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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
76/116

第71話 アイリスVSアリス 2.喰いたいなら喰わせてやる

※非常に過激な描写があります。

 苦手な人はお控えください。



 クロスボウを収納魔法から取り出したアリスは、俺に向けて矢を2本放つ。

 憎しみの目つきで見つめているが、どういうわけか口から血が流れている。


 (さっきのアレが効いているかな?それよりも矢の挙動は……)


 2本共右手。

 両手を潰して俺を攻撃出来なくさせるつもりだろう。


 (ナイフで対処……ん?2本共発動準備魔法がかかってるってことは……回避!)



 アリスの真の意図を素早く読み取った俺は回避する。


 すると、2本の矢からは凄まじい電撃が流れ始めた。

 バリバリという音と共に、白い閃光と熱を辺りに満遍なく放つ。多少の熱い感覚が肌に伝わったが、それだけで済んだ。


 危なかった。

 ナイフで弾こうとしてたらヤバかったな(材質が金属ならもっと危険だったが)。



 ふぅと溜め息をつこうとしたが、アリスは攻撃を止めるハズがなかった。



 「【炎を纏う武器】!」



 自身が持っている両手剣に火属性を付与し、俺に襲いかかってきた。


 ダークゴブリンのボスが俺にやった技だ。

 ボスより火力は一段落低いが、それでも俺にとっては脅威である。



 俺は回避重視の戦闘態勢に入る。

 回避し辛い攻撃はナイフで弾いたりもした。


 数十ほどの鍔迫り合いをしていた所で俺に限界が来た。


 (炎の温度を下げた代わりに、炎の大きさを広げてるな)


 アリスが付与した【炎を纏う武器】によって両手が火に少し焼かれていた。

 火傷である。


 まだ余裕で耐えられるが、これ以上続けると此方がジリ貧になる。

 両手が使えなくなると逃げるしかない。



 だが、アリスもそれを読んでいる。

 何かこの状況を打開出来るものは……。



 《アイリス! やっぱり真っ向勝負じゃあ苦戦してるようだな。このままだとお前負けちまうからサポートするぞ?》



 ユッケか!?

 ……すまん。

 やっぱり俺だけじゃちょっと無理だった。


 頼みます。

 助けてください。



 《気にすんな。流石にこればかりはレベル差を縮めろとしか言えん。寧ろ此処まで一人で出来た事が大きな進歩なんだ。》



 褒めてくれてありがとう。



 《じゃあ上からちょっと凄い事するからお前は持ち前の回避能力で何とかしてくれ。》



 おい!ちょっと待て!

 サポートする側が味方巻き込んで……。



 此処でユッケの通信は途絶えた。


 (何するつもりだ?ユッケは?)


 余裕もない鍔迫り合いを更に十ほどしたときにそれは落ちてきた。



―――――――――――――――――――――――



 アイリスと会話した直後、ユッケは魔法の詠唱に取りかかった。



―――――――――――――――――――――――

―ユッケ視点―



 さーて。

 ちょっと派手にアリスにぶちかまそうかな?


 サポートって言っても、タダの牽制程度だが。



 「【天に浮かびし幾千の星よ。汝らの姿を真似て、我の魔力で創造を行う。……此処に集いし我らが子孫よ、今こそ輝く時! この地に蔓延る悪しき魂共に正義の鉄槌を! ・幾千の星】! ……だったかな?」



 すると、俺の周りには千をも越える星形の魔力球が浮かび上がった。


 数センチ程の小さな星から、1メートル程の大きさまで様々である。


 近くにあった一個をつんとつついてみる。

 ……石のように硬かった。



 「天誅!」



 俺がそう言いながらアイリスとアリスの場所に指で示す。


 幾千の星はそこへ高速流れていった。


 (……あ、ごめんアイリス。【悪しき魂共】じゃなくて【悪しき魂】だったわ。この魔法、攻撃対象指定出来るのか……)


 放った直後に詠唱文を読み返した俺は、後でアイリスに謝ろうと思った。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~アリス視点~



 【臆病者】の手が焼けてきてる!

 あとちょっと、あともうちょっとで……!



