第74話 500VS220 4. 模擬戦争 前編
ノノアさんが本部部屋から出て少し経つと、担架に運ばれたモークがやってきた。
幸い致命傷や重い外傷は無かった。
運んできたゴブリン達の考察では、何かの衝撃により気絶した可能性が高いという。
どこに目があるのかもわからないまま、俺はモークを声だけで呼び覚まそうとした。
息をしている様子が窺えたので死んでいることは無い。
「モーク! モーク! おい、しっかりしろ!」
「相当落ち込んだのでしょう。しばらく安静にするほうが宜しいかと。」
「……わかりました。生徒達、モークを安静に寝かせる場所を確保してくれ。」
「「「はい。」」」
村長の言い分が現状で最善だと考えた俺は、ゴブリン達にそう命令した。
担架に担がれて、洞窟へ連れて行かれるモークを見た俺は何ともいえない申し訳なさを感じた。
俺の様子を見ていた村長は、モークの心情を探ってこう考察する。
「アイリス殿。モーク殿は責任を感じているかと。敵の本拠地へメッセージが送られるのを最も防げたのではないか?……と思っておられるかも知れません。本当は指揮官である私の責任ですが……。」
「もしモークが本当に責任を感じているなら、どうすれば良いでしょうか?」
「ですから、この失敗は指揮官である私……。」
村長さんがそう言いかけた途端、俺は地面を2回軽く蹴った。
「トン! トン!」という異色の音色を放つ木造の床に、村長は言葉を止めて俺の目を真剣に見つめる。
これは村長の責任じゃない。
指揮官だからって、村長が全て背負う必要は無い。
「村長さん。あくまで素人の意見ですが……幾ら指揮官でも、責任を自分に押し付けるのは良くありません。これからも村長さんは220名のゴブリン達を引っ張っていく必要がありますから。」
「!!! ……アナタは指揮官になれるかもしれませんね。それも、ずっと。」
「???」
俺が……指揮官だと?
【臆病者】とイケザキ村から嫌われていた俺が、誰かの上に立つ資格があるとでも言うのか?
戸惑いながらも俺は考えたことを言う。
「……まだ【臆病者】の俺には、皆引っ張っていける力はありません。ゴブリン達の先生やってて身に染みましたよ。単独で戦っていた俺には、まだ他人と触れ合う時間が必要みたいです。」
「アイリス殿は誰かの上に立って活躍をしたいと思った事はありますかな?」
「深く考えたことはあります。実行はしませんでしたが……。」
「今のうちから色んな事を吸収していきなさい。これは、私からのお願いです。そうすれば、アナタが進むべき未来が見えてきますよ。」
「ありがとうございます。」
俺は村長のアドバイスを聞いて深く感謝の意を示した。
「今から色んな事を吸収せよ。」という言葉は、父さんが言っていた言葉と似たものがある。
「20になるまでにこの世界を見て、学んで、感じてこい!」
要約するとこう言っていた(ホントはトコトン詳しく話して1時間掛かったのだが……)。
俺が目指す道は、一体どんなものだろうか?
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その頃、500名を率いたルーサーが【グルドの森】入り口へと辿り着いた。
アリスが森へ入ってから実に2時間が経過していた。
此処まで【ゴブリン軍団】に有力な者が数人、戦場から離脱していった。
アイリスは両手を損傷し、
モークは気絶、
密偵達との捕獲で一部のゴブリンが疲弊。
今度は模擬戦争という茶番劇なはずだ。
しかし、ルーサーだけは終始ピリピリしていた。
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~ルーサー視点~
アリスを見かけたしばらく後、我らは【グルドの森】へと辿り着いた。
此処へ入る前にやらねばならない事がある。
「よし、戦いのラッパを吹け!」
俺は一部の兵士達を指名すると、兵士達は何処からかラッパを取り出した。
兵士達はラッパを一斉に吹いた。
「パラッ、パラッパー! パパパー! パラーパッパー!」
ラッパで吹く音に大きな意味はこれといってない。
ラッパの音は各組合が自由に制作している。
その代わり、ラッパの音は国に申請しなければならない。
途中で変更は厳禁だ。
ワゼリス様は音楽にあまり興味は無く、曰わく「初期の頃、冗談に作って申請してしまったのは今でも少し後悔している。」とのこと。
ラッパを吹き終わった兵士達を見終えた部下は、俺に決断を迫る。
「ルーサー様。如何致しますか?」
「幾ら模擬戦争とは言え……闇雲に突撃させては痛い目をみる。実際、模擬戦争の矢はかなり痛いからな。」
「……はい。鏃が銀の小さな塊になっただけで、頭に当たると強烈です。」
「まず、偵察から行おう。偵察に特化した数名を指名して罠がないか見てこい。」
「はっ。畏まりました。」
部下は偵察に優れた者数名を先に行かせた。
その間、俺達は武器や魔法で何時でも迎え撃てるように構える。
……とは言え、防御魔法と【火球】、回復魔法しか魔法は使えない。
俺以外のメンバーは模擬剣と銀の塊が付いた矢を準備していた。
……。
……。
(……チッ、お前達は悔しくないのか?魔物と模擬戦争するのが悔しくないのか?)
