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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
84/116

第79話 残されたメッセージ



 フレッドが倒れる2時間前の午後2時まで遡る。






 その頃【ル・レンタン組合専用取引所】のメンバーは、とある一報により緊急会議を開いていた。


 フレッドを除く幹部達が全員出席し、全員が銀製と青銅の装備をガッチリと整えている。

 普段置かれているワインの姿は無い。



 皆が集まった気を見て、黒色と銀色の武具を纏って一層威圧感が増したバルザンが声を発する。



 「聞け。お前たちに重大な知らせがある。」

 「? それは……一体何でしょうか?」



 幹部達は少しの間慌て振りを見せた。


 そして音が小さくなったのを皮切りに、バルザンが重大な知らせを告げる。



 「今朝、【グルドの森】に行かせていた密偵達から……とある一通のメッセージが届いた。残念ながら、密偵達は未だ此処へ帰っては来ていない。メッセージを此処へ送った直後、全員捕らえられたと言うのが本筋だろう。」

 「「「……。」」」


 「全員揃って悲しむな。手も足も出ねぇ迷宮のような状況から、俺達の部下があんな危険な地でこんなすげぇ情報を持ってくるんだからよ。見てみろ。」



 バルザンは、手に持っていた一枚の洋紙を円形の大テーブルの真ん中に置いて幹部達に見せる。


 そこには、こう魔力で刻まれていた。



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 【うでどけい】の短針長針は12と20を示している。



 俺は現在、


 モーク

 ユッケ

 村長

 ボス

 ノノア


 と言うメンバーで、村長の部屋に集まっていた。


 あれからモークは、自分の掘った穴のお陰で模擬戦争に勝ったという報告を聞いた途端、何事も無かったかのようにケロッと元気に戻っていた。

 まさかモークが毒草を我慢する用にコッソリ掘っていた穴に、村長が目を付けるとは思っても見なかった。




 何をやるのかと言うと……ちょっとした尋問である。


 すると早速、ゴブリンが入ってきて村長に取り次ぐようにお願いをして来た。



 「村長、連れてきました。」

 「通しなさい。あまり粗暴に扱わぬよう。」


 「はい。」



 すると、縄で両手を拘束された男達がゴブリンに連れられて歩いてきた。



 「此処に座りなさい。」



 男達は文句一つも言わずに黙って座る。


 (まさか……殺されると思っているんじゃないのか?)


 この男達は【ル・レンタン組合専用取引所】の密偵達だ。

 あのモークとの激戦を乗り切った人達である。



 ちなみにモークは、彼らに憎しみの念と言うものを抱いているようには見えなかった。

 俺が昔モークを殺そうとした時に、あの鋭い憎しみの目つきを一度は見たから分かる。


 この一件で何処か割り切った部分が、アイツ自身の中であったのかも知れない。



 俺がホッとした直後、村長は男達に挨拶と質問をし始めた。



 「手荒い扱いをお許し頂きたい。私はゴブリン村長と申す者。【ゴブリン軍団】の指揮を取っております。」

 「ほぉ、あんたがこの軍団の親玉って訳か。名前は宣戦布告の名前欄に書いてあった……そっくりそのままゴブリン村長とは想わなかったぜ?」


 「魔物は本来名前と言うものを持つ事は生涯ありません。ですが魔物を区別するために、ゴブリン村長という名前で通しております。あの手紙を送ったのは私で間違いありません。」



 村長は特に気にすることもなく淡々と魔物事情を説明する。


 別に名前があったから強くなる、名誉があるから他の魔物に慕われる……といった変化があるはずもない。

 ただの呼び名程度の扱いであると村長は言いたいのだ。



 「話はこれまでにしておきましょう。さて、アナタ達に一つお聞きしたい事が御座います。」

 「俺達が必死になって送ったメッセージの件か?」


 「はい、そうです。どの様な内容を送ったのかお聞きしたい。」

 「嫌だと言ったら?」


 「アナタ達と激しく戦ったモーク殿が、ちょっとした拷問官となりましょう。人を痛め付けずに、なかなか心が折れる拷問ですぞ?」



 男達は村長が示す方向にいるモークを見つめる。

 モークは「俺がお前らをシバく」とでも言わんばかりの態度で威張ってふんぞり返っていた。


 それを見た男達はゲラゲラと腹を抱えて爆笑する。


 (コイツら……お疲れ様。俺でもマジで辛い拷問だぞ?)


