言しない。
バルザンは今だとばかりに【剣舞】で畳みかけてくる。
(何時もユッケで【大剣舞】の回避をやってきたからな!今のところ全部失敗だけど)
俺は次々と襲いかかる凶刃をギリギリで避け続ける。
剣がまるで俺を避けているような動きをバルザンに見せているだろう。
「【身体強化】!」
「グッ! ……チッ。やるじゃねぇか!」
俺は僅かな隙を突いてバルザンの右頬を全力で殴る。
バルザンは倒れる事なく踏ん張り、俺を睨み付けて賞賛する。
「【魔力球】! 【四光雷波】!」
「【魔力球】! 【分裂50】!」
言葉を返す暇も与えず、彼は魔力球と斬撃の魔法を唱える。
大して俺は魔力球50等分攻撃だ。
バルザンは10メートルほど離れて俺に剣を大きく振りかぶる。
余裕で魔力球を回避した後に、雷を纏った4つの斬撃が地面を切り裂きながら向かってくる。
一方のバルザンは50個の小さな魔力球が彼の方に向かってくる。
(雷纏うと回避しずらいんだよな……よし、コレで)
俺は少し駆け足で4つの斬新へ向かうと……。
必殺・ジャンプ!!!
俺は5メートル程の高さを飛び上がり、4つの斬新を素通りする。
【身体強化】の影響でかなり飛べた。
一方のバルザンは自分の魔力が籠もった拳で数発を吹っ飛ばしていた。
だが、全て弾き飛ばせるのは難しく先ほどよりも少しの数の直撃を許してしまう。
しかし、俺は今ジャンプした事に気付いていない。
その隙をもう一度突いてバルザンの左肩を全力で蹴り飛ばした。
「ガアァァッ! 食らえ! 【魔力球】!」
「チッ。」
蹴られた直後、バルザンは64分裂した魔力球を俺に飛ばす。
回避してみたが、途中の一球がどうしても回避出来ずに左肩に直撃する。
俺は大勢を崩して軽く地面に叩きつけられ、バルザンは後方へ蹴飛ばされて木に激突した。
(痛っ……。思ったより一撃がデカい……)
右肩は損傷したと言うよりも、左肩辺りの範囲をまるまる火傷したようだ。
ジワジワ痛むその火傷。
コレがしばらくの間は取れる事はない。
一方のバルザンも左肩の鎖骨が折れたらしく、少し苦しそうな表情をしている。
「フン! レベルの低い割には相当な腕前じゃねぇか。やはり、【野蛮道】の人間とやらか。」
「【野蛮道】? 何だそれ?」
俺が【野蛮道】の単語に困惑していると、ユッケから一言貰った。
「アイリス、【野蛮道】って言うのはな……自分より強い奴と相当長い時間戦ってきた奴の事だ。お前はレベルが低いにも関わらずこの森で特訓してきた。それが【野蛮道】と呼ばれる人間だ。」
「この【グルドの森】はどういうわけか強力な魔物が蔓延っている。此処で修行してきたのか……相当イカれてやがる。」
「個人的事情だ。本当は生きたく無かった。」
「ハッ! 多くの【野蛮道】は狂った殺人に手を出しやがんだよ! 何人殺しても心が平常な大馬鹿共だ!」
確かにわかる気がする。
俺がダークゴブリン達の会話を聞こうともしなかったらどうなっていたのか……今でも全く予想出来ない。
平均で人をブッ殺し捲る化け物に変わっていた可能性も否定出来ないのだ。
(アリスが言ってた【野蛮道】も、そう言う意味だったのか)
※第70話参照。
「だが、【野蛮道】と呼ばれた人間の中にはマトモだった奴も少なからずいるはずだ。【野蛮道】と勝手な呼び名でそう決めつけるのは、やめてもらいたい。」
「ほぅ……お前の言っていることは何も間違っていないさ。」
「だったら、【野蛮道】という名前で呼ぶのはもう――。……おっと!」
俺の言葉に賛同の意を持ってくれた事にホッとしながら落ち着いて話そうとする。
だが、その隙にバルザンは魔力の剣を俺に突き出してきた。
後方へ退避して警戒していると、バルザンが笑いを浮かべながらこう告げる。
「残念ながら……世間にはお前みてぇな豊かな思考をする人間はそう多くない。大半の多くは、奴らの悪い部分を徹底的にでっち上げるのさ。何故だと思う?」
「……自分を守るためか?」
「わかってんじゃねぇか。そうだ、人間はどうしても何事に対しても悪い部分を徹底的に排除しようとするんだ。自分が巻き込まれたくねぇからだな。特に、【野蛮道】の奴らは悪い事ばかりする人間が多いからな。イメージの問題って奴だ。」
「良くする方法は?」
「簡単だ。悪いイメージを逆、良いイメージに変えればいい。まぁ、人殺し高確率の奴らのイメージを良い方向に変えるのは途方もねぇがな。」
「……。」
もうちょっと世間を学習すれば良かった。
折角努力を積み上げて強い魔物と戦い続けて来た呼び名が、人殺しが集う【野蛮道】?