ダークワイバーンによって母を殺された俺は、あの時以来から魔物を徹底的に排除した。
ゴブリンも勿論、排除の対象に入っている。
幼い子供に向かって剣でメッタ刺しにした事もあった。
好き好んでやっているわけじゃない。
お前らが悪い!お前らが悪いんだぞ!と何度も自分に言い聞かせた。
特に常人の人間はそうやらないと理性を壊せないからな。
……俺はそう信じながら自分の腰に掛けてある鞘に入っている真剣を見る。
俺は模擬戦争とは言え、魔物を殺さずに帰るのは御免だ。
せめて一体でも殺して、この模擬戦争の憂さ晴らしでもするか。
そう思っていると、先に送った偵察隊が俺に報告する。
「申し上げます。敵を直接確認する事は出来ませんでした。」
「木の上を見たか?」
「……はい。……ですが、潜伏している可能性が非常に高いです。警戒は必須かと。」
「肌色が同化しているから無理か……それで、他はどうだった?」
「先日の大雨により地面がぬかるんでおります。馬で渡ると落馬の可能性も考慮しておくべきかと。所々濡れていない場所もあり、そこであれば安全に通れますが……如何致しますか?」
「馬が無ければ包囲されたときの突破は非常に難しい。濡れていない場所への案内を頼む。」
「畏まりました。」
俺達騎士団は偵察隊の案内の元、【グルドの森】へ入っていった。
進むこと10分、湿った空気に気になった俺は独り言のように呟く。
「なんだかジメジメするな。」
「はい。【グルドの森】は湿気が高い所です。先日の大雨で更に湿気が高くなっているかと。」
「なるほど。」
俺達騎士団はゆっくりと濡れていない地面を馬で進んでゆく。
此処までは順調のようだ。
「皆、奇襲されても対応できるように万全の……。」
「ウグゥッ!」
「何!?」
俺が皆に警戒を呼び掛けた瞬間、偵察隊の1人が矢に当たった。
あまりの衝撃に後ろへ倒れ込んでいる。
矢は鏃が石の塊になっている。
【ゴブリン軍団】が放った矢に間違いない。
「ウグ!」
「ギャァ!」
更に数本の矢が偵察隊に当たり、よろめく。
俺は矢を放つゴブリンを必死に探した。
……どこだ?
……どこから狙っている?
……ん?
まさか……あれか? あの距離でか?
