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野蛮学校物語  作者: yukke
第3章 運命の人間たち編
64/116

第59話 ゴブリンの為に授業を! モークと密偵さん

―――――――――――――――――――――――

―モーク視点―



◆◆◆◆◆13日目◆◆◆◆◆



 ……ふぅ。

 やっぱりみんなで協力して掘った温泉の湯加減はサイコーである。



 ……でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは流石にやらかしちゃった……。

 ホントは村長の部屋だったらしい。


 「テヘペロ。」と可愛く取り繕うとしたのだが、サングラスの中でユッケとアイリスに叱られたのは言うまでもない。

 先生としてはあまりやってはいけない事である(生徒に遅刻だと言えなくなるらしい)。


 既に会議から1時間が経過していたので、仕方なく俺は留守番になった。

 アイリス達と村長、ダークゴブリンのボスが話し合う会議に参加出来なくなったのはちょっと辛い。



 現在サングラス曰わく22時30分。

 穴掘りの用事が完全に終わった俺にとっては暇な時間だ。


 (う~ん。ちょっとさんぽしに行こうかな?流石に遠くに行っちゃうととユッケとアイリスが怒るしねぇ……。)


 少し思考をした後、結局散歩に出かける事にした。





 ゴブリンの洞窟から出た俺は、近くにあった木を見つけ、【暗視V】が効いている状態でうねうねと体をくねらせながら上に登る。

 芋虫みたいで気持ち悪いが、コレがストレスフリーで登れる唯一の手段なので仕方がない。


 選んだその木は他の木よりも高く、見通せると思ったからである。



 そして俺は木の頂上に登り、辺り一面を見回す。

 今夜の月は満月であった。

 青白い光り輝いているように見える満月が、辺り一面の木々に光を反射させている。

 それはとても神秘的で輝いている。



 アイリスに聞いて見たのだが、どうやらこの月は「異世界から見れる月」とはそこそこ違うらしい。

 「ちょっと大きいし、それに明る過ぎる。しかも周期は7日、異世界の月はそれよりも長いぞ?」と異世界から来た人間がそう言うのだとか。


 

 ちょっと異世界の月も見てみたいとは思ったけど、今はこの月で我慢しよう。

 とっても綺麗だからね!




 しばらく月の夜景を堪能していた俺は座る場所が悪かったので直そうとした。

 その直後、サングラスから侵入者の速報が入ってきた。



 《モーク、アナタの見ている南西から100メートルほど先に誰か居ます。ゴブリンの洞窟に向かっているようです。》



 ……えっ?ウソ!?

 ゴブリン達じゃないの?



 《ゴブリン達が練習する場所は洞窟内部か洞窟付近です。此処まで離れた所まで移動する必要はありません。さらに人間とほぼ同等の体系を持ち合わせています。》



 と言うことはちょっとマズくない?

 多分【朱の騎士団】とやらの偵察があのポンプを目にしたら……。


 ユッケ達会議だし、あの温泉に毒とか入れられたら面倒だね。



 《はい。タイマンでは相手が上なので、タイミング良くスキル【カゲヲアヤツルモノ】で背後を取ったら【驚愕する(サプライズ・)魔力球(マジックボール)】を放ってください。》



 おっけー!




 俺はサングラスに軽めに返事する。


 サングラスが言うには僕から見た南西に人がいるっていう話なんだけど……。

 ここからゴブリンの洞窟までそう遠くないから、足音でワンチャンわかるかな?



 ……いるね。間違いなくいるね。



 ほんの僅かだけど、木々の中を颯爽(さっそう)と駆け抜ける音が聞こえる。

 人間にずっと追われていたモークタンは、いつの間にか耳が人間が聞こえる10倍まで進化している。


 (う~ん。確かに静かに来てるけど木の葉のたなびく音でバレバレだね)


 俺は動く木の葉を頼りに上からその怪しいモノを見つめる。


 すると、とある所でピタリと止まった。



 「【カゲヲアヤツルモノ】。」



 俺は小さな声でそう言ったあと、その怪しいものの()()()()()()()()()()()