酷いとしか言いようがない。
俺はふと、こんな事をバルザンに言った。
心に思ったありのままの単語を、迅速に組み立てて文を作る。
「だったら、俺が【野蛮道】の見本になってやろう。努力して殺人鬼になるイメージを、俺がぶっ壊してやろう。」
「言ったな……男に二言はねぇ。その一言を、もう一度言ってみろ。」
「二度も言いたくない。」
「なっ!? なんだと?」
バルザンは動揺というより、沸騰ギリギリの様子だ。
そこで、俺が更に火を灯す。
「男だけじゃない。女でも魔物でも、一度決めた意志を絶対曲げるなって話だ! 男だけと考えている奴が、イメージどうのこうのと語る資格があると思うか?」
「……。」
バルザンは黙ったまま前方の地面を見つめていた。
どうやら、直ぐに激高する人間ではないようだ。
自分の価値観を否定されて怒る奴も結構いる。
冷静な人物だ。
「お前は、既にイメージの虜だ。そこに気付いているのは、まだマシな方だけどな。」
「ガキにしては随分と大層な大口だな……その大口が通用するかどうか、此処で試してやろうじゃねぇか! 【魔力球】! 【火炎放射】!」
バルザンはそう意気込むと、俺にめがけて広い範囲で火炎放射を吹き上がらせる。
俺は咄嗟に木の陰に隠れて何とかやり過ごす。
(……待てよ、魔力球も飛んでくるよな?)
一瞬の思考が生じ、俺は急いで木から離れようとする。
直後、地響きと共にドォォォォオン!という衝撃音が後ろから聞こえ、爆風によって軽く飛ばされた。
木に隠れていたら直撃だっただろう。
(火炎放射でごまかして、上からデカイ魔力球を狙って撃ってきたな)
そこで俺はバルザンのステータスを確認する。
こんな技を連発すれば、当然魔力は減っているハズだと思った……が。
【ステータス】名前無し(現愛称 魔力球使い バルサン)
レベル 97 ランク B+
体力 4543/4716
魔力 803/980
攻撃 668/675
防御 469/473
早さ 464/480
速度 5.375/5.5
当会心 12.125/12.25
回避 10/10
当回避 10/10
総回避 19/19
残血液 4889/4900(2480)
……えっ?
あれだけ魔力ぶっ放して、剣まで作って100後半!?
通常ならば、少なくとも600以上は持って行かれるハズ……それが100後半。
(……スキルか。相当魔力球を練習してきたのか)
そう確信した俺は、バルザンの魔力を削らせる作戦を心の中で捨て去る。
俺のステータスではそこまで待てない。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 43 ランク C
体力 703/868
魔力 268/338
攻撃 376/463
防御 249/278
早さ 760/806
速度 8.625/8.75
当会心 9/9.125
回避 55/56
当回避 56/56
総回避 80.2/80.64
残血液 3956/4000(180)
経験値 104386/500000000
次 104386/107000(2614)
先程の魔力球だけで体力を140程持って行かれた。
俺の回避は他の奴より優秀でも、長期に渡って何発も回避出来る訳じゃない。
長考する暇もそこまで与えてくれず、バルザンは魔力で出来た剣で俺に近づいて連続で斬りかかる。
幸い速度がそこまで早く無いので回避は簡単だ。しかし、その分当たればかなりヤバイのは間違いないない。
「【身体強化】!」
俺は再び身体強化し、バルザンの肩を全力で殴る。
……が、あまり対したダメージではない。
それどころか、殴った俺の拳の方が痛い。
バルザンの装備が尋常じゃ無いくらい硬いのだ!