 俺がこの男達の末路?を予想していると、男達は腹を抱えながらモークをバカにした。



 「ハハハハハ! 何かと思えば、モーク。お前が拷問をするのか! 良いだろう。俺に拷問をやってみろ。心がポッキリ折れたら全部話してやる。」

 「なるほど。素直に吐けば良いものを……わかりました。1時間少し後にまた此処へ呼び出します。此処で吐けばよし、さもなくば……モークの拷問を味わって貰いましょう。連れて行きなさい。」


 「ハハハ! くだらねぇ! 何がモークの拷問だ? 楽しみにしてるよ。ハーッハッハッハ!!!」



 男達はその捨て台詞の後、数人のゴブリンに連れられて高々と笑いながら戻っていった。



 「モーク、出番です。人を痛めつけて吐かせる拷問よりも数倍に、此方の方がこの世の地獄というのを見せなさい。」

 「ハーイ! 今からお風呂行ってくるねー。」

 「毛先をピンピンにして帰ってくるんだぞー!」



 村長の合図を受けたモークは、風呂に入っていった。

 ユッケの台詞も、少しはヒントになっているだろう。


 事情を知らないノノアは村長に質問する。



 「村長殿。痛めつけるよりも辛い拷問とは何でしょうか? それに……どうしてモークはお風呂場へ?」

 「ホッホッホ! では、ノノアさん。試しに受けて見ますかな? 辛さがハッキリと理解出来ますぞ?」


 「えっ? 私? 痛くするのは御免よ。」

 「いいえ、決して痛くはありません。ですが……他の感情から考えれば、これ以上のものはありませんなぁ。」


 「……私も一応密偵という扱い。拷問に耐えられずして、密偵が務まりません。」



 ……えっ?

