第61話 両軍不殺の使者
―――――――――――――――――――――――
~密偵視点~
ゴブリンの洞窟に独り来た私は、門番らしきゴブリン2体と遭遇した。
ゴブリンはすぐさま槍を構えて私に向ける。
槍は私の首3センチ手前でピタリと止まった。
私は上を向き、両手を上げて抵抗しない事を示す。
(隙が無い……それに、全く槍が動じていない。よっぽど鍛練したのかしら?)
「此度の密偵か? フードを外してくれると有り難いのだが……。念の為、本物かどうか確認するように村長から命令されている。」
「……その前に少しだけそれを私の首から遠ざけてくれない?」
「済まないがそれは出来ない。『何人であっても油断だけはするな』という先生からの教えがある。」
「俺達も死にたく無いんでな。」という言葉をゴブリンは付け足す。
仕方がないので鋭利な槍を気にしながらもフードを取る。隠していた茶色の長髪が背中にだらりと落ちた。
「今から村長に連絡をとる。少しの間待て。」
私の顔を僅かの間に確認したゴブリンは私にそう言った。
洞窟へ行かずに村長と連絡をとるのは、【情報伝達】以外に無い。
すると、ゴブリンは私に構えていた槍を引いた。
ある意味解放されたような気分がする。
「密偵殿、村長がお呼びだ。私の後ろにいるこのゴブリンに付いていってくれ。」
門番は後ろに指を差しながらそう話す。
指を辿ると、後ろにゴブリンがいた。
恐らく案内役かしら?
私はそのまま剣もちゴブリン数体に、洞窟の中へと案内された。
中はまるで迷路のように入り組んでいた。
所々に何かしらの油で燃えている小さな蝋燭のようなものが灯りを照らし、一層迷路のような感触を演出している。
途中で大きな穴を見つけ、ゴブリン達が私をじっと見つめていたがそんな程度では気にしない。
(わからない……私は今何処にいる?)
案内されているのに迷子になっている感覚が凄く気持ちが悪い。
「ねぇ、一体いつ着くの?」
我慢出来なくなった私は案内役にそう聞いた。
「まだ我慢してほしい。」
「はい。わかりました。」
私は仕方なく諦めてついて行くにする。
……中は迷路のように入り組んでいた。
所々に油で燃えている小さな蝋燭のようなものが灯りを照らし、一層迷路のような感触を演出している。
また途中で大きな穴を見つけ、ゴブリン達が私を見ていた。
(いつになったら着くの?時間掛かり過ぎじゃない?)
案内されているのに試されている感覚が凄くなるため更に気持ちが悪い。
「……ねぇ、一体いつ着くの?」
また我慢出来なくなったモークは案内役にそう聞いた。
「あと少しの我慢だ。」
「……流石に我慢が出来ないんだけど……。」
私は試されている気がした。
そしてワザとキレたふりをする。
すると案内役のゴブリンは、大きく溜め息を吐いて困惑の表情を示す。
まるで見損ないを見ているかのような視線ね……。
「あくまで敵対勢力の密偵を、そのまま村長の所へ通す訳には行きません。困惑させるような案内をしておりました。あと、ついでに試していますよ。」
「ボロが速攻出てるけどいいの? ホントは私、本気でやろうと思えば後3時間くらい我慢できたけど?」
「『この程度なら彼女はすぐ見抜けるでしょうなぁ。』というセリフを村長が言っていましたよ。」
「……えっ?」
苛立ちというよりも恐怖。
あの主催者の手のひらでコロコロと転がされているのだ。
クモの巣に引っ掛かった蝶の気分ね。
(どうしよう……私のせいで500人が死ぬ。勝ったとしても、残ったゴブリン達は私を決して逃しはしない)
ヒヤヒヤした私を見た案内役のゴブリンは突然にっこりと微笑んだ。
「でも、密偵殿の本音はあまり戦いたくないのでしょう? まあ、詳しい話は村長の部屋で御願いしますね。」
「……はい。」
見透かされている事に突っ込む暇も無く、私はただただ返事を返すだけにした。
それから3分後、私は主催者の部屋へと訪れる。
そこにはあの時と同じように一匹と二体と二人がいた。
「ようこそ密偵殿。敵対であるにもかかわらず単独で来るその勇気ある行動に、村長である私から敬意を評します。」
「……挨拶はいい。それより私は御願いをしに来たの。」