バルザンは歯を見せる笑みを浮かびながらこう説明する。
「フン! 他の部下達は銀か青銅だが……俺の装備はアイロンの闇商人から極秘に取引した純度100%の鉄だ。」
「そんなもの、熱があれば……。」
「おっと、勘違いするなよ! 金属製装備で熱対策しない奴が何処にいる?」
「……それもそうだな。じゃあ顔を狙う!」
俺はバルザンの顔に蹴りを入れようとする。
……が、流石にバルザンもバカじゃない。
俺の右足をタイミング良く掴んだ。
力はバルザンの方が強く、自力では離れられない。
「捕まえた。どうする?」
「そうか……じゃあ今度はこうだ!」
俺は勢いを使ってバルザンの股の間を潜る。
そして、一瞬バルザンの背が見えた機会を逃さずに……。
「【魔力球】!」
「バカな!? ヴゥ!!!」
バルザンの後頭部に魔力球が直撃し、バルザンは衝撃で前に倒れる。
俺の右足を掴んでいたバルザンだが、さっきの衝撃で遂に手から離れた。
倒れたバルザンから俺はバルザンの体に埋もれた足を直ぐに抜いて距離を取る。
案の定、バルザンはすぐさま立ち上がった。
「イテテテテ……股の間を潜って後頭部狙う奴がいんのかよ全く……。」
「逆にあの大きさの球で後頭部直撃して、直ぐ立てるという方が凄いぞ?」
少し体がフラフラなバルザン。
かなりのダメージは与えたが、まだ4000少し残っている。
「どうして急所を狙わなかった?」
「それで俺が勝っても、お前らの部下は多分納得しないだろ?」
バルザンは後ろの方で一生懸命応援している部下達をチラリと見て、呟く。
(此処まで応援されているのを見ると、慕われてんだなぁ……)
「……アイツらなら、多分そうだろうなぁ。逆に、俺がお前に急所を当てたらどうなる?」
「当てて見たらの話だろ?」
「そうか……じゃあ、遠慮なく狙ってやる!」
そう言うとバルザンは魔力の剣で俺の股の間を狙って突く。
しかし、バルザンの攻撃はそこまで早くないので軽めのジャンプでアッサリと回避する。
(このままでは間違いなく俺の魔力が先に尽きるな。そうなると、後は素のステータスで殴る蹴る……ある意味地獄だな)
バルザンの魔力が尽きるまで回避し続けても地獄。
魔法を打っても魔力が尽きたら地獄。
道具禁止になるだけで俺は此処まで弱体化するのか……と心の中でひどく悲嘆する。
(俺が打てる中で火力が出る魔法、何か無かったか?思い出せ……思い出せ俺……)
今まで自分が習得してきた魔法はどんなものがあったのか?
だが、そんな事を考えている間にもバルザンの攻撃は止まらない。
「【魔力球】! 【舞踏炎撃】!」
64の魔力球と炎を纏った数十の斬撃が襲いかかる。
魔力球は問題なくノーミスで切り抜けたのだが、問題は斬撃だった。
回転しながら飛んでくる斬撃を数十避ける必要があるのだ。
(マジか……全部追尾かよ!)
しかも、必ず自分の所に向かって数十の斬撃が全て飛んでくるのだ!
