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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
67/116

第62話 真と偽の宣戦布告 1. ワゼリスとモークの会談

―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



◆◆◆◆◆17日目◆◆◆◆◆



 モークを除く俺達は現在、【試練の森】の下見……いや、それぞれの役割の最終確認をしている。


 ちなみにモークはというと、密偵ととある作戦の実行中である。

 昼直前に突然あの密偵がやってきたのだ。



 明日にはワゼリス本人がこの森に来るという情報と、アリスという人物の警告を伝えてきた。

 それからモークにとある作戦の詳細を伝えにきたらしい。


 ワゼリス本人が来ることはとても嬉しいのだが、このアリスという人物は【朱の騎士団】でも手を焼いているのだとか。


 何でも「カニバリズム(人肉喰らい)」らしい。

 しかもまだ13歳という少女。


 ちなみにステータスは密偵が紙に書いてくれていた。

 結構優秀な人材かもしれない。




【ステータス】アリス



  レベル 147 ランク A


  体力 1682/1682

  魔力 2843/2843

  攻撃 1089/1089

  防御 1336/1336

  早さ 865/865

  速度 10.25/10.25

 当会心 16.5/16.5

  回避 20/20

 当回避 20/20

 総回避 36/36




 間違いなく強い。

 ボスとの真剣勝負でもどちらが勝つのかわからないくらいだ。


 俺なら尻尾をまいて全力で逃げるだろう。

 



 《恐らくですが、人肉を食べたことによって通常よりもステータスが大幅に増加したと推測します。人肉を食べることはこの世界でも禁止されています。》



 ……よほど幼少期に酷い目にあったのか?

 

 まぁ、そんな事を今此処で考察する必要はない。




 現在俺達が居る場所はゴブリンの洞窟から東へ400メートル。

 そこに、今回の目玉である大規模な作戦を実行するつもりである。


 最初に密偵と会って以降、俺達はその大規模な計画の為に必死に準備して来た。


 ダークゴブリン達が協力したのは相変わらず大きい。

 彼等の力は百人力である。



 「……じゃあ、俺がアイツらに会った後にすぐさま上に向かって……を放てということか?」

 「はい。その際の魔力は1回目は500、2回目は1000、3回目は2000でお願いします。3分少しおきに発動を。」


 「わかった。」



 ユッケと村長が話している窪みの真ん中、此処が罠の場所である。

 クレーターのような場所をこの森で一から作るのは相当苦労した。


 木を切ったり、土を掘ったり、石を積み上げたり。


 昼夜問わず作業をしていた俺達は今は無気力状態である。

 人数が少ないから仕方がないのだが。



 「アイリス殿。アナタの行動を教えます。」



 その時、村長がその作戦による俺の立ち回りを教えてくれた。



 「なっ……なんですか?」

 「アイリス殿。今回のこの作戦でアナタの行動ばシンプル。敵に突撃して回避してください。攻撃する必要はありません。」


 「わかりました。」

 「あと、アイリス殿に非常に重要な任務があります。」



 そして村長は俺の耳元で(ささや)いた。

 今回の作戦ではなく、それを実行する前に行う作戦であった。



 「……えっ!? 俺の()を?」

 「申し訳ありませんがコレが死者を出さない最適な解答だと私は思います。これなら彼女を止められるかもしれません。」



 思わず驚いてしまったのは他でもない。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 


―――――――――――――――――――――――



 一方そのころのモークは、密偵にとある場所へと案内されていた。



―――――――――――――――――――――――

―モーク視点―



―ル・レンタン、【朱の騎士団】―



 俺は密偵と一緒に人間の街の中にいる。

 いや、とある建物の中にいる。


 【朱の騎士団】のトップにいるワゼリスという人間に会いに来るのと、あともう一つの事をやらないといけない。

 正直言ってワゼリスに会うのはついでである。


 今、ワゼリスに許可を貰って彼の居間に入れた所かな?