 本気ですか?ノノアさんにはちょっと辛いと俺は間違い無く思うのだが……。


 ゴブリン村長も本心で言った訳ではないので、少し困惑する。

 素直なノノアには村長の冗談がキツくて通じないのだ……。


 あまり状況が追い付いていけない展開に、この拷問をモークに勝手に風呂場でやらされた俺が一つ忠告する。



 「ノノアさん、止めておけ。俺でも5分持たん。痛みなら別に腕が千切れても我慢出来るが……あれは狡い手だ。」

 「アナタで5分未満なの!?」

 「俺は必死に暴れて40秒が限界だった。あまりの辛さにモークを一回ぶん殴った事がある。」

 「ホッホッホ! 申し訳ありません、ノノアさん。少しキツイ冗談でしたなぁ。まぁ、彼らを見ていれば直ぐに察しがつきますよ。」


 「は……はい。」



 俺とユッケが苦い表情を噛み締め、ゴブリン村長はさっきのは冗談だと慌てぶりを見せる。


 ノノアは少し困惑した顔で数度軽く頷いて返答した。








 それから約束通りの小一時間後。

 俺達が香味草を吸っていた所に、湯気だったモークが帰ってきた。



 「ただいまー!」

 「お帰りなさい。さて、挑戦者を呼び出しましょうか。」



 モークの帰宅と同時に、村長は【情報伝達】でゴブリン達に連絡を飛ばした。










 数分後、男がこれから何をされるかも知らずにゴブリンに連れられてきた。


 男はモークをみて「フッ……。」と鼻で見下ろす笑みを浮かべ、余裕の表情である。



 「お待たせしました。それでは、拷問を始めます。モーク、執行しなさい。」

 「ハーイ! ねぇ、まずそこに座って。」

 「おぅ。此処に座れば良いのか? 言っておくが、痛みを我慢する耐性は高いほうだ。甘く見るんじゃないぞ?」



 男はなんの変哲も無い木のマッサージチェアによく似た椅子に腰掛ける。


 別に椅子に針が刺さっていると言うものではない。



 「そこのゴブリンさん。この人が余り暴れないように椅子にくくりつけて。」

 「はい。畏まりました。」



 モークは近くのゴブリンに命令し、男を椅子から離れないようにキツく縛り上げた。


 男はこれで椅子から逃げることは困難になった。



 「じゃあ、今度は、足辺りにある穴が開いてある木の筒みたいなのあるじゃん? そこに足を通して。両端にあるネジで動けないように固定するから。」

 「此処に両足を通すのか?」


 「そうそう。じゃあ、ゴブリンさん。両端のネジを回せなくなるまで両方とも右に回して。」

 「うっ……。足が圧迫されているな。」



 男は両足を木の筒に通すと、ゴブリンが両端のネジを回す。


 両方が外から圧迫されているらしい。


 (異世界で言うところの【こんぱす】で【えんぴつ】を固定するのに良く使われるヤツかな?)


 男は足を木の筒に通して、動けなくなった。

 丁度足の先は筒から抜けており、革の靴が出ている。



 こうして、今男の状態は……。


 1.両腕、両足ともに動かせない。

 2.両足が木の筒に入れられ、(ただし、足先が出ている)足が浮いている。

 3.椅子自体に仕掛けは無い。


 こんな感じだ。




 そして、最後にしなければいけない準備が後一つある。



 「ゴブリンさん。男の人、靴履く必要ないでしょ? どうせ両足浮かんだ状態だし。素足にしちゃって。」

 「?????」



 ゴブリンは男の革靴と靴下を両足とも脱がした。



 「よーし、アイリス。ボクの毛を立てて。ピンピンに。」

 「わかった。」

 「……!!! オイ! まさかお前……。」



 男はどんな拷問をされるかに何となく気づき、少しジタバタし始める。


 ……が、固定されてしまったため殆ど動けなかった。

 逆に体力を減らすだけの結果となってしまった。


 その間、俺は濡れてびしょびしょになったモークの毛をピンピンに立たせる。



 ユッケからOKのサインをもらい、モークは意気揚々と声を上げた。



 「では、これより拷問を始める。……ねぇ、キミたちが本拠地に送ったメッセージの内容ってなに? 今教えたらこの拷問なかった事になるけど。」

 「オイ! 拷問はイテェのじゃなかったのかよ! オイ!」


 「えっ? 誰も拷問は痛いヤツなんて何も言ってないけど? ……言わないつもりだね。」

 「オイ! ちょっと待て!」



 モークは頭の毛がピンピンした状態で男の足元付近に立つ。



 ノノアはモークの立ち位置と謎の木の筒で全てを察したらしい。

 恐ろしすぎてどう言えばいいのか?という困惑と哀愁の表情で男を見つめる。


 「がんばってねー。」ともいいたげである。

 相手が可哀想過ぎて逆に応援したくなる気持ちは俺にもよくわかる。



 「あのまま真面目にお試しをしていたら、今頃自分がどんな顔をしてくたばっているのかを想像したら……うう……。」



 ……と後で質問した時、ノノアはそう語ってくれた。



 「食らえ! 必殺、【こちょこちょ連撃振動体】!!! こーちょこちょこちょこちょこ……!」

 「ギャアァァァァァァァァァァ!!!!!」



 モークはピンピンになった自分の毛を、男の足の裏に当て、激しく振動する。


 足の裏をこちょこちょと他人に滅茶苦茶擽られていると言えば分かりやすいだろう。

 しかも、モークの振動する速さと細い毛並みが纏まった毛でこちょこちょされている。


 他人にこちょこちょされるよりも絶大な効率で足の裏をこちょこちょしているのだ。




 痛みに慣れている人間でも、これは耐えられない。

 男は断末魔より酷い叫び声と凄まじいこそばいという感覚を限界突破のその先まで味わわされているのだ!