 (……もしかして女性?珍しいね。でも偵察は間違いないかな)


 後ろからみて間違いなく偵察だと思った俺は、気付かれないように息を完全に殺して地面に絵を描く。

 女性だと言っても手加減はあまりしないタイプだ。

 だって多分、この人の方が僕より強い。


 相手との差は僅か1メートル。

 気付かれたら全力で逃げよう。


 (そ~~~っと、そ~~~っと。落ち着け俺……)



 慎重に、

 慎重に、


 正確に、

 正確に、


 丁寧に、

 丁寧に、



 ゆ~~っくりと書き上げる。


 幸い目の前の人間は何やら紙とペンのようなものを取り出し、ゴブリンの洞窟を簡潔に描いているのだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに気付いていないようだ。



 5分後、何とか描き終わった(ちゃんと見直しもしたしね)俺は次の難問に挑んでいた。



 詠唱である。


 「我の身体に眠る大いなる力よ、今こそ汝を解き放たん。その力を世界に(とどろ)かし、我が魔物としての力を人民共に見せつけよ!」


 という()()()()()()()()()()()()()()を一々言わなければいけないのだ。



 どれだけ声が小さくても良いのが唯一の救いであるが、逆に言えばどんな状況でも詠唱しなければ何も意味をなさない。


 (……あ、そうだ)



 閃いた俺はサングラスからユッケやアイリスに通達する。


 サングラスの中なのでしゃべることなく頭に考えた言葉が具現化するため気付かれる心配は無い。



 「ユッケ、アイリス。突然だけどちょっといい? 結構マジな話だけど。」

 「……ん? どうした? なんだぁ。流石に今日の反省をしに来た……。」


 「そうじゃなくて……あの~、ゴブリンの洞窟に【朱の騎士団】と思われる密偵が来てるんだ。」

 「……えっ? 密偵!? お前今どこにいるんだ?」


 「密偵の真後ろ。」

 「お前まさか【驚愕する魔力球】をすぐ後ろからブッ放すんじゃねーか? その魔法、そこそこ強力だから下手したら密偵死ぬぞ。」



 ユッケがちょっと心配している。

 密偵が殺されては此方の動向がバレるからだろう。


 そうなれば、時間を急に縮められて3日後になるなんていう事態に陥ってしまう。

 それだけは回避しなければならない。



 「りょーかい……なんだけど、今詠唱が出来ない状況なんだ。だから、ゴブリンの洞窟の入り口でちょっとした宴を開くフリして注意引いてくれない?」

 「ああ、なるほど。宴の騒ぎ声でお前の声を分かりづらくさせるのか。ちょっと村長に話すから待っててくれ。」



 ユッケはそう言うとサングラスの通信を切る。

 俺は目の前にいる密偵が、スラスラと絵を描いている光景を静かに後ろから観察していた。



 5分経った頃だろうか?

 ゴブリン達が動き始めた。


 入り口から十体のゴブリン達とユッケ、そしてアイリスが出て来た。


 薪と火のついた松明、そして石と銅板を持って準備する。

 そして、バラライ鹿の肉をスライスしたもの約40枚をアイリスが抱えて運んでいた。



 偵察は若干警戒して他を見回している。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にはまだ気付いていないようだ。


 (もしかして、僕の体がモフモフしているから足音なんか気付かないのかな?)


 そんな事を思っていると、入り口からゴブリン村長が出て来た。

 皆に聞かせるような大声で辺り一面に轟かせる。



 「ツネケサナザチコモーク、サツオヨヌザリ、ナネニヘチホ!」



 その言葉を聞いた俺はハッとなって詠唱し始めた。

 もちろんモークタン言語である。

 それをちょっとした方言を使って鈍らせている。


 意味は「モーク、私達が長話と演奏で気を引かせるから、その間に詠唱してヤツ(密偵)を怯ませろ!」である。


 