 密偵さんが早急に取り次いでくれたから5分も経たずに案内された。


 ちなみに【朱の騎士団】の館はスッゴいよ!

 建物自体は高級木材で洒落てるし、装飾品は正直羨ましいくらい綺麗だし。


 ……で入ったんだけど、なんか金ピカの糸と紋章が付いたレッドカーペットが中央に敷かれてあった。そして槍を持った兵士が、左右に15人ずつ縦一列に並んでいる。


 一番奥にいる人が多分ボスかな?

 如何にも王様が座る椅子のような、カネがかかってそうな金ピカの椅子に堂々と座っているターバン巻いたオッサンがいるんだけど。


 金持ちのボンボンみたいな人間だなぁ(多分それだけではこれだけの人数従うのは無理だけどね)。


 そして、その近くに居る鎧を身に着けた赤髪の若い女と老紳士が一人。

 ……それと、後ろの斜め上に一人。他の密偵だと思う。


 

 「……さて、アナタのお名前をお聞きしても宜しいですかな?」



 何だこのオッサン?

 ズゴイお腹がデカイというか……なんか普通の人とはちょっと変わってるね。


 でも、手紙だけで想像してた人物とは違う。

 品のある感じが物凄く滲み出ているね。



 「え、ええっと……僕はモーク。最弱っていわれているモークタン。悪いモークタンじゃないから処刑しないでね!」



 俺、なにやってるんだろ……という感情が先に出て来たのだけれど、言ってしまった以上訂正は出来ない。

 多分コイツがワゼリスだと言うのは理解出来た。



 「ほぅ、モークですかな? ……おっと、此方も一応自己紹介をさせていただきます。【朱の騎士団】の団長、ワゼリス・ダートと申します。以後、宜しくお願いします。」

 「宜しくね。……ていうか、あの手紙の人?」



 すると、俺の言葉に反応した隣に居る男が怒鳴ってきた。



 「そのタメ口、ワゼリス様に失礼であるぞ!」

 「ゴメンね。僕、けいごはまだ未熟で……。」

 「構いません。寧ろ()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。」


 「しっ……しかし……。」

 「それくらいは許してあげなさい。ああ、そうですよモーク。あの手紙を書いたのは紛れもなく私です。」

 「まあ、過去の事は水に流そうよ。」



 「そうですねぇ……兵士殿、モーク殿に謝りなさい。」

 「はっ! モーク殿、先ほどの発言をお許し頂きたい。」

 「いいよ。今度会ったらけいごを勉強しておくよ。」



 ワゼリスが兵士に注意した。

 兵士は俺に向かって頭を下げる。


 ()()()()()()()という一言が言いそうになるが、まぁそんなものかなぁ。

 今の人間の社会って。



 「それで……本当にアナタ達は奴らに宣戦布告するおつもりかな?」

 「うん。村長も僕もね、君達を相手するよりかはもっと簡単かな~っていうのが本音かな?」


 「簡単とは少々言い掛かりですなぁ。直接戦闘して勝てると?」

 「それは無理だね。多分あっちの方が平均レベルとやらは高いと思うし。」


 「では、簡単と仰られた理由をお聞かせ願いたい。」

 「うーん、それを言っちゃうと君達何も学ぼうとしないじゃん。」



 ワゼリスさんは意表をつかれたような顔だ。

 両方のおめめを思いっきり開き、体が少しだけ硬直している。


 兵士はどよめいている。

 良く耳を澄まして聞いてみると、案の定俺への苛立ちであった。



 「何たる侮辱。我々【朱の騎士団】を此処までバカにされたのは初めてだ。」

 「クソ……ワゼリス様の許可が出たからっていい気になりやがって……。」

 「後で俺達が叩きのめしてやる。」



