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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
80/116

第75話 500VS220 5. 模擬戦争 中編

投稿遅れて申し訳ありませんでした。

引き続き、【野蛮学校物語】をよろしくお願いします。



―――――――――――――――――――――――

~ルーサー視点~



 俺達部隊は全員が回復した後、直ぐに【グルドの森】へ再び歩みを進めた。


 今回は他の場所を攻めるとしよう。



 ……と思っていたのだが、地面が乾いた通路は最初に見つけた場所以外どこにも無かった。


 かと言って、またあの狭い通路を通るのは危険過ぎる。

 最初に罠を掛けられたから次は大丈夫という考えは禁物なのだ。



 「ルーサー様、如何なさいますか?」

 「そうだな……最初の道をまた進むという選択肢もあるが……お前はどう思う? 敢えてぬかるみに足を踏み入れるか、最初に選んだ道を進むか。」


 「そうですね……。【朱の騎士団】自慢の馬の魅力が少し削がれますが、此処はぬかるみを選んだ方が安定かと。」



 一番頼りになる部下の意見は最もだ。



 ゴブリン達がどこで待ち伏せしているかわからない中、至る所にあるぬかるみにピンポイントで待ち伏せするのは難しい。


 さらに裏をついてきたゴブリン達相手に、わざわざもう一度先ほどの場所へ突っ込むのはマズイ。



 「……お前はそう思うか?」

 「はい。……ですが、これはあくまで参考と一つと思っていただければ。ルーサー様の決断に従います。」


 「……取り敢えず、【グルドの森】の地図を頼む。」



 俺は念の為にグルドの森の地図を部下に用意させていた。

 困った時に役に立つだろうと思ったからである。



 俺は地図を貰い、持たせてもらっていたペンで書き足していく。


 地図の造りはそこまで優秀な一品ではないが、全体や大まかな場所を把握出来るなら十分だろう。


 (こことここ、あとここも泥濘。ここは最初に攻め込んだ場所……と)

 

 こうして色々な情報を書いていくと、ある事に気がついた。



 「……ん? この青い線……もしかして川か何かか?」

 「はい、イシル川です。この川は【グルドの森】を横切っています。」


 「もしかして、此処から此処の方向に流れてくるのか?」

 「はい。」



 俺は【グルドの】森の入り口から入る青い線を、人差し指を使って右から左へ辿る。


 どうやらそうらしい。

 ところが、一つ大きな問題があった。


 部下の一人が心配する。



 「しかし……先日の大雨でイシル川は氾濫しております。下手に脇道を通られますと……。」

 「確かにそうだな……生身の人間が落ちれば模擬戦争どころではなく、本物の事故だ。脇道を通ればの話だがな。」


 「ですから、別の方法を考えた方が……脇道を通ればの話とは?」

 「今からお前らに覚悟を少し決めてもらう。この模擬戦争は単に負ける訳にはいかんのだ!」



 俺は今回の要を一部の部下に説明した。



 すると一部の部隊は俺に反論する。

 作戦より命を優先したい若者達が多かった。



 「ルーサー様! いくら何でも危険です!」

 「ならば最初に来た道を突っ走るか、泥濘を通るか選べ。そのメリットを部下達の皆に納得させろ。」


 「し、しかし……。」

 「覚悟が無いのなら此処に残れ。咎めも誉めもせん。」


 「ルーサー様! 申し訳ありませんが……私達は命を優先します!」

 「好きにしろ。」



 言われる事は覚悟していたが、見放されたという感情が少しでもでると無性に苛つく。


 ……が、魔物を狩れるという今の気持ちの方が強かったため、何とか怒りを抑えることが出来た。






 「我が【朱の騎士団】に栄光あれ! いざ、敵地で華やかな勝利を!」

 「「「オオォォォォ!!!」」」



 俺の号令により、朱の騎士団は目的地へ出発した。

 ついてきた部下は凡そ380名ほど。

 残り約120名は待機だ。


 寧ろ個人的にはかなり連れて行くことが出来たと思っている。

 半分は脱退すると思っていた。


 残りの120名は俺達部隊をただジッと見つめるだけだった。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 本部では、ゴブリン村長を筆頭に数人のゴブリン。