 人の感性と言うものを極限にまで感じさせ、過剰な感覚で心を折る。


 コレがこの拷問の最も恐ろしい所である。

 しかも動けないから逃げられない。


 この要所要所で、さらに人の心を折らせるのだ。








 開始から40秒が経過して、モークはこちょこちょ攻撃を止めた。


 男の断末魔が途切れる事は無く、ゼェゼェとくたばった表情を崩すことはなかった。



 モークは敢えて5分後待った。

 くたばった状態で聞いても答えるのがしんどいからである。


 そして、時間が経過すると再び質問を始めた。



 「キミたちが本拠地に送ったメッセージの内容ってなに? 言わなかったら次は80秒ね。」

 「わ……わかった! わかったから! ……これで勘弁してくれ。い……言うから!」


 「ウソ言ったら更に40秒追加して120秒……2分だね。ホントに言う?」

 「言います!」



 男は、わずか40秒で内容を吐いてくれた。






 ある程度楽にさせたモークは、早速話を聞く。



 要約するとこうだ。



■■■■■

メッセージ(要約)



 バルサン様に緊急の御報告が御座います。


 この作戦は敵側にバレてしまいました。



 【グルドの森】で行われていた戦争。


 【朱の騎士団】と【ゴブリン軍団】の戦争は、本物ではなく模擬戦争でした。


 両軍団は同盟関係であると言うことになります。



 今すぐフレッド殿から王様に言っておくようにお伝えください。

 「【朱の騎士団】は魔物と同盟関係を組んでいる……と!」

 コレで【朱の騎士団】は解体するでしょう。


 申し訳ありませんが、このメッセージが届いた時には我々は既に捕まっている所でしょう。



 バルサン様にお慕いすることが出来たことを心より、お喜び申し上げます。


 バルサン様に栄光あれ!



■■■■■



 ……と言うのが、メッセージの内容だ。


 村長は困った表情で呟く。



 「最も悪い内容ですね……。敵ではありますが……密偵の仕事ぶりにはつくづく頭が下がります。」

 「ヘッ! ウラの社会で必死に生き抜いてきた人間とやらを舐めるんじゃねぇ。さっさと俺を殺せ!」



 男は喧騒な表情を出して村長を鋭い目つきで警戒と睨み付けをする。



 「……モーク。椅子から出してあげなさい。ついでに彼の仲間全員、解放の機会を与えましょう。」

 「いいの? 野に放しちゃって?」


 「構いません。」



 村長は何の抵抗も無く解放しようとする。

 もう情報を吐いてくれたので、用済みだと思ったのだろう。



 「ちょっと待った! 俺達を野に放せば、夜の戦争でまた襲いかかるぞ? 良いのか? 此処で殺すべきでは無いんじゃないのか?」

 「逆にアナタに聞きましょう。襲いかかれば今度は本当に死ぬかもしれませんよ? それに、アナタ達を殺しても此方には何の利益もありません。」


 「闇社会の俺達を助けると言うのか?」

 「はい。ただし一つ果たし状とやらをバルサンという男に渡して頂きたい。このままいけば、犠牲者を多くだすでしょう。最低限の犠牲者で決着が付くような戦争を、私は望んでおります。」


 「本物の戦争で最低限の犠牲? 出来るわけ無いだろう! どの口が言ってんだ?」

 「そこまで疑うのならお見せしましょう。」



 そして、村長は後ろにあった丸められたら細い紙を近くのゴブリンにお願いして男に手渡す。


 男は、丸められた紙のシワを戻して見る。

 そこには……。



 「な……なんだと?」

 「どうです? これからフェアーな戦いになると思いませんか?」


 「……。」

 「話は此処へアナタ達が戻ったとき、一人の男が立っているでしょう。彼に返答してください。」


 「もし、戦争を選んだらどうする?」

 「その時は、皆が一斉に弓を構えて撃ったらどうです?」



 ……って、

 返答受けるの明らかに俺の役目じゃないか!