 おいちいごはんにありつける!

 だから……。



 早く倒れろ!

 倒れろ!

 倒れろ!



 私は両腕を限界まで動かす。

 【臆病者】にダメージを与えようと必死に殺しにかかる。




 すると、突然上から凄まじい殺意を感じた。

 我慢できずに上を見るとそこには……。



 「……えっ?」



 上空では、私と【臆病者】めがけて大量のお星さまが落ちてきた。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 「……えっ?」



 アリスが上を一瞬だけ見て仰天する。



 仕留めるなら今がチャンスなのだが、殺すことを目的としていない俺は追い討ちを掛けなかった。

 チャンスを作ってしまった事に気付いたアリスはすかさず後方へ後退する。


 (ユッケは一体どんな魔法を?)


 確かめないといけないので上を見る。



 「……なるほど。俺もマズいな。」



 上から落ちてきたのは、星の形をしたユッケの魔力球であった。

 それも、1000個以上である。



 「【魔力球立方体】!」



 アリスは前に使った防御魔法で何とか防いでいる。




 俺はというと……。


 (ユッケめ……あとで覚えておけよ……)


 ユッケに色々文句を言いながらも、周りに落ちてくる星を全て回避する。

 回避出来ないというほど濃密な弾幕という訳ではなかった。



 だが、ユッケの放った星は5分もの間降り注いでいたのだ。


 このユッケのサポートによって最も苦しんでいたのは俺ではなくアリスだった。




 とある事が気になった俺はサングラスに質問をする。



 サングラス、アリスのステータスを見るのは出来るか?



 《既に解析は済んでおります。如何なさいますか?》



 口頭で伝えてくれ。



 《畏まりました。》


 


 アリスのステータスが口頭で伝えられた。


 (やはりノノアの言っていたステータスと同じか。それよりも……やっぱり魔力はかなり削られたな)




 【ステータス】アリス



  レベル 147 ランク A


  体力 1543/1682

  魔力 462/2843

  攻撃 852/1089

  防御 1326/1653

  早さ 675/865

  速度 8.625/10.25

 当会心 15.375/16.5

  回避 18/20

 当回避 14/20

 総回避 29.48/36

 残血液 2753/3100(1990)


 経験値 2673528/500000000

   次 2673528/2796000(122472)




 【魔力球立方体】などという持続系の防御魔法は、ハッキリ言ってコスパは悪い。

 つまり、魔法を使えば使うほど魔力の消費が大きいのだ。


 これによってアリスほ攻撃手段を幾つか無くした事になった。


 (魔力を削りきって気絶させるのもありだが……それじゃあ意味がない。アリスに人肉を止めさせる、何かしらのキッカケがないとダメなんだ)



 星が全て落ちきったあと、ユッケが声をかけてきた。

 ちなみに地面へ落ちた星はスッと消え去っている。



 《アイリス。そろそろあの計画を実行しろ。下手に伸ばすとお前がマジでやられかねない。》



 ああ、わかっている。



 《それで……プランは何だ? AかBか……はたまたCか?》



 プランEだ。

 正直手荒過ぎてやりたくないが仕方がない。


 実情、アリスの【カニバリズム】はかなり深刻だ。

 常習された悪い習慣と禁断症状は並みの施しでは決して救えない。


 そのもの自体をトラウマにさせなければいけないからな。



 《そうと決まれば……早く【カニバリズム】の他に代わるものを探さないといけないな。》



 そうだな。

 だが、まずは捕まえないとな。



 《よし、お前に任せる。今はピンチになったら助けてやるから安心して戦え。》



 ありがとう、頼りになる。



 俺はサングラスの通信を切った。




 一方のアリスはへとへとになっていた。

 5分強の間、星から身を守るために防御魔法を張り続けていた。


 無傷で済んだが、代償として大幅に魔力を削がれる事になった。




 こうなると俺とアリスの勝負は実質五分五分になってくる。



 クロスボウは【絶対命中】があっても俺に回避され、魔力は少ないので派手な魔法を使えず、魔力付与なしでの両手剣の攻撃では勝敗がつかない。


 (ただ、アリスの武器がこれまでなら貰ったも同然。もし他の武器を隠し持っていたら……)