 俺も混じって作戦会議をしていた。


 モークは顔を地面に付けたまま反省中である。

 ホントはモークのせいだけではないのだけれど……。


 そっとしておく方がまだ良い。

 下手に励ます行為は、逆に余計に傷つく事があるのだ。




 かと言って、モークが悲しみに暮れている間に会議をするのも申し訳無い。


 仕方無く医療部隊のゴブリン数人を呼び寄せ、モークを寝室へと運ぶ事にした。


 村長は申し訳無さそうな表情でモークを見つめていた。



 そんなこんなもあったが、現在は全員が冷静になって作戦会議を進めている。

 これ以上、俺やモークのようにケガをさせる訳には行かない。




 俺達はルーサー達の動きを逐一生徒達に監視させていた。


 すると、以外な情報が入る。

 部隊を少し残してルーサー達は何処かへ向かったのだ。



 「村長さん。俺がルーサーが諦めたとは到底思いません。何か作戦をたててそうです。」

 「間違いありませんね。この地図を見て理解しましたよ。」


 「えっ!?」



 驚きの余り、席を立つ勢いで俺は地図を上から凝視する。


 しかし、いくら考えても打開策は思いつかなかった。

 素人に戦略なんてわからない。

 俺はあくまで回避能力専門家だ。



 「……村長、俺には分かりません。戦略を読むのはまだまだ素人です。」

 「ホッホッホ! 今からでも学んでいけば良いのです。まだまだ若いですからなぁ。回避能力をマスターしたアイリス殿なら余裕ですぞ?」



 ホントか!?



 ……と内心疑惑の気持ちが沸いたが、確かにやろうと思えば出来ないことではない。


 俺だって意地でも強くなりたいと思って特訓してきた結果、回避能力は他の人よりも優れるようになった。

 ……少し方向性が違う気がするけど。



 そんな感情を持つ中、村長の考えが知りたいので聞いてみる事にした。



 「村長さん。ルーサーはどの様な策略を使ってくるのですか?」

 「ルーサーは以前まで辛い二択を迫られました。以前辿った道を再び通るのか、ぬかるみで馬の速度が大幅に落ちるか。彼等にその選択はさぞかし辛いものでしょう。」


 「まぁ……はい。」

 「では、他に抜け道を探すのは当然です。この森にはもう一つ変わった特徴があるのですが……此処です。」



 村長は極めて正確に描かれた【試練の森】の地図で、とある場所を指で指した。


 イシル川だった。

 俺から言わせれば、なんの変哲もない水深40センチ程の小川。


 


 此処は別に毒でも何もない。

 強いていうなら、魔物が稀に水を飲みにくる位だが……。



 「此処は……イシル川ですよね? 別に大した事ない気がしますけど……。」

 「そうですかな? ひとまず、この川のルートを辿っていきますよ。」



 村長は自慢気にそう言うと、川の流れる方向へゆっくりと指を動かしていく。


 俺は村長の指と一緒に、


 (此処は……白熊の巣が近くにあったよな。此処は……【月光】と戦う直前に小魚捕まえて食ってたっけ?此処は……あっ!)



 「村長! 止めてください!」

 「お気づきになられましたか? ルーサーはとんでもなく危険な作戦をしてますねぇ。」


 「でも……幾ら何でもそれは無茶が過ぎますよ!」

 「【朱の騎士団】の馬は他の軍団とは比べ物にならないほど性能が高いと、事前にノノアさんから教えてもらいました。彼等が跨がっている生き物は、馬の姿をした魔物レベルだと思ってください。」


 「おいおい……それじゃあ、どこで守るんですか?」

 「ホッホッホ! それを見越した上で、少しモークに手伝って貰いましてな……後で我らもそこへ行きましょう。」


 「???」



 俺は訳がわからなかった。

 村長がこの事を見越して考えた策とはどんなものだろうか?


 俺は村長の説明を聞いた。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~奇襲隊隊長視点~



 目的地に着いた俺は村長に報告する。


 予定通りそこで潜伏しろとの命令が下された。

 洞窟に近いこの場所が、ルーサー達を捕獲する最終目標である。


 失敗してはいけない。


 最終確認として仲間達に大声で呼び掛けた。



 「皆! 敵にバレないように体を隠せ! 敵全員が中に入ってから奇襲する! 良いな!」

 「「「ハイ!!!」」」


 「万が一、ケガをしたらすぐさま撤退しろ! ケガ人を0にする事が第一優先だ!」

 「「「ハイ!!!」」」



 仲間達は強い意気込みで俺の指示に応えた。


 俺達はその後、バレない場所に静かに身を潜ませた。

 泥で体が汚れたけど、大したことはない。

 待ってろ、ルーサー!