 まぁ……いっか。

 回避は俺担当だと自分で言ったしな。








 その後、村長は男の仲間も解放した。

 武器、衣服など全てが返還された。


 彼らはモークに連れられて入り口へ向かって言った。






 「ソンチョウ。アナタハアノオトコニ、ナンノテガミヲアタエタ? ヤツノヒョウジョウヲサッスルニ、センソウヲトメルナイヨウデハナイトオモウノダガ。」

 「はい。戦争を止めたりは出来ません。一度送った宣戦布告は、形は違っても最後までやり通すべきかと。」



 モークが帰ってきた所で、ボスは村長に質問を始めた。


 俺は村長のとあるフレーズが気になり始め、村長に質問する。



 「村長さん。『形は違う』とはどういうことですか?」

 「はい。モークも揃いました所で、議題に入りましょう。男に渡した手紙の内容は……。」



 この手紙により、事態は急展開を迎える事になるな。


 と、俺は間違い無く確信した。



 「ノノア殿。この事をワゼリス殿に報告お願いします。」

 「はい。畏まりました。」



 説明を終えた村長は、ノノアにワゼリスへの伝達を頼み、彼女は了承する。




 さて今日の俺達の役目は、これで最後だ。


 村長が考えた、「戦争で犠牲者を最小限にまで下げる方法。」それは……。 








―――――――――――――――――――――――



 「……何ですと!? 【朱の騎士団】がゴブリンと……クソッ!」



 【ル・レンタン組合専用取引所】の幹部達は、密偵が残したメッセージに悔しさを露わにする。


 まさか現在親しくしている【朱の騎士団】がゴブリンと手を組んでいるのが見抜けなかったからだ。

 いや、怪しんでいたが証拠が無かったというべきか。


 (ローズが殺されたのは、【朱の騎士団】と組んでいるのを見られたくなかった……となると、モークタンとやらが殺ったと見える。大した奴だ、ローズの喉を仕留めるとは……)


 バルサンは皆が悔しがって【朱の騎士団】に怒りの矛先向けている間、冷静になってローズが死んだ理由を見つけた。



 幹部達は【朱の騎士団】をどうやって潰すか、必死になって考えているとすぐさま最適な解答を見つけた。



 「……今すぐフレッドを呼べ。貴族である奴が王に『朱の騎士団が魔物と組んでる』と伝えれば、王の権限により朱の騎士団は解散に追い込める!」

 「確かにそうだ! 当の本人はどこだ?」

 「今、俺の部下が奴の自宅に向かっている。まもなく連絡が来るだろう。」



 数分後、部下を送った幹部が【情報送信】のメッセージを受け取る。


 彼は青ざめながら他の幹部達にこう伝えた。



 「……私の部下からの情報だ。フレッドはどこにも居ない。どこに行ったか分からないという。」

 「何!? くまなく調べたのか?」


 「ああ、部下が徹底的に奴の自宅をくまなく探したが、裸の若い女が放置されて居たとの事。」

 「「「何だと!?」」」



 幹部達は驚きと落胆の声を挙げる。




 男の部下がフレッドの自宅にたどり着いた時間は午後2時15分。


 実はこの時ロガーに土下座させられ、仕方なくフレッドはワゼリスの所へ死にに向かっていたのだ。

 この時間、2時丁度。



 ロガーのプライドを捨てた渾身の土下座が、【朱の騎士団】をピンチから救ったのである。

 