 

 俺は嫌な予感を感じていた。

 アリスが持っているパンドラの箱を開けてしまったような気がしてならなかった。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~アリス視点~



 ……チッ。

 浅はかだったわ。


 こんな所へ降りるんじゃなかった。



 此処に来る前から、上空に無視できない何かを感じていたのよね。


 ソイツが星を降らせたとしか考えられないのだけれど。


 (さっきの防御魔法が仇になったね。お陰で魔力をかなり減らしちゃった。お星さまにぺちゃんこにされるよりは幾分マシだけど)


 それはそうとして、どうしよう?




 さっきの攻撃をすれば上空からまたお星さまだし……。

 反撃しようと飛んだ所で矢の餌食だし……。


 かと言って、【臆病者】にクロスボウと両手剣で勝負を挑んだなら相手の思うツボ。



 ……ん?

 私って他に何の武器持ってたっけ?


 たしか……。



 クロスボウ、

 大鎌、

 両手剣、

 弓と魔石入りの矢も良いけど、魔石に何も入れてないから結局魔法使うのよね。


 ※魔石は魔力を込めないとタダの矢です。事前に魔力を込めておくのが基本。


 後は……何だったっけ?





 ……あっ。

 私はもう一つ持っていた事に気がつく。


 それは……私も躊躇う非常に危険な武器だった。




 ……ノコギリ。


 たまたま見つけたダンジョンの再奥の部屋。



 ボロボロになった多数の人骨の近くにあった血塗れノコギリ。

 魔物に試したら、絶大な威力だったから気に入ったけど……。



 ……。

 


 ……。



 ……いや、逆転するにはコレしかない。


 私は収納魔法からノコギリを取り出す。

 やっちゃいけない事はわかってたけど……。



 ……ああ、すごい!



 ……ノコギリが私を呼んでる!



 ……あれれ?

 ノコギリに血管なんてあったっけ?



 ……ってことは、私とノコギリくんは今繋がってるんだ!



 ……何だが気持ちいい!!!

 ずーっとこのままでいたいなぁ……。



 《人間に殺意を常に持っているお前だな? お望みを聞こう。今お前が見えている中で、本気で殺したい人間はいるか? なければ今、お前が見ている人間を全て八つ裂きにする。》



 意識が遠くなって甘い快感がジワジワっとくる中、何かが私に問い掛けてくる声が聞こえた。



 ……えーっとね。

 私、今あそこにいる【臆病者】ってゆー人間を殺したいんだけど……。


 ただ殺すんじゃなくて、生きたまま食べたいの。

 後は私が食べちゃうから取り敢えず半殺しにして。

 腕をぶつ切りにしても構わないからさ。


 ……どう?



 《……良かろう。お前を願いを叶える。それまでは大人しくしているがよい。》



 はーい。

 私は完全に意識が飛んだ。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 《!!! 警告! 警告! ステータスの一部が大幅に上昇しています!》



 ……だろうな。

 俺も感じる。


 アリスの殺気が前より数倍に跳ね上がっているしな……。


 ステータスはどうなっている?



 《攻撃と早さ、速度と当会心が先ほどのの3倍に跳ね上がっています。》



 ……は?

 3倍!?


 ……あのノコギリで間違いないな。



 俺はサングラスに変更後のステータスを見ることにした。

 一部のステータスが、上限値を大幅に越えている。更に、他のステータスは全て0になっていた。


 俺にはどういうことか全く理解出来ない。




 【ステータス】アリス



  レベル 147 ランク A


  体力 0000/1682

  魔力 0000/2843

  攻撃 2556/1089

  防御 0000/1653

  早さ 2025/865

  速度 25.875/10.25

 当会心 46.125/16.5

  回避 00/20

 当回避 00/20

 総回避 29.48/36

 残血液 0000/3100(1990)


 経験値 0000000/500000000

   次 0000000/2796000(122472)




 すると、アリスは何も俺に言わずに襲いかかってきた!


 (早い! 下手したらユッケ並みだ!)


