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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
78/116

第73話 500VS220 3. 捕獲作戦 後編



―――――――――――――――――――――――

―ノノア視点―



 モークとアイリス達が本部を潰すために動いている間にも、私は行動を続けていた。


 すると、ゴブリンが私の左腕をつついて小声で場所を知らせる。



 「左斜め30度に影……此方に気づいています。」

 「見つかってしまった以上、捕獲は絶対必須。決して本拠地へ事実を知らせる訳には行かないわ。」


 「この距離であればアレの出番でしょうか?」

 「……確かにそうね。でも、コレでユッケが気付くのかしら?」


 「少し待ってください。本部へ連絡します……直接敵に当てなくても良いという、村長からの助言です。」

 「わかったわ。」



 私はポケットの中に手を突っ込み、村長から貰ったアレを持ちながら奥へと進んでいく。


 そして敵が少し下を向いた一瞬の隙を私は逃がさなかった。

 全力で振りかぶってアレを投げた!

 当てにいった積もりだけど、少し左に寄っている。



 「ボフン!」



 投げた物は敵が隠れていた木に激しくぶつかるとすぐさま爆発し、中身の白い粉状の何かが飛び出す。

 粉状の何かは風に吹かれて白い大きな粉塵を舞い上がらせた。


 白い煙で様子が見にくいけど、一応見える。

 敵はピンピンしてるわ。


 身構えて防御の構えをとってる。

 しかも私の投げた物が無害だと分かると、微笑みながら姿を消して何処かへ行ってしまった……と、此処までは敵の想定内だったかも知れない。



 直後、何者かが彼の後を追うように突然上空から急降下した。


 少し経つと、その男は戻ってきた。

 やはりユッケね。


 ユッケの右手には、逃げたはずの彼が泡を吹いて気絶していた。

 それをユッケは魔法の力で少し浮かせている。


 ユッケはゴブリン達に彼を渡し、ゴブリン達は獲物を縛るかのように両手を封じる。


 縛られてる時に妨害魔法もかけたため、声で他の敵に気付かれることもなく、魔法でメッセージも送れない。

 ひとまず安全ね。



 「手加減しないといけないからテキトーに【麻痺】かけたら、泡吹きながら気絶しちまってな……。それにしても見本みたいな使い方だったぞ?」

 「ありがとうございます。ところで、私の投げたコレの中身は何でしょうか?」


 「ああ、それはゴブリン村長に頼んで作って貰ったんだよ。緑草を粉末状にした粉が入っていた。【緑草探知】っていう一般的な魔法そうで実は習得者が殆ど居ない魔法を使った。緑草だけ光り輝くって言ったら理解出来るかな?」