 もし、フレッドがロガーの土下座を無視して女とメコっていたら……【朱の騎士団】は王の権限で終わっていた。

 運命とはそんなものである。




 「あのアマガエルが……コッチが一大事だというのに……。自己貴族の鑑め!」

 「オマケに俺達が手を汚してまで集めたカネを貴族という立場使ってくすねとりやがって……結果このザマだ。」



 そんな事を知る由もない幹部達は、フレッドに罵倒を飛ばす。

 今頃フレッドが使用人にセクハラ行為をしている事も知らないのだ。




 「貴族の愚痴はそこまでにしておけ。俺達のやることは一つだ。」




 バルサンはとある紙を取り出し、それを幹部達に見せた。


 モークタンが出してきた宣戦布告の紙である。



 「お前らにもう一度言う。俺達のやることは、」



 するとバルサンは、銀製のナイフを勢い良く宣戦布告の紙に向かって刺した。


 ナイフは紙を貫通し、「カトン!」という音と共に机に刺さった。


 幹部達は音とバルサンの闘志に震える。

 「この男を敵に回してはダメだ。」という悪寒を間接的に感じているのだ。




 「この紙を送ってきたゴブリン共に勝つ事だ。【朱の騎士団】を倒すのはこの後からにしろ。」

 「「「!!!」」」


 「ついでに、フレッドの縁を此処で切る。俺達は貴族の言いなりになった組合じゃねえ、闇社会のトップを取る組合だ! ……もし俺の話が間違ってると思うなら、今此処から出ていけ。元々入退自由だ。辞めた時のカネもくれてやる。」

 「「「否! 我々はバルサン様の意志と共に!」」」


 「……ありがとよ。よし、後は……ん?」

 「おーい! 誰かいるか?」



 バルサンが作戦を細かに伝えようとしていると、入り口から声が。



 「誰か出てやれ。」

 「近いので私が行きます。」


 「油断はするな。お前らも常に警戒しろ。」

 「「「はっ。」」」



 入り口のマンホールに近い男がバルサンの指示を受けて向かう。


 声はマンホールの上から声を出していた。

 敵対勢力や兵士の可能性があるため、迂闊に声を出せない。


 すると、男はマンホールを一回叩き、小声で詳細を示す。



 「365006です。メッセージを出した俺達です!」

 「何!? ……ゴホッ。我がル・レンタンの組合は……。」


 「全ての組合を我が手中に治めることを願望とする。」



 男が正確に合い言葉を言うと、



バ 1回2回0回

ル 2回2回2回

ザ 0回2回0回2回

ン 3回1回2回

、 3回2回0回

バ 1回2回0回

ン 3回1回2回

ザ 0回2回0回2回

イ 0回4回1回

! 3回2回3回


 ※一連の流れは、第64話参照。



 と、マンホールを合計50回叩く。



 仲間だと確信した幹部の男は、マンホールの鍵を解除する。



 「……お前らメッセージを送った奴らか……入れ。バルサン様に状況全て説明しろ!」

 「畏まりました。」



 男達はマンホールの中に入り、最奥にいる幹部達とバルサンに会う。

 そしてバルサンに目がはいると、彼らは土下座して帰還の意を伝える。

 


 「密偵部隊総勢10名、只今戻りました。ご報告に遅れてしまい、申し訳ありません!」

 「お前ら……釈放されたのか? 取り敢えず、立て。お前らが頭を下げる必要はない。とにかく、なにもしてやれなかったことに……俺から謝罪する! 無事で良かった!」



 バルサンは密偵に立つよう命令する。無理矢理「命令」をしないと部下は立ってくれないのだ。

 そして、自分の責任だと言い机に両手と頭を付けて謝罪した。


 (バルサン様……部下の事を第一に考えるその姿勢に敬意を示します!)


 幹部達と密偵部隊はバルサンの行動に感動する。

 特に密偵達は自分達の為に団長が頭を下げる行為に、思わず目頭を熱くする。



 それから、密偵の男は事の全てを語り、一枚の紙をバルサンや幹部達に見せた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 果たし状


 送り主 

 【ゴブリン軍団】代表 ゴブリン村長

 【ゴブリン軍団】代表 ダークゴブリン


 果たし状対象

 【ル・レンタン組合専用取引所】




 宣戦布告以来お久しぶりで御座います。

 ゴブリン村長です。



 正直なところ申し上げますと、私達はあなた方と多量の血を流す戦争は非常にご遠慮したい所です。


 バルサン殿も、部下達が血を流す光景をご覧になりたくはないと思います。



 そこで、我々の誰か一人を選出して拳で語り合うのは如何ですかな?