「ともかく、其方の座敷にお座りください。立ち話をするのもさぞお辛いでしょうし。」
私は主催者……いや、ゴブリン村長の言葉に甘える事にした。
椅子が無い以上、麻と思われる敷物に胡座をかいて座る。
「密偵殿、お腹は空いて居られますかな? お食事を出しますよ?」
「……少々頂いてもいいかしら?」
「おお! 今すぐご用意致します。」
ゴブリン村長は後ろにいたゴブリンに食事の用意を命令した。
事前に【朱の騎士団】の拠点である程度は食べた。
しかし、夕食にパン一切れとスープ、干し肉一枚では少ない。
此処へ来るまでにかなりの距離を移動したため、そのせいでお腹が更に空いたというのもある。
折角なのでゴブリンが何を口にしているのかも若干興味はあるわね。
一部の研究者はゴブリンの死体の胃袋を調べた事もある。
何かしらの肉や野菜を食べていたという情報しかない。
まあ、それよりも軍事的な話から先ね。
「私はあれから色々考えました。正直ゴブリンを甘く見ていたのは紛れもない事実です。しかし、あの時目が覚めました。私達は敵国の軍隊と同等の戦力に喧嘩を売ってしまったと気付いてしまいました。」
「言いたいことはなんでしょうか?」
「今回の戦争は、私は不殺の戦いを望んでいます。どうか人間を殺さないで下さい。」
ゴブリン村長は少しだけ考えた後、私にすぐさま返答する。
「申し訳ないがそれは出来ない話ですなぁ。犠牲者100を切れと言うのならまだしも、ゼロにするのは歴戦の立派な軍師でも出来ません。」
「……はい。」
「それに其方の敵は500ですが、私達は必死にかき集めでもゴブリン220。倍以上の戦力差で不殺は尚更です。戦闘を断る事は出来るのでしょうか?」
「……出来ません。実は……。」
私はゴブリン村長に全てを話した。
1.【朱の騎士団】にはバックに闇商人や貴族がいること。
2.挑発文を送ってしまったこと(敵を挑発して乱す作戦だった)。
3.宣戦放棄するとバックからの反感を買ってしまい、2800(前回の捕縛では組員の人数は500とウソをついた。ウソをついたのは、ゴブリン達を驚かさないため)の命が危うくなる可能性が高まること。
4.ワゼリス様本人はあまり戦う意志が無い事。
全てを話した後、ゴブリン村長の隣にいた青年が私に質問して来る。
何故人間である彼が此処にいるのかが気になるけど、なんだか勝てる気が全く湧かない。
「ちょっと待てよ? そもそもどうしてワゼリスという奴がこの森に固執する? 組合の拠点を作るのには全く向いてない場所だぞ?」
「それは私にもわからない……私からは何かお考えがあると言うことだけとしか……。」
「……その闇商人とやらは他の連中と組むことはあるか?」
「大規模な所だと10000人、中規模で1000人、小規模で100人以下ね。単独の闇商人も居るみたいだけど。」
「じゃあお前らにくっ付いている闇商人はどこの組織にいる?」
「【ル・レンタン組合専用取引所】部員数はおよそ340名。」
私がそう言うとゴブリン村長は何か閃いたように人差し指をピンと立てる。
するとモークタンはハッとなって魔法を唱えた。
「【カゲヲアヤツルモノ】!」
何処かでほんの少しだけ聞いたことがあるわね……あ!
私は後ろを向く。
しかし、既にモークタンはそこにいた。
私を一撃で気絶まで追い込んだ存在。
モークタンなんて馬鹿には決して出来ない。
フードの中にある短剣を取り出そうとしたが
、モークタンは動かなかったのですぐさま元に戻す。
「今度からはモークで宜しくね! それから僕の隣にいる青年はアイリスっていうんだ!」
「ええっと……モークとアイリスね? わかったわ。……それで、どうして私の背後に?」
「ああ、これはあくまでパフォーマンスだから特に理由なーい。」
「だったらなんなの?」
私はモークのうるうるした目を見つめながらそう言う。
ちょっと可愛く見えてきたのはどうしてかしら?
「キミの話だと……バックがいるから戦わないといけない。バックのせいで後に戻ることも出来ない。」
「……それで?」
「だったらソイツらをぶっ潰した方が手っ取り早くない? そうしたら、500の命は無傷で助かるよ。」
「……えっ?」
私はモークの発言に驚く。
冗談じゃない!