 「なるほど。粉が敵に付着すればそれが光り、その光る物が動いて位置を把握出来ると言う解釈で宜しいでしょうか?」


 「そうだな、それで合ってる。さて、取り敢えず本部に報告はしたから此処で待とう。」



 私達はユッケに言われた通り、待つことにした。

 それと同時に、【緑草探知】について考える。




 【緑草探知】という魔法は聞いた事はあるわね、そんなに難しい習得でもないの。


 効果は単に緑草が光る、ただそれだけね。


 ……それなのに、魔力は探知する広さにもよるけど、一番小さい範囲で100少しと非常に効率が悪い。

 生産職に専念する人でさえも、その効率の悪さに手を出そうともしない。そもそも鍛えていないから魔力が100も無いのが殆どと言うところね。



 まさかこんな使えない魔法が、使い方で敵を炙り出せるなんて……。


 アイリス達には学ぶ事が多いと思った。



 そして数分後、ユッケが捕まえた男は本部へ連行されていった。



―――――――――――――――――――――――



 逃げていた密偵は、遂に本部を見つけることに成功した。


 本部の場所は穴の中であった。

 地図上でみるとハートマークに見えるように木が密集しており、そこに分かり辛いように穴が掘られていた。


 密偵は穴に向かって声を上げる。

 ゴブリン達に掛けられたら魔法がまだ続いているため、大声で叫んだつもりが小さな掠り声になっている。



 「おーい! 誰かいるかー?」

 「!? ……そこにいるのは誰だ!?」


 「頼む! 助けてくれ!」

 「お前は……実行役の356か?」


 「ああ! 365006だ! 済まんがこの状態だ。一回捕まったが、黒いバケモンが乱入してきた騒ぎを使って上手く此処まで逃げてきた。」



 その掠り声に反応した黒フードの男がでできた。

 コードネームを正確に伝えるしか助かる道は無かったので、正確な番号を口にする。



 「魔法を掛けられて声が出ないのか……情報は持っているか?」

 「ああ! 勿論だ!」


 「良し、入れ。このまま無駄死にさせるメリットが無い。」

 「感謝する!」



 一時はどうなることかと覚悟した密偵だったが、何とか信じてもらえたようだ。

 あまりの安心さに胸を撫で下ろす。






 穴の中は快適……普通と言っても理解は出来ないだろう。



 中は四方5メートル、高さ2メートル。

 イスは近くにたまたま落ちていた石で代用している。


 別に石があっても無くても殆ど変わらないような気もするが、内装が無いのでは少し気味が悪いとでも思ったのだろう。


 昨日作ったばかりと聞かされたので、「虫がうじゃうじゃ居るよりはマシ」と密偵は心の中で決めつけることにした。



 縄を解いてもらい、俺はモークから聞いたこと全て話す。



 「……俺が話せるのは此処までだ。だが、俺達を嵌める罠を設置しているのは確かだ。もしかしたら、【朱の騎士団】と【ゴブリン軍団】が手を組んでるんじゃねぇかって……。」

 「なるほどな。それなら、俺達に姿を隠していたのが理解出来る。偶々戦争が二つ重なる事など、あり得ない話だ。」

 「だとしたらヤバイ状況だな。俺達が壊滅する可能性が出てきたって訳だ。どうする?」


 「フレッドという使い勝手が難しいが威力がデカイ武器がある。バルザン様もコレを使えば、2800の【朱の騎士団】は王の命令によって崩壊する。」

 「しかし、正直フレッドを使いたくはない。あの無能、実はモークタンをみすみす逃がした可能性が最も高い奴だ。奴が遅刻さえしなければあるいは……。」

 「確かにフレッドは無能だが……今更悔いても仕方無い。それよりも、本拠地へ即刻メッセージを送れ。」


 「わかった。【情報送信】!」

 「たのも~う!!!」


 「「何!?」」



 突如として逃げてきた男の影からモークタンが出現した。

 穴から来たわけではなく、影で間違いは無かった。


 しかも、通常のモークタンよりも体積が9倍程大きい。



 モークタンのモークであった。

 モークは逃げてきた男をじーっと見て、興味津々の様子である。



 「あれれ? こーんな所にいたんだね! 元気にしてた?」

 「……ああ、危うく【月光】とやらのエサになる所だったぜ……。」


 「だいじょうぶー! 今度はろうやまで丁寧に運んであげるよ!」

 「そりゃあ有り難いが……生憎、今やられるとちぃーと困るんでな。」


 「あの人、何か詠唱してるね。もしかして本拠地とやらにメッセージ送るつもり?」

 「ああ、でもお前はそれを止めに来たんだろ?」


 「それが仮に本当だとして……どうするの?」

 「そりゃあ勿論……こうだろうがよ!!!」



 男は気合いを込めて持っていたナイフでモークを切りつけようとする。


 ……が、あまりダメージが通らない。

 モフモフし過ぎて刃が身体の中に全く入らなかった。


 しかし、本命はナイフに付いている毒はモークの中に入り込んだ。

 かなり強力で致死の可能性があるオオトカゲの毒は流石に……。



 「……は? 毒が効いてねぇ!?」

 「えーっと、毒あんの?」


 「【毒耐性大】以上とか化け物かよ!?」



 モークに毒が効かなかった。


 来る日も来る日も、裏で毒草を食って苦しんできたモーク。

 その修羅で地道な行いにより、日に日に耐性を獲得していった。




 モークは現在、【毒従順】というスキルを所得している。

 毒草を含む数種類の毒以外、余程の事がなければ効かない。



 遂に【毒無効】の一歩手前までたどり着いたのである。事実、僅か1ヶ月足らずで此処まで来れたのは今の所モークだけであった。


 【臆病者】でさえ、【毒従順】を所得するのに70倍ほどの時間を掛けていた。



 地獄を見ると分かっていながら、誰が好き好んで毒草を意地でも頬張ると言うのだろうか?