 すると、ワゼリスが俺の予想していない展開へと導いた。



 「兵士達。それと、モーク殿。そこまで言うのなら手合わせしてみると如何でしょうか? 勿論、我々も彼の戦闘がいかほどのものなのかが非常に気になりましてな。」



 なんと此処で俺と兵士のドンパチをするという。

 それに慌てた密偵さんは必死に静止する。



 「お待ちくださいワゼリス様。流石にそれはマズイのでは……。」

 「いいじゃん別に。その方が手っ取り早いし。」

 「おお! ワゼリス様。それは素晴らしいお考えですね!」



 しかし、それを俺と兵士達はアッサリと無視して賛同の意を示した。


 ワゼリスは「うむ。」と頷いた後、戦いのルールを口頭で話す。



 「時間は3分。モーク殿一人と兵士5人での勝負。武器を使用しても良いですが、攻撃魔法のみは禁止でお願いします。殺すのも禁止ですが、中程度のケガなら構いません。此処にいる兵士達の中からモークが好きに5人を選出してください。一度でもケガをしたら戦闘から降りて頂くように。」

 「はーい。」

 「「「了解!」」」


 「では、モーク殿。戦いたい兵士達を選出してください。」

 「はーい。」



 テキトーに返事をした後で俺は少し考え出す。


 (うーん、【驚愕する(サプライズ・)魔力球(マジックボール)】は使用不可能。武器はユッケから貰った短剣があるからそれなんだけど……選出できるとは言っても、弱い敵を見抜けるだけの力は……あっ)


 思いついた俺はとある質問を此処で投げかける。



 「じゃあ兵士の皆さん。この中で一番強い人は誰ですか?」

 「俺だ。レベル80だが……俺をどうする?」


 「じゃあ君が他の4人を選んでくれない? 僕選ぶのめんどくさいから。」

 「……ふざけてんのか? テメーが負けたら勝手な口が聞けなくなるぞ?」


 「負けたらの話でしょ? 時間のムダだからとっとと選出して。」



 「この野郎……」とその兵士が俺に恨み節をぶつけた後、彼は仕方なく選出した。



 



 「選出は終わった。何時でも大丈夫だ。」

 「僕も準備出来たしいいよ。」



 選ばれた相手は全員筋骨隆々の男ばかり。


 (絶対全員強い奴……あのマークに間違いが無ければ勝ったね)


 俺は勝利を確信する。



 しかし、イレギュラーな事があっては元も子もないので油断は出来ない。



 「戦闘の前に各それぞれの要求を聞こう。負けた者は勝った者の言うことを聞くこと。それでは兵士達の要求は何か?」



 すると、選出されなかった兵士は壁際まで下がる。

 後ろ斜め上にいた密偵はじっくりと観察していた。



 「俺はモークの発言がワゼリス様の敬意に背く行為だと思案している。よって、私が勝てばモークにはワゼリス様に聞かれた事は全て答え、黙って聞くことを要求する。」

 「良かろう。それではモーク殿の要求は何か?」

 「ワゼリスさん以外は全員口を閉じてだまーって聞いてね。口に出した瞬間、君達をマジで怒らせるから。レベル270の魔物(ユッケ)でさえ心を壊した僕にかかれば余裕だからね。」


 「……まぁ勝てばそれくらい許しましょう。では、始め!」



 ワゼリスから試合開始の合図が出される。



 「このクソガキ! テメーには俺達の教育を受けて貰おうか!」

 「ハゲ! 体臭! 弱いものイジメ!」


 「この野郎!!!」



 俺は兵士達の心を更にかき乱す為、ちょっとした低レベルの悪口を言う。


 選ばれなかった兵士達はゲラゲラと俺に笑っていたが、老紳士と赤髪の女は冷や汗を掻いている。


 (小細工過ぎて流石に見抜かれちゃったかな?)