「闇商人組合に宣戦布告するつもり?」
「うん。キミ達が送ってきた挑発文みたいな奴にちょっと手間を加えた奴を送りつけとけば、完全にキレてほとんどが穴から出てくるてしょ?」
「私達との戦いはどうするの?」
「とりあえずワゼリスと和睦結ぶ。」
「私達より闇商人組合の方が楽と?」
「違う。こういうご都合主義に凄く効くおくすりがある。全力で僕達を倒そうとするキミ達よりもずっと効く。」
そして、モークはすぐさまさっきの持ち場へと戻った。
私はワケがわからずに困惑する。
困惑した私をゴブリン村長は察したのか、私にわかりやすいように話した。
「つまり、こういうことですよ。……。」
私はゴブリン村長の説明を全て聞いた。
「……ということで、私はこのように考えております。理解出来ましたか?」
「……はい。素晴らしい頭脳をお持ちのようですね。」
「これでも私は50年間も本を読んできただけのニートジシイですよ?」
「……フフッ。冗談が過ぎてますよ?」
私はゴブリン村長の説明を3分ほど聞いていたが、この村長は怪物の一言である。
たった三分で典型的な闇商人の心情と性格、それを生かしてどんな戦い方をすればほとんど殺さずに勝てるのか?
それを私に分かりやすく丁寧に、さらにコミカルな表現の仕方に変えて教えてくれた。
(これが……ゴブリン?)
私の中にある幾つものゴブリンに対する常識が崩れ去っていく中、村長の後ろにいたゴブリンが姿を表す。
小さくキイィという扉の開く音は村長をビックリさせない為ね。
「村長、お料理のほうが出来上がりました。」
「ご苦労様です。では、此処へ持ってきなさい。」
すると、男ゴブリンが木製の大皿に盛られた肉料理を私と5名の間にドスンと置く。
そして、取り分け用の木製の小皿。
木製のコップ。
木製の箸とスプーンなどが私達の目の前に置かれた。
美味しそうな香りが此方からでも漂ってくる。
(……美味しそう。こんな料理は久し振りかも)
油断したら涎が出そうなくらいだが、必死に堪える。
気になっていたので当然質問した。
「これは何の肉でしょうか?」
「ゾンビ牛のバラ肉の部分です。」
「えっ!?」
動揺し過ぎた私はすぐさま立ち上がり警戒する。
猛毒であるゾンビ牛を私に提供すると言うの?
※ゾンビ牛の説明は、第50話にアイリスが説明しています。
「まあまあ冷静になってくださらんか。確かに人間の間ではゾンビ牛は猛毒扱いですが、とある条件をキチンと守れば極上のお肉に仕上がりますぞ?」
「……食えと言うのでしょうか?」
「私達は何時も食べております。当然死ぬときは一心同体ですぞ? まあ、ご安心なされ。」
妙に信憑性があるのが非常に気味が悪いわね。
私をハメるつもりは無さそう。
しかし、取り乱してしまった事について頭は下げないといけない。
私は立ちながら頭をゴブリン達に下げる。
「……済みません。突然机を立ったのは取り乱してしまったからです。」
「構いません。ゾンビ牛と聞けば魔力球を私達に向ける人物だって数多くいらっしゃいます。寧ろアナタの発言に真実味が増すようになりましたよ。では、座ってくだされ。」
「ああ……ありがとうございます。」
頭を下げたハズが逆に感謝された私はおどおどしながらも元の場所に胡座で座る。
そして私はもう一つあることに気がついた。
食べる直前である。
「「「いただきます!」」」
彼等もやり方は違えど、食前の儀式(感謝の言葉)を行っていた。
食材や料理人、食材の生産者に感謝の言葉を込めていると文化本にそう記してあった。
私は幼少期の頃からやっていた食前の儀式を行う。
「【神が与えてくださったお恵みに心から感謝いたします。万物の食材と命に感謝を!】」
私の周りからは緑色の魔法陣がやんわりと浮かび上がった。
そして体全体が心地よい静けさと温かみに包まれ、少し経つとゆっくりと消えていった。
それを2名は興味をそそり、1匹は既に料理を取り皿に入れ、2名は頷いているような感じが見て取れた。
「その宗教は【ゲレキタケイト教】ですなぁ。私も詳細は余り詳しくは知りませんが……。」
「【ゲレキタケイト教】は世界で結構流行している宗教だ。人数は多すぎてわからん。【コンテンロス教】とは非常に仲が悪いらしい。」