 「ナイフも通らねぇ。別の方法を考えた方が早ええぞ!」

 「……だったらこれでどうだ!」



 フードを被った男はモークに殴りかかった。


 (こんなの避けるだけじゃん)


 モークは余裕の表情を見せ、回避しようとする。



 「甘いな!」

 「ゲフッ!!!」



 何と男は殴るフリをして右足で跳び蹴りを当てようとしてきた!



 拳を警戒していたモークは回避出来ずに後ろへ飛ばされる。


 モフモフによってダメージは殆どは無い。

 しかし、衝撃とは全く別物である。


 (イテッ!ちくしょー!)


 モークは衝撃に備える体勢を崩してしまい、壁に激突した。


 頭?を叩き割られたような衝撃が伝わり、口の中の保管庫のようなものから、数枚の緑草を体内に入れた。


 ※第64話参照。


 回復するまでには多少の時間が要するだろう。


 (戦局からして、負ける相手じゃないんだけどね。武器も通らないし毒も効かない。後ろで詠唱してるから早く捕獲しないとマズイね……)


 回復中のモークは攻撃するチャンスなのだが、敵は攻撃する事もなく警戒している。



 時間稼ぎの戦闘であった。


 狙いは、メッセージを本拠地に届けるためである。

 時間は10分。

 

 勝てるけど相手が負けてくれない戦闘に、モークは悩んでいた。




 他の男2人はモークが飛ばされ、立ち上がるまでの間に頭をフル回転させた。


 (コイツだけで俺達の所へ来たのなら少し無神経過ぎる。俺達が本拠地へメッセージを送るのを全力で防ぐ筈……ということはコイツの仲間が此処へ来ている!?)


 2人はある2つの方向を見る。

 此処へ入る唯一の入り口と取り敢えず置いておいた石であった。


 石は入り口から此処へ入れるのに、密偵達は相当苦労した。

 何せ入り口が狭すぎて石を入れるのが大変だったからである。


 (……しめた!)

 

 密偵達は何かを閃くと、モークが体力を回復している隙に置かれていた大きな石を数人掛かりで入り口に詰めた。

 石は少しの隙間を残してすっぽりと挟まり、入り口を防ぐ事に成功した。


 そのうちの一人が、入り口付近の天井に何か仕込んでいた。


 残った隙間は土で固める。全て早急に詰め直すと、視界は暗闇に包まれた。



 密偵達は既に設置していたランタンを端に置いて、4人全員そこへ移動する。



 「さあ、モークタン! どっからでもかかってきやがれ!」



 完全に回復したモークが攻撃しようと思った矢先、1人の密偵がそう言った。



 詠唱する人とランタンを角の端に避難させ、それを3人がカバーする。


 前衛2人、攻撃兼サポート1人、詠唱1人という構成が出来上がっていた。


 サポートが何時でも防御魔法を張れるように対策をしている。如何なる魔法が飛んできても防ぐ構えだ。


 モークタンの【カゲヲアヤツルモノ】の長所全殺し、【驚愕する魔力球】半減の戦闘体勢である。



 モークは確かに強くなったが、それは一般的な冒険者から見ればの話。


 裏の社会で死と隣り合わせの戦闘を数度以上も経験してきた密偵達は、それ相応の経験を積んできた。


 相手がモークを殺す気ならば、数分も掛からずに倒せるのだが……。



 【カゲヲアヤツルモノ】や【驚愕する魔力球】のような理不尽系のものは、この裏の社会ではよく聞く話である。

 対策や攻略法は幾らでも発案出来た。


 

 (うわぁ……これはヤバイね)


 生け捕りを指示されている以上、全魔力を使って殺す事も出来ない。


 モークは危機感を覚えた。

 村長に【情報伝達】で緊急報告する。



 《村長さん。至急援軍を送ってくれない? 敵に入り口を石で塞がれちゃった! 早くしないと本拠地にメッセージが送られるよ!》

 