 俺の仲間を手出しする前に捕獲してやる!



―――――――――――――――――――――――



 その頃30体ほどの弓部隊のゴブリン達は、別の所へ移動していた。

 森の入り口から少し入った空き地である。


 なんと、ルーサーとの同行を断った残り120名の部隊を追い散らそうとしているのである。

 勿論村長からの命令だ。


 空き地から部隊までの距離180メートル。

 途中、数十以上の木が矢の行く手を阻んでいる。


 魔法を一切使わずに敵に当てることなど、有り得ない程の難しさであった。

 しかし弓部隊隊長である彼女は、この場所からの射撃など楽であった。



―――――――――――――――――――――――

~弓部隊隊長視点~



 いた。


 あそこにいる。



 私は仲間達の為に、敵に向かって指を指した。



 「あそこ。そこそこいるけど……見える?」

 「はい。でも、村長さんが思ったより少ないです。覚悟が出来ている人が多い証拠ですね。」


 「うん。100より少し多いってとこかしら。」



 私は敵をじっと見つめて様子を伺う。


 待ちくたびれているのか、馬の世話や仲間と座ってのんびり談話していた。



 「此処から打って当てるのは、我々ではかなり厳しいです。隊長は……如何ですか?」

 「余裕。止まっている敵は軌道と風の流れを理解すれば良い。矢を打ちながら前進すればそれだけで脅威だからね。アナタ達は敵が狙える距離まで近付いてきたらドンドン打って。私達の目標は彼等を問答無用で撤退させること。」


 「「「はい!」」」



 仲間達は私に敬礼をする。

 私がこの仲間達の安全を任されている。




 生まれつき父と母が弓の名手だったという訳じゃない。


 単純に好きになったから極めた。

 ただそれだけ。

 他の同年齢の仲間にはちょっと不思議そうに見てたけど、それでも弓が好きだった。


 いつの間にか、私が一番上手くなっていた。

 弓部隊の隊長?

 好きで一人でずっと弓を極めてた私が?


 今までは仲間達を指揮する事なんて深く考えなかった気がする。


 (でも、今日で仲間達を引っ張っていく責任がようやく理解できた)




 そんな事を思いつつ、私は模擬戦争用の矢を1メートル程の巨大な弓で引く。


 木が邪魔しているけど、風が微風の追い風である事は非常にやりやすい。


 180メートルで届く距離の角度から、追い風を考慮してほんの僅かに下げる。


 ……見えた!

 私は矢を放つ。


 この間凡そ3秒弱。

 矢は放物線を描いていき、木を悉くギリギリですり抜け、そして……。



 「隊長! 馬に乗っていた兵士の胸に当たりました!」

 「うん、皆! 前進! 狙える敵には矢を止めずに撃って頂戴。」


 「「「ハイ!!!」」」

 


 兵士が倒れたと同時に私達は前進する。


 巨大な弓を次々と引き絞り、確実に当てていく。


 流石に気付いたようだけど遅過ぎね。

 兵士達は慌てて戦闘体制の準備に入る前に、私は弓を引き絞り、撃つ。



 ついでに馬を目掛けて矢を数発放った。


 馬がパニックを起こせばこっちのもの。足は頑丈でも顔面なら……。



 嘘……。



 確かに全て直撃はした。

 馬の顔が歪んだのが見えた。


 ……けど、馬はそれ以降は特に気にすることもなく、顔をブルブル振って平気そうに辺りを見回していた。

 幾ら模擬矢でも当たった時の衝撃は本物の矢とさほど変わらないハズなのに……。


 (凄い馬ね。流石は【朱の騎士団】。数発連続で顔面直撃したのに、一切パニックしないなんて……正直あの馬、欲しい)