 「ハハハハハ! それってだいぶ前に流行ってたヤツじゃないですか!」

 「あぁ! あの時にアイツがやった即興ネタっすね!」

 「ああ、見破られてしまいましたか……あのネタが相変わらず好きでして……」



 二人のゴブリンが村長の言葉に反応し、懐かしいものを思い出した時につい出てしまう大声が()()()を更に彩る。



 コレらは魔物言語で話している。

 人間が使うカルナ言語で話すと疑われる可能性があるからだろう。


 最近、人間では魔物言語による言葉の理解を得る運動が非常に活発化しているとサングラスから聞いた。

 勿論戦闘利用の為だけどね。


 密偵もある程度魔物言語を翻訳しているようだ。

 「何か尻尾を掴めないだろうか?」と。


 しかしそれに時間を多少かけてしまい、本来怪しいと思われる最初の発言の考察をさせなくさせている。


 間違いなくゴブリン村長の提案だろう。

 二重も三重も絡め取るこの宴は、偽物ながらも巧妙な技がスパイスとして効いている。


 (っていうかこのゴブリン達演技上手いなぁ)



 そんな事を思いながら俺はその間に詠唱をしていた。



 「【我の身体に眠る大いなる力よ、今こそ汝を解き放たん。】」



 村長の発言に差し掛かった時に、一応此処まで言えた。


 一旦中断出来るのは助かる(言葉ミスったらまた絵を描かないといけないんだけどね)。

 後は途中の中間点を経由して、「【驚愕する魔力球!】」と叫べば魔法発動である。



 「ああ、失敬。【朱の騎士団】の対抗策を考えないといけませんねぇ。」

 「あの挑発文は流石に許せねぇなあ。俺達を舐めきっているとしか考えられん。」

 「……それで、此処に呼び寄せられた訳は何でしょうか?」



 今いる密偵を捕らえる為だと正直に言う訳がない。

 もうちょっと偵察の気を惹かせる偽りの蜜を用意するはずだ。


 勿論俺の考えた通りの蜜であった。



 「はい。ズバリ【朱の騎士団】の策を教える為です。」

 「……え? 此処は危険じゃないですか! 途中で襲われたり盗聴させられていたらどうするんですか?」


 「ハハハハハ! こんな緑の迷宮の中に入る大バカ者がおるか! 此処は自由で豊かじゃぞ!」

 「そうですよね! 寧ろのどかで新鮮な空気を吸える外で作戦会議するのも悪くないですね! バラライ鹿のお肉もそろそろ食べたいです。」


 「おう、そうじゃな。では、早速宴の準備をしようではないか!」



 ゴブリン村長は心配してきたゴブリンに安心させる。


 そして、松明の火を薪に移した。

 明かりが松明よりも広がるのだが肝心の密偵までは全く届いていないため、密偵は足を動かすことは無かった。



 「……クスッ。」



 (……お、ちょっと油断したね。)


 

 彼女から微かな笑みが聞こえた。

 でも、彼女の笑い声は単なる笑い声ではない。

 「少々頭は回りますが、思った通りゴブリンはこの程度ですね。」という優越感からの笑みだろう。



 その間に俺は既に詠唱していた。

 後少しで密偵は全てに気付くのだろう。



 「【その力を世界に轟かし、我が魔物としての力を人民共に見せつけよ】。」



 そして、ゴブリン村長は魔物言語を使って大きな声で叫んだ。




 「さあ、偽りの宴は終わりです! モーク、放て!」


 (りょーかい!)