 詠唱が終わるまで残り8分。

 密偵達とモークの徹底交戦が始まった。



―――――――――――――――――――――――

―モーク視点―



 「【カゲヲアヤツルモノ】!」

 「【氷の壁】!」

 「【火の壁】!」


 「冷! 冷! 冷! 冷たっ!!!」



 俺は効かないと思った理不尽魔法を使う。


 しかし密偵はすぐさま防御兼攻撃をして俺にダメージを与える。



 火は得意でも極端に冷たい青色魔法系の氷はムリ。

 氷山に登った時は平気だったんだけど……。



 「【氷の大地】!」



 青色魔法系が弱点だと気づいた密偵達は地面を氷にする。


 ツルツルツルツル……。



 「ギャフン!」



 モフモフ生地に近い俺の体と滑らかな氷は、滑り心地が最高……俺にとっては最悪だった。


 自分の体を制御出来ずに壁へぶつかる。



 直ぐに起き上がった俺は壁に張り付いた。

 此処なら滑らない。


 (……でも、行動範囲を制限されたね)


 そんな事を考えている暇も無く、さらに密偵は時間稼ぎの一手を加える。



 「アイロンの裏組合から裏取引した中で、珍しく洒落た一品だ! これでもくらいやがれぇぇぇ!!!」

 「うっわ! 眩しっ!!!」

 「【氷球乱舞】!」



 何かを取り出したと思えば、それに異世界でそこそこ使われていた【マッチ】という着火材に火を付け、部屋の真ん中に放り投げた。


 するとそれは白い閃光を部屋中に乱射させ、俺の視界を妨害した。


 密偵側は黒く曇ったメガネを二重に掛け、余裕そうな表情だね。



 目を壁にくっつけて防いでいる俺を目にした他の密偵は、今がチャンスと俺に氷球数十発を飛ばす。

 数十にも及ぶ殺気が俺に近づいているのを感じるため、目が無くても何となくわかるね。


 俺はあのユッケと戦ったことを思い出す。

 ユッケがアイリスに向けて2000球放ったあの時、アイリスは変わった回避の仕方をしていたのを思い出した。


 (ユッケのあの話が本当なら、此処にずっといるだけで良いよね?)


 ※第44話参照。


 俺は動かずに、ただじーーーっと待つ。



 「……は? 何なんだあの挙動……そんなスキルがあるのは初めて見たぜ……。」



 氷球達は俺から数十センチでウヨウヨし、数秒後に地面へ沈んでボロボロと散っていった。



 スキルじゃないね。

 どっちかって言えば対処法に近いかな?


 ……などと言うわけも無く、俺は反撃する。



 光っていた謎の物体は白い物に変化し、光を失っていた。

 真っ暗闇に元通りである。



 「【カゲヲアヤツルモン】!」

 「……ハッ! 魔法やスキルの虚偽詠唱なんざぁ、ウチの社会じゃあ当然の常識だぜ! とりゃあ!」


 「ゲフッ!!!」



 だが、密偵に虚偽詠唱は通じなかった。

 寧ろ俺が居る場所を詠唱で見抜かれ、跳び蹴りを食らってしまった。


 地面に敷かれた氷のせいで勢いは衰えることなく、俺は壁に激しく激突した!

 余りの衝撃にぶつかった場所が凹んでいる。



 「……ペッッ! 分が悪いね……。」 

 「ハァ……ハァ……こっちだって余裕ブッこいてる暇はねぇんだよ! 第一、お前を連れて来ちまった俺には責任ってものがあんだよ。だから……ここは意地でも通さん!」



 俺は口の中から出てきた緑色の血を地面に吐きながら愚痴を漏らす。

 それに答えるかのように、逃げた密偵から強い意志の言葉を投げ掛けてきた。


 (これが、アイリスの言ってた人間のホンキかもね……)



 壁に激突したダメージはかなり大きい。

 俺は緑草を取り出して腹の中に入れる。


 回復はしたものの、進展する度に悪化しているのは事実だ。


 ただ緑草は数千枚(アイリスには内緒で集めてたけどね)あるため、尽きることはない。



 いっそのこと、捨て身の特攻しようかな……。

 ……いや、そんな事をやっても効果薄そうだしね。



 じゃあ、アレしかないけど……。


 俺は期待ゼロのあの魔法を打ってみる事にした。

 コレがダメなら……知らないね。


 魔法陣を狂いなく壁に書き、詠唱する。



 「【我の身体に眠る大いなる力よ、今こそ汝を解き放たん。その力を世界に轟かし、我が魔物としての力を人民共に見せつけよ! ・驚愕する魔力球】!」

 「遂に来たか! ヘッ! モークタンが放ったとは思えねぇ程、デケェ【驚愕する魔力球】だなぁ!」



 俺はギリギリ意識が耐えられる魔力を込めて、発動する!