 ワゼリスは黙って試合を見ていた。



 しかし、この煽りは沸点寸前の選出された兵士達には効果てきめんであった。


 兵士達は剣や大剣を俺に向かって振り下ろす。

 俺は余裕で回避する。



 「遅くね? 君達まだまだ若いね。」

 「今度絶対ぶっ殺す!」



 俺に向かって殺意満々の攻撃が数発襲ってくるのだが、やはり()()()()()()()()()()()では隙がありすぎである。

 更に俺が極限に怒らせた為、怒りのあまりに冷静さを失っていた。


 そのため、力は手加減していたユッケよりも強力であった。その代償として、攻撃時にどうしてもブレが起こってしまった。

 俺でも余裕で回避できる位に。


 (そもそも、全然本気で悪口言ってないと思ってた所でキレたから()()()()()()()()()()んだよね。よっぽどワゼリスを慕っているとは言ってもさ)


 試合から1分少し。

 そろそろ決着をつけようかな。



 「じゃあそろそろ仕留めるね。【カゲヲアヤツルモノ】!」

 「はっ! テメーの使うスキルなんか……えっ?」



 俺はすぐさま彼等の背後に移動し、ユッケから貰った短剣を取り出す。


 【魔剣・刹那(セツナ)】という短剣である。

 刃渡り20センチ。

 重量は2本で1キロ。


 基本色は緑色。

 刃先が水色になっているのが特徴的だ。


 そして俺は鎧の隙間である膝の裏側をその短剣で切った。

 3センチ程の深さの傷を付けた。

 よほどの強者で無ければ立つことすら困難であろう。



 「ギャアァァァァ!!!」



 男は猛烈な叫び声と共に傷からドバドバと赤色の血を流す。


 (本当に人間って赤色なんだね)


 流れた血は俺の体の一部にベトリと付着し、残りは足の裏側を浸食していった。


 そして、男は我慢出来ずに倒れ込んでしまった。



 「【カゲヲアヤツルモノ】!」



 そして間髪入れずに他の男達にさっきの男と同等の行為を行う。



 「グヮアアアアアア!!!」

 「アッ……ガバッ! ウワッ……!」

 「ギャアァァァァ!!!」



 そして、さっきの男と同じ様に倒れていった。

 選出されなかった兵士達は恐れおののいている。


 自分が選ばれなくて良かったとでも思っているのだろう。

 思考が手に取るようにわかる。

 村長さんの思惑を一生懸命頑張って考えるうちにそんな能力とやらが自然と身についたのだろう。


 そして、最後に残った一人は俺のスキルに気づき、後ろを警戒し始めた。



 「クソが……何なんだあの技は? どうしてこんな事に……。」

 「君の選出がまず間違っているね。なんでそんな大剣2人と剣3人という極端な編成を選んじゃったの?」


 「なんだと?」

 「弓、回復、剣、大剣、サポートなら良かったのに。」


 「!!!」

 「後は自分で考えて。何がダメだったか。何処かダメだったか。……【カゲヲアヤツルモン】!」



 そして俺は言葉を言う。

 ハッとなった男は後ろを見回すが誰もいない。


 (僕は【カゲヲアヤツルモン】と言っただけだけどね)


 その隙をついて俺はさっきの男と同等な行為をした。

 ちょっと筋肉が硬かったが、魔剣はもっと硬かった。



 「グヮアアアアアア!!! ……クッソ……。」



 男は倒れずに地に伏せた。

 すると、ワゼリスが立ち上がって宣言した。



 「そこまで。勝者はモーク殿。これより、元の話し合いに戻る。皆はモーク殿の要求を無条件で呑むように。それと、ケガ人に治療を施せ。残りはこの部屋を綺麗にしなさい。」

 「「「……了解。」」」



 兵士達はただ受けるしかなかった。

 俺の強さを嫌と言うほど見せつけられたら、誰だって無言になる。


 汚れてしまった部屋は使用人達の手によって、数分の間で綺麗になった。






 使用人がくれたモフモフした布をもらった俺は、自分の体に付着した血痕をフキフキと拭いた。

 血痕って落ちづらいと思ってたけど、意外とこの「タオル」とかいう物の性能が良いらしいく、剥がれるように落ちていった。


 (落ちたと言うよりは、「タオル」に血痕を移したと言うべきかな?)