太陽が眩しかったので左手を額に当てて凌ぎながら探していると、見つけた。
ゴブリン達が放っていた場所は、正面からだった。
人間の目の都合上ぼやけて見えるため、魔法を手下にかけてもらった。
その距離、凡そ180メートル。
10体のゴブリンが矢を構えていた。
その中でも、真ん中に居る女ゴブリンが周りより大きな弓で構えて……射る。
「ウグゥッ!」
「!!! ……弓隊! 正面のゴブリンに向けて放て!」
何という名手。
180メートルの距離にも関わらず、百発百中の勢いで確実に当ててきている。
ゴブリンにもこんな逸材が居るのか。
このままでは俺がやられると思った。
弓隊に指示して数百の矢を一斉に飛ばす。
……が、ゴブリン達は女ゴブリンの指示で数歩後ろに下がった。
矢はゴブリン達のいた場所に数本刺さる。
「構うな! 続けて撃て!」
弓隊は俺の命令で更に先程の数倍の矢を放つ。
女ゴブリンの指示で周りにいたゴブリン達は俺達に向けて矢を放つ。
「ガッ!」
「ギャァ!」
ゴブリン達の矢は先方の偵察隊と俺に降り注いだ。
たった30本の模擬の矢だが……。
「チィッ!」
俺は鞘を抜いていない剣で飛んでくる弓を弾き飛ばす。
頭に当たる矢だけを弾き飛ばしているため、腕や肩に激痛が走る。
鏃が無いのがせめてもの救いである。
「ルーサー様! 此処は危険です。早く後ろへ!」
「分かった。ひとまず別の道を探そう。」
側にいる部下は俺に避難を提案する。
この状況では俺が真っ先にやられかねない。
仕方なく撤退しようとした。
すると、後ろにいるはずの後方隊の兵士が俺に報告してきた。
「報告! 報告!」
「お前は後方隊の……どうした?」
「後ろから奇襲を仕掛けられました。弓隊が凡そ20、槍と剣を持つゴブリンが20ずつです!」
「ええい! たかが60のゴブリンに【朱の騎士団】が仰け反るな!」
「それが……我々の攻撃が当たらないんです! 我々の攻撃を回避し続け、見たこともない戦闘で翻弄されています!」
「何だと!?」
報告の最中に俺はやっと気がついた。
(まさか……俺達がぬかるんでいない道を通るのを事前に知っていた?)
ひょっとして、【ゴブリン軍団】。
あの糞アマから情報を……。
しかし、そんな事を考えている訳にも行かない。
「一時撤退だ! 後方に戦力を投入して奇襲隊を突破せよ!」
「畏まりました……撤退! 【グルドの森】入り口まで撤退だ!」
俺達は打たれた兵士を助けた後、後方へ移動して無理矢理突破した。
奇襲隊が何処かへ行ってしまった為、攻撃を与えることもなく撤退を余儀なくされた。
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―【臆病者】アイリス視点―
模擬戦争の結果は、生徒達の報告によっていち早く本部に知らされた。
「アイリス殿、最初の作戦が上手く行ったようですぞ? ひとまず安心ですなぁ。」
村長はホッとした表情を見せる。
ケガ人が居なくて安心したようだ。
「またやってくると思いますか?」
「ええ。ルーサーを捕獲すれば何とかなりそうですな。相手が真剣を持っている可能性が高まりました。」
「えっ? 報告の中にそんなものがあったんですか?」
「鞘を抜いていない剣で弓を弾いておりました。あくまでも模擬戦争ですよ? 咄嗟に防御するためという可能性も否定出来ませんがね。」
「……よくよく考えてみたら確かに変ですね。刃が付いていない模擬剣の方が矢を弾きやすいハズなのに、どうしてわざわざ鞘を抜かないのでしょうか?」
段々とルーサーが真剣を持っている可能性が高くなっている。
しかし、もう一つ問題点があった。
「もし、本当に真剣を持っていたとして、俺達はルーサーを捕まえるんですか? 協力関係を結んでいる【朱の騎士団】なのが非常に心配です。」
「そこは私が取り計らいます。もしかすると、ルーサーは幼少期に魔物によってトラウマを抱えてしまったかもしれませんねぇ。」
「ノノアさんの言い分なら、よほど恨みをもってそうですよね。」
「人間も勿論ですが、全ての魔物が善の心を持っているとは限りません。悪の心を持つ者も居ります。【魔物】という言葉は、様々な種族も一つに纏められる格好のものですからな。恨みを持つのも無理はありません。」
俺が初期の特訓で思っていたことと似てる思考ってわけか。
ルーサーのしたい事は少しばかり共感出来る。
……が、いくら何でも全魔物の皆殺しを目的とするのはやり過ぎだ。
悪の行いは善の行いよりもイメージが遥かに強い。
人間を助けた魔物と、人間を殺した魔物のどちら側が人間にとって脅威か言うまでもない。
ルーサーは魔物の悪の行いに復讐している可能性がある。