 「【驚愕する魔力球】!」

 「えっ!? 【プロテクトバリ……】きゃあぁぁ!!!」




 俺は密偵に向かって理不尽な魔力球を放つ。

 選んだ色は赤である。


 ゴブリン村長の解読をしていた彼女は、後ろからの俺の声に気がついた。

 そして咄嗟(とっさ)に防御系の魔法を唱えた。


 しかし、火である赤の魔法に風である緑の防御魔法は寧ろ()()()であった。



 彼女はまともに魔力球を食らい、前方に弾き飛ばされた。


 そして、ゴロゴロと地面を転がり明かりの範囲内でピタリと止まる。

 死んではいないが気絶したようだ。

 黒いフード付きの服が所々焼かれていた。



 「紐で縛るように。その後、回復魔法で癒やしてあげなさい。」



 ゴブリン村長の指示により、アイリスは収納魔法から紐を取り出す。

 そしてそれをゴブリン達が上手に彼女を縛り上げた。


 おそらく、バラライ鹿を縛っていた経験があるからだろう。



 「モーク殿、素晴らしいご活躍です。今日の場所間違いは流石に()()でしたが……密偵捕獲は実に見事な隠密です。」

 「えっへーん。【カゲヲアヤツルモノ】のお陰で背後に回れたのが大きいかなぁ。」



 俺はゴブリン村長のすぐ側まで駆け寄り、ぴょんぴょんと跳ねながらアイリス達に自慢する。



 「モーク、今日のミスはこの一件で無かった事にしてやろう。アイリスもそれでいいな?」

 「ああそうだな。素晴らしい行動だったな。」

 「そうでしょ? そうでしょ? だったら今日はメシを数倍に……。」


 「「ダメだ!」」

 「あなたは普段から他よりも数倍食べておられるのでしょう? これ以上召し上がれたら少々困りますね。」

 「ちーーーん。」



 ユッケとアイリスは納得したような表情で俺を褒め称える。

 調子に乗った俺はこの機にとばかりにメシの量の増加を要求する。


 しかし二人はともかく、ゴブリン村長ですら断られたため、俺は愕然としながら意気消沈を表す言葉である「ちーーーん。」という言葉を発言しながら後ろにワザと倒れ込んだ。



 結局密偵はゴブリン村長の部屋まで連れて行くことにした。



―――――――――――――――――――――――



 それから一時間後。

 彼女は目を覚ました。



―――――――――――――――――――――――

~密偵視点~



 ここは、何処?


 痛くないけど、足を縛られてほとんど動けない。

 ……手は動かせるわね。


 フードは……所々焼けて穴が開いている。

 恐らくモークタンの放った魔法は赤色だったのね。




 目の前に5人……


 いや、人間が2人と魔物が2体。

 そして私に魔法を放ったモークタン一匹。


 後はこの部屋の周りに何かしらの魔法がかけてある。

 恐らく、魔法を発動させない為の空間を作る為のものだと思った。



 「お目覚めですかな?」

 「此処は……何処ですか?」



 中央にいるあの宴の主催者が私に挨拶してきた。

 とりあえず聞きたかった質問を私に返す。



 「私ゴブリン村長の部屋です。そうそう、アナタに幾つかお聞きしたい事があります。」

 「……何でしょうか?」


 「あなたは【朱の騎士団】の密偵ですかな?」

 「……はい。間違いありません。【朱の騎士団】団長、ワゼリス・ダート様の御忠臣であらせられるロガー様の御命令を受け、隠密の任務を遂行していました。」



 この質問はウソを言ってもメリットは皆無なので真実を告げる。


 (思えばあの宴は私を油断させる為の罠……単なる宴ではなく、後ろにいたモークタンを気付かせない為に全て練っていたのね……)


 私は少し俯いたまま後悔した。

 そして、納得の表情を浮かべた。



 「よろしい。……では次の質問です。【朱の騎士団】の組員は総勢何人ほどでしょうか?」

 「通達文に書いてあった通り500です。ワゼリス様の騎士団全員がこの森の支配をアナタ達から奪うつもりです。」


 「なる程。ありがとうございます。次の質問ですが……答えられる範囲で構いません。【朱の騎士団】が私達にあの様な条件付割譲願とやらを送りつけたのですかな?」

 「……申し訳ありませんが、私のような密偵では教えてもらえません。」

 


 組員はウソをついて、条件付割譲願は曖昧な発言をする。



 「最後にもう一つ。アナタの処遇について言っておきましょう。」



 私は覚悟を決める。

 

 ……どんな処刑なのかしら?