 1メートル程のノコギリが尋常でない速度で振り下ろしてくる。

 全力で回避して成功……とはいかなかった。


 ノコギリの回避は確かに成功した。

 だが、攻撃はそれだけではない。



 ノコギリは地面に激しく衝突したのだ。

 当たった地面は陥没し、大小問わず大量の石が飛び散る。


 この石が俺にとってキツかった。

 弾け飛んだ石が回避したばかりの俺に襲いかかってきた!

 ナイフで大きいものは何とか出来たのだが、小さい物はそうはいかなかった。


 至る所に小さな鏃が刺さった感覚に近い。


 更に、衝突の衝撃によって俺は6メートル弾き飛ばされた。

 飛ばされた方向が良くも悪くも木だった。



 打撃に慣れているため、衝撃をある程度吸収出来る素材になれたのは良かった。

 だが、アリスが俺に気付いて襲いかかっている最中に木にぶつかったら……。


 (ヤバイ! このままでは……!)


 アリスは俺の前に近づくと軽くノコギリを振り下ろす。



 「ドガッ!!! ボトッ! ドガッ!!! ボトッ!」



 ノコギリでやられたのは両腕だった。

 両腕からはドロドロと赤い色の濃い水が流れていく。


 アリスは更に躊躇なくノコギリを振り下ろそうとする。


 (終わった……)


 俺はそう思った。

 アリスはノコギリを振り下ろす。



 「ガッ!!!」



 しかし、ノコギリは俺に当たる事はなかった。

 目の前には人影がいた。

 彼は素手でアリスのノコギリを掴んでいる。


 手のひらからは一筋の青白い血が流れているが、全く気にはしていなさそうだ。



 「あぶねぇ……。間一髪だったぜ……。ヤバイ時は呼べって言ったじゃねぇか!」

 「ユッケか……。すまんすまん。ソイツが強すぎてそれどころじゃなかったんだ。」


 「此処からは俺がプランEを代わりにやってやるよ。取り敢えず……それっ!」



 ユッケは左足でアリスの腹を勢い良く蹴る。

 アリスは嗚咽を漏らすことなく15メートル程後ろへ弾き飛ばされる。

 そして、木に激しく衝突した。

 木がめり込んでいる光景は、衝突の激しさが良く伝わってくる。



 「マジ蹴りだったんだが……まぁいい。それよりほら。お前ならこれで良かっただろ?」

 「ああ、それでいい。」


 「食え。」



 ユッケは収納魔法から束になった緑草を取り出し、俺の口に突っ込む。


 ひとまず切り口は完全に塞がった。

 2~3日すれば腕は元通りになるだろう。


 口の中が甘い……ってちょっと待て!!!



 「……ってオイ! 毒草が一枚混じってるぞ!」

 「アハハ、ゴメン。これでも頑張って見極めた方だったんだが……お前なら行けるし。」


 「まあ……ありがとう。これで死ぬことはないな。」

 「そうだな。じゃあお前はそこで見てな。レベル280を超えたマジの戦闘を!」



 そうすると、ユッケはアリスへと向かった。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―ユッケ視点―



 さてと、多分俺の予想ではあのノコギリはヤバイやつだった気が……。



 「【武器詳細】、【ステータス】!」



 俺はノコギリの詳細がある程度わかる魔法、確認するステータスを唱える。


 自分のステータスの一番下に武器の説明がつくからだ。




 ふぅ……。

 まだマシな武器だったか。


 俺でも対処出来ない武器だったらどうしようかと思った。


 他の武器に比べたらこれもかなり危険だけど。



 ステータスを見た俺は安心した。




【ステータス】名前 ユッケ


  レベル 285 ランク S-


  体力 1459/1459

  魔力 5783/5783

  攻撃 2604/2604

  防御 6386/6386

  早さ 2911/2911

  速度 29.375/29.375  

 当会心 35.25/35.25

  回避 44/44

 当回避 43.25/43.25

 総回避 68.447/68.447


 経験値 28444353/500000000

   次 28444353/29468546(1024193)