 すると、密偵さんが俺のそばに駆け寄って来て小さな声で呆れながら怒った。



 「少しは私の立場を考えなさいよ……。死者が出たらどうするつもりだったの?」

 「それは……ゴメンネ。でも、たかがモークタンというそんな偏見を消すには丁度良いかなって。あと、僕の強さを早く理解出来れば話はスムーズでしょ?」


 「はぁ……。まあ、今回は大事には至らなかったから許すけど……今度からは余り無茶はしないでね。此方も仕事なんだから。」

 「……君って意外と苦労してるんだね。」


 「……女の密偵ってのは生半可な仕事じゃないの!」



 よく考えて見れば密偵さんの立場を考えていなかったのはある。


 自分から読んできた人が自分の陣地にいる兵士とドンパチしてしまったら、どんな処罰が行われるかわかったものではない。

 ちょっと申し訳ない事をしちゃったな……。



 密偵さんはすぐさま俺から遠ざかる。


 そして、機を待っていたようにワゼリスが話しかけてきた。



 「さてと……衝突が収まった所で、お話を元に戻しましょうか。アナタ達は奴らに宣戦布告するおつもりのようです。そして、それをアナタと村長は『我々よりも簡単だ。』と仰られた。」

 「うん。そうだね。」


 「そこで私は、簡単と仰られた理由をお聞かせ願いたいとアナタに申しましたが……。」

 「『それを言っちゃうと君達何も学ぼうとしないじゃん。』って言った。……でも、そんなに知りたかったら紙に書いてもいいよ。絶対奴らに渡しちゃダメという条件付きで。」



 ワゼリスはハッとなって俺を見つめた。

 ちょっと目がキラキラしている。


 何か兵士達が言いたそうにしていたが、俺の要求上そんな事は許可されていないためどうしようもない。

 話がサクサク進めて非常に助かっている。



 「済まないが……お願い出来ませんか? 決して奴らに渡さないという宣誓紙を渡そう。」

 「わかった。じゃあ紙を3枚くれない?」



 俺は作戦の全容を書く紙と宣誓紙2枚を要求した。


 ワゼリスは使用人にそれらを持ってくるようにと命令する。



 数分後、使用人が俺に紙を3枚渡した。

 2枚は宣誓紙である。



 宣誓紙は二人分の名前を記入する欄と、幾つかの項目のみが書かれているだけだ。


 此処に、双方の求める条件を項目に記入していく。

 俺はワゼリスと少し協議して直ぐに完成させた。



■■■■■■■■■■■■■■■


  ◇◇◇◇◇宣誓紙(要約)◇◇◇◇◇


 我々は以下の項目に従い、有効な関係を築くことを此処に宣誓する。



 1.ワゼリス側はこの作戦用紙を、奴らから絶対に守るように。


 2.破った場合、ワゼリス側は強制的に奴らのアジトを全軍を持って突撃すること。また、我らとの取引(木材など)をすべて破棄するように。


 3.我らとの関係が崩れたと【ゴブリン軍隊】の村長が判断した場合、本物の宣戦布告をワゼリス側に行う。



【朱の騎士団】ワゼリス・ダート ○

【ゴブリン軍隊】代理人モーク  ○


■■■■■■■■■■■■■■■



 要約するとこんな感じである。

 そして、ワゼリスは人差し指を近くの針で少し刺し、ワゼリスの側にある○の場所にその指を押し込んだ。


 すると、その○の場所に血の付いた指紋が浮かび上がった。



 「これは【血判(けっぱん)】というものです。通常使用される銀製や金製の判よりも強い誓いを示す時に使われます。」

 「それだけ守れる自信があるの?」


 「はい。我々はアナタ方との取引と、両軍の不殺を望んでおります。この約束を破ってしまうと、我々の面子もたちません。」