 馬の耐久力に感動した私だったけど、仲間達にも取り敢えず言っておこう。



 「皆、馬に当てても意味がない。何があっても兵士を狙いなさい。」

 「「「ハイ!!!」」」



 私は弓を繰り返し引き絞り、そして放つ。


 そろそろ敵が来ても可笑しくない。

 それまでに私が事前に数を減らせれば……。


 すると、とあるゴブリンが起点を聞かせた発言をする。



 「隊長! 半分は木に登って潜伏するのはどうっすか?」

 「良いわね。弓部隊の偶数は上に登りなさい! 場所は8番、あなたが決めなさい。」


 「「「ハイ!!!」」」


 「よーし、偶数の皆は俺について来い!」



 私が別行動の許可を取る。

 この際、別行動の隊長を任せる事にした。


 自分一人では少し手が回らないかもと村長に進言したら、補佐役は彼が適任だとアドバイスしてくれた。



 別行動達の隊長を任した彼は、先導を取って先に走っていった。



 その間に60センチ程の弓に切り替える。

 一度に数発撃てて、引き絞る時間が短いかなりの優秀弓ね。


 (さて、そろそろコッチに敵が向かってくるわね)


 私は覚悟を決めた。


 

―――――――――――――――――――――――

 


―――――――――――――――――――――――

~待機組兵士視点~



 「敵襲! 敵襲!」

 「なんだ!? 一体どこから……ヴッ!」

 「矢!? どこから飛んできている!?」



 俺達は突然どこからともなく飛んで来た模擬矢に恐怖を覚えた。


 (クソっ……一体どこから狙って来やがる?)



 「戦闘体制だ! 直ちに馬に乗れ!」



 起点の効いた兵士が大声で周りに命令する。

 肝心の待機組の隊長が存在しなかったため、彼の命令に皆が従う事にした。


 俺は矢を警戒しつつ、馬に飛び乗る。



 「ヒィッ!!!」


 

 何と矢が馬の顔面に数発直撃したではないか!


 (馬を発狂させて混乱させるのが狙い……か。我ら【朱の騎士団】の騎馬隊でなければ、今頃は相手の思う壺だっただろう)


 馬は特に暴れることは無かった。

 【朱の騎士団】の訓練は人間だけじゃない。馬もその対象!


 人と馬を極限まで鍛錬してこそ、最高の騎馬隊が出来上がるというワゼリス様の信念が実を結んだ騎馬隊なのだ!



 俺達は矢が飛んできた場所を目を凝らしながら、撃った張本人を探す。


 ……が、俺達の目では見つけられなかった。

 どうやら弓の腕は彼方の方が別格らしい。


 敵の見えない所にカンで弓を放つ訳にもいかないのだ。



 「グッ!」

 「グァァァ!」

 「矢の飛んでいる方向へ突撃しろ! 【朱の騎士団】の意地と強さをゴブリンに見せてやるのだ!」

 「……おい! それはマズ……。」


 「「「ウオォォォォ!!!」」」



 矢で次々と馬上から地面に倒れ込むのを見た臨時指揮官は、突撃の命令を指示する。

 今突っ込んではやられるだけだ!


 ……と指揮官に喚こうとしたが、他の兵士達は雄叫びと共に突っ込んでいってしまった。



 こんな状況で俺だけが引き返しても、周りから「腰抜け」と叩かれるだけだ。

 

 罠と疑いつつも、最後尾で様子を窺う事にした。


 模擬戦争だから死なないと言うのが本音だ。

 マジなら問答無用で逃げてる。

 





 突撃した俺達を待ち構えていたのは、横と正面から飛んでくる矢の集団であった。



 「グッ!」

 「ゲハッ!」

 「ギャアアア!」

 「うろたえるな! 突っ込め~~!」


 「「「ウオォォォォ!!!」」」



 それも構わずに指揮官は命令し、先頭はそれに従って駆ける。

 指揮官は後ろにいて防御されているため、前の様子は見えない。


 俺は微かな隙間から見えていた。

 そこで見たものは……。



 女ゴブリンが60センチ位の弓たった一つで、前方の騎馬隊を次々と倒している様だった。

 尋常じゃ無い速度で弓を打ち、全てが兵士だけに当たった。


 (ハア!?3本同時打ちとか聞いたこと無いぞ!?)