―――――――――――――――――――――――


◆武器説明◆


 名称 悪魔の囁き

 種類 一部呪い武器


 効果 一部の者に対象

    攻撃、早さ、速度、当会心が3倍


 ※ただし、必ず行動不能になる。

 ※一定のレベル以上では効果がない。


    通常

    攻撃+350 早さ-50 当会心+1.25


スキル 一部の者に対象

   【悪魔化】


    通常

   【一刀両断】


解除方法


 悪魔は人間と一体になるために持ち手から血管を引っ張ってきて武器に接続する。

 つまり、武器を奪う事が出来れば元に戻る。


 ただし奪った者が一部の対象者なら、奪った者が【悪魔化】する。


―――――――――――――――――――――――




 これなら力ずくにでも奪えば何とかなる。



 ステータスを見ていると、アリス起き上がり俺に襲いかかる。



 「ジャマヲ……スルナ!!!」



 アリスから出た声とは到底思えないその図太く、鬼のような声。

 目が真っ赤に光るその光景はなんとも不気味であった。


 まあ、普通の人間なら全力で恐怖の権化だろうけど。



 「【大防御】、【斬撃耐性強化】。」



 防御魔法を使うことにした。

 上級者が使う魔法だけどどうだ?



 ……右肩に勢い良く当たった。

 でも、小さな掠り傷が出来ただけ。


 ただでさえ6000を越える俺が、防御を強化している。

 攻撃力2500程度では弱い。



 「ナニ!? ワレノゼンリョクガツウジン!」

 「さーて、次は……俺の番だな!」



 アリスの皮を被った悪魔は、俺の防御に驚愕している。

 その隙に俺はアリスの右手とノコギリを掴んだ!



 「食らえ。【身体強化】、【黄色魔法レベル5・身体強化大】、【黄色魔法レベル7・身体極限】!」



 俺は身体強化三連を唱えた後、アリスをノコギリから無理矢理腕力で引き剥がす。


 アリスの手のひらとノコギリの間から何かが出て来た。

 血管である。

 俺は構わず引き剥がす。

 うねうね伸びていた血管がブチブチと千切れ、そこそこの量の血が流れた。



 さっきまで悪魔だったアリスの顔が、元の姿へと変わっていった。


 (もう少し経てば、アリスは目覚める。【カニバリズム】を止めさせるには……)


 その隙に、プランEの作戦で必要な者が必要だ。

 俺はアイリスに一言だけ言っておく事にする。



 「アイリス! 手を貰っていくぞ!」

 「……構わん。抜けた手だ。アリスにやれ。」



 言われたとおり、アイリスのすぐソバに落ちていた右腕を掴み、スタンバイする。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~アリス視点~



 うーん、



 うーん、



 目が覚めた私は状況が理解出来ずにいた。

 目の前に【臆病者】とは違う人間がいる。


 (あれれ? ……そっか私、ノコギリ使っちゃったんだ。)


 そうやって状況を理解していくと、人間が話しかけてきた。



 「始めまして。俺の名はユッケ。アイリスの先生をしている。」

 「アイリスの先生? ああ、戦闘指導の先生なの?」


 「……まぁそんな感じだ。ちょっと申し訳無いが……いまお前を動けない状態にしている。」



 ユッケという人間に言われて気づいた。

 いつの間にか、下半身が縄で縛られていて動けない。


 もがいてみたけど、魔法がかけられているせいか解ける様子も縄が切れる様子もなかった。



 すると、ユッケが思いがけもない事を口にする。



 「アイリスから聞いたんだが……お前は【カニバリズム】とかいう訳あり何だってな?」

 「一般的な呼び方だとそうだね。……それが、何なの?」


 「【カニバリズム】を治す荒い治療法があるんだが……どうだ? お前こんな蛮行を心の底では嫌がってるだろ?」

 「……ブッ! ハハハッ!!!」



 私は我慢できずに笑みをこぼす。


 呆れた。

 何でこんな茶番に付き合わないといけないのかしら?