「今ならまだ遅くありません! 早くルーサーには正気に戻る必要があります。復讐で強くなっても、苦しみからは二度と救われません。若い内に考えを改めさせる必要があります。」
村長は何時もより強い口調でルーサーの対処の仕方を口にする。
そして、全ゴブリンに【情報伝達】で言葉を伝えた。
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~ルーサー視点~
【グルドの森】入り口付近にて、俺達は疲れを癒していた。
矢に当たった兵士達も、回復隊によって衝撃のダメージを消していった。
コレが本物の戦争なら、真っ赤な鮮血が銀の鎧にベットリとつくのだ。
ある意味部下達は模擬戦争で良かったのかも知れない。
すると、部下が俺の元に来る。
「ルーサー様! 再戦は如何致しますか?」
「部隊が整い次第、別のルートから【ゴブリン軍団】を攻める。10分後にもう一度再戦だ! 先程よりも荒れるだろう。気を引き締めておけ。」
「畏まりました……聞いたかー! 10分後に再戦とのルーサー様のご指示だ! ケガ人と回復隊以外は早急行動出来るように予め準備しておけ!」
「「「はっ!」」」
流石は我が部隊。
模擬戦争でも動きの乱れは殆どない。
【朱の騎士団】の最大の魅力は、なんといっても騎兵隊の修練度が他の組合よりも高い所である。
最新の騎馬戦闘を積極的に取り入れ、馬の体調管理や教育の体制は軍隊に引けを取らない。
そのため、爆音や魔物の咆哮などの脅しが全く通じない。
体をナイフで斬られてもビクともしない。
頑丈な四足は魔物ですら容易く蹴飛ばす。
徹底的に鍛え上げた精鋭騎士と、馬ならざる馬での戦闘。
それが、【朱の騎士団】の騎馬隊である。
軍事力以外を除けば、間違いなくル・レンタンではトップを駆けるだろう。
【朱の騎士団】という名の看板を背負っている以上、名ばかりの組合になることは恥である。
そんな部隊が、我らより少ない【ゴブリン軍団】によって撤退を余儀なくされた。
俺はたまらず奇襲隊と戦った部下に聞く。
「お前、奇襲隊と戦ったな? 相手はどんな方法で我ら【朱の騎士団】の騎馬隊を翻弄させた?」
「はい……。何と言えば良いんですかね……とにかく、サーカスのパフォーマンスを近くで見ている気分でしたよ。」
「パフォーマンス???」
「はい。自分達の持っている槍や剣を駆使して、俺達の攻撃を殆ど回避するんです。たまに模擬の短剣を的確に当てて来ました。本物の戦争であればそこで死んでいましたよ。」
「何!? それは魔物というより、軍隊ではないか!」
「……はい。軍隊に匹敵する強さです。少ないからと言って舐めて掛かってはいけない相手です。」
俺は少し背が凍る思いをした。
貧弱なハズのゴブリンが、どうやってあのような技術を見せつけたのか?
知りたい。
その戦い方と戦略を。
……だが、今はゴブリン達にフルボッコにされるのは惜しい。
「負けて帰ってきなさい。」というワゼリスの指示もあり、なんの関係も無い部下達が処罰されるのは御免だ。
「分かった。先程の反省点を生かし、ゴブリン達を驚かすような我が部隊の戦い方を見せるように、誠心誠意勤める。」
「ありがとうございます!」
部下は頭を90度下げて敬意と感謝を示すと、ダメージを受けた仲間の方へと走っていった。
さてと、そろそろ鞘から剣を抜こうか。
俺は腰に携えた、鞘に入った剣を見つめていた。
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一方、【ゴブリン軍団】の奇襲隊はルーサーの警戒をしていた。
真剣で斬られては只では済まない。
命を失う危険があるからだ。
その中で特に緊張していたのは、奇襲隊の隊長を任された一体のゴブリンであった。
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~奇襲隊隊長視点~
「みんなー! 敵の将軍……ルーサーには絶対近寄るなよ! 村長の指示に従い……目の前にいる敵は冷静に対処しろ!」
「「「はい!」」」
俺の指示を受けた仲間達は、背筋を正して俺に応える。
(皆さん、いくら何でもハリキリ過ぎですよ……全員コッチ見てるし)
俺は村長から奇襲隊の隊長を任されたゴブリンだ。
村長からエースという仮の名前を賜り、今は仲間達に指示をしている。
……とは言ってもね……俺が仲間を指揮するのは初めてなんだ。
事前に村長から指揮のイロハを教わったけど、正直上手く出来るかは分からない。
当然緊張している。
顔は平然を装ってるつもりだけど、内心はバクバク。
アイリス先生やユッケ先生も初めはこんな感じだったのかな?