 勝った方が勝者、くたばった方が敗者。

 犠牲は最小限で済むでしょう。



 これはあくまで提案です。


 以前提案したようにそのまま兵を引き連れて戦争するのも構いません。

 これが罠だと思うのなら、それでも構いません。


 この果たし状の是非の返答は【グルドの森】の外におられるアイリスと名乗る者にお願い致します。

 バルサン殿の御決断をお待ちしております。



 以前にも言いましたが、決して後ろを向かぬように。

 団長らしくありませんぞ?


 P.S. 捕らえた密偵達は私が解放しました。多少の拷問は与えましたが、それ以降の身体に影響は与えておりません。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 「……拷問されたか。吐いたか?」

 「……はい。申し訳ありません。」


 「仕方無い。俺達が知った所で、肝心の貴族は行方がわからねぇ。大人しく行くしかねぇな。」

 「バルサン様、如何致しますか? ゴブリン共の要求を飲むと?」


 「ああ、飲むさ。俺が戦ってやる。」

 「「「!!!」」」



 バルサンの衝撃発言に、その場に居た者全員が驚愕する。



 「り……理由をお聞かせ願えますか?」

 「お前ら、ゴブリンと戦って血を流すつもりか? 明日隣で親しくしていた仲間が無残にも死んでいる姿を、是が非でも回避したいだろ?」


 「「「……。」」」

 「それに……この果たし状はわかりやすいじゃねぇか。相手が選んだやつに勝てば勝ち、たったそれだけ。最小限のダメージで雌雄を決するのは俺個人としては男気を感じる。」


 「しかし、バルサン様が戦う必要など……。」

 「団長の俺が全責任を持つのは当たり前じゃねぇか。一番強えぇ奴が、部下達の期待を背負って戦うのは当然じゃねぇのか?」


 「「「!!!」」」

 「万が一、罠だったら仕方無ぇが戦争だ。負けたら当然俺のせいにしろ。お前らの責任で追い詰められる様子を上から見るのは耐えられねぇ。俺はどう励ましたらいいんだ?」



 幹部達と密偵達は何も言い返せなかった。


 バルサンから放たれる強い闘志と意志に、一言も口が出せなかったのである。


 更に、この中で一番誰が強い?と聞かれると、全員が答えを合わせてこう返答するだろう。

 「バルサン様が一番強くて憧れます!」と。


 バルサンのレベルは97。

 しかし、彼の強さはそこでは無かった。



 彼は立ち上がり、雄叫びと同等の高々なる声で幹部達に指示する。




 「聞けえぇぇい! あと数分後で全部隊は【グルドの森】へ向かう! この街からの隠しルートA~Fを使って、【タフタル草原6-E地点】で15分後に全員集合せよ! 解散!」

 「「「はっ!!! バルサン様のご意志と共に!!!」」」


 「【格闘部隊】全員にバルサン様の命令を通達する! 隠しルートAを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合! 繰り返す! 隠しルートAを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合!」

 「【盗賊部隊】全員にバルサン様の命令を通達する! 隠しルートBを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合! 繰り返す! 隠しルートBを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合!」

 「【暗殺部隊】全員にバルサン様の命令を通達する! 隠しルートCを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合! 繰り返す! 隠しルートCを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合!」

 「【遊撃隊】全員にバルサン様の命令を通達する! 隠しルートDを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合! 繰り返す! 隠しルートDを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合!」

 「【魔法部隊】全員にバルサン様の命令を通達する! 隠しルートEを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合! 繰り返す! 隠しルートEを使い、15分後までに【タフタル草原6-E地点】へ集合!」

 「【バルサン親衛隊】! 我らは何事があろうと、バルサン様のお側に控えろ! 決してバルサン様を死なせるな!」

 「【密偵部隊】! バルサン様の指示により、【タフタル草原6-E地点】へ向かう! 隠しルートFを使用する! 俺に付いて来い!」




 幹部と密偵達はバルサンの命令の後、一度が【情報送信】を使って部下達に通達する。


 慌ただしく部下達が動く中、バルサンは黙って彼らの仕事ぶりを見ていた。


 (こんな優秀で素直な部下達全員を使って、戦争をおっぱじめる奴が団長にいるかよって話だ)