 とっとと煮るなり焼くなりしてよ。



 「【カニバリズム】を治す!? 私がそんな事を考えてるとでも思ったわけ?」

 「俺はこの世界中のあらゆる場所を探索してきた。勿論いたよ、食人族とかな。だが、それは先祖代々からの習慣で身に付いたものらしい。アリス、お前はそんなキッカケで始まったとは思えないんだ。もうちょっとこう……人為的な理由なんじゃないか?」


 「へぇ~、意外と考察長けてんじゃん。」

 「今俺達が住んでいる洞窟の村長さんの知恵も借りている。会いたかったら心の底に眠っている良心とやらを見せてくれないか?」



 (鬱陶しい男ねー。そんなウザイ思考してるから気持ちの悪い顔になるのよ)


 と、心の底で悪口を吐き出す。


 ……でも、私の人生を振り返ってみたら……。



 なんだか……つまんなく見えてきた。


 (人間のお肉の為だけに殺し続けてきた感じがする。ロボットのように、決められた行動を何度も何度も繰り返してたのは事実かな?そうなると、いっそのこと止められるなら良いかも)


 腹を決めた私はふっかけてみることにした。



 「それよりも【カニバリズム】が止められるなら、受けてやってもいいよ? 良心なんて直ぐに出ないでしょ?」

 「治療法は地獄だぞ? 途中て止められない。」


 「やってやろうじゃないの!」



 私はそう強く意気込む。


 (地獄と言ってもどうせ対したことないじゃん。【朱の騎士団】が定期的にやってる、最先端の健康診断の血液サンプルで刺される注射器の針程度でしょ?)



 「じゃあ、早速だがやろうか。音をあげんじゃねぇぞ?」

 「ハーイ。」


 「ようこそ地獄の荒療治へ。今からお前にこれを完食してもらおう。」



 そうエンターテイメントみたいな雰囲気を出しながらユッケが収納魔法から取り出したのは……人間の手!?


 しかもまだ新鮮で血が垂れてる。



 「どういうこと、ねぇ? 寧ろ促進させてない?」

 「コレが一番効果てきめんなんだ。これをお前に完食してみろ。一滴の血も残さずにな!」

 

 「余裕じゃーん。ちょーだい。」

 「ほれ。ヤバくなったとしても大丈夫だ。無理に食べなければ往復切符にはなる。」



 ユッケから手を貰った私はガブリとかぶりついた。


 ……おいちい。

 鶏肉、豚肉、牛肉とはまた違った味。


 特に二の腕のプルプルした所は絶品だわ~!


 はぁ……はぁ……しあわせ。



 そんな事を思いながら私は味をじっくりと堪能する。


 ユッケはこれから起こる事を予想しているのか、物凄く嫌悪そうな表情と哀愁感漂う表情を交互に見せる。

 何がダメなのかしら?




 見た感じ……アイリスの腕っぽいけど。

 何かヘンなモノが入っている訳でも……。



 ……。



 ……。



 ……。



 ……えっ、これって……。



 グッ……。



 「……グッ! ギャッ……ギャアアアアアア! ガハッ! ガハッ! ギィャアアアアアアア! ヴウウ! ヴッ! ……ウッ! ……アアアアアアアアア!」



 な……なに……これ、


 グル……グル……ジイ!!!