……ああ、いけないいけない。
段々ネガティブになってきている。
皆が見ている所で、指揮官は弱音を吐いてはいけないって村長が教えてくれた。
そんな事を考えていると、仲間の一人がこう話かけてきた。
「エース、【朱の騎士団】の騎馬隊ってどう思う? かなり強くない?」
「そうだなー。……正直俺でもかなり手強い。危ぶないと思ったら【情報伝達】で助けを求めてくれ。集団で着実に敵を疲れさせろ!」
「分かった。」
「エース! ルーサーは誰を狙うと思う?」
もう一人の仲間が俺に質問してきた。
もしかすると、俺だね。
指揮官を狙って俺達の戦意を削ぐ戦い方はどこの戦争でも定石。
「……一番確率が高いのは俺だ。ルーサーがその気なら、真っ先に俺が向かって対処する。マズくなったら一旦距離を取って大勢を立て直すから安心しろ。」
「エース! いくら何でもその武器じゃあ勝てない! 鍔迫り合い数十程で刃こぼれするぞ!」
俺は腰にかけてある硬石の真剣と、左手に持っている石槍を見つめる。
相手は銀の剣だから、耐久性は圧倒的に此方が不利だ。
しかし、俺達にはアイリス先生に教えてもらった回避能力というものがある。
人間によるとある一件で回避するのに優れていた俺は、アイリス先生の指導によって総回避71にまで成長した。
ゴブリン達の中ではトップの回避能力である。
ユッケ先生を超えた事が何よりの感動だ。
そして今日、今まで積み重ねてきた成果を見せる時。
俺は心配している仲間にこう説明する。
「そんな事は知っている。だが、20分位なら時間稼ぎ出来るだろう。魔物よりも人間の方が体力の消費は大きい。それまでに、お前らは騎馬隊の対処をしてくれ。我慢出来なくなったら撤退しろ。」
「「ハイ! エースの活躍を期待します!」」
「よし! 後少しで目的の場所に移動する。俺の号令を待て!」
「「ハイ!」」
仲間は敬意をもって俺の意見を飲んでくれたようで、元の場所に戻って準備体操をし始めた。
「【道具収納】!」
俺は道具を出し入れ出来る魔法を使って、中に入っていた太い木の枝を取り出す。
アイリス先生やユッケ先生が頻繁に発動していた【収納魔法】によく似ているが、これはあくまで劣化版。
小物や回復薬を一定数(100程)入れられる魔法だ。
取り出した太い木の枝を俺は力で割る。
割れた所から透明の液体が零れ出したので、慌てて口の中に入れて喉の奥へと放り込んだ。
水である。
この木の枝は水を濾過しながら幹の中へ大量に溜め込むのだから都合がいいのだ。
水分を補給し、皆が俺の目を見始めた所で号令を駆ける。
「【ゴブリン軍団奇襲隊】! 次の目的地へ出発!」
俺が先導役になり、ゴブリン達を案内した。
軽い駆け足で移動する。
(皆向かう場所分かってるんだけど……別にいいか)
人前に立つ責任の重さを何となく感じたのは間違いない。
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―【臆病者】アイリス視点―
村長と俺が広がっている地図を見て考えていると、医療部隊(戦闘に参加しない女ゴブリンがメイン)の一人が報告する。
「村長、アイリス先生! モーク先生が目を覚ましました!」
「直ぐに取り次げるか?」
「はい。元気にご飯を召し上がっております。」
「……ああ、そう。」
「大丈夫なようですなぁ……。」
「村長、念の為に見に行って来ても良いですか?」
「ええ、ついでにモークが食べ終わったら此処へつれてきてください。」
元気に飯を食べているという報告に俺達は一安心する。
何時ものモークだからだろう。
俺は村長にお願いをし、本部から出て洞窟へ向かった。