 毒殺

 絞首

 電気

 魔法 

 首切


 ……などという嫌な順番から、様々な処刑が頭の中から浮かび上がり、恐怖を募らせる。



 「釈放です。早く【朱の騎士団】の元へ帰ってワゼリス・ダートさんを安心させなさい。ゴブリン達彼女の縄をほどいてあげなさい。」

 「……なっ! ……えっ?」



 主催者はそう言うと、隠れていた女ゴブリンに指示した。

 その命令を受けた女ゴブリン数体は慣れた手つきで紐をほどいた。


 自由になっても私は呆然と立ち尽くす。

 理由が聞きたかったので尋ねてみることにした。



 「どうして私を釈放するの? 私は隠密。隠密は敵に捕まってしまったら死罪は確定なのよ。」

 「? どうして隠密は捕まったら死罪というのを決めつけるのですか? 私には理解出来ませんね。」


 「隠密を逃がしたら情報が漏れるじゃない!」

 「私は違った考え方ですねぇ。情報が漏れるというのは、あくまでその隠密の視点から述べているだけではありませんか?」


 「!!!」



 そう言われると確かにそうね……。

 その情報が本当か嘘かは、密偵からは実際判断出来ない。


 嘘の計画書をワザと盗ませて本番に敵をハメるなんて事も可能。

 万が一、本物の情報が漏れてしまってもまた立案すれば良いだけの話。盗まれた情報を利用して逆に仕掛けることだって出来る。



 「そこまで私達の作戦を見たいのなら右手にある大きな地図をご覧頂きたい。持ち帰って貰っても別に構いませんよ?」



 そう言われたので私は右手にある、壁に貼られた大きな地図を見る。


 地図はこの【グルドの森】全域を示していた。それに、驚くほど緻密な計画を記していた。



 どこの場所にどんな部隊をどれ位設置するのか?

 その部隊が何時になったら何処に移動するのか?

 私達の部隊が何処を通るのか?


 

 それらを細かく、そして丁寧に描かれていた。

 まさに敵の数を除けば他国の国家機密の計画書とさほど変わらないのでは?と思う程であった。


 (コレが……敵?魔物なんていう生易しいものなんかじゃない!コレは……軍隊)


 私はいつの間にか足がガクガクと震えていた。

 今まで相手していた敵は脳の無い魔物ではなく国の軍隊であるとわかったからである。



 「アナタはそこまで勝てる自信があると?」

 「いえいえ。寧ろ勝つためにやっていることですよ? アナタのこれからの行動がアナタ自身の生死を分けます。私達で処刑してしまっては相手が本気(マジ)になりますからねぇ。故に釈放したんです。」


 「では、この地図は好きにしてもらって構わないという解釈で構いませんか?」

 「ええ、お構いなく。」



 主催者は特に気にすることもなく悠然とした構えで私の質問に回答する。


 なるほど、そっちがその気なら……



 「では、こうします。食らえ!」



 私は所々がボロになったマントの隠しポケットから火打ち石と松明を取り出す。


 そして、火打ち石ですぐさま松明に火をつけ、それを地図に向かって放った。



 「……なるほど。素晴らしい判断ですなぁ。コレは面倒な事をしてくれましたねぇ……。」



 主催者は少し困った顔をした。



 放った松明の火は地図に引火し、容赦なしに焼いていった。


 パチパチという火の立つ音がこの部屋に響き渡った。



 私を含め、ゴブリン達とその仲間である人間とモークタンも黙ったまま焼かれていく地図を見つめる。


 そして、数分後にはゴブリン達が描いた地図は黒い物体と微かな火を残して消え失せた。



 完全に消えたのを見届けた主催者はどこか納得のいく顔をしてモークタンに命令した。



 「……モーク、この方を出口まで案内して差し上げなさい。くれぐれも危害を決して加えないように。」

 「……りょーかい。ついてきて密偵さん。」



 モークタンは特に私に向けて殺意を抱く訳でもなく、私に声をかける。




 私はモークタンに案内されながらゴブリンの洞窟を20分かけて歩く。


 そして特に危害を加えられることもなく、話をする事もなく洞窟の入り口に辿り着いた。



 するとモークタンは最後にこういった。



 「流石に此処からは自分で帰れるよね?」

 「……ええ。それよりも、アナタ悔しくないの? 折角手柄をたてたのに?」


 「ん? もうすでに経験という手柄貰ったし、ああそうだ。君に一言言っておくけど……。」



 すると、モークタンは突然殺意剥き出しになってこう言い放つ。


 脅しのつもりだが、モークタンでは見たこともない殺気立っていたため私は少し動揺する。

 