「そうですね……宗教間ではそう言う争いは後をたちません。私からすれば『わざわざ干渉しなくても良いのに』というのが本音です。」
「まぁ魔物である私達が干渉する話題ではありませんねぇ……。」
ゴブリン村長は複雑な表情を浮かべて考え込んでいる。
『互いに争わずに仲良くやろう』という一辺倒な結論では、残念ながら宗教問題は解決しない。
今日話す事では無いわね。
しばらく私達は和やかな会話と共に食事を楽しんでいた。
ずっと堪えていたけど……。
この料理美味しすぎる……。
ゾンビ牛ロースと旬野菜の特製リンゴソース和えだと村長は私に説明していた。
初めて食べたゾンビ牛は、普通の牛より感動するジューシーなお肉でした。
トロトロと口の中でとろけるクリーミーな甘くてしっかりとした脂身。
噛む度に味が出る赤身に、甘くて少し酸味というアクセントの聞いた特製リンゴソースが上手い具合に絡まってゆく。
「シャキッ!」とする白菜に甘く熟したサツマイモ。
(これがゴブリンの料理……想像していたのとは全く違う。しかもこれ、ゾンビ牛だからお金もさほど掛からない)
ゴブリンの料理に舌鼓を打った私であったが、途中で村長が私に話題を切り出す。
「それよりも……アナタ達は上手く隠しきれていると思っておりますがバレバレですよ?」
「……はい。流石ですね。非常に緻密な計画でしたが。」
私と村長の発言に他の者は大きな疑問を抱いている。
そして、モークが私に教えた青年―アイリス―が村長に質問をした。
「村長さん。緻密な計画って何ですか?」
「ホッホッホ! それは彼女の話を聞いてからにしなさい。少々私でも見破るのが厄介な計画でしたよ。」
アイリスは私に視線を向けている。
(村長の鬼才なら読まれても仕方がないわね……)
私は食べていた食器を置いて事の計画をゴブリン達に全て話すことにした。
「申し訳ありません。後で全てをお話するつもりでしたが……わかってしまった以上はあなた方に全てをお話しましょう。」
そして、事のきっかけとなったグルドの森の割譲願から話すことにした。
「一月半前の話です。私達【朱の騎士団】はとあるクエストを冒険者組合から依頼されました。それはとある村が木材の資源不足に陥っているので木材を出来るだけ調達してほしいという内容でした。」
「なるほど。……それでどうなった?」
「私達は真剣に悩んでおりました。『どこから木材を調達しようか?』と。そして、結果行き着いたのが……。」
「この森ってことか……なるほど。」
「はい。ところが私達密偵が探索したところ、魔物が至る所に住み着いていました。そして、そこにいるダークゴブリンさんに出会いました。」
「モシカシテオヌシラノモクテキハ、ワレワレノセンメツデハナクモクザイノカクホノタメカ?」
「はい。魔物との会話がほとんど出来ていなかった私達にはどうしようも出来ませんでした。そこに、とある提案が出されました。『魔物達を倒してしまえば、脅威は消え去るし木材も調達出来る。ついでに朱の騎士団の夢である本拠地建設も夢ではない。』と。」
「それであの割譲願が来たのか。なるほどね。」
「……後一つ。大事なことがあるでしょう?」
村長は全てを知っているようね。
次は今回の本題に入る事にした。
「私がアナタ達に捕まったのはワザとです。先程ワゼリス様はアナタ達と戦争はしたくないと言いました。そこでワゼリス様は、極秘で私をゴブリン達に派遣する事にしました。そのまま突っ込んでも怪しまれると思い、ちょっとした小芝居を打ちました。まさか注意を引き付けて背後から魔力球を放たれるとは想像しませんでしたが……。」
村長以外の4名は私の発言に驚く。
「えぇ……折角アタマ使って密偵捕まえたと思ったんだけどなー。」という独り言が、モークの声からポツリ聞こえた。
地面に何かしらの文字を書きながら落ち込んでいる。
謝りたい気持ちが出て来たけど、大事な話なので一旦スルーするね。
「つまり、私は両軍不殺の使者として此処に来ました。モークさんのあの言葉があったからこそ出来たと思っています。さっき話した事はワゼリス様に全て報告するつもりです。」