(熱っ! ……チッ)
回避の途中、右の首筋辺りに斬撃の炎が掠り、火傷を負った。
あまりの炎のうざさに、ついつい心の中で舌打ちを放つ。
焼かれた首筋を痛みながらバルザンを見つめていると、彼はフッと醜悪な笑みを浮かばせ、こう答えた。
「ほぅ……効いたみてぇだな。もっと左に深く焼けば血管が詰まって俺の勝ちだったが……。」
「それは残念。それにしても、優秀な魔法だな……フツーの冒険者が習うとうな平凡な技じゃないだろ?」
「そこら辺にいるゴブリンですら一撃で倒せねぇ、レベル3以下のゴミ魔法と一緒にするな。赤色魔法レベル5の【舞踏炎撃】って奴だ。通常の魔力の消費は半端じゃねぇがな。」
バルザンは彼の部下と丁度反対にいる俺の生徒達に指差しながらそう言った。
俺の生徒達は、何時作ったのかわからないテンプレートを持って俺を応援している。
(カルナ言語で【ガンバレアイリス!】か……ちょっとやる気でた)
ゴブリンの酷い扱いに少々腹が立つが、確かにレベル3以下の魔法程度ではよほど魔力を込めなければ確かに倒せないのは事実。
ちょっとした例えだろうと勝手に自分で決め付けて消化した。
「そうやって言うって事はお前……この魔法に使う魔力、対したことないんだな?」
「そう言うことだ……【魔力球】! 【舞踏炎撃】!」
(ん? よく考えたら……バルザンって魔法使う時に絶対先頭に【魔力球】使っているんだよな……)
俺は小さな違和感に気付くが、まるで悟らせまいと考える時間を潰すように襲いかかる魔力球と炎の斬撃。
「【身体強化】!」
今度は当たらないように、魔法で身体を強化する。
基本的にこの魔法は、攻撃と防御の数値を上昇するものだ。
回避や早さが上昇するのは微々たる物。
しかし俺にとっては、その『微々たる物』という雀の涙程度の上昇が大きく変わってくるのだ。
(ジワジワ魔力を削られるのは仕方が無い。回復魔法を修得していない俺にとって、ここでのケガは命取りだからな)
俺は厄介な炎を纏った数十の斬撃を悉く回避していく。
複雑だが攻撃がパターン化されていることと、追尾だから逃げないように気を付けば対処は簡単であった。
どこからともなく1秒間に数十の早過ぎる斬撃が容赦なく襲いかかる、あの【大剣舞】とは大違いだ。
(やはり接近攻撃で魔力ぶっ放すしか俺に勝ち目は無いな!)
【舞踏炎撃】を抜け出した俺はバルザンの元へ駆け寄り、至近攻撃を試みる。
「来やがったか……食らえ! 【魔力球】! 【驚愕する魔力球】!」
バルザンは何とモークの得意技である【驚愕する魔力球】を俺にぶっ放してきた!
対処するのが難しい理不尽魔法をずっと相手していくのは面倒だ。
(……どうする?ずっと回避するのも手だが、バルザン対処しながらだとキツイ)
とりあえず64個の魔力球はアッサリと回避し、後からゆっくり向かってくる理不尽魔法だけに専念する事にした。
だが、完璧な対処方法がイマイチ浮かばない。
刻一刻と向かってくる理不尽魔法、マトモに食らえばタダでは済まない。
直後、俺は荒い対処法を考え出す。
(腕吹っ飛ぶかもな……)
時間が殆ど無い中、俺は賭けに出ることにした。
「【魔力球】!」
俺は左手の拳(義手)に魔力球をくっつけ、1メートル程の大きさの理不尽魔法の球を全力で殴った。
球同士激しくぶつかり合い、「ドォン!」という衝撃と音が響き渡る。
「……クッ……。」
俺は歯軋りしながら左腕に力を込める。
殴った俺は正直言ってかなり痛い。
義手の付け具が俺の腕の肌にのめり込んで、かなりの血を出してしまっている。力を込めて痛めつけているのだから当たり前の事だ。
それでも俺は力を込め続ける。
痛い?
特訓の頃は何時もそうだった。
「言っている暇があるんだったら立派な木の棒見つけて魔物に立ち向かえ!」
と自分に言い聞かせてきた。
今更痛い思いをして辛くない。
自分が環境に勝手に慣れただけの話。
「うおぉぉぉぉぉお!!!」
俺は雄叫びを上げて力を込めた。
理不尽魔法の球は押し出す力を次第に失っていき……。
遂に俺は力技で理不尽魔法を弾き飛ばした。
「魔力球を付けただけの、単なる力技だけで弾き飛ばせるほどの魔力じゃねぇぞ……。」
バルザンは自分が放ったハズの理不尽魔法が、弾き飛ばされて自分に向かってくる光景を見ながらそう呟く。
自分の魔法だから受けでも平気なのだが、俺はそこを狙っていた。
「食らえ、バルザン! 」
俺は青色の混じった血を流した左腕を、理不尽魔法球に向かって素振りする。