 この部屋の地面から天井にくっつく程の大きさを作った。

 本来なら5メートルぐらいになるけど……それを2メートルに濃縮した。


 その2メートルが、密偵達の元へと向かっていく。



 「来たぜ……勝負だあァァ! 【魔力球】! 【反撃体勢】! 【ナックル・アーム】! 【身体強化】!」

 「【魔力強化】! ……【魔力球立方体】!」

 「【魔力強化】! ……【魔力球立方体】!」



 逃げた男は右手の拳に魔力球を付け、何時でも迎え撃てるように構える。


 他の2人は、飛んでくる俺の魔力球を防ごうと魔力を強化して防御系の魔法を使った。


 (もしかして……防いでいる間に腕力で跳ね返すつもり!?幾らなんでも無理だろ!)


 白色の魔力球は密偵達に襲いかかる。

 密偵が発動した【魔力球立方体】に激突した。




 「「ウオオォォォォォォ!!!」」

 「トオォォリャアァァァ!!!」




 必死に食い止める密偵達。

 そこへ、右手に全力を乗せて逃げた男が魔力球を激しく殴った。



 ……途中、魔力球が勢いを増してズルズルと密偵達を押していく。

 しかし、男達はまだ諦めないと力を込めて全力で押し返す。


 俺はその様子を黙ってみる。

 魔力は残り1桁前半。



 どっちが勝つ?









































 「ウオオォォォォォォ!!! バルザン様に、栄光あれぇぇぇぇぇ!!!」

 「「バルザン様に、栄光あれぇぇぇぇぇ!!!」」




 密偵達はその号令を叫んだ後、凄まじい勢いで魔力球を押し返していく。


 (コレが……人間の……本気だね)


 そして、逃げた男がトドメの一撃を放った。




 「人間様の力を、ナメンナアァァァ!!! トオォォリャアァァァ!!!」




 最後の一撃と言わんばかりの威力で魔力球を勢い良く殴り、気合いで押し返した。


 凝縮したあの【驚愕する魔力球】が負けたのである。



 「……っシャアアアアアア!!!」



 男は勝ち鬨の咆哮をあげた。








 ……詰んだ。

 ……流石に無理です。ムーーリーー。


 俺はギブアップするしかなかった……。



 その詰んだという証拠は、俺の元へと帰ってきて……。




 「ドォォォォォォン……ガガガガガガガガガガカ!!!」




 【驚愕する魔力球】は俺に激突した。


 もしも自分の魔法じゃなかったら……確実に死んでたね。

 そこは不幸中の幸いみたいなものかな。


 でも、何故か激突した衝撃を緩和しきれずに壁に激突……気絶した。


 戦いは俺の負けに終わった。



 球に激突した少し後に、天井から掘る音が聞こえたけど……なんだったんだろ?


 そう思った直後には、意識が消えていた。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―ゴブリン(密偵の入り口前)視点―



 ~メッセージ送信まで後2分~



 マズイっすね……。

 人間の知恵は恐ろしいものです。


 石で塞がれた以上、僕達に出来ることは何も無い。



 魔法で消し飛ばそうと思ったのですが……。

 そんな事をしたら中に居る密偵やモーク先生が死ぬ。


 そもそも俺達は槍部隊専門だから、強力な魔法が使えない。



 かと言って石を掘るのは時間が掛かるし、石が塞がれている場所まではゴブリンで1体が限界。

 【月光】さんにはその狭い穴は通れない。


 力でどかそうにも、僕達は人間よりも腕力が足りない。




 そう考えていると、穴の中からゴブリンが出てきた。



 「どうだった?」

 「やっぱりダメだ。石が思ったよりも大きくて重い。モーク先生が援軍を村長に緊急要請したけど……メッセージが送られるのが早いと思う。」


 「クソッ……してやられた。」

 「だったら、上から掘ればいいんじゃない?」


 「「「えっ!?」」」



 そう言ってきたのは、なんと【月光】さんである。

 



 「……恐らくですが、そうされないように対策がされていると思います。」

 「それに、ここの地面は非常に硬くて……並の力ではスコップ使っても無理です。」

 「キミ達ゴブリンはまだその段階だけど……じゃあ参考までに見ててね、私の本気!」



 月光は石で塞がれている位置に着くと前足4本を駆使して土を乱打した。

 石を経由せずに直接天井を掘るつもりだ!