「ワゼリスというお方も知恵が回りますねぇ。2800人が彼の下につく理由が理解出来ます。」
「……村長さんありがとうございます。ワゼリス様も大層喜ぶ事でしょう。」
「モシカシテ、アノトキチズヲモヤシタノハベツノワケガアルトイウノカ?」
「勿論理由はあります。手柄を上げる為です。」
「テガラヲタテテナニニナル?」
「現在、【朱の騎士団】は【ル・レンタン組合専用取引所】からの圧力を受けております。彼等の言葉で部下の命を葬り去ることもやろうと思えば可能です。」
「ナルホド。テガラヲタテナケレバ、ソヤツラニコロサレルトイウコトカ。」
……ふぅ。
これで身軽になった気がするわね。
ホントはこの話をワゼリス様との同盟をする際に話しておく予定だったけど、しょうがないわね。
「皆様、これでお分かりでしょうか? コレが計画の全てです。」
「……じゃあおまえ等との戦いはどうするんだ? 割譲願を送った以上、戦争をしないとソイツらが文句を言うんだろ?」
「はい。しかし、彼らは実際に私達の戦闘をこの目で見ることはありません。つまり私達は模擬戦争を考えております。」
「模擬戦争?」
「戦士たちの武器は木刀、殺してはいけないが痛めつけは可という条件の元で戦争をします。アナタ達も同様の装備を用意してくたさい。私達は数時間後にグルドの森から撤退する予定です。」
「なるほど。相手を誤魔化す為の模擬戦争か。理解した。」
私はローブの中から2枚の紙を取り出し、それをゴブリン村長に渡す。
一枚はワゼリス様の計画書を纏めたもの(複製)。
もう一枚は取引の用紙。
そして書くための鉛筆一本。
「私達が望むものは2つ。木材の取引と【ル・レンタン組合専用取引所】討伐の依頼です。奴等は無力化、討伐のどちらでも構いません。出鼻を挫いて欲しいのです。取引用紙にお書きください。」
「木材の取引は条件次第ですなぁ。ワゼリス殿との直接対話で決めたいものです。」
ゴブリン村長はスラスラと鉛筆で取引用紙の紙の裏に書いていく。
勿論カルナ言語で書いているわね。
達筆の一言。見本のような書き方である。
私よりも遥かに字が上手い。
下手という意識はしてないけれどね。
「畏まりました。」
「しかし、【ル・レンタン組合専用取引所】はお任せくだされ。援軍を寄越さなくても討伐、無力化出来ます。活動拠点で報告を待っていてくだされとワゼリス様にお申し付けを。」
「ありがとうございます。」
「さあ、早くしないと料理がモークさんに食べられますよ。」
私は料理の方を見る。
10人前強あったハズの料理が、残り4割と少し。
私は何故か急いで食べ進める。
何かしらの心理状態が働いているのだろう。
ゴブリン村長を覗く他の3名はモークの暴食を全力で止めている。
その時アイリスとダークゴブリンの他にもう一人の彼からは妙な違和感を感じた。
(あれ?今凄まじいパワーを感じた気がするわね……村長に聞こうかしら?)
「申し訳ありません……モークは食いしん坊過ぎて、食の事になると手が着けられなくてですね……どうして太らないのか私にもサッパリです。」
「ああ、はい……そうですね……。人間でも食べることが大好きな人もいますよ。」
「そうは言われましても……いくら何でも食い過ぎなんですよね……。」
ゴブリン村長は頭を抱えて悩んでいる。
「離せってこのやろー!」
「モーク、客にもてなす料理を3割以上食べるのはマナー違反だぞ! いい加減それくらいにしておけ!」
「これまで色んな事に我慢をしていたが……流石に弁解の余地なしだな。」
「ゼヒ、ムジンゾウニハイルイブクロノオオキサヲ、ムリヤリシュクショウシタイモノデスナァ!」
「【臆病者】、【孤独人間】、【青顔】!」
モークは制止する3名を相手に、四方八方に暴れまくっている。
自分の体を無理矢理伸ばして逃げようとしているため、細長いモークになっていた。
ついでとばかりに悪口を辺りにまき散らしている。
どこかで【臆病者】って聞いたことがある気もするけれど……気のせいかしら?
「……フフッ。」
私はモークの口の悪さにほくそ笑んだ。
容姿と性格が真逆の過ぎるからかな?