 私は地獄の底でもがき苦しむ。



 食べたアイリスの血の量よりも遥かに多量の血を口からドバドバと吐き出す。


 大量の血は留まることなく、口を抑えようとしても極度の痙攣と激しい疲労。

 数百本の針がズブズブと刺さるような腹痛、頭痛、筋肉痛。


 下半身が縛られている状態で、陸に上がったばかりの魚が飛び跳ねるのと同じように激しく体を上下する。



 私が地獄の底で苦痛を味わっていると、ユッケからさらに悲痛な宣告が言い渡された。



 「………………どうした? ……腹にでも当たったのか? それは御哀愁様。まだ残ってるから最後まで食べろよ。」

 「ヴッ! ヴウッ! ……アアアアアアアアア!」



 言葉を必死に吐き出そうと口を開こうとしたが、それ以上にくる耐え難い激痛に耐えられなかった。


 更にユッケは地獄に住む鬼のように悲痛な宣告を出していく。



 「えっ? 『喰いたいけど力が入らない』だって? なるほど…………そんなに喰いたいなら喰わせてやるよ!」



 突如ユッケは地面に落ちた腕を拾い上げ、私の顔を鷲掴みにして口を無理矢理開ける。



 「ギャッ……ケホッケホッ! アアアアアァ!!!」



 そして、嫌がる私を見つめながらその口にアイリスの腕を躊躇いなく突っ込んだ。

 私の口からドロドロと血が流れていく。



 「……済まない。人間の肉からお前を卒業させるための苦行だと思ってくれ。これでお前は人間の肉を食べることがトマウマになるはずだ。……そのかわり、人間の肉よりも美味くて誰にも咎められない食い物を用意してやる。」



 ユッケはそう言いながら私の口にアイリスの手をゆっくり押し込んでいく。



 「お前の両親は、こうなって欲しく無かったと俺は思うぞ? 俺達には理解できないような、苦しい道を歩んだ末の選択立ったんじゃねぇか?」



 ユッケのその言葉によって、私は若干救われた気がした。


 もしかして私が生きるためにやり始めちゃった事は、お父さんお母さんが望んでいたものとは違ったものなのかな?


 そう思っていると、いつの間にか私は骨だけ綺麗に残して全てアイリスの腕を食べてしまっていた。



 アイリスの腕の味は、何だが美味しく無くなってきた。

 そして、10秒後には更なる激痛が襲いかかってきた。


 (……後悔したかな。私がやってたことは間違いだったんだ)


 私はそう悔いていた。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―ユッケ視点―



 苦しみながらもがいているアリスを見て、俺は目を瞑りながら思う。



 【カニバリズム】撲滅とは言え……。

 いくら何でもやり過ぎた。



 プランE……


 それは、アリスに猛毒のアイリスの肉を食べさせて人肉に対するトラウマを与える事だった。



―――――――――――――――――――――――



 モークがノノアと共にル・レンタンへ向かったあの日の昼過ぎの13時、村長とボスと俺はアリスの対策について相談していた。

 人肉を食べる為に来るという、上記を逸した目的は初めてだったからである。



 作戦を速めに伝えておくためにも、今日どうするか既に決めておかなければならない問題であった。

 アイリスとモークを呼ぼうと思っていた。


 しかし重労働真っ最中のアイリスには気の毒であり、モークはノノアと共にル・レンタンへ。


 よって、仕方なく3人での作戦会議となった。



 一時難航していたが、ゴブリン村長のとある一言で作戦は一気に纏まっていった。



 「仮にですよ? アリスちゃんが人間の肉を嫌いになるキッカケを作れるとしたら……どうです。」

 「……そうだな。悪くはないが……問題は誰の肉をやれば嫌いになるか、だよな?」

 「アイリスノニクハドウカ?」


 「ボス。どうしてアイリスを推薦するのでしょうかな?」

 「アイリスハワレワレトノジョウヤクニオイテ、ウデヲキラレルコトニハナレテイル。ソレニ、アイリスノニクハタダノニクデハナイ。」

 「??? どういうことだ? アイリスの体は普通の人間とは違うのか?」


 「アイリスノニクニハ、緑草トドウトウノモウドクガカラダジュウニアル。アリスガドクノタイセイヲモッテイナイナラ、アリスハニンゲンノニクヲキラウヨウニナルトオモウ。」