 「ガガガガガガガガガガカ!!!」



 物凄い速度で掘ってゆく。


 針のように鋭く、尖ったその前足で掘っていく。

 いや掘っていくと言うよりかは、押し込んでいるようにも見える。



 気がつけば、直径5メートル程の大きな穴が出来上がっていた。

 深さは4メートルである。



 「……オイ! 天井から入るつもりだ!」

 「やはりか……アレで時間稼ぎはしておいた。後はそれに掛けるしかねぇ!」



 少し経つと、下から声が聞こえてきた。

 ……アレって何だ?


 (……!!!【月光】さんが危ない!)


 俺はそう察知して言葉を言おうとするが、時すでに遅し。



 「食らえぇぇぇい!!!」



 直後、下から威力の高い爆発と衝撃が伝わってきた。


 「ドォォォォォォン!!!」という爆発と土の粉塵が俺達に襲いかかる。



 「うわあぁぁぁ!」



 ゴブリン達は爆発の衝撃で3メートル程飛ばされた。

 爆発の衝撃により大きな穴が開いたのか、大量の砂が天井を埋めていく。


 余りの勢いに俺達は穴の中へ吸い込まれそうになった。




 特に一番爆心地の近くにいた【月光】さんが食らった威力は尋常ではないだろう。


 更にさっきの爆発で作った穴が塞ぎ、【月光】さんは砂に埋もれてしまった。



 「【月光】さーーん! 返事してくださーーい!」



 幸い着地した場所が柔らかく、軽傷で済んだ俺は穴があったはずの地面で大きな声を上げる。

 他のゴブリン達も一応無事だ(ケガしてるけど動ける)。



 すると、近くの地面から突然一本の黒い針のような前足が出て来てピクピクと動いた。

 無事である。


 そしてその足が動いて魔物言語の文字を書いている。

 大変器用な腕だけど、無事で良かった。


 

 出来上がった文字を皆に読む。



 【モーク先生が気絶してる。命に別状は無いけど、さっきの爆発の少し後に本部から本拠地へ1つのメッセージが送信されたみたい。此方の計画がバレちゃった……。】



 この文字を読んだ俺は、すぐさま村長に【情報伝達】で伝えた。



 《村長……報告致します。ゴブリン数体負傷、モーク先生が気絶しました。更に本部から本拠地へメッセージの送信を【月光】が確認、此方の計画が一部漏れました。御期待に添えられない結果、お許しください。》


 《……報告ありがとう。援軍を其方に向かわせ、手当てを致します。この失態は全て私の責任です。》


 《……密偵達はその後、抵抗の様子無し。安全が確保次第、捕らえます。》


 《お願い致します。》



 報告を終えてから数分後、スコップを持ったダークゴブリン数体と10体のゴブリンが援軍として来た。


 地中に埋まっていた【月光】とモークを救出した。



 「捕らえよ。」



 【月光】さんの合図の元、4名の密偵は捕らえられた。

 ケガをしたゴブリン達とモークは、援軍に来たゴブリン達に担架で運ばれた。


 直後、実行役の密偵を全員捕らえたと言う報告がノノアさんと一緒について行ったゴブリンからの報告があった。

 密偵達の件はこれで片付いたのである。



 後は……模擬戦争と本物の戦争を残すのみ。

 そう考えると、不思議と緊張が走った。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 【ゴブリン軍団】の本部部屋では、最も落ち込んでいるものがいた。

 村長である。


 先程、ゴブリンから悪い報告と良い報告が来てしまった。

 ノノア達とユッケが密偵達を全員捕らえたのは良いが、問題は悪い報告の内容である。


 俺達の計画の一部が、敵に漏れてしまったのである。

 本部から本拠地へ一つのメッセージが送られるハメになってしまった。


 万が一それが、【朱の騎士団】に関わるものであれば一大事である。


 敵の矛先が【朱の騎士団】へ向けられる事だろう。



 「……私の失態です。……ワゼリス殿に顔向け出来ません。相手を甘く見過ぎておりました。」

 「村長さん。この責任はアナタが全部背負う必要はありません。初めての指揮で此処まで出来た事は凄いことですよ? 現に他の密偵達はノノアさんとユッケによって全員捕獲に成功します。」