人間と魔物って案外変わらないのね。
私達が偏見で魔物達を卑下していただけかもしれない。
今回の作戦は私にそう強く教えてくれた気がした。
久し振りに料理をお腹が膨れるまで堪能した私は、彼について村長に一つ尋ねることにした。
「最後に質問宜しいですか?」
「構いません。」
「以前私達はこの森の偵察をしていましたが、Lvが100以上の方がこの森に来ています。その方は居ますか?」
「ああ、一応俺だよ。そんなに見たかったら教えてやる。【ステータス】。」
「ワタシモソウダ。【ステータス】。」
手を挙げた2名はステータスを開示した。
―――――――――――――――――――――――
ル・レンタン
大量の情報を持ってきた私は、極秘でワゼリス様に報告する。
本来は無断で入れば厳禁であるはずのワゼリス様の居室に、窓から無断で入るなど言語道断。
ワゼリス様が唯一私のみに許された行為である。
「ワゼリス様、只今帰りました。」
「御苦労様です。よく両軍不殺の使者を此処まで全うしましたね。」
「ありがとうございます。」
「それでは、報告を聞くとしようかな?」
私はこの夜に話したこと全てをワゼリス様に伝えた。
赤いオーラの正体が、実は2体いたということ。
【ステータス】ダークゴブリン(突然種)
レベル 141 ランク A-
体力 3964/3964
魔力 238/238
攻撃 1206/1206
防御 858/858
早さ 601/601
速度 7.5/7.5
当会心 25.25/25.25
回避 40/40
当回避 40/40
総回避 64/64
【ステータス】名前 ユッケ
レベル 283 ランク S-
体力 1436/1436
魔力 5749/5749
攻撃 2604/2604
防御 6341/6341
早さ 2897/2897
速度 29.375/29.375
当会心 35.25/35.25
回避 44/44
当回避 43.25/43.25
総回避 68.447/68.447
ステータスを口頭で伝えた。
側に控えていた【朱の騎士団】No.2とロガー様は私の口から彼等のステータスを聞く度に冷や汗をかいていた。
初見だったら当然ね。
そして、取引の詳細。
ワゼリス様と直接話したいという提案と、予期せぬ天敵討伐の了承。
更に、ゴブリン村長はワゼリス様の計画を私が最初に捕虜したときから全て知っていたこと。
彼等に【朱の騎士団】が抱えている問題。
最後に、彼等は文化が高くて人間と変わらなかったこと。
ゴブリン村長の直筆入りの取引書をワゼリス様に当然渡した。
私の全ての報告は10分を越えていた。
ワゼリス様は私の報告を聞いた後、納得したような表情で呟いた。
最初に溜め息が出たが、疲れた時に出てくる溜め息と言うものではなかった。
「ふぅ~、危なかった……500名の命を失う前に対策を立てることが出来た。」
「まさか、我々の実権を握っている【ル・レンタン組合専用取引所】に宣戦布告をするなどという発言をするとは夢にも思いませんでした。」
「ゴブリン村長というお方は彼らに勝てると?」
「はい。『我々の500名を殲滅するよりは、遥かに楽で単純な作業だ。』と。」
ワゼリス様はゴブリン村長の直筆入りの取引用紙を持ちながら動揺していた。
そして、ワゼリスは立ち上がりこう伝えた。
「2日後、グルドの森の東南入り口にワゼリス本人が直々に向かう。何か美味しい食べ物でも用意してくれると非常に有り難い。と明日までにゴブリン村長にお伝えください。」
「御命令ありがとうございます。」
「……申し訳ありませんワゼリス様、少しお待ちを。」
すると、ワゼリス様の隣にいたNo.02の彼女。エリス・クリアが左手を挙げた。
「どうしましたか?」
「お供の人数はどう致しますか? もし多すぎてしまうと、【ル・レンタン組合専用取引所】に感づかれてしまいます。また、ゴブリン達が蔓延る森に行くのは危険かと……。」
「では、冒険者のふりをしてみては如何ですかな? それなら、最大7人私のお供出来ますよ? それに、ゴブリン村長かこれほど鬼才に溢れる魔物であればそんな小細工はしません。寧ろ私が同盟したくなるような催しをお開きになるでしょうなぁ。」
「なるほど。理解出来ました。では、その様に致します。」
「うむ。では各自持ち場に戻りなさい。アナタ達の行動に500名の命がかかっております。」
「「「はっ!」」」
私達はワゼリス様の返事に答える。
「後、一つ彼等に話しておきたい事が……。」
「なんでしょうか?」
「アリスは恐らく我々の命令を無視して行動します。そうなると、ゴブリン達が死んでしまう。ゴブリン達にアリスの情報を入れて置いてください。よそしくお願いします。」
「畏まりました。」
私はワゼリス様の居室をでた後、自宅に戻った。
ベッドの上でローブのまま横たわり、天井を見上げる。
この私の行動が小さな歴史をゆっくりと変化させている。
両軍不殺の使者の役名は、最終段階を迎えていた。
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
※区切りの不備修正