 「……なら、いっか。」



 そして、俺はもう一枚の白紙にスラスラと作戦の全容と何故その作戦を行うのかという理由も付けて書いていく。

 15分が経つ頃には完成し、ワゼリスに作戦の全容を書いた用紙と宣誓紙1枚を渡していた。



 ワゼリスはしばらく作戦用紙に目を通していたが、しばらくして俺を待たせてしまった事に気がついた。



 「……おっと、モーク殿申し訳ない。ついつい作戦用紙の素晴らしさに見とれてしまった。」

 「別にいいよ。僕そんな事気にしてなかったし。じゃあ今日の夜、奴らに宣戦布告の用紙を叩きつけてくるよ。」


 「ホントに宜しいのですかな?」

 「いいよ。ついでに奴らの声も聞いてみたい所だし。クズ人間なら容赦なしに地獄に落とせるしね。」



 もしもいい人間なら、渋々地獄に落とさないと行けないのがちょっと辛いけどね……。


 ワゼリスもその事に気付いたのか、苦い表情をしだした。



 「まぁ……頑張ってきなさい。……それより、モーク殿。お腹が空いたのでは? 決行は今晩ですが、待つ間に此処で食事を召し上がって頂いても構いません。」

 「いいね! 僕ちょうどおなかが減ってたんだ!」



 すると、俺のすぐ隣から声が上がった。

 まさかの密偵さんである。


 俺の食事情をよく知っている身だからこそ、ワゼリスに警告したのだろう。



 「……お待ちください、ワゼリス様! それはやめておいた方が良いかと……。()()()()()()()()します。」

 「どうしてかな? ノノアさん。来客をもてなすのは当然の事。対等な地位ならばそれ相応の質の食事を与えなければなりません。それは失礼な行為に値します。」


 「彼……異常な程の大食いなんです。そこら中にいる大食いとは()()()()()()()。せめて与えるならば一般兵士と同等の食事を……。」

 「それは彼を侮辱していると思いますが……。」



 ワゼリスは非常に困惑している。

 高い物を食べられるのはちょっと嬉しいのだけど、此処は遠慮しておこう。



 「いいよ、別に。その代わり、一般兵士の食事とやらを好きなだけ食べ放題にしてもいい?」

 「構いませんが……宜しいのですかな? 兵士一人前辺り銅貨1枚。アナタはどれほど食べられると?」


 「うーん、ちょっと本気を出せば金貨6枚かな? 本気だったら白銀貨ぐらい。」

 「「「は……白銀貨!?」」」



 この部屋にいた俺以外のほぼ全員がタイミングよく叫ぶ。


 ワゼリスは「えっ?」という驚愕を表し、密偵さん……いや、ノノアは「それくらい言ってももう驚かないわ……。」と言わんばかりの表情である。



 俺の食に対するポリシーはこれ。




 質よりも量!


 美味しいと思える時間を増やす為には、

 食って食って食いまくれ!




 である。






 ワゼリスは数度咳をすると、困ったような表情で俺に向かって謝罪する。


 微妙に言いづらい状況なのだ。

 しかもそれを本人に言うのである。



 「……なるほど。それは彼を侮辱していたのは我々であった。……申し訳ないモーク殿。もう少しで我々の財政が破綻する所であった。」

 「それは……しょうがないね。」

 

 「ああ、ありがとう……。最後に一つお願いが。」

 「なに?」


 「アナタのステータスを私に見せてはくれませんかね?」

 「いいよ。【ステータス】。」



 俺はワゼリスに言われてステータスを見せる。

 兵士達も俺のステータスを凝視した。


 今まで散々バカにしていた、モークタンとは全く違うステータスに驚いてくれよ!