 そして、次々と次々と前方が倒れていく。



 「クソ! アイツら……。」



 木の上から容赦なく飛んでくる矢を模擬剣で弾きつつ、前へと進む。


 気付けば半数が馬から下りて倒れたか逃げ出した。

 指揮官の姿は無い。

 突然進行方向を急転し、逃げやがった。



 残ったのは僅か30。

 正面のゴブリンとの距離30メートルを差し掛かったその瞬間、彼女の手が上がった。



 「【朱の騎士団】に命令する。直ちに撤退せよ! これ以上部下達を痛めつけるつもりかしら?」

 「何!?」


 「聞こえなかったかしら? もう一度言う、撤退せよ!」

 「……どうする?」



 俺達は馬を急に止めてら女ゴブリンの勧告を真剣に考える。


 止まった瞬間撃たれると思ったが、そんなことは無かった。

 しかし、馬が元の速度に戻るためには時間が掛かるので、敵との距離が近くても危険なのは間違い無かった。



 「俺達の数はおよそ30。正面との距離は30。それに、彼女の弓は脅威……俺は倒れている部下を連れて撤退した方がマシだと思う。」

 「……ルーサー様はどうされますか? このままでは、敵前逃亡だと言われる可能性が……。」


 「この状況で俺達がルーサー様を助けることは不可能だ。矢の餌食で痛い思いをして帰るより、いち早く補助隊に連絡を取った方が良い。」



 補助隊とは、【朱の騎士団】とは別に動いていた部隊だ。


 万が一何かが起こった場合にそちらへ頼めば、援軍として駆けつけるようになっている。


 ルーサー様は全く興味どころか、無視してたけどな。



 「は……はぁ。では、私も撤退を進言します。」

 「うん。……皆の者! 撤退だ! 直ちにこの森から撤退しろ!」


 「「「はっ!!!」」」



 俺が怒号を叫ぶと、すぐさま皆は倒れた者の介抱をして森から退いた。


 帰り際に女ゴブリンから一言言われたのは少し身に染み着いている。



 「ありがとう。素晴らしい冷静な判断力に感謝します。」



 勝った奴が頭下げて「ありがとう」、「感謝する」だってよ。

 人間はそんな事ほとんどしねーよ。

 ゴブリンにそんな事を言われるなんて思いもよらなかった。


 どんな教育してんだか……。



 俺はそれ以降後ろを振り返ることもなく、近くに倒れていた兵士を1人抱えて森から出て行った。


 かくして、待機組となった俺達は補助隊の元へ戻っていった。











 無事に待機組全員が補助隊のキャンプに到達した。

 模擬矢だったため、集中治療を受けている者は殆どおらず、今は補助隊が出した飯で食事に手を出している。


 その間俺は一部の兵士を連れて、補助隊の隊長の元で色々話し合いをしていた。



 「……と言うわけで、俺達は負けました。このザマって訳ですよ。かといって、もう森へ行くのはもうこりごりっすよ。」

 「どうしてルーサー様について行かなかった?」



 俺は過去の事を思い出しながらルーサーの愚痴を言った。


 それが理由にも言い分にもなるから皮肉なものだ。



 「アイツの欲望の為に俺達が意地を張りたくなかった。俺達から見る外見上はしっかり者として振る舞っていても、他の者の外から見れば嫌われ者。ルーサー様は俺達をコマとしか見ておらず、死んでも本質を出さねえ。だからついて行かなかった。」

 「……正直否定はせんな。実際、アリス様と頻繁に激しい口論をされ、自分より下の人間を見下した。例え如何なる理由があっても、仲間と協調出来ない上司に従うお前たちの気持ちは理解出来る。」


 「補助隊の隊長さんもそう言うのか?」

 「勘違いするな。あくまでお前たちの気持ちに少し沿っただけだ。……まぁとりあえず……飯食ってからお前らは撤退しろ。ワゼリス様には話は通しておく。」



 俺達は予想もしない補助隊の隊長からの発言に拍子抜けする。

 そこまでサポートをしてくれるとは思っても見なかった。


 寧ろ何か文句を付けられて「模擬戦争だろ? また戻って戦ってこい!」と命令されると個人的には思っていた。



 「……いいのか? 俺達はルーサーを見捨てたんだぞ?」

 「撤退しか選択肢は無かった……とワゼリス様に魔法で伝えておく。」


 「……ありがとう。感謝する。」



 俺達は補助隊の隊長に頭を下げた後、隊長のシェルターから出て、昼飯にありつけた。


 (すみません、ルーサー様。俺達は負けて撤退しました。仲間にこれ以上、痛い思いをしたくなかったからだ)


 心の中で少し申し訳ない思いを残しながら、出された昼飯のパンにかぶりついた。


 今頃ルーサーに付いていった同胞はどうしているのだろうか?



―――――――――――――――――――――――

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