 「……どうしてそう言い切れますか?」


 「アイリスノニクヲタベテイタ、ワレワレノコドモガショウメイシテクレル。コドモタチハスデニドクニタイスルタイセイガアル。」

 「納得の行く答えですね。」

 「後はアイリスが受け入れてくれるかどうかだが……。」


 「私がお願いしておきます。アイリス殿が嫌であれば、明日アイリス殿とモーク殿も参加しましょう。」



 こうして作戦は直ぐにゴブリン村長の経由の元、アイリスに届いた。

 アイリスは難なく受け入れてくれたため、この作戦が通った。


 その他、アリスが取った行動によってプランAからEまでの可能性を考えた。



 プランA

 そもそもアリスが人間の肉を食べていなかった→食べていたのでプランAは廃止。


 プランB

 依存性小。アリスを確保して人間の味を忘れさせる程の絶品な何かを食べさせる。


 プランC

 依存性中。依存性を無くすための通常の治療を行う。依存性が無くなるまで常に誰かの監視をする。場合によってはプランDの治療法を取る事もある。


 プランD

 依存性大。依存するキッカケとなった原因を見つけ出し、根本的原因をアリスと共に探って克服していく。



 B、C、D共にアリスの依存性は遥かに高かったので当然ながら廃止。

 ……となると残った最後の作戦、それこそがプランEである。


 ↓


 プランE

 習慣的依存。アリスに猛毒のアイリスの肉を食べさせて人肉に対するトラウマを与える事。尚、習慣的依存に代わる何かを探る必要がある。


 コレが、アイリスに伝えた作戦である。



―――――――――――――――――――――――



 少し待っていると、ゴブリン達が縄を持って捕縛にかかる。



 「ギャアアアアア!!! ギッ……ギャアアアアア!!!」



 しかしアリスは最後まで抵抗した。

 普段狩りなどで獲物を縛り上げている生徒達が、音を上げるほどの抵抗であった。


 殺されると思っているらしい。


 死にたくないという強い意志が痛みの限界を通り越して現れた証拠である。


 (こんな状況でも、10歳頃のアイリスは気合いで立ってたのか……ダークゴブリンのボスもそりゃあビビるよ)


 ダークゴブリンのボスが暇な時の俺に、初期の頃のアイリスを深く語ってくれた事を思い出した。



 「ユッケ先生、ダメです! このままでは私達がやられます。」

 「しばらく待っておけ。その内緑草の毒の効き目が弱くなる。かなり辛いが……【カニバリズム】撲滅の為だ、放っておけ。」


 「……わかりました。」

 

 

 俺達は毒草の効き目が切れるまでの間、ただただアリスが血を吐き、もがく姿。見つめるしかなかった。








 毒草の効き目が切れたのは、アリスが食べ始めてからおよそ15分。



 アリスの体力は僅か2桁になっていた。

 血液量も60%以上の損失である。


 取り敢えず体力を、俺が持っている回復薬で半分ほど癒やす。

 そして、ゴブリン達にキツく命令した。



 「急いでアリスを洞窟に連れて行け! 輸送途中にコレをかけてやれ。」

 「はい! 弓部門番号6,12,18,24,30,33は私と共にアリスを洞窟まで運べとの指示です! 先順の4名は担架で運び、残りの2名は私と共に他の魔物から担架隊を守備してください!」

 「「「はい!!!」」」

 「次! 残りの偶数番号は森全体を集会して敵の密偵を発見してください! 見つけたら【情報伝達】を使用して本部へ連絡をお願いします! 奇数の者は例の作戦をお願いします! 尚、この命令は50分後には無効です!」

 「「「はい!!!」」」

 


 俺は近くにいた生徒に与えた回復薬を2本ほど与える。


 すると生徒はいち早く周りのゴブリンに次々と指示が飛んでいく。

 その早さと対応力は俺も驚愕である。

 【情報伝達】という魔物特有の有能スキルが大きなキッカケとなっているのだろう。


 (早っ!一般の騎馬隊相手にやる指示じゃないな)

 

 俺が肝心している隙にアリスの姿は無くなっていた。

 担架で運ばれたのだろう。


 (さて、また上空へと戻るか。)


 俺は【中位魔法・自由飛行フリーダム】を発動して空高く舞い上がる。


 秒速500メートルのスピードで一気に高度3200メートルまで飛んだ。



 さてと、アイリスに通信するか。



 《……ユッケか?》



 そうだ。ケガは大丈夫か?



 《ああ、今洞窟の中で休んでいる。両腕が元に戻るまで数日かかるから、残念ながら夜は参加出来ない。》



 構わん。無事で何より。

 ゆっくり休んでいてくれ。後は俺達がやる。



 俺はそう言うとサングラスの通信を切った。

 ……さてと、もうそろそろだな。



 敵の密偵探しと模擬戦争が始まるぞ!



―――――――――――――――――――――――

※末尾に傍線追加。

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