 5分後、【ル・レンタン組合専用取引所】はもぬけの殻であった。


 340名全員が、【タフタル草原6-E地点】へ一斉に向かっていったのである。

 その訓練し尽くされた類い希なる行動の速さは、後にワゼリスでさえも感服したという。




 バルサンと親衛隊が【タフタル草原6-E地点】到着したのは本人が言ってから7分後の事であった。

 既に、とある人物以外全員が集合していたのである。



 「バルサン様、フレッドを除く全員が集合致しました。フレッド殿はどう致しますか?」

 「放っておけ。フレッドは俺達の事、何とも思ってないのだろう。【密偵部隊】を先頭に進め!」


 「畏まりました。バルサン様より御命令だ! 【密偵部隊】先頭、【遊撃隊】、【盗賊部隊】、【格闘部隊】、【バルサン親衛隊】、【魔法部隊】、【暗殺部隊】の順に列を組め!」



 【盗賊部隊】の幹部がそう言うと、330名ほどの部隊が物凄い速さで列を組んでいく。


 そして……。



 「出陣!!!」

 


 全部隊が組合の旗を建てて、出陣し始めた。


 ピラミッド型の図形の一番先端に、一本の勇ましい剣を下向きに描いたその旗は、バルサンが目指す最強の組合を狙うのを象徴するような旗であった。


 事実この素早い先頭と攻撃力により、【ル・レンタン組合専用取引所】はル・レンタンの闇社会の中でもトップの強さであった。



 そんな組合の団長であるバルサンは、【バルサン親衛隊】に硬く守られ、もと商人である御者に馬車を引かれながら、中でただじっと様子を伺っていた。



―――――――――――――――――――――――

~ワゼリス視点~



 フレッドがゾンビ牛で倒れてから数十分後、ノノアの伝令から新たな連絡が入った。



 「バルサン様! 追加で数点ご報告致します。」

 「ここで話せ。」


 「はっ。【ル・レンタン組合専用取引所】へメッセージを送った密偵の情報を吐かせたところ……詳細は此方てす。」



 伝令は私に一枚の紙を手渡す。



 ・【朱の騎士団】と【ゴブリン軍団】が手を組んでいることがバレた。


 ・用が済んだ彼らを、村長は釈放した。

 →【ル・レンタン組合専用取引所】に果たし状を送りつけるのが狙い。


 ・村長は果たし状で【ル・レンタン組合専用取引所】とタイマン勝負で決着をつけるとの内容を送った。返答は不明。


 

 正直、ギリギリセーフだったと思う。



 ノノアが伝令に伝えた時間と、メッセージが伝わった時間を考慮すると……。


 フレッドが此処へ10分程遅れていたら我ら組合は死んでいた……。



 フレッドを閉じ込めた事によって、我が騎士団は解散から免れたのだ。


 (……ふぅ~。一時はかなりヒヤヒヤしましたが……助かりましたなぁ)


 安堵の息を私は吐くと、ノノア伝令は一つ提案をした。



 「あと……村長殿からの御意見があるようです。今からワゼリス殿も【グルドの森】へ行かれてはと? 勝負を決するタイマン勝負の行く末を見届けては?」

 「ふむ……。ついでに捕らえられた兵士達を村長に頼んで釈放して貰わねばなりませんからな……良かろう。予定変更しよう。ノノアには深夜には到着するとお伝え願えますかな?」


 「はい。畏まりました、ワゼリス様。」



 伝令が去っていくと、私は【情報送信】でロガーとエリスにメッセージを送った。



 「急遽申し訳ありませんが……作戦変更です。直ちに幹部全員を居室へ集合願います。」



 私はメッセージを送っている間、微笑みながら


 (この一件も最終局面ですか……色々路線を変更するハメになりましたが……面白くなって来ましたよ!)


 と、これから起こる最後の瞬間に胸を踊らせていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――


痛いより無理矢理こちょこちょされる方が辛いと思いませんか?

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