 「……アイリス殿、指揮官は全ての責任を追わねばならぬのです。初めて指揮したからと言い分を付けて逃げる事は出来ません。他の者達に迷惑を掛け、兵士の安全を甘く考えていたこの戦争は、私の生涯の恥になりましょう……。」



 村長は机に両手を乗せて下を向く。

 上に立つものを本でよく知っているからこそ、余計に落ち込むのだ。




 でも、初めて指揮官をやるものは失敗だって幾らでもあると思う。

 最初から完璧な人間や魔物になるのは居ない。


 失敗を経験して段々と強くなっていくのだ。

 幼い頃からこの森で特訓をしている俺はそう考えいる。


 だが、それはあくまで個人しか関わっていない話なら通じる話である。



 指揮官ともなると、話が大きく違ってくるのだ。兵士や作戦の指揮で結果が大きく左右するからである。


 そうなると、完璧な人間や魔物ではない俺達は責任を問われてしまう。

 個人の話では済まされなくなってくる。




 俺は村長を見てしばらく何も言えないでいた。

 素人の俺が口出しする資格は無い気がしてきたのである。




 20分が過ぎた頃、落ち込んでいた村長が顔を上げた。

 そして、両手で自分の顔を数度叩いて奮い立つ。



 「……いけないいけない。このまま落ち込んでいてばかりでは事は進みません。模擬戦争と本物の戦争を終わらせることを先決と致しましょう。」

 「その方が良いと俺は思います。」


 「では、まずはノノアさんをお呼び致しましょう。模擬戦争の将と兵士の強さを知っているでしょうな。誰かノノアさんを此処へ!」

 「畏まりました村長。」


 「お願い致します。」

 


 村長はノノアを呼び出す係を募集し、近くにいた女ゴブリンが立候補する。

 了承すると、女ゴブリンは本部から出て行った。




 数分後、ノノアが本部部屋へと入る。

 黒いフードを被っているのは何時もの事である。



 「失礼します。私をお呼びでしょうか、村長殿?」

 「おお、早速聞きたい事がある。模擬戦争の将はどなたが心得ますか?」


 「はい。」

 「詳しくお聞かせ願えますかな?」


 「ルーサーという者です。数年前から騎士団へ加入し、今では騎士団のトップ10に入る地位です。」

 「ほう。若いのにようやりますなぁ。」

 「そうだな。俺でもその速度で昇進するのは無理だぞ?」



 俺と村長はルーサーの昇進スピードを褒め称える。

 2800人規模にも関わらず数年でトップ10は相当苦労したのだろう。



 ところが、ノノアは突然嫌な表情をしながらルーサーについて語ってくれた。



 「はい……ですが、性格が理由でかなり周囲からは遠回しで嫌がられております。」

 「どんな理由でしょうか?」


 「はい。権力主義者なんです。」

 「……なるほど。」

 「厄介な人間だな、それは。」


 「はい。彼は自分より高い立場の人間には尊敬の意を示しますが、下のものを酷く罵倒するもので……私も時々きつく言われておりました。度々アリスと衝突することもありました。」

 「他には?」


 「はい。何時も彼は自分から魔物討伐を進んでおりました。彼は魔物に容赦がないのです。子供であろうが、魔物であれば遠慮はしません。彼の前に立って生きて帰った魔物は居ない程です。」

 「「……ん?」」



 俺達は妙な嫌な予感がした。



 「今回ルーサーが模擬戦争のリーダーって事で良いんだよな? ワゼリスが決めたのか?」

 「元々はアナタ達を討伐するための部隊でした。しかし意志の疎通が出来る者であり、善良な心を持っている者であったため、模擬戦争の部隊へと変わったのです。」


 「ルーサー……もしかして模擬戦争じゃなく、本物の戦争をぶっ放すつもりじゃないよな? 全員が真剣持ってるとか?」

 「いえ、全員が真剣を持つことはありません。ワゼリス様が黙っているはずがありませんからね。しかし……警戒はしておくべきかと。」


 「もうそろそろルーサーが来てもおかしくない。今はゴブリン達に【情報伝達】で伝えるのが一番だと思います。」

 「うむ。これ以上被害は逢いたくありませんからな!」



 村長は【情報伝達】で全ゴブリンに警戒を促した。


 模擬戦争の将、ルーサーという人物。


 ただ者では無さそうだ。




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