 「5()0()0()()()()を絶対ムダにすんなよ。」




 私はその言葉に背筋がピキリと凍りつく。

 すると突然、モークタンは態度を変えて呑気な態度に変幻した。


 あまりの恐怖に私は逃げ出した。



 「じゃーねー。密偵さん!」



 モークタンはぴょんぴょん跳ねながら私が走り去っていくのを見届けていた。






 私は帰り道の間ずっと、モークタンの最後の発言に頭を抱えた。



 「500人の命を絶対ムダにすんなよ。」



 まるで、私が500人の命の運命を背負っているような感覚。

 あの時モークタンが、本気で私に殺意を剥き出しにした意味が今になって理解できた。


 (これは……戦ってはいけない相手の懐に足を踏み入れた気がする)


 私は悟った。

 敵に捕まっていなければ、こんな事に気づかなかっただろう。


 (これはワゼリス様の敗北は確実……でもロガー様曰わく、彼らに送った文章はとても挑発的なもの。だとしたら、今更中止になんて出来ない。じゃあどうすればいいのよ……)


 私は今の組合の現実を知った。

 仲間同士でギスギスしている場合じゃない。





 帰還後、すぐさま私は【朱の騎士団】達に急いで事の経緯を報告した。

 幸い私自身は今の所、敵の陣地に入って敵の計画書を焼いたという功績が認められた。金貨3枚という褒美を取り敢えず貰ったが、最後までモークタンの言葉が頭に染み付いていた。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 密偵がモークタンについて村長の部屋を出て行った後、村長は突然大きな声で笑った。



 「ホッホッホ! なかなかあの密偵も知恵が回りますなぁ。」

 「確かにそうだな。……だが折角時間を掛けて作った地図があのザマだぞ? 村長の指示がなかったら俺が一発喝をいれていた。」



 村長の言葉に便乗したユッケだが、ゴブリン達が必死に作った地図が燃やされた事に少し苛立ちを覚えていた。



 「そうじゃな。そこの君、予備を持ってきてくれたまえ。」



 しかし村長は近くのゴブリンにとある命令をした。

 それから数分後、ゴブリンがとある大きな紙を俺達に見せる。


 なんと燃やされたハズの作戦の地図がもう一枚あるではないか!



 「彼女の活躍は【朱の騎士団】にとってはとても素晴らしい功績でしょう。しかし、それはあくまで敵がそこまで読めていなければのお話。こちら側が対処しておれば、タダの悪足掻きです。」

 「……まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()だった?」

 「ヤハリ()()()()()()()()()()()()ダナ。」


 「ホッホッホ! まぁ最も困ることはその場で自殺してしまう事でした。そうなれば私達は不利でしたねぇ。地図については燃やされる前に他の紙に数枚写しておきました。」



 俺達は村長の才能を心の中で尊敬した。

 こんな飛び抜けた知能を持つ者が味方にいるという安心感は計り知れない。


 もしも敵になったら地獄であるが……。



 《此処まで知恵を出せる魔物を私は見たことがありません。コンピュータの私ですら頭が下がりますね。》



 サングラスもあまりの知能に驚き、尊敬の念を抱いていた。





 尊敬の念でゴブリン村長を見ていた所、モークタンが帰還する。



 「モークタン、ちょっと聞きたいことがあるが……最後に言葉をかわしましたか?」

 「ちょっと脅した。『500の命をムダにすんなー!』って。」



 すると村長は少し動揺すると、少しだけ笑みを浮かべて皆に小さな声で独り言を呟いた。



 「……なるほど……。コレはまた面白い事になるでしょうなぁ。」

 「「「???」」」



 モークを含めた俺達は、村長が少しにやけている表情の意図がしばらくの間理解できなかった。


 


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