さっき濃密な魔力を左腕に込めていたから、魔力は左腕に流れているのだ。
濃密な魔力は赤い血の一部を青色に変化させる。
腕を飛び出した青色混じった血は、理不尽魔法球の中に入っていく。
そして……。
「ドオォォォォン!」
「ガアァァァァア!!!」
バルザンの断末魔と共に激しい爆発と衝撃音。
炎が木の高さよりも吹き上がり、風による波紋はそびえ立つ木々を悉く薙ぎ倒す。
更に懲りる事もない風はタイマン勝負の選手や観客を慈悲無くぶっ飛ばした。
周りの水分を多く含んだ砂を吹き飛ばすほどの爆発であったが、茶色い大粒の痛い雨をバタバタと音をたてながら直ぐに落ちていった。
俺は爆風の勢いで後ろに飛ばされ、木に激突し背中を強打してしまった。
幸い平たい木だったので大したダメージではない。
(魔術本の中に記されていたけど、幾ら何でもやり過ぎた……バルザン死んだらどうしよう……)
予測しない強烈の爆発に、俺は心の底では戸惑っていた。
砂は舞い上がっていない。
雨の影響で砂が重くなったせいである。
俺は爆心地をじーっと見つめた。
……バルザンは辛うじて生きていた。
何かの魔法を使って咄嗟に防御したのだろう。
大きな火傷が十以上伺える。
体中飛び散った砂や石の影響で無数ものケガを
口から俺でも見えるほどの血の量を流し、今にも倒れそうだ。
「ハァ……ハァ……ハァ……マジで死ぬかと……思ったぜ……。」
……そんな状況にも関わらず、バルザンはそう言うとゆっくりと俺の元へ歩いてくる。
口から流れ出る血を気にしないその醜悪な笑みは、子供が見たら泣き出して一生のトラウマ物だろう。
痛みを必死に我慢して悠々と、豪胆に此方に向かってくるその姿をみた俺は、心の本能をブルリを震わせた。
俺が木に手を付いて立ち上がった所で、バルザンは血反吐を左に飛ばし、荒い息遣いで声を振り絞る。
気迫に飲まれようになる前に後ろに退避して、バルザンと距離を取った。
「……やられたぜ。まさか……自分の放った理不尽魔法が乗っ取られるとはな。それに……左腕がその状態でも全く根を上げねぇ。なんて化け物なんだテメー……。」
「人間ってやろうと思えば何でもできるさ。身体能力が高いハズの魔物が人間に負ける事があるのはそう言うことだ。」
「それに、その状態で立つ人間は初めて見た。」と俺は付け足す。
するとバルザンは再びニヤリと笑みを浮かべ、一言添える。
「じゃあ……その言葉が本当かどうか見せてみろ!」
「何!? !!!」
俺はバルザンの言葉に反応する。
直後、後ろから突然魔法陣が浮かび上がる!
そう言えばここは……バルザンの、戦いの初めの立ち位置。
【発動準備】を戦う直前に仕掛けていたのか!
ヤバイ!!!
「今度はテメーの番だ! 【魔力球】! 【一点集中】! 【爆裂魔法lll】!」
バルザンの詠唱から直後、俺の真後ろの魔法陣3つが同時に発動する!
非常に小さいが威力の上がった【魔力球】を512分裂し、それらを【爆裂魔法lll】を中心に引き寄せる。
そして、強烈な爆発がゼロ距離で起こった!
爆発と共に512個の魔力球が弾丸の如き速さで周りに飛び散る!
最初の数十はギリギリ回避出来たが、向かってきた残り100後半の魔力球は全く回避出来なかった。
襲い掛かった魔力球は俺の両足、腹、両胸、両腕、肩……。
特に腹に1センチ以下の魔力球が10球程貫いたのが耐え難き激痛だった。
咄嗟に両腕で頭を抑えたのは幸いである。
幾ら地獄で生き抜いた俺でも、頭に当たればあの世行きだ。
「ガアァァァァア!!!」
珍しく俺は激痛の余り断末魔を上げた。
こんな痛みが一気に来たのは数年振り。
バルザンの魔法が終わった俺は立ったまま激痛を堪える。
(ヤバイ……マジで……ヤバイ……)
動こうにも全身からくる痛覚が激しく揺さぶり、俺の行動を完全に阻害する。
……だが、何故だろう?
あれだけのダメージを食らって何故死なない?
体力はもうゼロのハズだろ?
(数年前のあの時もそうだった。ちょっとした失敗で魔物が作った罠に掛かり、魔物の骨で出来た針だらけの穴に……。全部骨が抜けたのは4時間位後だったっけ?)
1リットルを余裕で越え、2リットルに届きそうな量の血を出しているハズなのに……。
俺は……生きている。
それどころか、段々と楽になって来るのを感じた。
俺の体の中で、何かが起きていた。
―――――――――――――――――――――――