【ステータス】名前なし (現愛称 モーク)



  レベル 37 ランク D


  体力 539/539

  魔力 238/238

  攻撃 199/199

  防御 367/367

  早さ 561/561

  速度 4.125/4.125

 当会心 8.75/8.75

  回避 40/40

 当回避 37/37

 総回避 62.2/62.2

 残血液 8000/8000(500)


 経験値 86534/500000000

   次 86534/94000(5048)




 あのユッケとのちょっとした一戦以降、俺は暇なアイツとアイリスを捕まえては稽古を教えて貰っていた。

 相手が俺なので相当厳しかったが、この短期間の間にレベルはそこそこ上昇した。


 特に急成長したのは回避能力。

 もうちょっと頑張ればユッケを超えそうだ。


 ちなみに戦うときの恐怖とやらは既に消え去っている。

 だって俺達、現在はレベル280の()()()()と何時間も特訓させられたんだぞ?




 兵士達は自分よりも低いステータスを見ながらもガクガク震えている。



 このステータスはモークタンのステータスではない。

 正真正銘モーク(オレ)のステータスだ。



 ガヤガヤし始めた状態をワゼリスが数度手を叩いて静める。

 そして、俺にこういった。



 「モーク殿。今日は此処に泊まっていきなさい。アナタの御成功を心からお祈りしております。」

 「ありがとね~!」



 すると、ワゼリスは使用人達を呼び出してそれぞれに指示を飛ばす。




 「使用人・案内係! モーク殿に来客宿泊用の部屋まで案内しなさい。食事の時間になったら、彼を一般食堂まで案内するように。」

 「畏まりました。ワゼリス様。」


 「使用人・伝達係! 料理人に『今日は何人雇っても、金が掛かっても良いから出来るだけ数多くの料理を作らせろ!』と命令するように。」

 「畏まりました。」


 「調達班! ()()()()を危惧して念の為に材料を調達してください。」

 「畏まりました。必ずや成功して見せます。」


 「全一般兵士達! 今日は思う存分食べ放題だ! 遠慮なしに腹を満たせ! 時間は追って通達する。」

 「「「ワゼリス様! 誠に感謝申し上げます!!!」」」


 「幹部達は解散後、私の個室に来るように。そこで最重要任務を与える。」

 「「畏まりました。ワゼリス様。」」


 「ノノア殿も私の個室に来てくれ。その後、夜中になったらモーク殿と共に任務に入るように。」

 「畏まりましたワゼリス様。今回も成功して見せます。」



 

 こっちから見てみると、すごい指示ぶりである。

 人数が多いから出来る事なのだろう。


 (これが有名冒険者組合の団長?なんか……思ってた感じとはちょっと違う。規模がデカくない?)



 ワゼリスが各部門に命令を飛ばし終えると、少し深呼吸して落ち着く。


 現在は夕方。

 今の時期は冬なので、もうそろそろで日が落ちて暗くなる。

 そろそろこの部屋からはお暇かな?



 「ワゼリスさん。ちゃーんと命令は宜しくね。部屋を案内してくれないかな?」

 「そろそろ解散時でしょうなぁ。では、モーク殿。スカッとさせるご報告をお待ちしております。」



 そして、ワゼリスは使用人・案内係に命じた。



 「モーク殿。私がアナタを来客宿泊用の部屋へとご案内致します。どうぞ。」



 俺は彼女に付いていくことにした。

 ノノアは別の用があるので一旦お別れである。










 「モーク殿、此方です。お食事の際はお呼びしますので、それまでお待ちください。また、要件があれば入り口にありますその紙に内容をお書き下さい。」

 「りょーかい。」



 彼女はそう言うと扉を閉める。

 ガチャリと



 中は……ホントに凄いね。

 俺達の生活とは大違い。


 流石金持ちって言うのかな?