「モーク! ケガは大丈夫……だな。」
「ほへ?」
俺は医療部隊に案内されて村長の部屋へと入った。
すると、口いっぱいにドングリを頬張っているリスのようなモークがそこで美味しく食べていた。
ちょっと前のモークよりも、一回り弱ほど小さくなった気もする。
何時ものモークだった。
色々言いたい事はあるが、体の調子からが先である。
「……加減は? 結構心配してたんだぞ?」
「ハフハ、ハフフハフハフハフッフフ(あのね、俺も死ぬかと思ったよ)。」
「……とりあえず口に含んでいる食い物を飲み込んでからでいい。」
俺がそう言うとモークはさっきより数倍の速さで口を動かし、ゴクンと食べ物を一回で全て飲み込む。
(リスみたいに食い物入れて、よく一口で飲み込めるよな)
脅威的なモークの食欲に驚きつつも、モークが一声を放つ。
「あー、流石にあの時は死ぬかと思ったよ。」
「食事するまで待ってやる。ゆっくり食べてくれ。話は本部で聞こう。」
「待ってると、寧ろ急かされてる気がするけどね……っていうか、アイリスもやられちゃってるね。」
「傷は塞がっているから問題ない。数日寝れば元の手にもどるだろう。」
「戻らなかったら、僕だったら間違いなく発狂するよ?」
モークは俺の両腕が消えているのに気づき、食事をしながら指摘する。
これが元に戻らなかったら……と思うと、確かにモークの言う通りかもしれない。
俺は香味草の煙をパイプで吸う。
火を付ける所や口に加える所はモークのサポートを借りた(イタズラしてきたが)。
5分たった頃、モークは用意された15人前の野菜炒めとゾンビ牛の焼き肉をじっくりと平らげた。
本部へ戻った俺達はモークの事の経緯を知った。
まさか、モークが得意とする【カゲヲアヤツルモノ】と【驚愕する魔力球】を封じる戦闘方法を敵の密偵が持っているとは思いもしなかった。
「これは……予想外でしたね。敵の部下達は頭領を非常に尊敬しておられるようです。人間達は他人にあまり関心を持たない分、大切な物や人を一生懸命守ろうとするときには凄まじい力を発揮すると聞きましたが……まさかこれほどとは。」
「かなり濃密な魔力を込めた【驚愕する魔力球】を打ち返されては、流石にモークも手足が出ないか。レベル差は当然、敵の方が上だ。」
「それだけじゃなくて……僕達の増援を防ごうと、たった一つの入り口を大きな石で防いじゃったんだ!」
「だからゴブリン達が動けなかったのか。【月光】が天井から攻めたものの、敵が仕掛けた爆発で、最後の時間稼ぎをされたからな。」
俺達は事の失態の大きさに気づいた。
敵を甘く見過ぎてしまい、隙を与えた結果がこれである。
モークは地面に張り付いて村長に謝った。
「村長さん、ごめんなさい! 僕のせいで……僕のせいで……!」
責任を重く、深く受け止めていたモークは何時もの口調ではない。
俺でも滅多に見ない真面目な口調になっている。
村長はモークの体を優しく触れ、こう元気付けた。
「モーク殿に落ち度はありません。寧ろこのような泥沼戦闘に部下を招いてしまった、将たる私の責任です。モーク殿は最後まで全力や工夫を凝らして敵に挑みました。」
「うえぇぇぇぇぇん!!!」
モークは初めて大きな声で泣いた。
村長は地面に座ってモークを撫でて慰めていた。
俺はしばらくの間、ただ突っ立っているだけだった。
模擬戦争中、モークは地面にずっと顔を伏せていた。
俺が行っていれば……俺がハメを外さなければ……。
モークには申し訳無い気持ちで一杯であった。
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