 俺達の部屋の10倍以上広いんだけど……。



 カーテン付きの超モフモフダブルベッド。

 天井からぶら下がっている金を使用した照明(シャンデリアって使用人が言ってたね)。

 異世界人の発明であるビリヤード専門の部屋。

 四方7メートル以上ありそうなアクアリウムの大水槽。

 高級の牛皮を使った茶色の椅子。

 布団があったら2人分は寝れそうな位大きなガラステーブル。

 ついでとばかりに置かれた数種類の高級焼き菓子。

 滅多にない異世界の本およそ1000冊が置かれている異世界図書館。


 そして、普通に暮らしていけそうな浴室にあるシャワーと温度調整付き風呂。



 そのすべてが刺激となって視覚に、脳に強く焼き付けられていた。


 (……え? 俺これ、全部時間内に堪能出来る自信が無いけど……まぁいいや。全力で楽しもう!)


 俺は食事が呼ばれるまでの間、突然訪れた幸福の時間に傾倒する事にした。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~ノノア(密偵)視点~



 ワゼリス様の個室に呼ばれた私達は、立ったままの状態で主君の話を聞くことにした。



 「立ったままの状態は辛いだろうが……済まない。10分程度の話に付き合ってくれ。」

 「「「はっ。」」」


 「まず一つ目だ。勿論、モーク殿が書いたこの作戦用紙……皆の意見を聞きたい。」



 ワゼリス様は私達に作戦用紙を見せた。



 「……恐怖による場の支配……ですか。」



 最初に私の口から出て来たのは恐怖という言葉だった。

 ()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()()で書かれている。


 更に強調したいとばかりに()()()まで書くオマケ付きね。



 「それよりも、このクレーターの中に奴らを集めて一旦どうするの? なんだか絵が滅茶苦茶な事になっていて、私にはあまり理解出来ません。」

 「申し訳ありません。私もこれ以上は……。」

 「まぁ、構いません。それより、この紙は私よりもロガー殿が持つべきです。決して奴らに奪われることのないようにお願いします。」


 「畏まりましたワゼリス様。命を懸けてでも死守致します。」

 「うむ。それからノノア殿。モーク殿に奴らの本拠地までの案内と万が一のサポートをお願いしたい。決して奴らの視界が我々を捉えられぬようにお願いします。」


 「畏まりました。」



 私は礼をする。

 つまり、モーク殿。【ゴブリン軍団】に奴らが目を向けてくれるように仕向けなければならない。


 我々が関与していたとなれば、この作戦は大失敗。

 私が処刑されても文句は言えないわね。



 「では、各自行動に移るように。ああ、そうだ。一つ面白い予想当てをしよう。」



 するとワゼリス様が何かしらのゲームをたった今考案したそうね。



 「モーク殿が食べたことによって我々は幾ら損をしたのかを単純計算で求めようじゃないか。見事的中でちょっとした褒美をやろう。ちなみに一般食事の一人前で銅貨1枚だ。」

 「銀貨8枚と予想しましょう。」

 「私は……金貨3枚と銀貨4枚。」

 「金貨6枚行くかもね。」



 無論私は金貨6枚と予想を立てた。

 正解したのか間違ったのかは今日の夕飯でわかるわ。



 その後、予想でちょっと話題になってしまった。

 「いやいや、流石に金貨6枚は多すぎると思いますがね……。」や「銀貨8枚でも80人前ですぞ!」などと楽しく予想できたから良かったかもね。



 でもそんな予想当てよりも、今日の深夜で私の運命は大きく左右する。

 奴らのアジトに喧嘩をふっかけるのよ。


 【朱の騎士団】が関与している事がバレたらお終い。


 (まさかモークタンに背中を預ける日が来るとは思っても見なかったわ。でも、そうでなくっちゃ人生は面白くない)


 私は誰も居ない廊下の真ん中を堂々と歩きながら、自分なりの人生観を考えていた。



 でも、モークの予想当ても気になるけどね。



―――――――――――――――――――――――


※タイトル修正。

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